ゴブリン退治に向かう新人達とドワーフの話 作:お前の隣の後ろの斜め右
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「お前は誰だ」
「見ての通りさ」
言葉少なく、圧すら感じさせるゴブリンスレイヤーに、獣人は飄々と応える。
肩をすくめて、縞の尻尾をゆるりと揺らす。
「獣人で、女で、君たちの敵じゃない」
それさえ分かれば良いだろう、と言い切った。
「敵かどうかは、俺達が決める」
「身分と目的を話せ」
ゴブリンスレイヤーが詰め寄る。
逆に彼女は、一歩引いた。
「信用ないねえ、当たり前だけど」
「別に良いじゃないか。目的は君たちと似てるよ。多分」
「駄目だ」
「……ええー」
露骨に嫌な顔をした彼女は、近くで様子を見ていた盾鉱人に話しかける。
ちょうど目の合った盾鉱人は、眉をひそめた。
「君たちの頭目、頭硬過ぎない?目的は似てるって言ってるじゃないか」
「……彼は至極真っ当だと思うが」
「言いたく無いことなら言わなくても良いでしょ」
「状況的にも、そうはいかん」
しばらく空中を見つめて、忙しなく尻尾を動かした後、やがて諦めたように、ため息を吐く。
「僕は、この遺跡に持ち去られた武器を探してる。身分は……傭兵だよ」
これでいい?、と小首をひねった。
「終わったかしら」
後ろから聞こえてきた声に振り向けば、妖精弓手がこちらに近づいて来ていた。
しなやかな足取りで、盾鉱人たちを追い越し、獣人の前に出る。
そして、頭を下げた。
「ありがとう」
「彼女の治療、貴女がしてくれたんでしょう」
彼女は、気まずそうに頭をかいて応えた。
「そうだけど、汚れを拭いたくらいだよ。不自然なくらい傷がなかったから」
「それでも、ありがとう」
頭を下げたままの妖精弓手に、彼女は頭を上げるように促す。
そして、何かを思い出したかのように、腰嚢をあさり出した。
「これ、君が持っておくと良い」
「彼女が持ってた。地図だよ」
差し出した革の嚢は、返り血か何かが飛び散っているが、中身の地図は無事だった。
おそるおそる、妖精弓手は受け取る。
嚢の様子に、一瞬、苦しそうに顔を歪めるが、すぐに怒りと使命感で塗りかわった。
「……ありがとう」
溢れそうになった涙を片手で拭う。
地図を、自分の腰嚢に、差し込んだ。
獣人は、その間、じっと彼女を見ていた。
「おい、石あたま」
突然、獣人がゴブリンスレイヤーに話しかけた。
全員の視線が、彼と彼女に向く。
「俺のことか」
「そうだよ。ヘンテコ」
全周兜の奥から、彼が訊ねれば、薄ら笑いで彼女は応えた。
「僕も君たちに着いてく」
「まあ、断っても勝手にするけど。よろしく」
誰の反応を待つでもなく、踵を返した縞尾の獣人に彼は声をかける。
「待て」
「……言っとくけど君の」
「何ができる」
振り返った彼女は、じっとゴブリンスレイヤーを見つめると、鼻を鳴らす。
「短剣、爪、索敵。野伏みたいなことは大体できるよ」
「盗賊のようなものか」
「野伏、だってば」
憮然とする獣人の後ろから、森人の治療を終えた蜥蜴僧侶が話しかけてきた。
頭の獣耳を一瞥して、低くうなる。
「お主、もしや山猫か?」
「だったら何?」
彼女は蜥蜴僧侶を睨む。
「山猫で傭兵、となれば、考える事は一つだろう」
「……君達に教える義理はない」
顔をふい、と背けると山猫は灰色の鎧に向いた。
「早く行こうよ」
言うが早いか、彼女はつかつかと前を歩き出す。
ゴブリンスレイヤーの全周兜が、彼女を追う。
「三人目、か」
呟きは、兜の奥で、消えていく。
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「じゃあ君達は、調査のために遺跡へ来たの?」
回廊に挑む前の休憩のおり、山猫の獣人が、ゴブリンスレイヤーに話しかける。
尻尾を揺らしながら、他の顔にも目を向ける。
「いや。ゴブリン退治だ」
「『いや』ではないでしょ。調査も含めて、よ」
「つまり『魔神王がらみで小鬼を調べにきた』ってことね」
まとめた彼女に、盾鉱人は無言で頷く。
小さく頷き返した後、唐突にゴブリンスレイヤーを指差した。
「なら、この石あたまは『小鬼殺し』だったりする?」
沈黙が流れる。
気まずそうに、山猫は指を下ろした。
「あれ、なんか不味かった?」
「いや。当てられて、皆驚いただけだ。気にするな」
盾鉱人が応えれば、彼女は肩から力を抜いた。
「そっか。偽物だったりしたのかなって思っちゃった」
「俺の偽物がいるのか」
「僕の想像の話だよ」
鉱人道士が、咳払いをする。
獣人の視線が彼に向いた。
「気になっていたんじゃが、お前さん、山岳の傭兵か?」
彼女の口がへの字に曲がる。
「それ、今関係ある?」
「あるじゃろう。お互いに信用しよう、という段階なんだから少しは腹の内を見せい」
縞模様の尻尾を、ゆるり、と揺らす。
「山岳の傭兵だよ。一応」
言いづらそうに縞尾の獣人が応えれば、鉱人二人と蜥蜴僧侶が、小さくうなった。
女神官はとなりの魔術師に声をかける。
「どういうことですか?」
困惑を顔に浮かべて訊ねれば、魔術師も同じような微妙な顔をしていた。
「山岳に山猫の傭兵団がいる、っていう話なら聞いた事あるわ」
二人で小さく会話していると、ゴブリンスレイヤーが口を開いた。
「その、山猫の傭兵は有名なのか」
「うむ。精強で知られる傭兵達です」
「彼等は契約を違えぬことでも知られています」
「僕ははみ出し者だから、そんなに強くないけどね」
「謙遜を」
「いやいや。本当に期待しないで」
「……そうか」
全周兜が顔を上げて「証拠はあるか」と獣人を見つめる。
山猫はおもむろに腰嚢から、丸い、紋章のようなものを取り出すと盾鉱人に手渡した。
彼女の顔を見れば、顎で盾鉱人の手を指す。確認しろ、ということだろう。
「偽物には見えん」
手触りや見た目を観察した後、鉱人道士に手渡す。
黒鋼でできた紋章は、丸く重く、刻まれた模様は精巧だった。
鉱人であっても簡単には真似できないだろう。
さらに少しだけ上下にずらせて、中から細かな刻印が覗くが、それ以上は仕掛けによって動かせなかった。
「どれ」
鉱人道士は盾鉱人より澱みない手付きで確認してから、鼻で小さくうなる。
「本物だの」
最後にゴブリンスレイヤーの手に渡った。
裏表を確認した後、手触りを確認し軽く叩いたり、上下にずらしたりする。
「偽物、だとすれば手間がかかり過ぎている」
「うん、本物だよ。残念ながら」
ゴブリンスレイヤーが紋章を差し出せば、彼女は肩をすくめて、そそくさと回収する。
そして、大きく、ため息を吐いた。
「もう僕の話はいいでしょ。他の話をしようよ」
耳と尻尾を動かしながら、山猫は腕を組んだ。
盾鉱人は、兜の下で小さく笑う。
(まあ、悪いやつではないのだろう)
他の者を見れば、同じような顔をしている。
例外は表情の読みづらい蜥蜴僧侶と全周兜のゴブリンスレイヤーだけだ。空気は悪くない。
(持ち去られた武器、か)
盾鉱人は山猫の言葉を思い出す。
武器を追っていくうちに遺跡にたどり着いたのだろうが、彼女の腰には短剣が差してあったし、獣人の爪もある。
おそらくだが、彼女自身の武器ではない。
自分と同じように、武器を盗まれた者がいて、そいつが傭兵達に依頼を出した結果、彼女がここにたどり着いたのかもしれない。
(影の正体も分からないんだ。気は抜けん)
盾鉱人は、人知れず盾帯を握りしめる。
ふと、右を向く。
ゴブリンスレイヤーが、回廊に続く通路をみていた。
盾鉱人もじっと目を凝らす。
暗闇の奥、壁画が浮かんでいる。
何もいないはずなのに、何かが動いた気がした。
スポットクーラー、導入しました。