人の心があるタイプの改造TS機械生命体の話   作:葛城

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第9話: 時々はコンセプトを変えるのが、客を飽きさせないコツ

 

 

 事前に調べは付いていたが、改めてけっこうな数が居たなあ……というのが、彼女の正直な感想であった。

 

 数自体はそれほどでもないから、1時間以内に終わると思っていたのだが……一つだけ、誤算があった。

 

 それは、円盤吸引機に吸われている、『彼女の身体』の数があまりにも多すぎた事だ。

 

 実は、私は地球外に触手を伸ばし、材料を確保し、手足となる身体を何体も何体も……それこそ、ベルトコンベアで運ばれる菓子のように、膨大な数を作っていた。

 

 

 理由はまあ、たくさんあった方が便利だから、それに尽きた。

 

 

 現状、1体だけでも稼働年数は100年以上あるわけで、冷静に考えたら無駄に終わるのだが……それでもまあ、彼女は『工場』でもあるわけで。

 

 何も作らない『工場』というのは、彼女にとっては退屈極まりない状況でしかない。

 

 そう、けっこう誤解されがちだが、彼女の本来の能力というか、その性能をフルに発揮するのは、『工場』としての役割を与えられた時である。

 

 今でこそ少女型ボディに意識を移しているが、本体の彼女は動力源と一体化したチップであり、その二つが合わさっている『工場』なのである。

 

 外部よりエネルギーを補給する必要がなく、自力でエネルギー源を確保し、材料を確保し、自ら思考して道具を作り、発展し、改良し、成長し続ける……『工場』なのだ。

 

 だから、掃除用の円盤とか、道具とか、必要な機材を『工場』で製造し終えたら、後はとにかくヒマでヒマでヒマで……なので、作る。

 

 特に必要性は感じられないけど、『彼女の身体』であるならば、材料の消費も致し方ないと己に対して言い訳が出来る。

 

 

 だから、作り続ける。

 

 

 さすがに、フル稼働してまで作るとあっという間に材料が枯渇してしまうから、入念なメンテナンスを経てから……という条件を付けて、1体あたりの製造速度を遅らせていたのだけれども。

 

 それでも、その数は……地球に居る宇宙人の掃除を始めた時点で、既に約2億体に達していて……まあ、うん。

 

 

「おお……さすがに、私のボディだ、ゆっくりやらねば目詰まりを起こしてしまう」

 

 

 円盤の動きに合わせて、彼女のスペアボディが追いかける。

 

 その様は親のアヒルに付いてゆく子アヒルだが、やっていることは、そんな生暖かい光景ではない。

 

 なにせ、まったく同じ顔、同じ背丈、同じ姿をした彼女たちがひたすらに円盤を追いかけ、吸い上げられ、処理されてゆく。

 

 他の場合と違うのは、その一連の動きがゆっくりというか、サイクルが少々遅いという点。

 

 

 まあ、それも無理はない。

 

 

 彼女のスペアボディは、『お遊び』でも比較的通用するレベルのボディだ。

 

 さすがに対ボナジェ用の掃除機を作るとなれば年単位の時間を必要とする……むしろ、目詰まりせずに処理が出来るだけ、健闘しているといっても過言ではないだろう。

 

 

 ……が、しかし、だ。

 

 

 そのせいで、肝心の『掃除』……『地球に居る宇宙人』の掃除が、滞り気味になっているのが、なんともかんとも、ってやつだ。

 

 合間にちょろっと吸い上げて行っているとはいえ、前回の『悪人』の時に比べたら明らかに遅い。

 

 言うまでもなく、スペアボディが邪魔なせいだが……とはいえ、致し方ない。

 

 なにせ、掃除する対象は彼女も含まれているのだから。

 

 おかげで、除外するわけにもいかず……結局、1時間掛けても宇宙人は18万947人しか掃除出来なかったのは、ちょっと申しわけないなと彼女は思ったのであった。

 

 まあ、それでも彼女が確認出来ている宇宙人の総数は18万981人。

 

 34人取りこぼしは誤差の範疇だろうと、納得させたのだけれども。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、だ。

 

 

(……? なにやら、掃除し損ねた宇宙人が世界各地で色々やっているなあ……)

 

 

 その日の夜、彼女は世界中に張り巡らされた監視網にて、夜の闇に隠れて何かをやっている宇宙人たちの動きを捉えていた。

 

 正直興味は無いが、ヒマなので観察を行う。

 

 全員がバラバラに動いている……わけではない。いや、動きに統率は見られないが……ああ、アレか。

 

 

(そういえば、なにやら人間を許さないとか何だとか色々話していたなあ……)

 

 

 以前、収集していたデータより、あの宇宙人たちの情報を引き出す……それでまあ、想像が付いた……やっているのは、復讐だ。

 

 彼女自身を狙わなかったのは、膨大な数のスペアボディを見て絶対に勝ち目がないと判断したからか。

 

 だから、それならせめて、自分たちを掃除するという願いを出した人間たちへ……というわけだろう。

 

 念のため、気付かれないよう細心の注意を払いながら34人の行動を監視し続け……彼ら彼女らの目的を推測する。

 

 おそらく、『毒』を撒いている。液体が、ドボドボと流されている。

 

 場所は、河川だけではない。

 

 都市部では、どうやら浄水設備に潜入し、大本から毒を混入させるだけでなく、河川の上層から撒いているようだ。

 

 地方でも同様だが、それだけでなく、山中などに片っ端から毒を散布して……これは、地面に染み込ませているのだろうか。

 

 水道などがあまり通っていない大陸の方では、私用されている井戸へ片っ端に毒を入れているようだ。

 

 また、中にはアマゾンへと向かい、大規模な装置を使って大量の毒を……ふむ。

 

 いちおう、流された『毒』が何なのかを知るために、こっそり採取して……分析を行った。

 

 結果、分かったのは……この『毒』は、生命活動を停止させるような類の毒ではないということ。

 

 有り体にいえば、『超強烈な避妊薬』である。

 

 それも、身体のサイズと比べて大脳の割合が大きい動物に限定される……という、限定的な代物。

 

 当然ながら、副作用の類は極力抑えられている代物のようで、よほど異常な濃度の薬液を直接摂取しない限りは、問題ないようだ。

 

 

(ふむ……なるほど。地球人を相手にする時の避妊薬として開発、裏で使われていたモノか……)

 

 

 どうやら、34人の中には薬剤精製(それも、対人間専門の)に精通した者や、そういった薬品を取り扱っている専門家が混じっていたようだ。

 

 

 ……なんで、そんな都合よく? 

 

 

 気になって、これまた自動招集していたデータより、該当の情報を……ああ、なるほど。

 

 復讐を完遂するために、他の者たちが命がけで時間を稼いだのか。

 

 道理で、全員がそうではないにしろ、比較的知識層、専門知識を学んだ者が多いわけだ……で、だ。

 

 この毒が散布され続けても、影響が広がるのは相当先だ。

 

 さすがに毒が巻かれた近隣に住む者たちは直ちに影響が出て、いきなり誰もが妊娠しなくなり、病院に行っても異常なし……と、判断されるだけだが。

 

 ひとまず、今すぐどうこうなるわけではない。

 

 ただし、この薬が紫外線や微生物など、様々な環境下によって無毒化されるまでには、相当な月日を必要とするだろう。

 

 なんでかって、本来は希釈して使用するやつを、原液ごとドバドバ流し続けているのだ。

 

 もちろん、広大な河川に流すのだから、希釈の割合は通常使用されるソレよりもはるかに薄くはなるだろう。

 

 しかし、1回や2回ならともかく、だ。

 

 今後も彼ら彼女らの命が尽きるか、薬剤精製が出来なくなるまでずっと続けるだろうから……まあ、異変に気付いた時にはもう、手遅れといった感じだろう。

 

 副作用がほとんどないし、現れてもちょっと身体がポカポカするといった、わずかな体温の上昇ぐらい。

 

 仮に病院に掛かったとしても、この薬が原因であるだなんて見つけるのは、現在の人類の科学力では不可能。

 

 

 ──なお、主に薬液の効果が強く出るのは、女性のようだ。

 

 

 共に効果は同じなのだが、どうも薬の構造的には最初に作られてから減少し続ける卵子の方に比べて、だ。

 

 絶えず新しく作られる精子の方が、どうしても時を経るにつれて効果が薄くなっていくようだ。

 

 ぶっちゃけてしまえば、何度も何度も射精を繰り返していくと、その分だけちょっとずつ効能が精子に合わせて排出される……ふむ。

 

 

(止めるべきか、見なかったことにするべきか)

 

 

 しばし、作業を進めている宇宙人たちを、スパイロボット越しに観察していた彼女は……一つ、頷いた。

 

 

 ──そもそも、私が手を出す事ではない、と。

 

 

 だって、冷静に考えてみたら、だ。

 

 彼女は頼まれて『掃除』をしただけであって、頼んだのは、あくまでも頼んだ側……この場合は、人間である。

 

 そして、今回は掃除をされた側の宇宙人たちだが、別に彼ら彼女らがまったくの善人だったかと言えば、そうでもない。

 

 言うのはなんだけど、けっこうあくどい事をしていたのだ。

 

 なんだったら、裁判なんかが起こっても同胞の力を借りて、様々な方法で無罪にしたり、届け出を取り下げさせたり……全員がそうではなかったとしても、けして少数の行いではなかった。

 

 つまり、『掃除』を行ったのは彼女だが、その引き金、火種、緊張を生み出し続けていたのは、間違いなく宇宙人側であり……まあ、うん。

 

 

(どっちもどっち、勝手に争うがよい、ってやつかな~)

 

 

 それが、彼女が出した結論であった。

 

 いちおう、少年AIにも相談してみたけど、『どちらも悪い、どちらも反省しないとダメ』との返答が……まあ、とはいえ、だ。

 

 

(これ、次は下手したら相手側を掃除しろってきそうだな……そういうことになると、当初のコンセプトとは外れるから、『掃除』はここで止めておこう)

 

 

 それじゃあ、ここらで商売を止めよう……なんて考えが。

 

 

(さて、それでは、次の商品だが……何にしたら良いかな?)

 

 

 

 彼女にあるわけがなかった。

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうして、だ。

 

 

 作ったアカウントより、『掃除パックは終了、また次回の商品にご期待ください』とだけ投稿してから……さて、と彼女は考えた。

 

 現状を語るならば、だ。

 

 今回の『掃除』で膨大な数のスペアボディを失ったわけだが、それ自体はとくに問題はない。

 

 結局のところ、分解して材料に戻したわけであって、また作り直せば良いわけだし……それよりも、この数か月で得た材料の使い道である。

 

 有り体にいえば、生物を作るうえで必要となる全ての材料が欠けることなく満遍なく溜まってきている。

 

 だから、売ろうと思えば……生物を作って販売することは可能である。ただ、取り扱いが面倒だから、今はやる気がないわけで。

 

 下手に機械……を売り出しても、だ。

 

 それは経済だけでなく、人類の発展において阻害の一員になってしまうどころか、そこで下手したら発展が打ち止めになってしまう危険性がある。

 

 例えるなら、1リットルのガソリンで5000km走れる車を売り出したら世界経済が完全に破綻してしまう、といった感じだ。

 

 消費者の目線から見れば欲しいのだろうけど、仮にそんなの、あるいはそれに近しいモノを売り出したら最後。

 

 待っているのは、間違いなく激烈な規制、あるいは、こちらへの物理的な攻撃である。

 

 別に、攻撃されたところで何の問題もないのだけど……でも、やっぱり、買って良かったと笑顔になってほしいわけで。

 

 

(……そうだ、アレだ、アレを作ろう)

 

 

 そして、これまで『物より思い出』→『思い出も大事だけど、それだけじゃない』という流れを経たおかげで……彼女は、その『商品』を思いつけた。

 

 

(ダンジョン、作ろう。剣を手にして一攫千金、良いんじゃないの、これ?)

 

 

 その名も、『実体験型シミュレーションダンジョン』。

 

 中には金貨や宝石などを置くし、食用可能なモンスターを置いて、子供心をくすぐる……うむ、決めたぞ! 

 

 そう、結論を出した後の彼女の行動は、これまで通り、とても早かった。

 

 まず──場所は、僻地過ぎてまったく使用されていない、広大な大陸の一部……の、地下空間。

 

 地上はなんだか色々とうるさそうなので、地下だ。

 

 地下1000mの位置に空間を作る。壁も天井も床も補強に補強して、内部を掃除し、正常な空気を絶えず循環、環境を一定に保つ。

 

 上から見たら、正方形型に囲われた箱の中、そこをゴリゴリと開発し、ワープ装置を作って、人の往来をしやすいようにする。

 

 それから、穴を掘って拡充……さらに広大な地下空間を整形する。当然ながら、万が一にも落盤しないよう徹底的に安全に配慮して。

 

 そこへ、『工場』にて製造したモンスターを配置してゆく。もちろん、味にはこだわって、ちゃんと美味しいやつを。

 

 その際、病原菌などは発生しないよう注意も忘れず。

 

 解体の手間は……まあ、出来ない人もいるだろうから、倒したら自動的に食用部分が解体された状態になるよう、設定して。

 

 それから……ああ、そうそう。

 

 剣と魔法的なアレの世界に重火器はご法度。

 

 使用すると打ち出した弾丸が即座にUターンして使用者の頭を貫くよう空間コントロール装置の設置を忘れずに。

 

 それからそれから……まあ、その都度修正するとして。

 

 

「よし、『ファンタジーパック』として売り出すとするか」

 

 

 そんな感じで、彼女は新たな『商品』の販売を開始したのであった。

 

 

 

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