ゴブリン退治に向かう新人達とドワーフの話   作:お前の隣の後ろの斜め右

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今回短めです。
追記:7/12 誤字報告ありがとうございます。直しました。


第十五話 試練

            

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「『拙僧が保証』って、どういうこと?」

「言葉通りの意味。彼女は正真正銘、「只人」ということです」

 妖精弓手の耳が、揺れる。

「だから、どうして保証できるのって聞いてるのよ」

 顔は蜥蜴僧侶を向きながらも、弓と矢はしっかりと魔術師に定めたままだ。

 妙な動きをすれば、即座に矢が発射されるだろう。

 盾鉱人はしっかりと、盾を構え直した。

「彼女から只人の匂いがしない理由を知っているから。そしてその理由こそが、少なくとも敵ではない証左にもなる」

 じろり、と縦に割れた瞳で、蜥蜴僧侶は妖精弓手に目線を返す。

 次に、ゆっくりと魔術師に顔をむけた。

「学術帽子の只人どの。胸元の護符を、見せて頂けますかな?」

 動揺していたところに、突然話を振られて驚き、魔術師は目を見開いた。

 そして、胸の護符を片手で握り込む。

「……どうして分かるの」

「古い友人に蜻蛉の……いや、蜉蝣の蟲人がいましてな、その者から色々聞いているのです」

 魔術師と盾鉱人は顔を見合わせる。

 盾鉱人はゆっくりと頷く。

 目だけで返事を返した魔術師は、胸元から護符を引っ張り出して首から取ると、顔の前に片手で掲げた。

「この護符は、蟲人から依頼の報酬として貰ったの」

「言ってる場合じゃないのは承知してるけど、大切なものだから、これは渡したりできない」

「安心めされよ。見るだけだ」

 眉間に皺のよる魔術師に、蜥蜴僧侶は微笑して歩み寄ってくる。

 弓を構えた妖精弓手が「ちょっと‼︎」と声を上げた。

 呼びかけを手で制した蜥蜴僧侶が、魔術師のまえで立ち止まると、目線を合わせるように、かがむ。

「やはり、あの娘の護符か」

 ちろり、と舌を出した蜥蜴僧侶に、魔術師は怪訝そうな顔をする。

「知り合いなの?」

「うむ。昔、ある一族に世話になったことがありまして」

「その中の一人と護符の作り方が同じだ。この細工は、あの一族特有のもの。他では見たことがない」

 蜥蜴僧侶は、鋭い爪で鱗粉を弄びながら、顔を上げた。

 盾鉱人と魔術師を交互に見る。

「この護符を作ったのは、絹のように白い、蛾の蟲人」

「そうでしょう?」

 魔術師は息を吐いて、肩から力を抜いた。

 いつの間にか力が入っていたようで、すとん、と落ちた。

 ふと盾鉱人を見たが、彼は口を真一文字に閉じたまま。

 やがて重苦しく口を開こうとしたところで、

「いや、答えなくて結構」

 微笑を浮かべた蜥蜴僧侶に止められた。

「護符の作り手を口にすれば、あの者らの危険につながる」

「自分の身より、仲間の安全を選びましたな」

「その沈黙で、拙僧には十分」

 逆に「気遣いが足りていなかった」と謝罪された。

 盾鉱人はぎこちなく髭を触ると、ゆるく首を振る。

「……想像に任せる」

 蜥蜴の凶暴な笑みが、さらに深まった。

 

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「結局、どういうことなの?」

 妖精のごとき相貌をいぶかしげにしながら、妖精弓手は魔術師を流し見た。

 魔術師は居心地悪そうに、帽子を直しながら、少しだけ盾鉱人に近付く。

 妖精弓手は、まだ警戒はしているものの、弓は下げられているので、先ほどのような緊張感は薄れていた。

 彼女の後ろで、女神官が杖を強く握る。

「敵ではない、ということです」

 蜥蜴僧侶が言い切った。

 妖精弓手の眉が、少し顰められる。

「何でそんな簡単に……いや、もう良いわ」

「怪しいことには変わりない。あなた達、早く帰って」

 言われるまでもなく、このまま帰るつもりだった盾鉱人は、ゴブリンスレイヤーを向いた。

「武器を取っても良いか?」

「……ああ」

 全周兜がわずかに動く。胴嚢と腰嚢を手渡してきた。

「お前さん、アレだろ。『白鬼』の弟子だろ」

 武器を取りに行こうと、一歩踏み出した直後、今まで黙っていた鉱人道士がひげをしごきながら、口を開いた。

 口元は笑っているが、目つきはどこか試しているようだった。 

 盾鉱人が、頷きながら応える。

「『白鬼』は俺の師匠だ。アンタ、北の出身か」

 鉱人道士は首を横に振った。

「いや。親戚はそっちにいるけどな。北方戦士団の『白鬼』と言やあ、意外と有名だぞ」

「そう、だったか。……なぜ分かった?」

 鉱人道士は、豪快に笑い飛ばした。

「鎧にそんな印入れて、斧より盾優先にする鉱人なんざ、そうそういるかい」

 盾鉱人は唸る。

「それも、そうか」

 目線を鉱人道士から外して、盾を見つめる。

 あの時から変わらない紋章が、盾鉱人を見つめ返していた。

 盾帯を、強く握る。

「そろそろ日も暮れる。はよう帰っちまいな」

 俯いて何やら考え込み始めた盾鉱人に、鉱人道士は背中を軽く叩いて、斧の場所へ押し出す。

 全員の視線が、背中へ集まるのに気付きながら、盾鉱人は歩く。

(まだ、遠いな)

 内心で独り言を呟きながら歩いていた、瞬間だった。

「後ろだ‼︎」

 ゴブリンスレイヤーの鋭い声が飛ぶ。がさり、と草むらが動いた。

 咄嗟に盾鉱人は、横に飛んで回避。

 体勢を整えながら、盾を構えた。

「キキィ‼︎」

 鳴き声を上げながら、盾鉱人の前を小さな影が通り過ぎる。

 影は遺跡の奥に向かっており、進路上に盾鉱人の武器も転がっていた。

(あれは、ダメだ)

 嫌な予感がした盾鉱人は、全力で駆け出す。

 鉱人とは思えない速度で走る盾鉱人に、誰かがうなった。

 しかし影は、彼の倍以上の速さだった。

 あっという間に斧へ飛びつくと、そのまま遺跡の奥へと斧を持ち去ろうとする。

「させるか」

 盾鉱人は、走る勢いのまま、落ちている手投げ斧を掴んで、投げた。

 斧が重いのか、影は先ほどの速度が出せていない。

 斧と影の距離が縮んでいく。

(当たる)

 盾鉱人は確信した。追撃を加えるため、足に力を入れる。

 しかしーーー。

 金属と硬いものがぶつかる、甲高い音。

 斧が当たる直前で、いきなり勢いを落とした。

 咄嗟に後ろを振り向けば、妖精弓手が驚いた表情で弓の残心を取っている。

 きっと自分も同じ顔をしているのだろう。

(空中で、ぶつかった)

 盾鉱人の投げた斧と、妖精弓手が撃った矢が空中でぶつかり合って、落ちた。

 信じられないことだが、そうとしか思えない。

 彼女に悪気がなかったのは顔を見れば分かるし、自分と同じで、咄嗟に弓を撃ったのだろう。

「いや、今は」

 急いで思考を切り替えて向き直るが、遅かった。

 影は遺跡の奥へと消えていく。

「逃がさん‼︎」

「待て」

 追いかけようとした盾鉱人を、いつの間にか追いついたゴブリンスレイヤーが止める。

 盾鉱人は彼を睨みつける。

「放せ。あれは」

「一人で行けば死ぬだけだ」

 彼の平坦な言葉が、頭を冷やしていく。

「……クソッタレ」

 盾鉱人は吐き捨てると、遺跡の奥に消えた影を睨む。

 視線の先で手投げ斧と木の矢だけが、地面に取り残されていた。

 遺跡の暗闇は、何事もなかったように静まり返っている。




クーラー壊れた……。
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