人の心があるタイプの改造TS機械生命体の話   作:葛城

6 / 17
第四話: 購入者、お待ちしております

 

 

 ──彼が最初にそれを見つけた時、変な広告だなと思った。

 

 

 そのサイトは、いわゆる同人販売サイト。

 

 『全年齢』から『R-18』に至るまで幅広く対応している個人クリエイター向けのサイトで、様々な個人クリエイターが作品を発表し、集金しているサイトだ。

 

 集金のやり方は、とくに複雑なモノではない。

 

 たとえば、個人製作の漫画なら、全10ページのうち、1ページだけを無料で見られるようにして、残りの9ページを見たいのであれば、有料……といった感じで。

 

 たとえば、個人製作のモデルなら、何枚か自分を撮影した画像を無料で見られるようにして、残りは有料……という感じだ。

 

 

 やっている事はまあ、インターネットを利用した通信販売みたいなモノで……彼は、そこの常連であった。

 

 

 見る範囲には、特に区別はない。

 

 また、特定のクリエイターの熱心なファンというわけでも……いや、いちおう、ある。

 

 ただ、大半は、その時発表された作品に琴線というやつが刺激されたら課金して購入するだけで、そうでなかったらまた次回の作品に……といった感じである。

 

 なので、全年齢の作品に課金する時もあれば、R-18指定の作品に課金することもある。

 

 そこに明確な区別があるわけではなく、ただ自分の好みにあったから……あるいは、とても興味を引かれたから……という感じで。

 

 その日も、お気に入り登録してあるクリエイターを見終えた後は、新規に登録されたクリエイターをサーッと流し見していた。

 

 ……そんな時であった。彼が、そのクリエイターを見つけたのは。

 

 

(未成年? いや、登録出来ている以上は、成人済みか……すごいな、卒業してすぐかな?)

 

 

 彼が利用しているそのサイトでは、未成年はクリエイターとして登録できないようになっている。

 

 たとえ金銭が関わらなくても、サイトでは金銭が動いているわけだし、万が一トラブルが起こったら目も当てられない。

 

 なので、事前のトラブル防止の観点から……若いクリエイターだとしても、成人済みなのは確定である。

 

 で、彼の目を引いたのは、新たに登録されたそのクリエイターのプロフィール画像が(見た目の話)美少女だったから……ではなく、発表されている作品の内容だ。

 

 

『 宇宙へ行きませんか ~2時間パック~ 』

 

 

 ただ、それだけ。

 

 値段は、なんと2000円。

 

 電子通販の世界ではまあ、安い方ではないけど、高い方でもない。

 

 こういったサービスでは値段が本当にピンキリで、1万円以上の値段設定にしているところもあれば、100円のところもある。

 

 まあ、値段が高いところは、それまで発表している作品も含めてのセット販売形式な場合が多く。

 

 値段が安い場合はその月、あるいは、その作品のみ……といった場合があるので、一概に高い安いは判断が付けられないのだけど。

 

 

 それはまあ、話が逸れるので横に置いといて、戻し、戻し。

 

 

 その作品の説明には、『購入した日の23:00~1:00の間、宇宙を体験させます。一日限定1組まで』という一文がある。

 

 その下には注意書きで、『売り切れたら翌日まで補充無し、23:00以降の購入は、翌日に持ち越しとなります』とあって。

 

 最後に、『金額は平均値より取りました』という一文。

 

 それで、説明文は全部だ。

 

 冗談かなと思って注意深く見てみたけど、それ以外は何もない。

 

 というか、登録したのも昨日、商品が出されたのも昨日、まだ誰からもお気に入り登録すらされていない、出来立てほやほやなアカウントであった。

 

 

(……え、なにこれ?)

 

 

 怪しい。

 

 あまりにも怪し過ぎて、エイプリルフール系のジョークかとも思ったけど、昨日も今日も明日も、エイプリルフールではない。

 

 それ以前に、こんな怪し過ぎる商品(断じて、作品ではない)を、どうして運営の人たちは承認したのだろうか? 

 

 

 と、言うのも、だ。

 

 

 当然と言えば当然の話なのだけど、サイトを利用して販売するとなれば、そのサイトの運営から許可を貰う必要がある。

 

 具体的には、サイトの規約が守られているか。そして、運営の目から見て、販売しても大丈夫か、だ。

 

 最終的な責任はクリエイターに掛かるとはいえ、チェックもせずに通した……となれば、管理責任が問われるわけで。

 

 ごく稀に、『〇〇のところが商標登録されているので、モザイクなど修正してください』とか。

 

 使用している動画素材などに、『使用不可』とされているモノが混じっていて修正……なんてのも、あったりする。

 

 だから、すでに掲載されている時点で、運営が許可を出したわけで、ひとまず問題は無い……というのが確定しているわけだけれども。

 

 

「……2000円、か」

 

 

 高いと思えば高いけど、安いと思えばまあ、安い。

 

 ただし、商品の詳細が分からないという点を除けば、だが。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………しばし、考えた彼は、チラリとPCディスプレイに表示された時刻を見る。

 

『22:47』

 

 まだ、間に合う。

 

 しかし、こんな怪し過ぎるモノに2000円……たった2000円と考えるべきか、それとも、たかが2000円と考えるべきか。

 

 

(……まあ、変なのだったらSNSに出すか)

 

 

 幸いにも、まだ誰も購入していないようだし……そう結論を出した彼は、手慣れた動きで購入ボタンを押して……支払いを終えた。

 

 そして、トイレに向かい、コーヒーを入れて……再びPCの前に戻って来た時にはもう、時刻は『22:59』を示していた。

 

 

「あと、1分か……あ、23時だ」

 

 

 そんな呟きと共に、時刻の数字は『23:00』に。

 

 さて、この商品説明が本当であれば、ここから2時間、宇宙を体感することになるわけだが……当然ながら、彼は欠片も信じていなかった。

 

 やっぱりな……という感覚で。

 

 衝動買いしちゃったなあ……と、自分の行いを軽く後悔しつつ、湯気立つコーヒーに口づけ──

 

 

「お買い上げありがとう。それでは、ただいまより宇宙へ招待しましょう」

 

 

 ──た、その瞬間、背後から掛けられた声に、心底びっくりした彼は、ブフッとコーヒーを吹いた。

 

 慌てて振り返れば、そこにはプロフィール画像の通りの美少女が……え? 

 

 

「さあ、行きましょう」

「え、ちょ──」

 

 

 呆気に取られている彼の手が、取られる。

 

 次の瞬間、彼は──その後の2時間のことを、あまり覚えていない。

 

 洗脳されたとか、そういうのではない。

 

 ただ、あまりにも彼の常識の外にある光景が続いて、記憶する余裕がなかったのだ。

 

 唯一覚えていたのは、己が宇宙船に乗っていた、ということだけ。

 

 広大な……そう、メタリックな印象を覚える機械が連なり、大きく取り付けられたガラスの向こうには、地球が見えて。

 

 わずかばかり振動がしたかと思えば、びゅんびゅんと星々が動いているのが、ガラスの向こうに移って。

 

 火星だったり、月だったり、木星だったり……あるいは、銀河の星々だったり。

 

 次々に見せられる光景に、彼はもう何がなんだか……彼がようやく我に返った時にはもう、彼は……元の部屋に戻っていた。

 

 最初は、白昼夢かと思った。

 

 しかし、床に転がって汚しているコーヒーもそうだし、時計の時刻は『1:01』を示していて……そう。

 

 

「……は?」

 

 

 しばしの間、彼はそのまま突っ立っていることしか、出来なかったのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そして、だ。

 

 

 夜が明け……ようやく考えられる程度に落ち着いた彼は、ぼんやりした頭で、二度目の購入を行い……それから、ベッドに倒れこんで……気絶するように寝た。

 

 次に起きた時、自分でもこんだけ寝れたのは久しぶりだとちょっと驚いたぐらいに時間が過ぎていて。

 

 幸いにも昨日と今日は休日だったことに、ホッとして。

 

 遠出する気力が無かった彼は、近場のチェーン店でサッと食事を済ませ、それからボケーっと家に引きこもり、非常食として置いてあるカップ麺で晩飯を済ませ……それから。

 

 

「──お買い上げありがとう。それでは、ただいまより宇宙へ招待しましょう」

 

 

 時計の時刻が『23:00』を示して……すぐに、昨日の少女が現れた。

 

 玄関を開けて入って来たわけではないし、窓を開けてベランダから入って来たわけでもない。

 

 というか、ここはマンションの7階。そして、前回とは違って、彼は初めから部屋全体を見渡せる位置に座って、瞬き一つしていなかった。

 

 だからこそ、分かった。

 

 少女は、突然、そこに現れたのだ。

 

 気付いたら、そこに居た。

 

 足音も気配も立てず、彼が気付いた時にはもうそこに立っていて、朗らかに彼へと笑みを見せていた。

 

 

「さあ、行きましょう」

 

 

 そして、前回と同じく少女は、小さな手をこちらへ向け──反射的に伸ばしかけた手を自ら叩いて止めた彼は、せめてこれだけはと少女を見据えた。

 

 

「貴女は、何者なんですか?」

 

 

 その質問に、少女は笑みを向けたまま……少し、固まった後で。

 

 

「銀河の果てからやってきた、宇宙人みたいなものと思ってください」

 

 

 そう、答え……それから、彼は再び宇宙へと2時間の旅をしたのであった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。