盾鉱人と冒険者の話(旧:ゴブリン退治に向かう新人達とドワーフの話)   作:お前の隣の後ろの斜め右

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短めです。
追記:9/8少し手直ししました。


商人護衛
第二十一話 続き


  

            0

 

「素晴らしい‼︎」

 商人が、盾鉱人たちに向かって両手を広げた。

 彼等の周りには、革鎧を纏った男が数人転がっており、誰もが地面に伏せたままぴくりともしていない。    

 盾鉱人は手で商人をなだめる。

「あー、俺たちの仕事がこれだ。まだ先はある」

「ええ、分かっておりますとも」

 張り付けた笑みで、商人は馬車に戻った。

 車を引く馬の横で、杖を構えていた魔術師にも笑顔を向け、「ご苦労様です」と声をかけた。

 馬のいななきに彼女の小さなため息はかき消された。

「しかし、貴方たちのような冒険者が来てくれて良かった。前任者には『逃げられて』しまいましたからな」

 笑みを崩さず、表情を変えない彼の瞳に、魔術師の背筋が冷えた。

 固まる魔術師の横を、盾鉱人が通り過ぎた。

 軽く肩を叩いて、彼女を促す。

「俺たちは、彼と彼の積荷を護衛するだけだ」

「……分かってるわ」

 魔術師は帽子を深く被り直した。

 手に握ったままの杖が、汗で湿り気を帯びてきた。

 杖をしまい、ぷらぷらと手を乾かす。

「薬草採取の方が良かったな」

 今日何度目かわからないため息で、彼女は空を見上げる。

 気分とは裏腹に、雲ひとつない快晴が空いっぱいに広がっていた。

 

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「で、なんでこの依頼を選んだわけ?」

 不機嫌を隠そうともしないまま、魔術師が腕を組む。

 盾鉱人は慌てて商人を確認し、彼女に向き直った。

「声が大きいぞ」

「……ごめんなさい」

 口元を押さえた彼女を見て、盾鉱人は肩から力を抜いた。

 棍棒の収まる鞘を一瞥する。

「経験と報酬の、折衷案がこれだった」

「なら魔物討伐でも良かったじゃない」

「いや」

「別に取り繕わなくていいわよ。要するに慣らし、ってことでしょ」

 魔術師は盾鉱人の鞘を指差す。

「組合の訓練だけじゃ、不安だったのね」

「訓練は訓練。実戦は必須だ」

 むっつりとしたまま、彼は鞘を叩く。

 彼を横目で見ながらニヤリと笑い、魔術師は顔を向けた。

 荷物に寄りかかり、右足を抱える。

「なら私の、新しい魔術の実戦相手にもなってよ」

 悪戯っぽく笑いかける彼女に、盾鉱人は唸るしかなかった。

 髭をしごく。

「二つ、覚えたのだったか」

 無言で魔術師は頷く。

 指を一本ずつ折る。

「『粘糸』と『破裂』」

「効果の復習をしたい」

「『粘糸』は蜘蛛の巣で敵の動きを封じる。『破裂』は小石とかを爆発させられるわ」

「強力だ」

「そうね。だから試し撃ちがしたいの」

「それは、今は困る」

 盾をいじりながら答えた盾鉱人に、魔術師は吹き出す。

 すぐに表情を取り繕った。咳払いをする。

「別に本気じゃないわよ。教えてもらった時に試し撃ちはしたし」

 彼女は「やっぱり貴方天然ね」と微笑んだ。

「……周囲の警戒をする」

 盾鉱人は、話題を逸らすしかなかった。

「お二人とも、こちらを」

 しばらくしてから、商人が声を上げて馬車を止めた。

 二人が顔を覗かせると、木や岩が道の真ん中に横たわっていた。

「ここ、街道よね?」

「ああ。近辺でトラブルの噂も聞かなかった」

「なら、わざとやったってわけね」 

「……確認してくる」

 盾鉱人は馬車から飛び降りると軽い動作で着地した。

 がちゃり、と装備が音を立てる。

「お気をつけて」

 商人のとなりを抜ける時、心配そうな声をかけられた。

 彼を一瞥しながら「念のため、彼女の近くに」と魔術師を顎で指して、声を掛け返す。

 静かに頷いて、商人はゴソゴソと後ろに移動した。

 ゆっくりと、周囲に気を向けながら、瓦礫の山に近付く。

 盾鉱人は鞘に軽く触れた。いつでも武器は抜ける。

「岩、木材、布。何かの荷物を捨てた、か」

 目視でわかる範囲で、山を観察する。

 年季の入った木材や、洗えば使えそうな布地など、よく分からない組み合わせだ。

(あれは?)

 山の頂点、最も目立つ部分に、円章が見えた。

 太陽光を反射して、おそらく馬であろうレリーフが輝いている。

 小石を投げる。命中し地面に落ちた。

(戦馬、いや荷馬か)

 盾鉱人が円章を拾い上げる。

 円章自体はずっしりと重く、形は斥候獣人の持っていた物に近い。

 中心では逞しい馬が、豪華な馬具、大きな荷車、頑丈そうな蹄鉄など、鎧と見紛うほどの重装飾を付けていた。

 盾鉱人は一瞬顎に手を当てると、踵を返して、馬車の方へ戻っていく。

「大丈夫だった?」

 近くまで寄ると、魔術師が声を掛けてきた。

 手だけで返事をする。

「これが、瓦礫の一番上に」

 彼女の近くにいた商人に、円章を見せた。

 彼と一緒に魔術師も覗き込む。

「これは……」

「紋章。立派な馬ね」

 馬車の馬が、あらく鼻息を吐いた。

 盾鉱人と魔術師は、一瞬だけそちらを向いて、また視線を戻した。

 商人だけが、レリーフの馬を、じっと見つめている。

「……何か知っているのか」

 盾鉱人が尋ねると、彼はおもむろに自分の懐をあさり出す。

 すぐに、同じような円章を取り出した。

「それ、先代が使ってたものです」

 静かに呟きながら、二つを並べる。

 どちらの馬も逞しく、大きな荷車を引いている。

 けれど、決定的な違いがある。

「こっちの方が、なんていうか、重装備ね」

 魔術師が盾鉱人の方を指差した。

 盾鉱人の馬が豪華で、煌びやかに見える一方、商人の馬は、簡素で最低限の馬具しか付けていない。

(豪華な荷馬と必要なものだけを残した輓馬、だろうか)

 両者を見比べながら、盾鉱人は心中でつぶやいた。

 商人はため息をつく。

「これを残していったのは、私の知り合いですね」

 何でもないように、顔を上げた。

 自分の円章を懐にしまいながら、盾鉱人の持つ方には見向きもしなかった。

「お前のだろう。持っていろ」

「……それは先ほど、確認してきてくれたお礼、ということで」

「前払い分は、もう貰っている」

「追加報酬です。売ればそれなりに値が付くはずです」

「いらん」

「では捨ててください」

「お前が持つべきだ」

 振り返りもせず、商人は馬車の運転席にもどる。

 手綱を、手際よく付け直す。

「外していたのか」

「ええ。まあ」

 少し彼の手が緩んだ。

 馬が、商人を顔で押した。

 彼は軽く撫でる。満足したかのように馬は顔を正面に戻した。

「よく逃げなかったな」

「躾けましたから」

「そうか」

「調教師をお探しなら、紹介いたします」

 手綱を付け終え、馬が顔を振った。

 魔術師は、荷台の後ろで空を見上げていた。

「……本当にいらないのか」

「はい。もう持っているので」

 こちらを向いて、胸元から何かを取り出す。

 しゃりり、と細い鎖が鳴り、同じような「荷馬」の硬貨が姿を現した。

「冒険者さまの持つそれは、先代に雇われた者に配られたものです」

「俺たちのように?」

「いえ。専属護衛です」

 盾鉱人は次いで質問をしようとして、口をつぐんだ。

 彼は、顔を合わせてから今まで、ずっと一人だった。

 盾鉱人と依頼の確認をするときも、馬車に荷物を積み込むときも、ずっと。

 いつの間にか、後ろに来ていた魔術師が、代わりに質問をした。

「何で今はいないの?裏切られた?」

「いえ」

 商人は肩をすくめる。

 一瞬だけ、瞳が揺れた。

「そりが合わなかった」

「……支払いでも滞ったか」

「金銭がらみなら、幾分かマシでしたね」

「なら何で?」

 彼は魔術師を一瞥して、盾鉱人へ視線を戻した。

 張り付けた笑みが、少しだけ薄れた。

「やり方が合わなかったんですよ。単純に」

 吐き捨てるように言った後、苦笑が徐々に浮かんでくる。

 彼は馬を撫でる。毛並みの良い尻尾が揺れた。

「さあ、行きましょう。別道があったはずです」

 商人は「舌を噛まないでください」とおどけた。

 盾鉱人と魔術師は、無言で荷台に座る。

 横目で二人が座ったのを確認して、商人は手綱を振るう。

 がたん、と馬車が揺れる。

『誰でも触れられたくないことはある』

(ましてや俺たちは、ただの雇われだ)

 自身を戒めるため、眼を固く閉じた。

 馬車の外では、虫が鳴き始めた。

 




読んでて戦闘がないとインパクトに欠けるけど、書きやすいのは掛け合い台詞なんですよね。
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