盾鉱人と冒険者の話(旧:ゴブリン退治に向かう新人達とドワーフの話)   作:お前の隣の後ろの斜め右

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曜日を1日勘違いしてました。申し訳ないです。


第十九話 帰路

 

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 馬車の車輪が石を踏み、跳ねる。

 揺れで目が覚め、盾鉱人は辺りを見回した。

「起きたんだ」

 片膝を立てて、外を見ていた斥候獣人が声をかけてきた。

 他の者は皆、目を瞑っている。

「お前は寝ないのか」

「猫は元々夜行性だからね」

「今は昼だ」

「社会に出ると、習慣も変わるのさ」

「……とりあえず眠気がないのは分かった」

 ニヤけた顔から視線を外した。

 隣では魔術師が穏やかな寝息を立てている。

 斥候獣人は、彼女を見つめて、ふん、と鼻を鳴らした。

「君ってさ、もしかして北の戦士団にいた?」

「……ああ。『白鬼』が有名だろう」

「まあそうだね。一緒に仕事したこともある」

「何?」

「というか、君と何回か会ってるよ」

 彼女はあぐらを掻きながら、目を細めて笑う。

 盾鉱人は記憶を辿る。

 そして、弾かれたように顔をあげた。

「山岳街道の、護衛兼討伐のやつか」

「正解」

 盾鉱人はしきりに頷く。

「道理で、連携が上手くはまる訳だ」

 彼女は腕を頭の後ろで組んだ。

 口角をあげたまま、盾鉱人を見る。

「話し方は変わってるけど、戦い方は同じだからすぐ分かったよ」

「逆に、君が僕に気付いてくれなかったのは悲しかったなあ」

「アンタら、あの時黒ずくめだったろ」

 お互いに軽口を叩いていると、隣の魔術師が起きてきた。

 数度瞬きをすると、盾鉱人と斥候獣人を見比べる。

「二人とも起きてたのね。何の話してたの?」

「昔話だ」

「一ヶ月くらい、一緒に仕事した時があってね」

 魔術師は、言葉を咀嚼する。

 そして、「ああ」と言葉を漏らした。

「連携が上手くいったのは、そういう事だったの」

 盾鉱人と斥候獣人は吹き出す。

「何?」

 困惑の表情のまま、魔術師は彼等を見比べた。

「いや。お前を笑ったんじゃない」

「君ら、お似合いだよ」

「……ありがとう?」

 小首を傾げながら、彼女は頬を掻いた。

 釣られて微笑が浮かんできた。

「おう、小童ども」

「まだ掛かるんだ。もう少し休んどけ」

 寝転んでいた鉱人道士が、片目を開いて、話しかけてきた。

 三人は無言で頷くと、姿勢を元に戻す。

 目が冴えた盾鉱人は簡単な武具の点検を始め、眠る気が無かった斥候獣人はそれを横目で眺めている。魔術師はその音を子守唄に、再び眠る。

 馬車がまた、跳ねた。

 今度は誰も起きなかった。

 だが、誰もが少しだけ、口元を緩めていた。

 

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「勧誘、断られたわ」

「そうか。まあ仕方ない」

 魔術師は歩きながらさらりと言い、盾鉱人も軽く流した。

 盾鉱人は髭をしごくと、うなった。

「彼女を引き込めたら満点だったな」

 首元から黒色の認識証を取り出した。

 太陽の光を受けて、黒曜石のような輝きを返してくる。

「傭兵やめたわけじゃ無いし、ダメで元々って感じでしょ」

「期待はしていなかったが、それはそれとして残念だ」

 魔術師は、すました顔で肩を落として、首元から細い鎖をたぐり寄せる。

 顔を出した黒い認識証をひと撫ですると、もう一度首元に戻す。

 服の中で、認識証と護符が触れ合った。

 彼等は酒をあまり飲まない。

 なので休憩する際は、組合に併設されている酒場より、近くの食事処を利用していた。

 盾鉱人は目的の店を見つけると、扉を潜り、辺りを見回す。

「そういえば、あの娘が探してた武器って何だったの?」

「オーガが振り回してた棍棒があっただろう。アレだ」

「ああー……。いやあんなに大きい武器、誰が使うのよ」

「自在に姿形が変わるらしい」

 盾鉱人は「大きさも変わるのだろう」と言いながら、カウンター席に腰を下ろした。

 すぐさま獣人の給仕が近づいてきたので、飲み物と食事を二人分、注文する。

「武器について詳しいのね」

「これが返ってくるまでに色々な」

 盾鉱人は鞘に納まった斧を軽く叩いた。

 魔術師が隣に座る。

「模倣させるために武器を集めさせていた、とも聞いた」

「いい迷惑ね」

「気に入らなければ配下に与えて、兵站にもなるし都合が良かったのだろう」

 ちょうど、食事の乗った膳が運ばれてきた。

 野菜と肉がたっぷり入った暖かいスープとふかふかのパンが、二人の食欲を刺激する。

 魔術師が、スープの中を覗いて顔をしかめさせた。

 兜を脱いでいた盾鉱人も、彼女に気付いて、同じように覗き込んだ。

「この野菜、抜いてって言ってるんだけどな」

「あの給仕、新顔か。……まあ、それくらい食べれるだろう」

「そういうことじゃないの」

「取り替えてもらうか」

「そういうことでもないの」

「ならどうする」

「貴方が食べて」

 盾鉱人は、一瞬固まり、わざとため息を吐いた。

 そして木製の匙を掴んで、特定の野菜だけを自分の皿に運んでいく。

「ありがと」

 満足そうな顔をして、魔術師はパンを半分、盾鉱人の膳に置いた。

 顔を上げる盾鉱人に、魔術師は笑いかける。

「貴方、ここのパン好きでしょ」

 盾鉱人は、奇妙に頷く。

「ああ、うむ、そうだな。美味い」

「じゃあ、まあいただく」

 ぎこちなく、魔術師に会釈をした。

「ええ。どうぞ」

 彼女は微笑むと、自分のスープを飲み始める。

 盾鉱人もパンにかぶりつく。

 店の喧騒が、二人を包んでいた。

 

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 上段から、大剣が振り下ろされる。

 盾鉱人は腰を落とし、盾を斜めに構えた。

 衝撃が盾に逸らされて、地面に当たり、辺りに砂煙が舞う。

 盾鉱人は踏み込むと、斧を振り上げる。

 前から何かが迫ってくる。盾を滑り込ませた。

 それが足だと気付いた瞬間、衝撃が盾を叩く。

 力に身を任せて、後ろに吹き飛ぶ。

 空中で体勢を立て直して、着地と同時に手投げ斧を投げつけた。

 未だに舞う砂埃に斧は吸い込まれて、奥で火花が散る。

 当たったか確認する前に、何かが飛んできたので盾で弾いた。

 盾鉱人のすぐ手前に、手投げ斧がぽとりと落ちる。

 素早く拾い上げて、盾の裏に仕舞い込む。 

「お前本当に黒曜級かよ」

 段々と晴れた砂煙の中から、大剣を肩に担いだ「重戦士」が歩いてきた。

「組合の規定ではそうなっている」

「よく詐欺って言われるだろ」

「今初めて言われた」

「ならこれから言われるぜ」

 言い終わると、彼はよく通る声で「交代だ」と盾鉱人の後ろに声をかけた。

 盾鉱人が武器をしまって後ろに歩き出すと、自分と同じような、新人の冒険者二人が、入れ替わりで重戦士の前に立った。

「よろしくお願いします‼︎」

 ハリのある、快活そうな声を背に、彼は訓練場に設置された長椅子に座る。

 少し離れたところに、新人冒険者達の後衛であろう少女達が、心配そうな顔で重戦士達を眺めていた。

「お疲れさま。はい、飲み物」

 盾鉱人が横を見ると、魔術師が飲み物を差し出してきた。

 軽く頭を下げてから、飲み干す。

「美味いな。なんだこれは」

「蜂蜜と檸檬が入ってるみたい。さっき受付嬢さんに貰ったの」

「術士どのも飲んだか」

「もちろん。もっと持って来る?」

「いや。俺よりあいつらの方が必要だろう」

 顎で、二体一でも良いようにあしらわれている新人達を指した。

 魔術師は苦笑いを浮かべた。

「貴方が戦ってる時、凄かったわ。組合の中からも見物人がちらほら出てきてたり」

「そうなのか」

「今はいないけど、槍使いの人も見にきてたし」

「……」

「もっと胸張りなさいよ」

「……居心地が悪い」

「今、いいか」

 しきりに座り直す盾鉱人に魔術師が吹き出していると、後ろから両手剣を携え、大盾を背負う「女騎士」が話しかけてきた。

「問題ない。何だ」

「いや、何。盾を使う者同士、話をしてみたくてな」

「……そうか」

 盾鉱人は一言発すると、押し黙った。

 女騎士も言葉を探して口を開いたり閉じたりする。

「貴公、『白鬼』の弟子だろう」

 盾鉱人は弾かれたように、女騎士を見上げた。

 彼女は涼しい顔のまま、言葉を続けた。

「動きを見れば、誰だって気付くさ」

 一度言葉を切って、口の中で何かを探る。

 精悍な顔を引き締めて「これは完全なお節介だが」と言葉を続けた。

「動きが、ぎこちない」

「無理やり型に嵌めている、というか」

「……悩みでもあるのか」

 言い切った後で、気まずそうに顔をゆがませた。

「すまない。やはり余計なお世話だった」

「いや」

 盾鉱人は彼女を手で制す。

 となりの魔術師が心配そうにこちらを見ていた。

 頭の隅で「あの新人達と同じ顔をしているな」と現実逃避気味に考えた。

「今は、上手く言葉にできん。だから相談もできない」

「命の危機とかではない。だから心配するな」 

 身振り手振りで伝えると、魔術師は重々しく頷く。

 そして、盾鉱人は女騎士を向いた。

「あんたも、大丈夫だ。心配をかけたな」

「……そうか」

 女騎士は視線を落とした。

「無理はするなよ」 

 盾鉱人が頷き返すと、彼女は踵を返して、元の位置に戻っていく。

 向こうでは、新人の冒険者が、重戦士に投げ飛ばされていた。

 後衛の少女達から、小さく悲鳴が上がる。

「なにか、心配事でもあるの?」

 魔術師が顔を覗き込んできた。

 盾鉱人は言葉に詰まる。

「さっきも言ったが、上手く言葉にできない」

「上手くなくても、汲み取るわよ」

「言葉にしても違和感があるんだ」

 魔術師は杖を両手で握る。眉間に皺が寄った。

 しばらく俯いて考えると、やがて、大きく肩を落としてため息を吐いた。

「わかった。今は言いたくない、言えないんでしょう」

「でもいつかは必ず、相談してね」

 盾鉱人は無言で頷く。

 魔術師の翡翠の瞳は、彼をまっすぐと捉えた。

「私こういうの、忘れない性格なの」

 眉を八の字にしながら、魔術師は笑った。

 釣られて盾鉱人も笑う。

 訓練場では再び、悲鳴が上がった。




次回から不定期更新です。
最長でも10日間隔くらいには出せると思いますが、早かったり遅かったりします。
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