人の心があるタイプの改造TS機械生命体の話   作:葛城

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※ ちょっとバイオレンスなシーンあり



第1話: 淡い記憶の、淡い夢

 

 

 

 住居を失い、おそらく私物も処分されたがゆえに無一文になってしまった彼は、自宅より地下1200mの位置にて、考える。

 

 正直、過去の事は記憶というよりは記録という認識だし、失われたなら失われたで仕方がないという感覚だったので、そこはいい。

 

 元々、帰りたいと願ったのは哀愁から来る名残惜しさに似た感情からだ。

 

 良いか悪いかはともかく、もう自宅は無いのだとはっきり分かってしまえば、未練も何も無くなってしまった。

 

 

 だから、問題なのはその先。

 

 

 この後どうしようか……という、目的が何もない、今後の展望が何一つ無いという現実であった。

 

 実際、既に目標を果たしたわけで……今の身体になる前も、特に目標があって生きていたわけでもなかったから、余計に彼は自らを持て余していた。

 

 

 ……やろうと思えば、なんでもやれるだろう。

 

 

 このまま地球外に出ていくのは簡単だし、地中の中で眠り続けることも出来る。

 

 地球を裏側から操ることだって可能だし、逆にボケーっとぐうたらな日々を送るのだって……それこそ、この身体になる前の生活をトレースすることだって、簡単だ。

 

 

 でも、どうにもやる気が出ない。

 

 

 以前ならネットの動画を見て面白いとか楽しいとか思えただろうけど、今ではもう、『人間にしては上手じゃん』という感覚しかない。

 

 例えるなら、アレだ。素人の中ではちょっと上手なところを見ている、みたいな感じだろうか。

 

 100m陸上世界記録の映像を見ても、『俺なら、思いっきり手を抜いても0.01秒でゴールできるな』という目で見てしまうし。

 

 超絶技巧での演奏で注目を浴びる人を見ても、『俺なら、その技巧をさらに洗練させたロボを100体同時に別々に動かせるな』とか。

 

 見下すわけではないけど、どうしてもつまらないモノに見えてしまって……見る気が無くなるわけだ。

 

 同様に、金や権力、地位や名誉にも興味が無い。

 

『ボナジェ』になった影響もそうだけど、そのどれもが、やろうと思えば片手間で全て手に入ると分かっているからこそ、余計にやる気が出ない。

 

 観光も、遠く離れた場所に行くからこその観光なのであって、電車で二つ三つ先へ行ける距離ならもう、それは日常の一部……というのと、同じだ。

 

 ゆえに、彼の気持ちはゆっくりと……静かに、鈍くなっていった。

 

 このまま完全に気力を失って機能停止の状態になっても、欠片の後悔も恐怖も無い……冷静にソレを認識しながらも、彼はただ月日の流れに身を任せていた。

 

 

 ……そんな時であった。

 

 

 このまま眠るのも退屈だしと、極小センサーを地表に伸ばして、チラチラと地上の様子を眺めていた彼だが……その日、とても興味が引かれる光景を目撃した。

 

 それは、なんてことはない、フリーマーケットであった。

 

 人間だった時のうろ覚えな記憶では、2,3回ぐらいはたまたま通りがかった事があっただけで、それ以上もそれ以下も……そこで、彼は見た。

 

 よくある光景、商品と金、人と人の対話、物品の動き。

 

 それを見た時、彼は……記憶の中でもかなり古い、おそらくかつての自分が記憶しているモノの中でも最古に近しい……その時の感情が、フッとよみがえってきたのを感じた。

 

 なんてことはない、幼少期の記憶。

 

 テレビで見た、ドラマかアニメか……分からないけれども、その時に……子どもながらに考えたこと。

 

 

(──そうだ、商売をやろう)

 

 

 拙い言い回しだが、子供の頃の夢に挑戦してやろう……そう、彼は思いついたのであった。

 

 

 

 

 

 ──とはいえ、だ。

 

 

 彼がやりたいのは、昨今では珍しくもなくなったネット通販関係……ではなく、人と人が面と向かって対話をしながら売買契約を結ぶ、従来のやり方である。

 

 だから、このままではどう足掻いてもそれはできない。

 

 だって、今の彼の外見は、動力源とチップが組み合わさった機械の身体……このまま出ても、無駄に怯えさせて終わるだけ。

 

 

 なら、どうするか? 

 

 

 答えは、身体を用意してしまえばいい、である。

 

 さっそく、彼は……地中内を整形して、空間を作る。酸素も何も無いが、人間の肉眼でどう映るのかを検証するための部屋だ。

 

 当然ながら、照明も設置する。

 

 人の目は光の反射の強弱によって視界を生み出しているので、周囲に違和感を与えないよう、同じ仕様でなければならない。

 

 酸素の有無は問題ない、いちいち呼吸しているかどうかを確認だなんて、性行為の時ぐらいだろうし。

 

 そこへ、彼は『材料』を取り出して機械を形成し……『有機体製造機』を設置した。

 

 この『有機体製造機』は、率直に生命体を作る機械である。

 

 作れる生命体は現時点で約6000種類。

 

 サンプルデータが少な過ぎるから、それは後々の要課題として……まずは、試運転。

 

 

 ごうん、ごうん。

 

 

 装置は正常に可動した後、射出口より……にゅるっと、粘液まみれの女体が出て来た。

 

 その女の外見は、おおよその人からは美少女だと断言する姿をしていた。

 

 シミ一つなく、つるりとした肌は若々しさに満ちていて……パチッと開かれた目は大きく、ぎこちなく立ち上がった。

 

 その少女は、普通の人間ではない。

 

 言うなれば、見た目は人間に似せただけのキメラ。

 

 さらにダウングレードさせた動力源と演算チップ、その他様々な装置を搭載した、人間の形をした機械生命体である。

 

 で、その身体だが、初めての動作ゆえに、まだ頭部に埋め込まれたメモリーチップの動きと連動がズレている。

 

 

 それも、致し方ない。

 

 

 本来は少しずつ時間を掛けて、身体の動かし方を意識せずとも動かせるぐらいには慣らしていくところを、無理やり早めているのだ。

 

 データは絶えず彼へとフィードバックされ、精査して改良されたデータが送られ、それを基に、さらに少女は制御の精度を深めてゆく。

 

 おかげで、ものの数分で既にアスリートレベルに自在に身体を操れるようになった少女は、そこでようやく彼へと向き直った。

 

 

『やあ、気分はどうだ?』

「おはようございます。命令はありますか?」

『特にないが、質問をしよう。どうして、君は少女の身体になったのかな?』

「庇護や同情を得やすくするためです」

『よろしい』

 

 

 制御装置も正常に可動中。

 

 まあ、不良品が紛れ込む可能性は0なので、心配するだけ無駄だけど……それで、だ。

 

 

『笑顔』

「──(ニコッ)」

『不機嫌』

「──(ムス!)」

『悲しい』

「──(ジワッ)」

『怒り』

「──(フンス!)」

 

 

 表情の動きも完璧、違和感こそ覚える者が居ても、それ以上はないぐらいに人間にしか見えない……ヨシ。

 

 最終チェックを終えた彼は、そこで少女と同期し……直後、彼は彼女となって、彼女は彼と彼女とが見つめ合う視界を同時に認識した。

 

 本体が移ったのとは、少し違う。言うなれば、多く権限が与えられたリモートコントロール。

 

 臨場感を楽しむために、動力源の方は『工場』としての役割に重点を置いて、少女の方にはダウングレードした動力源を搭載させた。

 

 それから、『倉庫』より着替えを取り出し、装着した彼女は……地上へとワープし、路上販売を始めたのであった。

 

 

 ……許可証? 

 

 

 あいにく、彼女は端からそんなモノを守るつもりは欠片もなかったし、ダメなら違う場所でやればいいか……という認識であった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………それから、人通りの多い路上にて、彼女は『材料』から作ったレジャーシートの上に、商品を並べた。

 

 

 そこは、路上パフォーマンスやら何やらが活発なようで。

 

 彼女以外にもお手製の商品を並べていたり、『1枚1000円、似顔絵を描きます』と記された看板を置いて、キャンバスを広げている者もいた。

 

 そんな中で、彼女が広げた商品は、簡素な新聞紙に包まれた塊であった。

 

 

 数は、全部で15個。

 

 金額は、一律1万円。

 

 

 商品には統一性は無いが、商品の傍には『当たるも八卦、当たらぬも八卦。全部、1万円以上の値打ち、一部取り扱い注意』とだけ書かれた小さな立て看板が置かれていた。

 

 

 ……当然ながら、通行人たちからの注目は集まる。

 

 

 なんでかって、地上の季節は冬で、今は夕方。

 

 気温は5℃と、シンシンと骨身に染みる寒さの中で……彼女は、半袖のワンピースしか着ていなかった。

 

 そう、薄手のワンピース。

 

 周りの通行人たちは、一人の例外もなく分厚いコートやジャンパー、マフラーに手袋をしていて、それでも寒そうにしていた。

 

 そんな中で、彼女はまったく寒さを感じさせず、凍えている様子もなく、ボケーっと三角座りの姿勢で客を待っていた。

 

 そのうえ、誰が見ても美少女だと断定するぐらい、顔立ちだけでなく、全てが整った美少女だ。

 

 そんなの、目立って当たり前である。

 

 立ち止まる者はまだ居なかったが、明らかに異常なその姿に、興味深そうに振り返る者は数多く居て……そして。

 

 

「お嬢ちゃん、なにしているの?」

 

 

 その日、最初に声を掛けて来たのは……ピアスにタトゥーの、見た目の印象はあまり善良そうには見えない風貌の男であった。

 

 

「商売をしております」

「ふ~ん、そんな恰好で? 寒くないの?」

「気にしなければ恰好に問題はありませんし、寒くもないです」

 

 

 答えれば、男は特に気にした様子もなく彼女の全身を眺め……次いで、シートの上へと向けられる。

 

 

「……これ、何を売っているの?」

 

 

 男の視線は彼女と、シートに置かれている新聞紙に包まれた商品を行き来していた。

 

 

「商品です」

「いや、だから、その商品の中身」

 

 

 そう答えれば、男は気にした様子もなくさらに踏み込んできて……なので、彼女もまた同じく踏み込んで答えた。

 

 

「当たらぬも八卦、外れるも八卦」

「はい?」

 

 

 目を瞬かせる男を他所に、彼女は……ことん、と新たに小さな立て看板を置いた。

 

 そこには、『お触り厳禁』と記されていた。

 

 

「買ってからのお楽しみです」

「……ああ、そういうこと」

 

 

 それで納得したのか、男はサッと手を伸ばして商品を──手に取る前に、その手を彼女が押さえた。

 

 

「見るのはいいけど、お触りはダメ。商品に触れた時点で、お買い上げとみなします」

「ああ、触ると中身がバレるからか」

 

 

 その言葉に、男はちょっと面白そうに……ニヤッと、笑みを浮かべた。

 

 

「でも、無視して触ったりするやついるじゃん。そういうやつが現れたら、どうするの?」

「支払いをせずにこの場を離れた時点で、いかなる理由があろうとその日のうちに処分します」

 

 

 ……処分? 

 

 

「具体的には、『材料』として活用します」

「材料? どういう意味?」

「その名の通り、材料として活用します。絶対に逃がしませんので、命が惜しいのであれば、支払いはここで済ませてください」

「なにそれ、脅し?」

「いいえ、警告です」

 

 

 キッパリと告げたら、男はフフッと笑みを浮かべ……ポケットから財布を取り出すと、1万円札を差し出してきた。

 

 

「当たらないにしても、取り扱い注意なモノかどうかぐらいは教えてくれるんだろう?」

「はい、詳細は教えませんけど」

「じゃあ、この中で一番危なくないのは?」

「貴方から見て、一番右端の商品です」

「じゃあ、けっこう危ないのは?」

「けっこうの基準にもよりますが、貴方から見て左から3番目の……そう、それです」

「よし、じゃあ、これを買おう」

 

 

 交渉成立。

 

 1万円札を受け取ると同時に、男は新聞紙に包まれた商品を手に取る。「意外と重いな、石かこれ?」固い感触に、ちょっと顔をしかめていたが……っと、その時であった。

 

 

「あれ、こんなところでなにやっているんすか、ジンさん」

「あ? なんだ、竜じゃねえか」

 

 

 なにやら、眼前の男……おそらく名前は『ジン』。彼の知り合いと思わしき、別の男……スキンヘッドの男が、スルっとジンの隣に屈んだ。

 

 

「なにこれ?」

「あっ」

 

 

 そして、置かれている看板もまともに見ずに、パッと商品を手に取った。

 

 ちなみに、「あっ」と声をあげたのはジンで、彼女は……無言のまま、竜と呼ばれたスキンヘッドの男に手を差し出した。

 

 

「1万円」

「あ?」

「商品を手に取ったら、お買い上げ」

「はっ」

 

 

 竜は鼻で笑い、それどころか商品を無造作に彼女へ放った。ごつん、と彼女の顔面に当たったソレがシートの上を転がる。

 

 

「相手見て商売しろや、ボケが」

 

 

 それどころか、竜は立ち上がるとそのまま彼女を蹴り倒した。ごろんと派手に転がった彼女を他所に、竜は気にした様子もなく背を向けて離れて行った。

 

 

 ……後に残されたのは、少しばかり離れたところで出来上がっている野次馬たち。

 

 

 今の一部始終を見て、警察を呼ぶべきかどうか……そう、誰もが動揺し、スマホを片手に視線をさ迷わせていた。

 

 客観的に見て、彼ら彼女らの動揺はごもっともな事である。

 

 誰だって、乱暴事には関わりたくないモノだ。下手に関わって相手から逆恨みされてしまえば、目も当てられない。

 

 警察に電話を掛けると、警察からの事情聴取とか何だとかでも時間を取られたりもするから、二の足を踏むのもまあ、致し方ない部分はある。

 

 そのうえ、だ。

 

 蹴られた少女が何事も無く……それどころか、痣一つなくケロリとした様子で身体を起こせば、周りの目も変わる。

 

 

 ……ああ、大したことじゃないのか、と。

 

 

 もちろん、冷静に考えたら物を投げつけられたり蹴られたりしているので、大したことではあるのだが……で、だ。

 

 

「良いの?」

「あん?」

 

 

 そんな中で、一人、また一人、野次馬たちがその場を離れていく中で、彼女は……チラリと、ジンを見上げる。

 

 

「取り立てますよ。最初のお客である貴方のご友人らしいのでサービスして猶予を設けるけど、今日中に支払いをしないと──」

「はは、お嬢ちゃん、怖いもの知らずか? それとも、バカなだけか?」

 

 

 暗に友達を助けないで良いのかと促せば、ジンは先ほどの竜と同じく、彼女の発言を鼻で笑った。

 

 どうやら、ジンも特に彼女を助けるつもりはないのか、「無駄に手を出す、あのバカはよう」自らが手にした商品を見つめ……フッと笑うと。

 

 

 じゃあな、と。

 

 

 声を掛けて来たのが突然なら、去っていくのも突然で。

 

 背を向けて去っていくその足は一度として止まることはなく、流れる通行人たちの向こうへと、その背中は遠ざかっていった。

 

 

 ……それを、ぼんやりと眺めていた彼女は……再び、体育座りをして、次の客を待ち始める。

 

 

 売れようが売れまいが、どうでもいい。

 

 ただ、こうして座っていると、子どもの頃の夢が叶っているなあ……という満足感がして、彼女はとにかく楽しくて仕方がなかった。

 

 

 

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