ゴブリン退治に向かう新人達とドワーフの話   作:お前の隣の後ろの斜め右

14 / 14
何とか書けました。


第十四話 競合

    

            0

 

「……理由、もうちょっと聞きたいんだけど」

 魔術師が前を行く盾鉱人を呼ぶ。

 鉄兜が彼女を向いて、前に戻った。

 先ほどまでの豪雨は鳴りを潜め、雨は上がっている。

 けれど、地面や草木に雨粒が残り、元より湿度が高いような、過ごしにくさが肌を包んでいた。

「一言で言えば、分からない、からだ」

 盾鉱人の踏み込んだ地面が、ぬちり、と音を立てて泥を飛ばした。

 コートの裾で泥を払いながら、魔術師が続きを視線で促す。

「ゴブリン共が罠を仕掛けることはある」

「だが、あんなに手の込んだ罠は使わん」

 盾鉱人は麻袋の罠を思い出し、眉をひそめる。

「あれは、知力のある者を対象とした罠だ」

「ガラクタが詰まった袋を、持ち去ろうという者をな」

 魔術師は両手で杖を握る。小さく、軋んだ音がした。

 顔色が少しだけ、青ざめた。

「だが」

「ゴブリン共と争った形跡もあった」

 盾鉱人は魔術師を振り返る。

「混沌勢力ならゴブリンとは争わん」

「盗賊や野盗でもない」

「奴らなら、こんな大通りから外れた場所に仕掛けない」

「俺たちを狙ったとしたら、あんな回りくどい真似はせん」

「雨宿り場所まで読めるなら、直接来る」

 盾鉱人が言い切り、息を吸う。

 魔術師は逆に息を吐いた。

「じゃあ、誰なの」

「分からん。だから確認だけ、する」

 盾鉱人が、水たまりを踏み抜く。

 湿った音で、泥は進行方向に飛び散り、草木を汚した。

 魔術師は俯いた。

 もし敵だった場合、今の自分は足手纏いだ。

 杖とスリングだけで、遠距離しかできない。近付かれたら、脆い。

「……ねえ」

 思ったより、張り詰めた声が出た。

 すぐに鉄兜が魔術師に向けられる。

 自分が役立たず、とはもう思わない。

 思わないが、足りない部分がある。

 そして、そこを補う仲間が少ないなら、自分は弱点となる。

「やっぱり帰りましょう」

 魔術師は、しぼるように声をもらす。

 盾鉱人は立ち止まって、彼女の顔をじっと見つめた。

「何故だ」

「……私が足手纏いだからよ」

 鉄兜の奥から、琥珀の瞳が、彼女を捉えている。

 自分では気付かない何かまで見透かされるようで、魔術師は目を逸らした。

「俺だけでは不安か」

「違う」

 はじかれたように顔を上げた、鋭い目つきの魔術師を、盾鉱人は慌てて手で制した。

「いや、すまない。攻めるつもりは全くない」

「言葉選びが悪かった」

 盾鉱人は髭を覆われた顎をかく。うなりながら視線を、空中に泳がせている。

「前にも言ったが、お前は周りをよく見ている」

「色々な事に気がつく」

「だから、自分の欠点にも気が付く」 

 盾鉱人は一度言葉を止めて、口の中で言葉を転がす。

 鉄兜が、落ち着きなく動く。

「何というか、お前は自分で思うより頼りない奴じゃない」

「短所と一緒に長所もみろ」

 翡翠色の瞳が一瞬見開かれて、すぐに元へ戻る。

 魔術師の帽子が、力無く揺れた。

「でも、近接戦闘になれば私は」

「そのための俺じゃないのか」

 盾鉱人の身体が、魔術師に向く。

 一歩だけ、彼女は退いてしまった。

「今回の依頼で、薬草に気付いたのは誰だ?」

「足跡に気付いたのは?」

「下水で、蟋蟀の声に気付いたのは誰だ?」

「最初の冒険で女神官を助けたのは?」

 盾鉱人は左手の盾帯を、握る。

 魔術師は俯いて、胸の前で両手で杖を握った。

「俺だけなら見逃していた」

「だから組んでいる」

 息を短く吸う。

「一人では、困る」

 盾鉱人はもう一言足そうとして、口を閉じた。

 じっと、魔術師の帽子を見つめている。

 彼女の表情は、つばで隠れて見えなかった。

「それでも、というなら、やめよう」

「仲間の意思は尊重する」

 盾鉱人は、どこまでも冷静で、魔術師が「帰ろう」と言えば、すぐに頷いてくれるだろう。

 彼女は拳を握る。

「わ、たしは」

 後に続く言葉は、喉の手前で止まった。

 無理やり腹に落とし込んで、形が変わるのを、待つ。

 胃が熱っぽいような気がして、少し気持ち悪くなった。

「私は」

 意を決して、声を出した瞬間、

「ッ!!」

 ガシャン、と金属が「噛み合った音」が聞こえてきた。

 魔術師の肩が跳ねる。

 盾鉱人は盾を咄嗟に構えた。

 鉄兜と魔術帽子が、同じ方向を向く。

 音が鳴ったのは、今から向かおうとしていた方角からだ。

「……今のって」

「ああ。罠が作動した音だ」

 盾鉱人が盾をゆっくりと下ろしながら、魔術師を振り返った。

「状況が変わった」

「行くぞ」

 盾鉱人は、盾帯を慣れた手つきで、左腕に固定した。彼女はその姿にどこか安心感を覚えた。覚えてしまった。

 ここで決断しなくて良い安堵、のような気がして、眉をひそめる。

 俯いて、口を真一文字に結んだ彼女へ、盾鉱人は何か言いたげに身体を揺らしたが、すぐに短く息を吐いた。

「急ごう」

 盾鉱人が首だけで、魔術師を促した。

 前を歩き出した盾鉱人に頷いて、魔術師は同じように歩き出す。

 革のブーツの下で、泥が空気を含む。一歩踏み込むと、泥の泡が弾けた。

 辺りに強い土の匂いが、ただよった。

 

           1

 

 盾鉱人は茂みの中、姿勢を低くする。

 すぐ後ろで、魔術師が唾をのんだ。

 手で静止の合図をして、盾鉱人だけ、前に進む。

 罠の作動音はこの先から聞こえて来て、今は誰かの話し声も聞こえる。それも一人二人ではない。

 草木を陰にして、慎重に進む。

 自身の顎にまで迫る高さの草木を掻き分ける。隠れられそうな木の影で、しゃがんだ。

 女性2、男性3。

 どこかで聞いたことがあるような声で、「やはり冒険者か」と心の中でつぶやく。

「……誰?」

 朗々と話していた女の声が、一気に緊張感を帯びる。

 盾鉱人は背筋が冷えた。

(この距離で気付かれた?)

 近くに寄っていたとはいえ、遠目から見ても気付かれないであろう距離だ。

 自分ではないかもしれない、と息を殺して木の影で固まる。

「そこの木の影に隠れている奴。出て来なさい」

 盾鉱人が隠れていた木に、矢が刺さった。

 木の影から、少し後方の魔術師と目が合う。

 強張る魔術師に、小さく頷いて、木から少しだけ顔を出す。

 盾鉱人は息を吐いた。それから、のっそりと立ち上がって、両手を上げる。

「今からそっちに行く。打つな」

「先に武器を投げろ」

 先ほどの女の声とは別の、低い男の声で、誰かが命令してきた。

 無言で、斧と手投げ斧を放り投げる。

 からん、と金属の重なる音が響いて、少し沈黙が流れた。

「妙な真似はするな」

 男の声が、聞こえて来たのと同時に、盾鉱人は歩みを進める。

 生い茂った草木を抜けて、声の方向に、たどり着いた。

 林の部分から、一気に視界がひらけた。

「盾、鉱人さん?」

「……やはり、神官どのだったか」

 そこにいたのは、各々の武器を抜き放ち構える、妖精弓手、鉱人道士、蜥蜴僧侶。顔一面に驚愕と困惑をあらわにする女神官。そして、薄汚れた鎧に身を包んだ全周兜。

 つまり、ゴブリンスレイヤー一党だった。

「ここで何をしている」

 ゴブリンスレイヤーが、低い声のまま問いかける。

「依頼だ」

 両手を上げたまま、胴嚢を親指で指す。

 匂いに反応したのか、妖精弓手が耳を動かした。

「確かに薬草の匂いはするわ」

「その胴嚢と腰嚢も投げろ」

 女神官が何か言おうと一歩踏み出すが、その前に盾鉱人が胴嚢を外して話しかけた。

「依頼品も入っている。投げるのは避けたい」

「ならばそこに置いて、五歩下がれ」

 言われた通りに、胴嚢と腰嚢をそこに置いて五歩下がった。

 ゴブリンスレイヤーがゆっくりと盾鉱人に近付く。

 全周兜が、嚢を二つとも回収して、中身をあらためた。

「……薬草採取、か」

 彼の声から、少し緊張感が抜けた。

 機を見計らい、盾鉱人が声をかける。

「後ろに仲間が一人いる。そいつも合流させたい」

 ゴブリンスレイヤーが、妖精弓手を見た。

 彼女は弓を構えたまま、頷く。

「いいだろう」

 ゴブリンスレイヤーの言葉に、盾鉱人は首だけで後ろを向いたまま、「俺らの知り合いだ。出てこい」と声をかけた。

 少し間があり、ガサガサと草木を掻き分けて、魔術師が奥から出てくる。

 険しい顔のまま、魔術師は両手で杖を握っていた。

 蜥蜴僧侶が小さく、鼻を鳴らした。

 魔術師は、最初に盾鉱人とゴブリンスレイヤーを確認して、その後女神官を見つけて、肩から力を抜いた。

「ああ、なるほど」

 魔術師が納得したように声を漏らす。

「お前ら以外には?」

「いない」

 盾鉱人はさりげなく、魔術師へ近づけるように、重心を移動させる。

「匂いはない。嘘は言ってないわ」

 妖精弓手が、耳を忙しなく動かして、言う。

「でも」

 彼女は弓を引き絞ったまま、魔術師に向ける。

 盾鉱人は反射的に盾を構えて、弓の射線から魔術師を遮った。

「鉱人の方は大丈夫だけど、そっちの、眼鏡の只人は少しおかしいわ」

「匂いが只人じゃない」

 ゴブリンスレイヤーの隣で、女神官が「え?」と声を漏らした。

 空気が、再び緊張感を帯びてきた。

 指摘された当の本人は呆けた顔で、自分の顔を指している。

「わ、私?」

「とぼけないで」

 整った相貌は、浮かんだ疑念をより強調した。

「薬草とか風とか、色んな自然のものを混ぜ込んだ匂い」

「魔術か何かで只人に変装した亜人、って言われたら信じるわ」

 盾鉱人は魔術師と妖精弓手を見比べて、改めて盾を構えた。

「お前、変装の魔術を覚えたのか」

「そんなわけないし、私は只人よ‼︎」

 年相応に、感情を顔に出して困惑する魔術師に、口端を釣り上げて冗談を投げてみれば、ただ必死に言葉を返された。

 身に覚えがない。

 今の魔術師には、そういう思いが行動に出ている。

 盾鉱人としても全く覚えがないので、妖精弓手が勘違いをしているか、はたまた別の要因か、分からなかった。

「こちらには、全く身に覚えがない」

 盾鉱人が盾を構えたまま、ゴブリンスレイヤーに言葉をかける。

 冒険者同士の戦闘、なんてのはお互いに損しかない。

 なるべく穏便に済ませたいはずだ。

「【看破】の奇跡が俺たちには無い」

「疑惑を晴らせないなら、信用できない」

 全周兜の奥から、響くような声が聞こえた。

 女神官が何かを言いかけて、俯いたのが見えた。

 盾鉱人は小さく息を吐く。盾を顔の位置まで上げる。

(まあ、だろうな)

 自分が頭目でも、同じ判断をするだろう。

 分からないものは受け入れない。当たり前だが大切なことだ。

 こうなれば、自分達は帰っても良いが、ここで魔術師の疑念を晴らさないと、後々面倒なことになりそうで、盾鉱人は少しだけ頭を傾けた。

「面倒だな」

 思わず溢れた言葉は、妖精弓手の聴覚に拾われたようで、彼女は目を細めて、盾鉱人を睨んだ。

「貴方……‼︎」

 盾鉱人の視界の先で、弓が、ぎちり、と音を立てる。

 盾鉱人は盾の帯を、握った。

 否定すべく声を上げかけたところで、

「待たれよ」

 低く、けれど聞き取りやすい声が皆の動きを止めた。

 声を上げたのは蜥蜴僧侶だった。

「こんなときに、何?」

 苛立たしく、妖精弓手が目だけで彼を一瞥した。

「今、疑っているのは学術帽子の只人、ですな?」

「そうよ」

 蜥蜴僧侶が訊ねると、彼女は即座に返事をした。

「ならば、彼女が只人であることは、拙僧が保証しよう」

「……は?」

 勢いよく、妖精弓手は蜥蜴僧侶を向いた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ゴブスレ世界に転生したら不動卿になってしまった件について。(作者:這い寄る影)(原作:ゴブリンスレイヤー)

ゴブスレパーティに純粋な前衛少ないのとリハビリで書いた作品です。▼あとオーゼンのパワープレイが見たかった。


総合評価:891/評価:7.6/短編:4話/更新日時:2026年04月30日(木) 19:35 小説情報

【七色弓箭】で征くポックルに転生した男のハンター道(作者:レインボウ)(原作:HUNTER×HUNTER)

唐突に前世の記憶を思い出したポックル。溢れ出した原作知識は無垢な少年を絶望に落とす。迫り来る不運の絶頂、キメラ=アント、ザザンとパイクに作中最強格のネフェルピトーの脳くちゅ、前世の記憶と原作知識を駆使して走り出す少年は今、ハンターの道を選ぶ!▼アンチヘイトは念の為です。


総合評価:5982/評価:8.24/短編:2話/更新日時:2026年03月22日(日) 02:56 小説情報

愛と勇気と正義にかけて、市民をお守りいたします!(作者:イングラマン)(原作:機動警察パトレイバー)

某巡査の娘が特車二課第二小隊に配属される、原作再構成二次小説です。▼自分が読みたいがために投稿しました。▼・TVアニメ版を軸にOVA、漫画版や小説版をミックスしています。▼・転生オリ主最強です。▼・一部キャラクターの生年と経歴を変更しています。▼・作者は警察組織や軍事関係、コンピュータについてはネットで調べた程度の知識しかありません。▼以上の点を踏まえて、本…


総合評価:2954/評価:9.08/連載:16話/更新日時:2026年07月03日(金) 18:00 小説情報

同居人+1(作者:CBR)(原作:ジョジョの奇妙な冒険)

転生した『私』はまさかのディアボロとドッピオの第三人格だった。▼彼はレクイエムり(死に)たくない、切実に。▼*本小説はシリアス8割、コメディ2割の提供でお送りしています。


総合評価:2560/評価:8.52/連載:21話/更新日時:2026年06月29日(月) 02:30 小説情報

ワイ卿、Fate世界の円卓の騎士になる。(作者:サーッ・タドコロ)(原作:Fate/)

大変や!▼ワイが、アーサー王伝説の元になった時代と国に転生してもうたで!▼っていうか、運良くマーリンと会えたからそうだとわかっただけで、ワイはアーサー王伝説のことなんてほとんど知らんで。▼なんか、色んなゲームの元ネタとして使われるくらい有名だったり、有名な騎士の名前とかちょこちょこ知っとるくらいやわ。▼あと、一応前世の知識みたいなのはあるのに、前世の自分につ…


総合評価:10545/評価:8.08/連載:21話/更新日時:2026年06月07日(日) 16:18 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>