人の心があるタイプの改造TS機械生命体の話   作:葛城

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第3話: 物より、思い出

 

 

 

 ──そんなつもりは、無かったのだ。

 

 

 地下1200mの地点に作った空間にて、彼女は壁に手を置いて反省していた。

 

 

 本当に、そんなつもりはなかったのだ。

 

 ただ、不意に当てた宝くじみたいなもので。

 

 

 彼女は商売の真似事が出来て満足、商品を買った者も満足、両者Win-Winで終わると考えていた。

 

 それが、殴り合いの奪い合いにまで発展するとは……いや、違うか。

 

 これに関しては、明らかに己の考え不足というか、深く考えずに動いたのが間違いであった。

 

 改めて考えてみたら、『商品』として売り出していたモノの中には、常人の手には余るモノが含まれていたと思う。

 

 一番危ないモノと聞かれてそれを買おうとするやつはだいたいろくでもないやつという認識だったから、そのまま売ったけど……黄金は、ちょっとやり過ぎた。

 

 なにせ、日本円にして1000万円以上だ。殴り合いの一つや二つ、起こっても不思議ではない。

 

 なにやら警察も自分を探しているようだし……そう思った彼女は一旦、路上販売を中止し……次の商売方法を考える。

 

 

(う~ん、そうだな……最近は、個人で行う通販が人気なのか。この身体になる前の時よりも、需要が増しているようだな……)

 

 

 そこで目を付けたのが、個人の私物を売買する通信販売業だ。

 

 本当は、そういうやり方はあまり好きではない。

 

 やはり、面と向かって商売をしたいという気持ちがある。

 

 けれども、それで誰かが不幸になるのは、彼女にとっては本末転倒が過ぎた。

 

 自分にヨシ、相手にヨシ、それが商売の基本ではないだろうか……と、彼女は思ったわけだ。

 

 工場を建てたり施設を用意したり、従来のやり方を行うのは簡単だが……それだと、人々の生活を破壊する可能性がある。

 

 

 そんなことは、したくない。

 

 

 彼女の目的は、あくまでも商売の真似事であって、かつて人間だった頃……そう、子どもの頃の淡い夢を叶えているだけである。

 

 金が欲しいわけではない。

 

 今の彼女にとって、10円貰おうが10兆円貰おうが、大した違いはないのだ。

 

 どうせやるならば、商品を買った人が幸せになってほしい、喜んでほしい……ただ、それだけであった。

 

 

 ……で、彼女は考え……中古という名目で、自作の『バッテリー』を販売することにした。

 

 

 バッテリーは、海外製&ジャンク品という名目で販売する。使うサイトは、一般的に利用されている通販サイト。

 

 値段は、一律500円。

 

 数は前回の反省を生かし、一日一個一種類、特にこだわりはしない。

 

 なんで種類を分けるのかと言えば、バッテリーと一言で表しても、その形状や用途や種類は多岐に渡る。

 

 言うなれば、バッテリーを必要とする一つの機械製品には、それに合わせたバッテリーが必要になるからだ。

 

 しかし、専用バッテリーなんていうのは、全体としてみたらそう多くはない。

 

 だいたいの場合は市販されているバッテリー……電池もそうだけど、それに合うよう設計されている。

 

 彼女が今回売り出すのも、そういった、だいたいの場合に分類される方のバッテリーである。

 

 そういうバッテリーは、メーカーが出しているモノとは別の類似品、互換性のある商品がけっこう売られていたりする。

 

 

 彼女はそれに目を付けた。

 

 外国製……それも、ジャンク品ともなれば、安かろう悪かろうは承知の上。

 

 

 メーカー品ならばその20倍以上の値段がするけど、そういうのを検証して実況する人も居るということは、既に調べが付いている。

 

 だから、これは売れるぞと考えた彼女は、販売に踏み切ったわけであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………もちろん、すぐに売れるような代物ではない。

 

 

 昔ならいざ知らず、今どきはどれだけ安かろうが、バッテリー関係のジャンク品に手を伸ばす人は少ないのである。

 

 なんと言っても、バッテリーは消耗品だからだ。

 

 使用頻度にもよるが、どれだけ大事に使ったとしても、1年も使えば相応に性能は落ちていく。

 

 そういったジャンク品に手を出すのは、むしろジャンク品であることをネタにしているような人ぐらい。

 

 なので、彼女は待った。

 

 時間はたっぷりあるし、5年でも10年でも100年でも待とうと、彼女は考えていた──

 

 

(……おや、購入希望? 思っていたより早かったな)

 

 

 ──のだけど。

 

 

 通販サイトに登録していた己のアカウントに、購入希望のメールが届いたのは、商品をサイトに載せてからわずか7日後の事だった。

 

 手早く、彼女は返信する。

 

 通信をハッキングして、購入希望者の情報を素早く抜き取っていく……どうやら、相手は動画配信者(男)のようだ。

 

 なんでも、ジャンク品の性能解説を兼ねたキャンプ動画を撮るようで……ジャンク品購入によるトラブルも含めてのようだ。

 

 どうやら、犯罪に使うわけではないようだ。

 

 結論を出した彼女は、向こうから返信が来ると同時に、返信を行い……送料込み500円での契約&決済を完了させた。

 

 

 ──直後、彼女はその『バッテリー』を男の部屋の中に届けた。空間を繋いで物を送るぐらい、なんてことはない。

 

 

 人間だった時、配達関係の行き違い、それによって幾度となく再配送になって二度手間、三度手間になった経験が彼女にはあった。

 

 せっかく、解決する手段を持っているのだ。それを使わない理由が彼女には無い。

 

 もちろん、ちゃんとプライバシーに配慮する。

 

 室内に入る時は視界にモザイクを掛け、驚かせないよう物音を一切立てずに終わらせることを、念頭に。

 

 

(『発送、お届け致しました。ご確認願います』……っと』)

 

 

 そうして、今回の取引を終えた彼女は……ふう、と満足のため息を吐いた、実際には吐息なんて出ていないけど。

 

(喜んでくれるだろうなあ……装置内で増幅し、1時間の充電で100時間分の充電を行った状態になる、とっておきだ)

 

 

 ──きっと、快適なキャンプを楽しんでくれるに違いない。

 

 

 そう、彼女は……彼の幸せを想像し、にっこりと笑みを浮かべたのであった。

 

 

 

 

 

 ……とまあ、そんな感じで、だ。

 

 

 一日一個、欲しいと思った者に販売をしていたわけだが……どうやら、ジャンク品ながら良品を売る出品者として、噂が広がったのだろう。

 

 作ったアカウントに、続々と『まとめ買いしますので、連絡ください』という類のメールが届くようになった。

 

 最初の頃は『もう一つ欲しいので、ありますか?』といったモノが多かったけど、途中からはお金が無くて困っているとか、そんな内容も増えて。

 

 日数にして三ヵ月が経つ頃には、一日に最低でも100件前後の購入希望メールが届くようになって。

 

 五ヵ月が経った頃には、翻訳機能を使った怪しい日本語や、『大口契約をしたいのですが、連絡は取れますか?』といった内容が500件を超えるようになっていた。

 

 

 それだけ人気になってくれるのは、非常に嬉しい。

 

 

 彼女の基準においては型落ちも型落ち、こんなの宇宙の基準に照らしたら玩具以下の性能しかないのだけど、それでも、喜んでくれているというのが伝わってきて嬉しかった。

 

 けれども、売るのは一日1個だけである。

 

 いくら玩具以下の性能とはいえ、己が作ったバッテリーが、この星においては人類の科学力を超越した超高性能だってのは理解している。

 

 だから、一日1個だけである。

 

 こんなものをポイポイ大量販売してしまったら、既存メーカーに対して重大な悪影響を与えてしまうのは、想像するまでもない。

 

 だからこそ、買えたらラッキーだよね……という程度の感覚で販売していたのだけど。

 

 

(──ふむ、一般人を装った企業からのメールに、政府からのメール、外国からのメール……しまったな、前と同じく、むやみに騒動を生みかけている)

 

 

 これまで送られてきたメールの送り主、それが徐々に一般人から公的機関……あるいは、組織からに変わり始めていることを、彼女は察した。

 

 最初は100件のうち、2,3件ぐらいだったのが、今では100件来たら50件ぐらいが……調べてみたら、どうやら『バッテリー』が相当な噂になっているようだ。

 

 始まりはなんてことはない検証動画からだったのが、噂が噂を呼び、実際に購入した人の話が広がり……そして、それは世界中に広まりつつあるようだ。

 

 どうも、購入者の中には日本在住の外国人が居たようで、その人から海外に情報が広まったっぽい。

 

 その証拠に、まだ地上波には流れていないが、ネットニュースなどでは『噂のバッテリー、その謎に迫る!』といった感じで、騒ぎになっているようだ。

 

 

 ただ、あくまでも地上波には流されていないだけ。

 

 

 既に騒動はネットだけに留まらず、『誰がいち早くバッテリー出品者とコンタクトを取るか』という動きになっているようだ。

 

 幸い(?)なことに、彼女は地上に住居などは構えておらず、地下1200mの空間に居るから、直接接触することは不可能。

 

 だから、そういう押しかけとは無縁なのだが……しかし、だ。

 

 

(あまり、こういうのは健全とは言い難いなあ……)

 

 

 商品が人気になってくれるのは嬉しいが、こういう奪い合いみたいな形になるのは……正直、嬉しくない。

 

 一日1個、抽選で購入した者が『やったぜ!』と喜ぶだけなら、まだいい。

 

 調べてみると、どうやら購入した人の中には高額に転売した人がいる。それも、一人や二人ではなく、けっこうな割合で。

 

 そういうのは、あまり良い気がしない。

 

 下手に触って壊したり、何も考えずに転用したりすると危ないから、どんな方法であれ内部を確認しようとしたら自動的に石化するよう細工を施してはいるけど。

 

 気分的には、そういう問題ではなくて。

 

 なんだか、頼んでもいないのに勝手に関所を作られて、通行料金を取られているかのような……ああ、そうか。

 

 

(転売ヤー許すまじとは、こういう気分なのか……)

 

 

 ここらが潮時かな……と思った彼女は、『バッテリー』の販売を中止するのであった。

 

 もちろん、これまで利用していた通販サイトには。

 

 

『──転売が行われているのが確認されましたので、今後の販売は中止させていただきます』

 

 

 という言葉と共に。

 

 

『くたばれ! 転売ヤー!』

 

 

 そう記されたパネルを片手に、中指を立て、舌を出して小馬鹿にする……そんな写真を載せることを忘れなかった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、だ。

 

 

 通販サイトでの販売は止めたわけだけど、それはそれとして、退屈になってしまうのもまた、当然の帰結。

 

 なにせ、やる事が無いのだ。

 

 食事を取る必要もないし、繁殖を目指す必要もないし、生存は既に確定している……では、何をするかと言うと。

 

 

(ふむ……あまり騒ぎにならない、そんなモノを売るべきか……)

 

 

 やはり、『商売』である。

 

 なんでそこまで商売にこだわるのか……それはやはり、もう戻れない幼少期の夢、それを果たせていることへの充足感だろう。

 

 これがまあ、売り上げとか支払いとかを考えたら、こんな気分ではいられないが……幸運にも、今の彼女は違う。

 

 それこそ、売り上げ10円でも良いのだ。

 

 それで、相手が笑顔になってくれるなら、これ以上の喜びは無い。

 

 しかし、現実として10年で大量販売とかしてしまったらヤバいし迷惑が掛かるのは分かっていたから、制限を設けていた。

 

 今回は、それでも騒動になりかけてしまったから……ふむ、そうだな。

 

 

「物ではなく、思い出……!」

 

 

 それは、まさしく彼女にとっては閃きであった。

 

 

「……人数制限を掛けて、宇宙旅行……いいんじゃないか?」

 

 

 そして、その閃きを行えるだけの能力が、彼女にはあって。

 

 その時点で、彼女はもう……次の『商売』へと動き始めるのであった。

 

 

 

 

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