ゴブリン退治に向かう新人達とドワーフの話   作:お前の隣の後ろの斜め右

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短めです。


第十七話 雄弁

 

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「お前は誰だ」

「見ての通りさ」

 言葉少なく、圧すら感じさせるゴブリンスレイヤーに、獣人は飄々と応える。

 肩をすくめて、縞の尻尾をゆるりと揺らす。

「獣人で、女で、君たちの敵じゃない」

 それさえ分かれば良いだろう、と言い切った。

「敵かどうかは、俺達が決める」

「身分と目的を話せ」

 ゴブリンスレイヤーが詰め寄る。

 逆に彼女は、一歩引いた。

「信用ないねえ、当たり前だけど」

「別に良いじゃないか。目的は君たちと似てるよ。多分」

「駄目だ」

「……ええー」

 露骨に嫌な顔をした彼女は、近くで様子を見ていた盾鉱人に話しかける。

 ちょうど目の合った盾鉱人は、眉をひそめた。

「君たちの頭目、頭硬過ぎない?目的は似てるって言ってるじゃないか」

「……彼は至極真っ当だと思うが」

「言いたく無いことなら言わなくても良いでしょ」

「状況的にも、そうはいかん」

 しばらく空中を見つめて、忙しなく尻尾を動かした後、やがて諦めたように、ため息を吐く。

「僕は、この遺跡に持ち去られた武器を探してる。身分は……傭兵だよ」

 これでいい?、と小首をひねった。

「終わったかしら」

 後ろから聞こえてきた声に振り向けば、妖精弓手がこちらに近づいて来ていた。

 しなやかな足取りで、盾鉱人たちを追い越し、獣人の前に出る。

 そして、頭を下げた。

「ありがとう」

「彼女の治療、貴女がしてくれたんでしょう」

 彼女は、気まずそうに頭をかいて応えた。

「そうだけど、汚れを拭いたくらいだよ。不自然なくらい傷がなかったから」

「それでも、ありがとう」

 頭を下げたままの妖精弓手に、彼女は頭を上げるように促す。

 そして、何かを思い出したかのように、腰嚢をあさり出した。

「これ、君が持っておくと良い」

「彼女が持ってた。地図だよ」

 差し出した革の嚢は、返り血か何かが飛び散っているが、中身の地図は無事だった。

 おそるおそる、妖精弓手は受け取る。

 嚢の様子に、一瞬、苦しそうに顔を歪めるが、すぐに怒りと使命感で塗りかわった。

「……ありがとう」

 溢れそうになった涙を片手で拭う。

 地図を、自分の腰嚢に、差し込んだ。

 獣人は、その間、じっと彼女を見ていた。

「おい、石あたま」

 突然、獣人がゴブリンスレイヤーに話しかけた。

 全員の視線が、彼と彼女に向く。

「俺のことか」

「そうだよ。ヘンテコ」

 全周兜の奥から、彼が訊ねれば、薄ら笑いで彼女は応えた。

「僕も君たちに着いてく」

「まあ、断っても勝手にするけど。よろしく」

 誰の反応を待つでもなく、踵を返した縞尾の獣人に彼は声をかける。

「待て」

「……言っとくけど君の」

「何ができる」

 振り返った彼女は、じっとゴブリンスレイヤーを見つめると、鼻を鳴らす。

「短剣、爪、索敵。野伏みたいなことは大体できるよ」

「盗賊のようなものか」

「野伏、だってば」

 憮然とする獣人の後ろから、森人の治療を終えた蜥蜴僧侶が話しかけてきた。

 頭の獣耳を一瞥して、低くうなる。

「お主、もしや山猫か?」

「だったら何?」

 彼女は蜥蜴僧侶を睨む。

「山猫で傭兵、となれば、考える事は一つだろう」

「……君達に教える義理はない」

 顔をふい、と背けると山猫は灰色の鎧に向いた。

「早く行こうよ」

 言うが早いか、彼女はつかつかと前を歩き出す。

 ゴブリンスレイヤーの全周兜が、彼女を追う。

「三人目、か」

 呟きは、兜の奥で、消えていく。

 

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「じゃあ君達は、調査のために遺跡へ来たの?」

 回廊に挑む前の休憩のおり、山猫の獣人が、ゴブリンスレイヤーに話しかける。

 尻尾を揺らしながら、他の顔にも目を向ける。

「いや。ゴブリン退治だ」

「『いや』ではないでしょ。調査も含めて、よ」

「つまり『魔神王がらみで小鬼を調べにきた』ってことね」

 まとめた彼女に、盾鉱人は無言で頷く。

 小さく頷き返した後、唐突にゴブリンスレイヤーを指差した。

「なら、この石あたまは『小鬼殺し』だったりする?」

 沈黙が流れる。

 気まずそうに、山猫は指を下ろした。

「あれ、なんか不味かった?」

「いや。当てられて、皆驚いただけだ。気にするな」

 盾鉱人が応えれば、彼女は肩から力を抜いた。

「そっか。偽物だったりしたのかなって思っちゃった」

「俺の偽物がいるのか」

「僕の想像の話だよ」

 鉱人道士が、咳払いをする。

 獣人の視線が彼に向いた。

「気になっていたんじゃが、お前さん、山岳の傭兵か?」

 彼女の口がへの字に曲がる。

「それ、今関係ある?」

「あるじゃろう。お互いに信用しよう、という段階なんだから少しは腹の内を見せい」

 縞模様の尻尾を、ゆるり、と揺らす。

「山岳の傭兵だよ。一応」

 言いづらそうに縞尾の獣人が応えれば、鉱人二人と蜥蜴僧侶が、小さくうなった。

 女神官はとなりの魔術師に声をかける。

「どういうことですか?」

 困惑を顔に浮かべて訊ねれば、魔術師も同じような微妙な顔をしていた。

「山岳に山猫の傭兵団がいる、っていう話なら聞いた事あるわ」

 二人で小さく会話していると、ゴブリンスレイヤーが口を開いた。

「その、山猫の傭兵は有名なのか」

「うむ。精強で知られる傭兵達です」

「彼等は契約を違えぬことでも知られています」

「僕ははみ出し者だから、そんなに強くないけどね」

「謙遜を」

「いやいや。本当に期待しないで」

「……そうか」

 全周兜が顔を上げて「証拠はあるか」と獣人を見つめる。

 山猫はおもむろに腰嚢から、丸い、紋章のようなものを取り出すと盾鉱人に手渡した。

 彼女の顔を見れば、顎で盾鉱人の手を指す。確認しろ、ということだろう。

「偽物には見えん」

 手触りや見た目を観察した後、鉱人道士に手渡す。

 黒鋼でできた紋章は、丸く重く、刻まれた模様は精巧だった。

 鉱人であっても簡単には真似できないだろう。

 さらに少しだけ上下にずらせて、中から細かな刻印が覗くが、それ以上は仕掛けによって動かせなかった。

「どれ」

 鉱人道士は盾鉱人より澱みない手付きで確認してから、鼻で小さくうなる。

「本物だの」

 最後にゴブリンスレイヤーの手に渡った。

 裏表を確認した後、手触りを確認し軽く叩いたり、上下にずらしたりする。

「偽物、だとすれば手間がかかり過ぎている」

「うん、本物だよ。残念ながら」

 ゴブリンスレイヤーが紋章を差し出せば、彼女は肩をすくめて、そそくさと回収する。

 そして、大きく、ため息を吐いた。

「もう僕の話はいいでしょ。他の話をしようよ」

 耳と尻尾を動かしながら、山猫は腕を組んだ。

 盾鉱人は、兜の下で小さく笑う。

(まあ、悪いやつではないのだろう)

 他の者を見れば、同じような顔をしている。

 例外は表情の読みづらい蜥蜴僧侶と全周兜のゴブリンスレイヤーだけだ。空気は悪くない。

(持ち去られた武器、か)

 盾鉱人は山猫の言葉を思い出す。

 武器を追っていくうちに遺跡にたどり着いたのだろうが、彼女の腰には短剣が差してあったし、獣人の爪もある。

 おそらくだが、彼女自身の武器ではない。

 自分と同じように、武器を盗まれた者がいて、そいつが傭兵達に依頼を出した結果、彼女がここにたどり着いたのかもしれない。

(影の正体も分からないんだ。気は抜けん)

 盾鉱人は、人知れず盾帯を握りしめる。

 ふと、右を向く。

 ゴブリンスレイヤーが、回廊に続く通路をみていた。

 盾鉱人もじっと目を凝らす。

 暗闇の奥、壁画が浮かんでいる。

 何もいないはずなのに、何かが動いた気がした。




スポットクーラー、導入しました。
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