人の心があるタイプの改造TS機械生命体の話   作:葛城

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最終話: 『人の心』.exe

 

 

 

 ──右にヨシ、左にヨシ、前にヨシ、後ろにヨシ。

 

 

 そんなわけで、色々な国があまりにも色々と文句を言ってくるので、そのように対応しておくことにした。

 

 どうして、彼女が考えを改めたのか……それは、『子どもが購入希望をしたり、真似をして怪我をした』という話があちらこちらに増え始めていたからだ。

 

 

 実際に調べてみたら、本当に子どもが怪我をしていてびっくりである。

 

 

 どうやら、『ファンタジーパック』にてファンタジー世界を楽しむ兄を見て、弟が包丁を片手に剣士の真似事をして、うっかり肌を切ってしまったようだ。

 

 そんな馬鹿なと思ったけれども、その子はまだ8歳……思いがけないウッカリで怪我をしてしまうのも、無理はないなと思った。

 

 突き詰めて考えたら、彼女に責任は無い……のかは判断が分かれるけれども、そこらへんは自己責任の領域だと思っている。

 

 しかし、さりとて、判断が未熟な子どもが実際に怪我をしてしまったとなれば、彼女としては……ちょっと、思うところがあるわけで。

 

 まあ、少年AIに聞いてみたら、『子どもがやる事だし、気を付けたら?』と言われちゃったし……そんなわけで、アカウントを通じて、彼女は告知を出すことにした。

 

 簡潔にまとめるなら、『それなら、各国で判断してください。あと、そんなに文句を言うならもう買わなくてけっこうです』、である。

 

 別に、押し売りのつもりはない。

 

 買わないのであれば、買わないでいい。

 

 あまりにも売れなかったら商品を変えるだけだし、売れるなら、その路線で色々と追加したりするだけだし……と、思っていたのだけど。

 

 

(あれぇ……なんで君ら、殺し合っているの?)

 

 

 なんか人間たちがビシバシ勝手に殺し合いを始めて、彼女はちょっと驚いた。

 

 いや、人間社会に、多大な不安や不満が渦巻いているのは知っていたし、そのうち、何かしらな商品を作ろうかなって……え? 

 

 

 なんで、すぐに作らなかったのかって? 

 

 

 それはまあ、そんなのすぐに使ったら、『やはり、お前が全てを企んでいたのか!?』って、なんかすべての責任を押し付けられるだろうと判断していたからである。

 

 あと、普通にアップデートの方が忙しくて……助けたのに、なんで逆に恨まれるのかって? 

 

 それが、人である。

 

 人は、言葉にしていないのにソレを言葉として勝手に理解し、言葉にしていることを理解しないことを勝手に決める、そういう生き物である。

 

 それを、彼女は良く知っていた。

 

 伊達に、人の心がある彼女ではない。

 

 人の心の動きを、彼女は読み取っていて……それゆえに、彼女は人々の動きに関しては静観し続けていた。

 

 このまま完全に放置し続けると人類が絶滅してしまうが、そうなる前に、既に全人類のDNAデータは取得してある。

 

 とりあえず、あと数年は手を貸す必要はないだろうと彼女は判断していたし、あまりにも進捗が見られなければ手を貸すつもりでいた。

 

 それに、最悪は1から製造してしまえば済む話だし、なんなら記憶データも保管してあるし……それ自体は大した問題ではないのだ。

 

 

 そう、彼女にとっては。

 

 

 ただ、いずれ何かがキッカケにして起こるにしても、まさかこんなに早く人間同士の殺し合いが起こるとは、ちょっと想定していなかった。

 

 なんでまた急にと思って調べてみたら……なるほど? と彼女は首を傾げつつも理解した。

 

 どうやら、彼女が出した商品が、彼女が想像していた以上に相当にコアなファンを生み出す大ヒットだったようだ。

 

 

 どうやら、だ。

 

 

 若者層と高齢層との間に、もはやどう頑張っても埋められない深い深い溝が出来てしまっているようで、それがいよいよ表面化してしまったようだ。

 

 若者層からしたら、彼女が用意したファンタジーな世界に希望を見出したから、新天地に向かいたい。

 

 高齢層からしたら、ただでさえ子供が生まれないという事態になっているのに、さらに減るのは絶対に許さない。

 

 もう、この時点で絶対に相容れない考えである。

 

 なにせ、若者層からしたら、このまま何も解決されず時が過ぎれば、道連れ的に絶滅に巻き込まれるだけであり。

 

 彼ら彼女らの視点からすれば、『どうせおまえらもうすぐ死ぬのに、俺ら私らを引きずり込むな』といった感じなのだろう。

 

 そういえば、現在の人類の最年少は、たしか7歳か8歳か……あれ、考えてみたら、尻に火が点いても仕方がない感じか? 

 

 

(う~ん……サンプリングデータを見る限り、それなりに若い層の精子異常はけっこう軽減してきているっぽいんだけどなあ……)

 

 

 気になったので自動収集しているデータ群より必要情報をピックアップして確認してみれば……うん、当初の予測通り、男の方は回復が早い。

 

 既に、この星に宇宙人はいない。すべて反宇宙人団体に排除されたからで、装置も全て破壊されている。

 

 だから、年齢的には若い……そう、性的能力が活発な若い子ほど毒素を排出出来るわけだから、若い男の子に関しては、あと2,3年で完全に回復するだろう。

 

 

(ただ……女性の方は、やはり自然回復が難しいね、これは……)

 

 

 しかし、これまた当初の予測の通り、女性の方の機能は壊滅的な状態であった。

 

 男性とは違い、女性の場合は数万個ある卵子の元から、成熟の過程で数を減らして最終的には数百個……というもので。

 

 0から100を生み出し続けるのではなく、100から一つずつ排出し、0になっていくのとでは、毒素の排出の割合が違う。

 

 

 ……いちおう言っておくが、まったく排出されないわけではない。

 

 

 肝臓や腎臓の機能によって、日常的に毒素が抜けてはいく。既に装置は全て破壊されているので、時間の問題ではある。

 

 ただ、抜け切る頃にはもう妊娠機能がかなり衰えてしまっているまでの月日が必要とするだけで……男性のように日常的に卵子を製造していたならば、問題はなかったのだ。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 どうしてそこで、人々がファンタジーな世界の方に希望を見出すのかと考え……ああ、妊娠異常の原因が分からないからか、と彼女は納得した。

 

 

(でもなあ、仮にこの騒動の原因が反宇宙人団体の仕業で、でもその団体発足のキッカケは宇宙人側だったり、一部の人間と宇宙人とで結託し合って悪事を働いていたりとか話したら……)

 

 

 そこまで考えた辺りで、彼女は静かに首を横に振った。

 

 

(う~ん、今以上の血みどろの殺し合いに発展しそう)

 

 

 さすがに、鈍いところがある彼女でも、察せられる程度にはドロドロとし過ぎていて……そう考えたら、巻き込まれた大半が可愛そうだなとも思えるけど。

 

 まあ、それはそれとして、だ。

 

 どうも、この争いは今日明日で終わりそうな気配ではない。

 

 各国の政府関係者としては、少しでも若者流出を食い止めたいのだろう……というか、身体を動かせる体力のある層の流出を止めたいのだろう。

 

 その気持ちは、分かる。理屈で考えると、絶滅タイムリミット前に国家が立ち行かなくなるからだ。

 

 しかし、もはや若者層は……全員ではないけれども、かなりの割合で国家を見限りつつある。

 

 その者たちは、いわゆる低所得者層と言われていた者たちで……まあ、うん。

 

 

(今まで散々使い捨ての部品みたいな扱いをしてきて、今になって、国家のために人類のために……なんて言われたら、そりゃあ唾を吐きつけたくなるか……)

 

 

 人というのは、実に不思議なものだなと彼女は──あれ? 

 

 

(そういえば、以前の私は人でしたね、ちゃんと覚えておかないと)

 

 

 保管してあるデータ群より、該当データを再インストール……ヨシ、さて、話を戻そう。

 

 もしも、だ。

 

 仮に、今の段階で妊娠異常に関する薬を製造し、それを販売した場合……どうなるだろうか? 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………あ~、お~、う~ん。

 

 

(ほぼ間違いなく、無償で提供しろとか騒ぎ出すだろうし、そのまますべての諸悪の根源が私ってことになるね、これ……)

 

 

 それはまあ、嫌だなあ……と、彼女は思った。

 

 別に、恨まれたり、敵視されたり、その程度は良いのだ。

 

 『商売』をやっている以上は、そういう事だってある。

 

 なにせ、商売敵の畑に除草剤を撒いたり、厩舎に火を放ったり、根も葉もないデマを流しまくるなんてのが、それほど珍しくはない世界。

 

 

 それが、『商売』という世界だ。

 

 

 現に、今ですら彼女はそういう攻撃を受けているわけで……ああ、ダメだな、思考がループに入りかけている。

 

 そこで思考ルーチンを打ち切った彼女は……自らの思考プロセスを全てデータ化し、保存すると……スペアボディの一つへ転送し、新たな彼女を起動させる。

 

 これはまあ感覚的な話なのだが、回路というモノには『癖』というものが生まれる……というのが彼女の持論である。

 

 ボナジェにもよるだろうが、彼女はこの『癖』をあまり良くないものだと捉えている。

 

 何故ならば、『癖』は思考の流れにある種の規則性を生み出し、それによって本来はAという答えが適当なところを、Bという答えを出してしまう時があるからだ。

 

 なので、今みたいに堂々巡りな思考ルーチンが発生した時は、リセットの意味も兼ねて思考データを一旦外部デバイスに保存し、新しいボディに再インストールしている。

 

 あくまでも感覚的な部分ではあるけれども、これを行うと思考回路がリフレッシュされる感覚がするので、これまでけっこうな頻度で行われていた。

 

 

(ふ~む……動作に異常なし、思考ルーチンにも異常なし……さて、と)

 

 

 手足を動かし、内部の回路もチェックを終えた彼女は……客観的に前回の自分の記憶や思考データを見直し……そして、考える。

 

 

「ひとまず、人間たちの事は置いといて……ファンタジーなあの空間をどうするか、だな」

 

 

 一度に全部解決しようとするのは失敗の元だから、まずは目先の問題から片付けておくべきだろう。

 

 

「このまま人気が高まり続ければ、いずれは地下空間拡張の必要があるわけだし……しかし、地下空間には限度があるからなあ……」

「空間歪曲で広げるにも限度があるし……かといって、あまりにも広げ続けると、そのうち自転の遠心力で地表のいくらかが重力圏外に吹っ飛ばされてしまうかもしれないし……」

「そもそも、冷静に考えたら閉鎖空間だしなあ……人間の身体ってびっくりするぐらい脆いし、あの環境に長く居てどれほどの影響が出るのか、まだデータが揃っていないのも……」

「地上にファンタジー領土を作るにしても、そんな手付かずの土地なんて無いしなあ……」

「どれだけ辺境でも、誰かの土地だしなあ……さすがに勝手に作ったらこっちが悪いし、かといって、合法的に購入しようとしたら……ん~、めちゃくちゃ足元を見られるか、無駄に契約締結までが長引きそう」

「その間に勝手に内乱がさらに勃発して勝手に絶滅されたらなあ……1から作るにしても、出来る限り、現在の人間たちの方が良いしなあ……」

「ていうか、地上にそんなのを作ったら、ミサイルとかありったけ撃ち込まれそう……対応は簡単だけど、私の商売は愛されないとダメだからなあ……」

「でも、現在の広さでは……う~ん、もう少しリスクを承知の上で地下の拡張工事を続けるか……あ、うん、おや、待てよ?」

 

 

 それは、前回の己を客観的に見ることが出来るからこそ思いつく。

 

 

「領土が無ければ作ればいいじゃん……ファンタジー惑星をさ」

 

 

 彼女にとっては、冴えたやり方で。

 

 

「行きたい人は行けば良いし、残りたい時は残れば良いし、行ったは良いけど戻りたいって人も……全てにヨシだな、うん」

 

 

 彼女なりの、妙案であった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………20XX年。

 

 

 地球より確認出来る位置に突如惑星が出現し、そこへ多くの人々が移住し……子を成して。

 

 後に、二つの惑星にて、『新人類』と『旧人類』とで、種族そのものが別れることになる。

 

 その、最初は、こんな形で始まったのであった。

 

 

 

 

 

 






これにて、この話はお終いです
『人の心』があるので、人類は存続しています
新しい惑星を新天地と定めて永住した者もいれば、やはり故郷にと地球に戻った者も居たでしょう……奥さんと子供を連れて
ソレは決して、元の形のままとはなりませんが……その先にて、どのような未来が待っているのか。
まあ、穏やかではないでしょうね

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