ゴブリン退治に向かう新人達とドワーフの話 作:お前の隣の後ろの斜め右
追記:7/12 誤字報告ありがとうございます。直しました。
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「『拙僧が保証』って、どういうこと?」
「言葉通りの意味。彼女は正真正銘、「只人」ということです」
妖精弓手の耳が、揺れる。
「だから、どうして保証できるのって聞いてるのよ」
顔は蜥蜴僧侶を向きながらも、弓と矢はしっかりと魔術師に定めたままだ。
妙な動きをすれば、即座に矢が発射されるだろう。
盾鉱人はしっかりと、盾を構え直した。
「彼女から只人の匂いがしない理由を知っているから。そしてその理由こそが、少なくとも敵ではない証左にもなる」
じろり、と縦に割れた瞳で、蜥蜴僧侶は妖精弓手に目線を返す。
次に、ゆっくりと魔術師に顔をむけた。
「学術帽子の只人どの。胸元の護符を、見せて頂けますかな?」
動揺していたところに、突然話を振られて驚き、魔術師は目を見開いた。
そして、胸の護符を片手で握り込む。
「……どうして分かるの」
「古い友人に蜻蛉の……いや、蜉蝣の蟲人がいましてな、その者から色々聞いているのです」
魔術師と盾鉱人は顔を見合わせる。
盾鉱人はゆっくりと頷く。
目だけで返事を返した魔術師は、胸元から護符を引っ張り出して首から取ると、顔の前に片手で掲げた。
「この護符は、蟲人から依頼の報酬として貰ったの」
「言ってる場合じゃないのは承知してるけど、大切なものだから、これは渡したりできない」
「安心めされよ。見るだけだ」
眉間に皺のよる魔術師に、蜥蜴僧侶は微笑して歩み寄ってくる。
弓を構えた妖精弓手が「ちょっと‼︎」と声を上げた。
呼びかけを手で制した蜥蜴僧侶が、魔術師のまえで立ち止まると、目線を合わせるように、かがむ。
「やはり、あの娘の護符か」
ちろり、と舌を出した蜥蜴僧侶に、魔術師は怪訝そうな顔をする。
「知り合いなの?」
「うむ。昔、ある一族に世話になったことがありまして」
「その中の一人と護符の作り方が同じだ。この細工は、あの一族特有のもの。他では見たことがない」
蜥蜴僧侶は、鋭い爪で鱗粉を弄びながら、顔を上げた。
盾鉱人と魔術師を交互に見る。
「この護符を作ったのは、絹のように白い、蛾の蟲人」
「そうでしょう?」
魔術師は息を吐いて、肩から力を抜いた。
いつの間にか力が入っていたようで、すとん、と落ちた。
ふと盾鉱人を見たが、彼は口を真一文字に閉じたまま。
やがて重苦しく口を開こうとしたところで、
「いや、答えなくて結構」
微笑を浮かべた蜥蜴僧侶に止められた。
「護符の作り手を口にすれば、あの者らの危険につながる」
「自分の身より、仲間の安全を選びましたな」
「その沈黙で、拙僧には十分」
逆に「気遣いが足りていなかった」と謝罪された。
盾鉱人はぎこちなく髭を触ると、ゆるく首を振る。
「……想像に任せる」
蜥蜴の凶暴な笑みが、さらに深まった。
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「結局、どういうことなの?」
妖精のごとき相貌をいぶかしげにしながら、妖精弓手は魔術師を流し見た。
魔術師は居心地悪そうに、帽子を直しながら、少しだけ盾鉱人に近付く。
妖精弓手は、まだ警戒はしているものの、弓は下げられているので、先ほどのような緊張感は薄れていた。
彼女の後ろで、女神官が杖を強く握る。
「敵ではない、ということです」
蜥蜴僧侶が言い切った。
妖精弓手の眉が、少し顰められる。
「何でそんな簡単に……いや、もう良いわ」
「怪しいことには変わりない。あなた達、早く帰って」
言われるまでもなく、このまま帰るつもりだった盾鉱人は、ゴブリンスレイヤーを向いた。
「武器を取っても良いか?」
「……ああ」
全周兜がわずかに動く。胴嚢と腰嚢を手渡してきた。
「お前さん、アレだろ。『白鬼』の弟子だろ」
武器を取りに行こうと、一歩踏み出した直後、今まで黙っていた鉱人道士がひげをしごきながら、口を開いた。
口元は笑っているが、目つきはどこか試しているようだった。
盾鉱人が、頷きながら応える。
「『白鬼』は俺の師匠だ。アンタ、北の出身か」
鉱人道士は首を横に振った。
「いや。親戚はそっちにいるけどな。北方戦士団の『白鬼』と言やあ、意外と有名だぞ」
「そう、だったか。……なぜ分かった?」
鉱人道士は、豪快に笑い飛ばした。
「鎧にそんな印入れて、斧より盾優先にする鉱人なんざ、そうそういるかい」
盾鉱人は唸る。
「それも、そうか」
目線を鉱人道士から外して、盾を見つめる。
あの時から変わらない紋章が、盾鉱人を見つめ返していた。
盾帯を、強く握る。
「そろそろ日も暮れる。はよう帰っちまいな」
俯いて何やら考え込み始めた盾鉱人に、鉱人道士は背中を軽く叩いて、斧の場所へ押し出す。
全員の視線が、背中へ集まるのに気付きながら、盾鉱人は歩く。
(まだ、遠いな)
内心で独り言を呟きながら歩いていた、瞬間だった。
「後ろだ‼︎」
ゴブリンスレイヤーの鋭い声が飛ぶ。がさり、と草むらが動いた。
咄嗟に盾鉱人は、横に飛んで回避。
体勢を整えながら、盾を構えた。
「キキィ‼︎」
鳴き声を上げながら、盾鉱人の前を小さな影が通り過ぎる。
影は遺跡の奥に向かっており、進路上に盾鉱人の武器も転がっていた。
(あれは、ダメだ)
嫌な予感がした盾鉱人は、全力で駆け出す。
鉱人とは思えない速度で走る盾鉱人に、誰かがうなった。
しかし影は、彼の倍以上の速さだった。
あっという間に斧へ飛びつくと、そのまま遺跡の奥へと斧を持ち去ろうとする。
「させるか」
盾鉱人は、走る勢いのまま、落ちている手投げ斧を掴んで、投げた。
斧が重いのか、影は先ほどの速度が出せていない。
斧と影の距離が縮んでいく。
(当たる)
盾鉱人は確信した。追撃を加えるため、足に力を入れる。
しかしーーー。
金属と硬いものがぶつかる、甲高い音。
斧が当たる直前で、いきなり勢いを落とした。
咄嗟に後ろを振り向けば、妖精弓手が驚いた表情で弓の残心を取っている。
きっと自分も同じ顔をしているのだろう。
(空中で、ぶつかった)
盾鉱人の投げた斧と、妖精弓手が撃った矢が空中でぶつかり合って、落ちた。
信じられないことだが、そうとしか思えない。
彼女に悪気がなかったのは顔を見れば分かるし、自分と同じで、咄嗟に弓を撃ったのだろう。
「いや、今は」
急いで思考を切り替えて向き直るが、遅かった。
影は遺跡の奥へと消えていく。
「逃がさん‼︎」
「待て」
追いかけようとした盾鉱人を、いつの間にか追いついたゴブリンスレイヤーが止める。
盾鉱人は彼を睨みつける。
「放せ。あれは」
「一人で行けば死ぬだけだ」
彼の平坦な言葉が、頭を冷やしていく。
「……クソッタレ」
盾鉱人は吐き捨てると、遺跡の奥に消えた影を睨む。
視線の先で手投げ斧と木の矢だけが、地面に取り残されていた。
遺跡の暗闇は、何事もなかったように静まり返っている。
クーラー壊れた……。