盾鉱人と冒険者の話(旧:ゴブリン退治に向かう新人達とドワーフの話) 作:お前の隣の後ろの斜め右
少し長めです。時間のある時にお読みください。
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ぐちゃり、と粘着質な西瓜をつぶしたような感触が手に伝わる。
盾鉱人は死体を流し見る。
棍棒を、ゴブリンの頭蓋から引き抜く。ふと横を見た。
蜥蜴僧侶が骨の短剣でゴブリンの身体を切り刻み、その隣ではゴブリンスレイヤーが短槍で心臓を串刺しにしていた。
そして灰色の鎧は、床に落ちていた長剣を拾い、別のゴブリンを突き刺す。
(なるほど)
切れ味が落ちてきたら敵の武器を奪い、そのまま別の敵を倒す。
(効率的で、無駄がない)
内心で舌を巻きながら、足元のゴブリンに棍棒を振るう。
胸が不自然にへこんだゴブリンは目を見開き、悲鳴を上げようと口を開けたが、何も聞こえなかった。
すぐさま手足に棍棒を叩き込む。ごき、と枝を折ったような感触。
口を顔の半分ほどまで広げて、血を吐き出しているが、やはり悲鳴は聞こえなかった。
《酩酊》と《沈黙》
先ほど女神官と鉱人道士がかけた術で、酔わせて眠らせたところに、何が起きても音がしない状況を作り上げた。
(術士連中は上で見張り、下に降りて処理をするのは、四人)
盾鉱人、ゴブリンスレイヤー、蜥蜴僧侶。そしてーーー。
盾鉱人は、盾でゴブリンの首を折りながら、後ろを振り返る。
静かに、自らの爪でゴブリンの首を掻き切る斥候獣人の姿が見えた。
目を爛々と見開きながら、しかし、表情からは冗談めいた空気が消えていた。
次の獲物を見つけて、ゴブリンの急所をひと突きした後、盾鉱人の視線に気付いたようで、縦長に伸びた瞳孔がこちらをとらえた。
軽く首を傾げながら、ひらひらと血に濡れた手を振る。
「……」
盾鉱人は、小さく首を横に振りながら、棍棒を握り直した。
「僕が行くよ」
先ほど作戦の共有をしている最中、斥候獣人は手を挙げた。
彼女が手を挙げるまで、下でゴブリンを処理する役目は、鉱人道士以外の男三人と、妖精弓手だった。
けれど、一瞬嫌な顔をした彼女を斥候獣人は見逃さなかった。
「気持ちはありがたいけど、私そんなに柔じゃない」
「あー違う違う。なんというか、猫って狩猟が好きだからさ」
だから休んどきなって、と斥候獣人は、戯けて肩をすくめた。
その後も幾度か問答が続いていたが、ゴブリンスレイヤーの「早い方が良い」という理由で斥候獣人が選ばれた。
(分かりやすいが、分かりにくい)
意識を今に戻した盾鉱人は、上を見上げる。
柱の影に隠れて、妖精弓手が周りを警戒していた。
他の者は鉱人道士に先導されて、下まで降りて来ている。
(俺の斧は、無いか)
ゴブリンにトドメを刺しながら、辺りを見回す。
あれだけいたゴブリンも、もうすぐ全滅するくらいまで数を減らしている。
もしかしたら、誰かが持っているかもと淡い期待を抱いていたが、期待は期待のまま、消えていった。
武器を持ち去った影はゴブリンではないだろうし、ゴブリンだとしたら、今ここに着くまでに誰も装備していないのはおかしい。
棍棒を強く握る。
焦りと怒りが喉元まで上がってきて、ゆっくりと息を吐くことで腹の底に落とし込んだ。
突然、どん、と左肩に衝撃が加わる。
顔を衝撃の方向に向ければ、斥候獣人が同じように肩で体当たりをしてきていた。
彼女の口元はいたずらっぽく弧を描いている。
含み笑いをもらしそうな表情のまま、盾鉱人を追い越して、皆のいる方へ歩いて行く。
足取りは、軽かった。
盾鉱人は兜の上から頭を軽く叩いた。
ゆっくりと、息を吸う。
鼻を、血臭が突いた。
吸った息を鋭く吐き出す。
「気を散らすな」
短く口の中でつぶやく。
迷えば死ぬし、その代償は仲間が払うことになる。
『盾を失えば仲間が死ぬ』と言ったのは自分だったはずだ。
床の石材を踏みしめる。
足裏から伝わる感覚が、意識をこの場へ引き戻した。
肩を回して、自分も彼女の後に続く。
(どちらにせよ、進むしかない)
再び沸いた感情を飲み込みながら、棍棒を鞘にしまう。
ぎちぎち、と抗議するかのように鞘が擦れる。
その音を意図的に無視しながら、盾鉱人は前を向き続けた。
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「《成長》」《クレスクント》
灰褐色の巨躯が、火球の乗る右手を、宙にかざす。
火球の大きさが、広場の半分ほどまで膨れ上がった。
盾鉱人が付けている、左手の鉄板が熱を帯びる。
「散って‼︎」
妖精弓手が振り返って叫ぶ。
「散るったって、これじゃどこに逃げても」
鉱人道士が叫び返す。
「君、魔術師だろ。アレどうにかできない?」
「……過成長させて暴発させるか、舌を切って詠唱を妨害すれば何とか」
「じゃあやってよ」
「無茶言わないで」
魔術師と斥候獣人の話が終わるか終わらないかのあたりで、盾鉱人は手投げ斧を、口元目掛けて投げつけた。
しかし、その斧は蝙蝠の魔物に弾かれて、地面に落ちた。
魔物は盾鉱人の頭上を旋回すると、「キキィ」と鳴いて、オーガの肩に止まる。
「クソ」
「調子に乗ってやがんな」
盾鉱人が悪態をついて、その後に鉱人道士が続いた。
視線をずらせば、オーガが出てきた通路の奥に、乱雑につまれた武器の山があり、その中に自身の斧が横たわっていることを盾鉱人の暗視は捉えていた。
「わ、たしの」
震える声に、全員が振り返る。
視線の先には、女神官が、表情を引き締めて杖を握りこんでいた。
「皆さん、私の後ろに‼︎」
今度ははっきりと、言い切る。
皆、彼女の後ろに固まった。
「『いと慈悲深き地母神よーーー《聖壁》』」《プロテクション》
「《投射》」《ヤクタ》
示し合わせたかのように、膨れ上がった火球が動き出し、同時に、目の前に透明な壁が立ち塞がった。
壁に、火球が激突する。
熱と炎が、壁に阻まれて、後ろに流れる。
少し耐えたあと、壁が、バキ、とひび割れ始める。
「脆弱な人間の奇跡とやらで、我が術を止められると思うか‼︎」
「そのまま潰れて、焼かれるがいい‼︎」
必死に歯を食いしばりながら耐える女神官の後ろで、盾鉱人は盾帯を握り込む。
もどかしさ、情けなさ、苛立ち。
今すぐ飛び出したい気持ちを抑えて、姿勢を低くしながら機を待つ。
横を見れば、誰も前へ出ようとはしていなかった。
女神官なら耐えられる。そう信じているからだ。
(これが良い)
誰も女神官を疑わない。
誰も仲間を裏切らない。
その光景に、盾鉱人は小さく笑った。
「い、と……『いと慈悲深き地母神よーーー《聖壁》』‼︎」《プロテクション》
(二重詠唱……‼︎)
一枚でダメなら、二枚で防ぐ。
単純だが、単純ゆえに強力で、反動も大きい。
女神官の顔に脂汗が浮いてくる。
足も小刻みに震え始めるが、表情だけは涼やかだった。
やがて、火球が全てを焼き尽くし、ゴブリンの死体も、細かな瓦礫さえも灰と化した。
煙が広場全体を包み込んだ。
(いまだ)
盾鉱人は足に力を込めた。走り出す直前、四つ足で、既に反対方面に駆け出していた斥候獣人が横目に入ってきた。
低い姿勢のまま、オーガの側面に回る。
回り終えるや否や、未だ晴れない煙の中、盾鉱人はもう一度、手投げ斧を投げつけた。
煙を切り裂きながら、飛ぶ。
斧はオーガの急所、ではなく、蝙蝠型の魔物。
「‼︎」
魔物は、慌てて肩から飛び立って、斧を躱した。
バランスを崩して、飛び方が歪になる。
魔物が盾鉱人を睨む。
盾鉱人は、口を引き絞っている。
突然、ひゅっ、という音とともに、魔物の羽膜に強い衝撃が加わる。
「ぎいぃ‼︎」
鈍い痛みに悲鳴が上がる。
痛みで上手く羽ばたけず、そのまま地面に落ちていく。
魔物は衝撃の方向へ、顔を向けた。
「当たった」
魔術師が、スリングを振り抜いた姿勢のまま、つぶやいた。
盾鉱人は口端を釣り上げる。
「あとは任せて」
煙の向こうから、しなやかな動きで斥候獣人が飛び出し、地面に墜落した蝙蝠に飛びかかった。
馬乗りになると、抵抗する蝙蝠を爪で突き刺し、喉を牙で噛みちぎった。
立ち上がり、地面に肉片を吐き出し「美味しくない」と吐き捨てた。
「武器を奪わなければ、良かったね」
斥候獣人は口の端を拭うが、毛を逆立てると、その場から勢いよく飛び去った。
次の瞬間には、先ほどまでいた場所に、オーガの棍棒がふり下ろされていた。
瓦礫と肉片が、辺りに飛び散る。
「ちょこまかと、鬱陶しい‼︎」
「貴様も、あの娘も、楽に生かされると思うな‼︎」
斥候獣人は着地したあと、皮肉気に笑みを浮かべた。
「あーあ。君の仲間、まだ生きてたかもよ」
「あと君さ、その武器盗んだやつだろ」
「コソ泥のくせに、大物ぶっちゃって恥ずかしくないの?」
「黙れ‼︎」
オーガは棍棒を無造作に振るう。
彼女は身を屈めて回避する。
力任せに振るった洗練されていない軌道だが、元々の膂力が桁違いなため、必殺の一撃となっている。
盾鉱人は手投げ斧を投げつける。
首に刺さるが、無造作に払われて、地面に落ちる。
傷口は煙を上げて瞬時に回復した。
ならば、と盾鉱人は駆け出し、走る勢いを加えてアキレス腱へ棍棒を叩きつけた。
オーガは一瞬怯んだが、怯んだ勢いのまま、右足で踏みつけてきた。
身体を横に投げ出して、逃れる。受け身をとって盾を構えた。
オーガは棍棒を振りかぶる。
しかし構えた瞬間、眼球周辺に斥候獣人のナイフが刺さった。
オーガが顔を背ける。盾鉱人は、巨躯の下に飛び込んだ。
「冒険者風情が‼︎」
視線を妨害されながらも、オーガは棍棒を振り下ろす。
地面がえぐれ、砂埃が舞う。
盾鉱人は砂煙の中、体勢を立て直し、左足のアキレス腱にもう一度棍棒を叩きつけた。
「ぐうぅ‼︎」
オーガは足元にまとわりつく盾鉱人を踏み潰そうとする。
しかし盾鉱人は足元へ潜り続ける。
オーガは、痛みより苛立ちが大半を占める表情のまま、その場で跳躍した。
ほんの一瞬、戦闘音が止み、全員が上を向いた。
「うそ」
魔術師か、斥候獣人か、それとも妖精弓手かもしれない。
誰かの口から、思わず言葉がこぼれた。
盾鉱人は急いで距離を取る。
オーガが着地する直前、その方向に向けて盾を構える。
爆発でも起こったかのような衝撃とともに、再度煙が舞う。
「無事か」
「問題ない」
「うむ。良き戦士だ」
煙の奥で巨躯が体勢を立て直すのを、シルエットだけで確認しながら、吹き飛ばされた身体を起こす。
庇うように前に並んだ、蜥蜴僧侶とゴブリンスレイヤーに返事をする。
首だけで後ろを振り向けば、妖精弓手と斥候獣人が並んでいた。
さらに後ろには、ぐったりした女神官と彼女を支える魔術師と鉱人道士が見えた。
「これは、仕切り直し、ってやつかな」
斥候獣人は、軽口をたたきながら、眼だけはしっかりとオーガを捉えている。
「切り札を使う」
ゴブリンスレイヤーが短く、つぶやいた。
盾鉱人は低く唸る。
「俺が止める」
「ならば、拙僧が援護を」
盾鉱人と蜥蜴僧侶が頷き合う。
「私は撹乱ね」
「じゃあ、こっち手伝うよ」
斥候獣人と妖精弓手が拳をぶつける。
後ろを振り向く。
女神官、魔術師、鉱人道士が、頷き返してきた。
「やるぞ」
ゴブリンスレイヤーが、鋭く言い切った。
2
「こっちだよ、コソ泥‼︎」
斥候獣人が叫んで、妖精弓手が射る。
一直線に進む矢は、途中でオーガの左手に阻まれた。
「邪魔だ‼︎」
血管を額に浮かび上がらせながら、棍棒を振るう。
棍棒は柱の一部を削り飛ばすが、彼女達はもうそこにはいなかった。
「『おお気高き惑わしの雷竜よ 我に万人力を与えたもう《擬竜》』」《パーシャルドラゴン》
蜥蜴僧侶が術を使うと、彼の逞しい身体が、より一層、肥大化した。
「『鍛冶神よ、我らに種火を与えてくれたことを感謝する《勇気》』」《ブレイブハート》
盾鉱人は祈るように跪いて、術を発動する。
オーガ以外の全員の身体が、淡く光った。
「戦場の興奮とは、また違う高揚感」
「これは、万人、ではなく、億人力になった心持ち」
蜥蜴僧侶は、大きく息を吸うと、咆哮を放つ。
びりびりと空気が震える。
文字通り竜のごとき咆哮は、オーガの注意を引くには充分だった。
「蜥蜴風情が、吠えるな‼︎」
踏み潰すための右足が、蜥蜴僧侶へ迫る。
けれど彼は、にやりと笑うと手を大きく開き、腰を落とした。
鼻からは、熱く息が漏れ出ている。
そして、迫る右足を、受け止めた。
はじめて、オーガの表情に怒り以外が浮かぶ。
「GRAAAAAAAAA‼︎」
蜥蜴僧侶の筋肉が隆起し、足を押し返し始める。
オーガは目を見開くが、すぐさま足に力を込めて、押し潰そうとしてきた。
その隙を逃さず、盾鉱人が左足に向けて、盾を構えて体当たりをぶつける。
バランスを崩しかけて、オーガの巨躯が揺れた。
「『仕事だ仕事だ土精ども 砂粒転がり廻せば石となる《石弾》』‼︎」《ストーンブラスト》
鉱人道士が追撃を掛ける。
術で身体が押し込まれた。
残った左足でなんとか耐える。
「手妻如きで!!」
オーガが鉱人道士に向いた、瞬間だった。
視界に何か黒い物体が飛んでくる。
それが矢だと気付く前に、右目の視界が赤に染まった。
「舐めるなァ‼︎」
オーガは自ら、後ろに飛んだ。
空中で、残った左目に矢が飛んでくるが、防ぐ。
重さを感じさせない足取りで、ふわりと着地する。
「《火石・成長……」
オーガは、右手を宙にかざし、火球を発生させる。
「ここにきて、また」
「止めろ‼︎」
妖精弓手が矢を放ち、鉱人道士と斥候獣人が飛び道具を放つが、武器を手放したオーガが空いた手で全て弾き落とした。
「女は餌か孕み袋、男は残らず喰うてやる」
「焼け残っていたらの話だがな」
優越感と、それを超える怒りに顔を染めて、オーガは火球に魔力を込める。
一段と、炎の激しさが増した。
「《矢・点火・射出》‼︎」《サジタ・インフラマラエ・ラディウス》
凛とした声とともに《火矢》が飛ぶ。
吸い込まれるように、オーガの左目へ向かい、そして命中した。
炎が散る。散った後の肌は焼き爛れている。
だが火球に、衰える様子は無かった。
オーガは、嗤う。
「目が傷付けば術を止められるとでも思ったか。この程度、数秒で完治する」
嘲笑った直後、右を振り向き、足元の何かを蹴り飛ばした。
何か、石以外の何かが触れた感触。
蹴った感触のあと、遠くの方で石が崩れる音が聞こえた。
そして、冒険者の動きが、止まった。
誰かが、ひゅっと息を呑んだ。
オーガは考え込んだ後、やがて醜悪な笑みを深めた。
「そうか、今のが本命だな?」
「今までのこと全てが囮で、今蹴り飛ばした誰かが切り札、というーーー」
「いいや違う」
被せるような低い声に、オーガはすぐ右腕を振るう。
「《投……」
「馬鹿め」
聞いたことのない轟音が、遺跡を震わせた。
3
「盾鉱人さん‼︎」
誰かの声に盾鉱人は起き上がると、急いで体勢を立て直す。
盾を構えて周囲を見回す。見回しながら、自身の状態を確認する。
(ゴブリンスレイヤー殿を庇って、オーガの一撃を受けたはずだが)
左手に盾は収まっているが、右手からは棍棒が抜けていた。
周りにオーガの姿はなく、そして足元は、何故か水浸しになっていた。
「水……?」
「ねえ君」
声の方向に顔を向ければ、斥候獣人が呆れたような顔でこちらを見ていた。
「大丈夫なの?」
「問題ない。それよりオーガは」
矢継ぎ早に返事をすれば、目の前でわざとため息を吐かれた。
彼女は親指で、自身の後ろを指す。
ちょうど灰色の鎧が、オーガにとどめを刺した後だった。
構えた盾を、ゆっくりと、おろす。肩から力を抜く。
ぼーっと彼を眺めていれば、視線に気がついたのか、全周兜がこちらを捉えた。
「無事か」
盾鉱人は無言で頷く。
「そうか」
「休め」
ぶっきらぼうに言い終えると、ザブザブと扉の方向へ進んでいった。
「どうやって、倒したんだ」
「海底に繋げた転送のスクロールを使って、火球ごと水圧でぶった斬ったんだよ」
「……何?」
独り言の返事が、あまりに突拍子もなくて、聞き返した。痛み出した左腕をさする。
「もう一度、」
「盾鉱人‼︎」
張り上げられた声に振り返れば、魔術師が涙目で座り込みながら、こちらを睨んでいた。隣には女神官が同じような顔をして並んでいる。
盾鉱人はたじろぐと、助けを求めるように斥候獣人を見たが、肩をすくめて笑われた。
「あー、無事か?」
「『無事か』はこっちの台詞よ、バカ‼︎」
髭をこすりながら近付くと、立ち上がった魔術師に頭を叩かれた。
「これこれ、気持ちは分かりますが、彼は怪我人」
「よお同胞、生きとるか」
「やめなさいよ。縁起でもない」
蜥蜴僧侶、鉱人道士、妖精弓手が、前から歩いてきた。
そして両脇を持って、近くの岩場に座らされた。
蜥蜴僧侶に治癒の水薬を手渡される。飲み干す間、何があったか説明を受けた。
話を聞いた盾鉱人は渋い顔をする。
「そうか。……随分、心配をかけた」
頭を下げようと身体を動かそうとしたが、ふしぶしが痛みだし、結局動けなかった。
「安静にされよ。寝ている間に《治癒》で傷は癒したが、痛みはかなり強い筈だ」
「一応、強壮の水薬も飲んでください」
「でも、アレでよく無事よね」
「無事ではないじゃろ」
「まあともかく、誰も死ぬことなく切り抜けられた。それで充分だね」
女神官に手渡された強壮の水薬を飲み干して、盾鉱人は魔術師を呼ぶ。
魔術師が近くに寄った。
「すまない」
下がらない頭を歪に下げれば、魔術師はそっと頭を抑えた。
「彼女の気持ちが、今は痛いほど分かる」
魔術師の脳裏には、白くふわりとした毛並みの、蛾の蟲人が浮かぶ。
同じ顔を思い浮かべた盾鉱人は苦笑いを浮かべる。
「でも今回は」
「分かってる」
口を開いた盾鉱人を、魔術師は手で抑えた。
「今回は、『余計な心配』じゃない」
魔術師は息を吸う。
真っ直ぐに、琥珀色の瞳を見つめる。
「だから、一緒に強くなりましょう」
「今回みたいな無理をしなくても良いように」
盾鉱人は翡翠色の瞳を、見つめ返す。
「……ああ」
左手を差し出した。
「約束の、握手だ」
左手を、彼女は両手で、握る。
そして、泣き笑いの表情をつくった。
「約束、ね」
今の誓いを心に刻みこむように、二人は目を瞑る。
その様子を、斥候獣人は、じっと見つめていた。
毎話、一万字近く書いてて、週一更新の人はどういうバイタリティしてるんだ……。