ゴブリン退治に向かう新人達とドワーフの話 作:お前の隣の後ろの斜め右
今回、前回までと違うソフトで書いたので、違和感があるかもしれません。
第十三話 冒険
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「今回は薬草採取の依頼を受ける」
依頼の掲示板に貼られた、少し年季の入った張り紙。
ひっぺがしてきた紙を、盾鉱人は魔術師に手渡した。
「『薬草採取』の依頼?」
盾鉱人は無言で腕を組む。
「薬草採取」それは、「ゴブリン退治」「下水掃除」に次ぐ人気のない依頼だ。
新人たちが、ゴブリン退治は嫌だが下水も汚くて受けたくない。ならば、と仕方なく取る類のもの。
見た目通り簡単なものなので、誰でもできるが、ゆえに依頼される数も多く、掲示板の隅っこで不貞腐れているものも多い。
言い出したのは盾鉱人だが、魔術師も別に、いやというわけではない。
「まあ、良いけど」
素直にうなづいた魔術師だが言葉の後には、「今更?」や「なんで今?」という意味が含まれているように感じられる。
純粋な困惑に気付いた盾鉱人は、魔術師に、二本、指を立てた。
「一つは」
「ポーション代の節約」
「蛾の蟲人にレシピを聞いたから、簡単なものなら自作できる」
依頼のついでに、と指を折る。
道具は、蜘蛛の蟲人から「魔術師だけ護符を貰うのは不公平だ」と彼のお古を譲り受けたものがある。
「そして二つ目」
妙なところで律儀な友人だ、と顔が緩んだ。
「何?」
魔術師に怪訝な顔をされる。
慌てて、咳払いで誤魔化す。
「ここ最近、洞窟や下水の依頼続きで、陽の光を浴びていない」
「俺は種族上問題ないが、お前はまた別だろう」
「あと、単に気分転換の意味合いもある」
暗い場所ばかりでは気が滅入るからな、と指を折りたたんで作ったこぶしを、ひらひらと解いた。
怪訝な顔の魔術師が、納得したように息をもらす。
「貴方なりに気を使ってくれたってこと?」
「いや。息抜きは誰でも必要だ」
「……そうね。でも、ありがとう」
帽子を深く被り直し、表情を隠す。
彼女は左手で、腰にかかるスリングを触った。
「何かあれば、聞く」
「いえ、大丈夫」
盾鉱人は小さく身じろぎして応える。
魔術師は椅子から腰を上げ、立てかけてあった杖を手に取った。
「薬草については、あんまり詳しく知らないの」
「だから、勉強するには丁度良い機会」
顔をこちらに向けて「行きましょう」と受付を指す彼女に、盾鉱人は無言で続いた。
——ここまでが、数刻前のこと。
「これは?」
「違う。が、使える」
頷いた魔術師が、胴嚢に薬草を入れる。
それを横目に、盾鉱人は足元の草を抜いた。
目当ての種類ではない。けれどこれも使える。
自分の胴嚢に入れた。
「みてよこれ。店売りのと何ら変わらない」
目を輝かせながら魔術師が、茂みに生える、大葉の植物を見つめている。
「上質だな。それは当たりだ」
薬草を摘み取ると、丁寧に、彼女の背嚢にしまう。
「規定量は超えた」
魔術師の背嚢を覗き込んでつぶやき、盾鉱人は自分の胴嚢を一瞥する。 「そっちはどうだ」
「こっちも、十分取れたわ」
胴嚢の中身を「ほら」と見せながら、魔術師は一歩接近した。
前屈みになり、胸元の護符が外に飛び出す。
「……今気付いたんだが」
薬草に視線を落とし、ゆるく目線を逸らしながら盾鉱人は続ける。
「それ、鱗粉出てないか?」
「鱗粉?」
魔術師が、護符を目線の高さに持ち上げた。
樹脂の中で、白い翅がうすく瞬いた。
そして、その淡い光が少しだけ、外に漏れ出している。
「ああー……。なんかキラキラしてるなとは思ったの」
静かに落ちる鱗粉を、彼女は左手で受け止める。
手のひらに張り付いて、溶けるようにきえていった。
「呪いだったりして」
「それはない」
うそぶく魔術師に、盾鉱人は即座に反論した。
彼を見る翡翠色の瞳が、鉄兜の奥に届く。
少しだけ、沈黙が漂う。
「呪いでも、別に良いじゃない」
「仲間なんだし」
悪いものじゃないでしょ、と彼女は護符を服の下に戻した。
右手で斧柄を握る盾鉱人を一瞥して、息を短く吐いた。
「それより、こういうキノコとかも、ポーションに使えるの?」
しゃがんで、足元のキノコを指して、盾鉱人に振り向く。
彼はまだ、固まっていた。
居心地の悪そうに、革の鞘が軋む。
「……いや、それは毒がある」
斧柄を握りなおして、盾鉱人は口を開いた。
口の端には自嘲気味な笑みが浮かんでいる。
「素手で触るなよ」
飛び退いた魔術師に向けて、盾鉱人は、心の中で感謝する。
(傲っていた、かもしれん)
百年生きた。
だから勝手に、自分は導く側だと思っていた。
背中の盾を、微調整する。
「全く、敵わん」
「何?」
キノコを踏み潰してつぶやいた言葉を、端だけ魔術師が拾う。
盾鉱人は小首を傾げた魔術師に「何でもない」と手を振りながら、前を向く。
(成長するのは、俺でも同じだ)
盾を左腕に移動させる。確かめるように、帯を強く握った。じんわりと手のひらが暖かくなり、しびれてくる。
ゆっくりと、力を抜いた。血が巡る。
手にこもっていた熱が静かに散った。
盾鉱人は空を見上げる。
灰色の空は、今にも泣き出しそうだった。
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魔術師は、うらめしそうに空を見上げた。
彼女のコートから水滴が垂れ、地面の土を濡らす。
「行く時は晴れてたのに」
口の端から言葉が落ちる。
わざと大きく、息を吐いた。
「夏の前は、天気が崩れやすい」
盾鉱人が、雨宿りをしている大木を触って、つぶやいた。
柔らかいようで硬い、ゴツゴツとした感触が返ってくる。
「濡れてはいないか」
盾鉱人は訊ねる。
「大丈夫」
そのためのコートだしね、と被っていた頭巾を外して、魔術師が返事をした。
「いつまで降るんだろう」
彼らは、薬草採取の依頼を終えた。
依頼途中から空模様は怪しかったので、近くの村で様子を見てから組合に帰ろうということになった。
けれど、その途中で雨に見舞われ、大木の元で雨宿りを余儀なくされている。
ただちに影響があるほどではないが、それなりに振り続けている。
「まだ、かかりそうだな」
雨脚を見て、盾鉱人は息をはいた。
「火でも起こそう」
野宿とまでは行かないがまだまだ振りそうだ。
盾鉱人は空を睨む。
(外したな)
組合に着くまでは降らない、と思っていた。
「枝、拾ってくるわね」
「頼む」
彼女が少し遠ざかる、足音が聞こえる。
視線を後ろにやれば姿は確認できたので、すぐに逸らした。
火種はある。
炭もあるので、あとは薪だけ。
最悪、松明を燃やせば良い。
火がつけば、湯を沸かし、薬草を煎じてお茶を作れる。
ほんのり苦くて、盾鉱人はその味が好きだった。
(となれば、食い物も何か欲しい)
「乾パンと、木の実でも取るか」
腰嚢の中を探りながら、木の周りを見渡す。
しゃがみこむ魔術師の隣に、低木の木の実がなっていた。
「隣の木の実も、いくつか取ってきてくれ」
彼女の背中に言葉を投げかける。
声に反応して手を挙げたが、視線は地面から動かなかった。
「どうした」
盾鉱人は、魔術師の横に並んで目線をたどる。
盾鉱人は「それ」をじっと見つめた後、ため息をついた。
「今見つけたの。これって」
地面には、小さな足跡がいくつも刻まれており、方向は、今いる方とは逆。つまり村から離れるように続いていた。まだ新しい。
「ゴブリンの足跡と似ている」
「偵察にでもしに来たのかな」
「それと」
「何かに襲われた、らしい」
魔術師が振り向くと、盾鉱人は草むらを顎でしゃくる。
そこには、ガラクタや木材など、使えそうなものをなるべく詰めたような、麻袋が転がっていた。
「群れの長が資材集めを命令して、その帰り道に何かに襲われて、慌てて袋を置いて逃げた、というところか?」
雨でほとんど流れているが、草むらに血の跡も見つけた。
魔術師は顔をしかめた。
「この辺でゴブリン退治の依頼なんてあったかしら」
「あれば、受付嬢が警告してくれるはずだが」
「未発見のもの、ってこと?」
盾鉱人は静かに頷く。
「おそらく」
「奴らがこのあたりにいることは、間違いない」
魔術師は顎に手を当てて、じっと地面を見つめていた。
薄葡萄色の髪の毛に、雨の雫が滴って、落ちた。
「巣穴だけでも、確認しましょう」
盾鉱人は、無言で彼女を見つめた。
「万が一がある。危険だ」
「なら、この怪我をしたゴブリンたちだけでも」
「危険だ」
少しだけ、声を大きくした。
雨粒が降り注ぐ音にかき消されたが、魔術師には届いたようだった。
盾鉱人は喋り出す。
「飯や武器以外を集める。それを徹底させている」
「低く見積もっても、呪術師以上の上位種がいる」
「そもそもゴブリンか分からないし、ゴブリンだったとしても、そいつらを撤退させられる別の魔物もいる」
とうとうと喋り、最後に「帰るべきだ」と付け加えた。
むせかえるような土と水の匂いが、辺りに漂う。
眉間にシワを寄せていた魔術師は、盾鉱人の言葉を聞いて、段々と眉間がなめらかになってきた。
「分かった」
「帰りましょう」
彼女は「色々考えすぎね。私」と肩をすくめる。
盾鉱人が首を振った。
「お前のそういうところは、美点だ」
「……茶を飲んだら、帰るぞ」
言いながら、麻袋だけでも探ろうと、しゃがみこむ。
半目の魔術師には気付かないふりをした。
彼女はしばし盾鉱人を睨んで、ため息を吐いた。
「中身は、何?」
同じようにしゃがみ込んで、麻袋に手を伸ばす。
もう少しで触れるところで、盾鉱人の手が魔術師の腕を掴んだ。
「待て」
「……何よ」
「触るな」
「何でよ」
「怪我をする」
魔術師は片眉を釣り上げた。
口にシニカルな笑いを浮かべる。
「いくら武器を握らない後衛職だっていっても、日用品で怪我なんてーーー」
「違う」
「罠だ」
勢いよく、彼女は麻袋に向き直った。目を凝らす。
よく見れば、麻袋の下に、怪しい木の板があり、バネのような部品が見え隠れしていた。
「これも、ゴブリン?」
解放された腕を、慎重に戻しながら、盾鉱人に訊く。
彼は、鉄兜ごしでも分かるくらいに、硬い顔をしていた。
「いや」
「ゴブリンは、バネなんて使わない」
「使うとしたら」
盾鉱人は、雨の向こうに視線をやる。
「冒険者」
盾鉱人は立ち上がった。
そのまま、魔術師に頭を軽く下げる。
「すまん」
「……何?」
困惑する魔術師と、頭を上げた盾鉱人の視線が重なる。
少しずつ、雨は上がりだしていた。
「予定変更だ」
「奴らを、追う」
スマホ壊れて、データ移行に手間取ってました。