盾鉱人と冒険者の話(旧:ゴブリン退治に向かう新人達とドワーフの話)   作:お前の隣の後ろの斜め右

23 / 24
遅くなりました。
短めです。


第二十三話 流儀

 

        0

 

「お久しぶりです。お元気ですか」

 商人が一歩前に出ながら、軽く会釈をした。彼の表情は穏やかだ。

 前任者は盾鉱人を睨みながら、商人を一瞥する。

 彼女は鼻を鳴らした。

「貴方は、相変わらずね」

 口調は皮肉気だが、顔は笑っていない。

「そうですか?」

「……そういうところとかね」

 商人は笑顔を崩さない。

 彼女が小さく舌打ちした。

「抜け目ないな」

 盾鉱人は呟いた。

「何ですって?」

 聞こえていたようだ。

 盾鉱人は首を小さく回す。

「何でもない」

「勘違い、しているようだから言うけどね」

 前任者は息を吸う。

「あれ、わざとじゃなくて、素よ」

「言葉でスカしてるように見えるけどね」

「……自然にできているなら才能だ」

 盾鉱人が盾帯を握り直す。

 前任者は少し硬直する。

「それは、冗談のつもり?」

「いや本気だ」

「そう」

 前任者は身を少し乗り出し、手を広げた。

「じゃあもう一度だけ言う」

「あれは、彼の、『素』よ」

 隙だらけに見える構えだ。だが飛び込めば手痛い反撃を喰らうだろう。

「私を混乱させる気なんてない」

 それまで感情の読めなかった彼女の顔に、初めて表情が浮かぶ。

 盾鉱人は口だけ動かした。

「それを世間では才能と言うのだろう」

 彼女は、頭を乱雑にかく。

 ため息を吐いた。

「貴方と彼の付き合いが短いのは分かった」

 気を取り直すように右手の剣を手首で回す。

 彼女の目つきに鋭さが戻る。

 短く息を吐き直した。

「お喋りはおしまい。彼を置いて去りなさい。見逃してあげる」

 前任者は顎で商人を指した。

 盾鉱人は深く腰を据える。

「前金で貰っている。引けない」

 彼の後ろで、魔術師がスリングを構える音がした。

 前任者は薄く笑う。

「良い冒険者ね。でもそれが命取りよ」

 言うが早いか、彼女は盾鉱人に駆け出した。

 もうすぐ日が沈みそうだった。

 

        1

 

 前任者が右手の剣で突きを放つ。

 盾で軌道を逸らしながら、盾鉱人は棍棒を振り上げる。

 しかし振り下ろす前に、前任者は無理やり体当たりをしてきた。

 盾で衝撃を受け止める。間合いが空く。

 すかさず魔術師が石弾を放つ。

 前任者の口が僅かに弧を描いた。

「良い判断」

 盾鉱人に駆け出しながら、彼女は石弾を最小限の動きで避ける。

 盾鉱人は手投げ斧を投げつけた。

 速度を落とす事なく、彼女は左手の鉤で弾く。

 地面に斧が刺さる前に、盾鉱人の間合いに踏み込んできた。

 咄嗟に盾を構える。彼女は鉤を盾に振り下ろした。 

 がきり、と鉤の先端が盾の縁を回り、裏側に食い込んだ。

 盾が、動かない。

 盾鉱人は目を見開いた。

(『盾剥がし』だと⁉︎……商人が言ってたのはこれか‼︎)

 背中が総毛立つのを押し殺しながら、盾鉱人は自分の言葉を思い出す。

「自身の身体操作と、腕力、あとは盾の角度だ」

「要するに、剥がされないように空かすってことだ」

(鉤に力を掛けさせなければ良い)

 鉤にかけられた力と同じ方向に、盾を動かす。

 それから力が抜けたと同時に盾を引く。

 敵に引っかからないように盾を傾けながら、最後に転ばせる。

 何度も練習した、けれど当の『師匠』からは「使うな」と言われた動き。

(だが、できる。できるはずだ)

 こんな状況でも、『師匠』なら不敵に笑ってみせるだろう。

 相手の鉤を見つめる。

 呼吸を、読む。

 しかし僅かに強張った盾鉱人を、前任者は見逃さなかった。

「見過ぎ」

 言葉に顔をあげれば、獰猛に笑いながら顔に目掛けて、突きを放ってきた。

 慌てて頭を傾けてかわす。

 視線が鉤から外れる。

(まずいーー)

「獲った」

 彼女の声が盾鉱人の鼓膜に響く。

 思い切り、身体が引っ張られる。

 盾を手放そうとして、手が動かなかった。

(クソ)

 咄嗟に身体に力を入れる。次ぐ剣戟に備えた。

 けれど、攻撃は続かなかった。

「お忘れですか」 

 商人の声が聞こえた。

 彼が剣を振り下ろす。

 商人は、盾鉱人と前任者の攻防中に、静かに距離を詰めていた。

 気付かれなかったのは、彼の経験と少しの幸運のおかげだ。

 前任者は僅かに振り向くと、素早く横に転がる。

 つんのめって転ぶ盾鉱人を、商人は避ける。

 体勢を立て直して追撃しようとする彼女へ、商人は攻撃を加える。

「変わらないわね。やっぱり」

 鉤で捌きながら忌々しげに呟いて、彼女は飛び退く。

 着地の瞬間に魔術師が石弾を撃つ。

 もう一度、前任者は大きく飛び退いた。

「助かった」

 魔術師と商人が、盾鉱人の前に出る。

 魔術師が差し出してきた手を断りながら、盾鉱人は盾を構える。

 商人が目だけでこちらを確認した。

「貴女は後ろから援護を。今度は二人で仕掛けます」

「いや」

 語尾が強くなった。彼と魔術師がこちらを向いた。

「意地を張っている場合で無いのは、その身で体験したのでは?」

「分かっている。だが同じ轍は踏まん」

「信頼度が低い。二人で行きます」

「……喧嘩しないで」

 魔術師が鋭い目つきで二人を睨めば、一度言葉が途切れた。

 しかし盾鉱人はもう一度口を開く。

「次は上手くやる。俺に任せてくれ」

「目の前で失敗しておいて何を」

「喧嘩するなってば‼︎」

 言葉を続けようと口を開いた商人は、不自然に動きを止めた。

 顔を見ると、僅かに笑っている。

「どうした」

「いえ。少し昔を思い出しました」

 商人は笑みを隠して、小さく息を吐いた。

 下を向いて、目を瞑る。

 少し俯いたあと、顔を上げて、正面を見た。

「わかりました。任せます」

「……助かる」

「お礼は結構です。実力で答えてください」

「承知した」

 盾鉱人が二人の前に出る。盾を構えた。

 前任者は、懐かしむような、苦々しいような、微妙な瞳でこちらを眺めている。

「本当に、やり辛い」

 彼女のつぶやきは、誰にも拾われなかった。

 商人だけが、彼女を見つめていた。

「俺の武器では、あまり有効打にならん。どうする」

 盾鉱人は盾で口元を隠しながら、後ろに問いかけた。

「また後ろに回るか」

「彼女は熟達した戦士です。一度使用した戦術は通用しない」

「遠距離はどう?」

「弓はありますが、心得がなくて」

「只人用の弓は、俺には合わんな」

「私の石だと避けられるし、あの調子だと魔術も当たるかどうか」

「ならどうする」

 盾鉱人はうなる。

 魔術師が身じろぎをした。

「一応、策はあるの」

 盾鉱人と商人が彼女に反応する。

「具体的には?」

 魔術師が口を開く。

 その様子を、前任者は眺めている。

 頭を乱雑にかいた後、彼女は首を回した。

 ため息を吐いた後、前任者は盾鉱人たちに向けて、歩みを進める。

「策があるなら策ごと突破する。難しいことは苦手なのよ」

 誰に聞かせるでもなく、彼女は口の中でつぶやいた。

 しなやかで静かな姿だった。

 彼女と盾鉱人達を見比べると、馬が小さく、いなないた。




書けてるんだが書けてないんだか分からない文章になってます。
直すより出せの精神で、文が納得できなくても出しているので、きちんと伝わってるか不安です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。