ゴブリン退治に向かう新人達とドワーフの話   作:お前の隣の後ろの斜め右

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プライベートでトラブルが有りまして投稿が遅れました。すみません。



第三話 予兆

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 足元の、濡れた砂利が跳ねて、足の裾を汚した。

「ついてきてるか」

 盾鉱人が後ろを振り返ると、魔術師と女神官が息を弾ませながら頷いてくる。

「大丈夫です」

 受け答えには余裕がある。

 盾鉱人は頷いて、前を向き直した。

 彼女らの息は少しずつ上がっているが、足音は乱れていない。

 けれど万が一に備えて、走るスピードを少し落とした。

 術を使う者が、息が切れて詠唱できない、などという状況にはしたくない。

 洞窟の奥の方、松明の光が見えてきた。

 青年戦士と武闘家が、7体程のゴブリンと戦闘している。

 長剣を、ぎこちなく突き主体で振りながら、高揚する青年戦士。

 彼を時折見ながら、一歩分だけ前に踏み込み、鋭い格闘を繰り出す武闘家。

 彼らの影が、洞窟に映し出されて、壁画が動いているようにも見えた。

「後衛は、何処だ‼︎」

 足元に迫ったゴブリンを串刺しにしながら、青年戦士が叫ぶ。

「近くまで来てる‼︎」

 ちらり、とこちらを確認した後、武闘家は応えた。

 青年戦士がこちらを捉えた。

 眉間にシワが寄っていく。

「遅いぞ‼︎」

 魔術師から、鋭い気配が漏れた。一瞬、彼が怯む。

 盾鉱人は、短く息を吐いた。

(まずは蹴散らしてからだ)

 武闘家を一瞥して、青年戦士を追い越す。

 ゴブリンに狙いをつける。

 斧を、下から上へかちあげる。

 コンパクトに振り、衝撃を相手に押し付けた。

「GYAッ‼︎」

 短く悲鳴をあげて、後方へ仰向けに倒れた。

 傷跡から、血が飛沫をあげる。

「これで五体目」

 小さく呟く。

 後ろを振り返る。

 突出する青年戦士と、一拍遅れて、彼の死角をカバーする武闘家が見えた。

 そのさらに後ろに、青年戦士を睨む魔術師と彼女を宥めている女神官も見えたが、意図的に目線を外す。

 盾鉱人は、はあ、とわざと声に出して溜息をついた。

(ヘイト管理は盾役の仕事か。たとえ味方でも)

 戦士団にいたころは、全て師匠達に任せていた。だから、少し面倒だ。

 気を紛らわすために盾を握ろうとして、左手が毒で痺れていたことを思い出した。

(師匠達も、同じような気持ちだったのだろうか)

 指を動かす。痺れているが、使える。

(アイツは、武闘家に任せても大丈夫か)

 色調の反転した、彼らには見えない洞窟の奥を睨みつけ、考えた。

「なあ」

 青年戦士が話しかけて来た。

 後ろを振り返れば、血の匂いが、鼻を刺激してくる。

 動く影は、彼ら以外に無いようだ。

「何やってたんだよ。……おっさん」 

 不満げに口を開く。自分を呼ぶ『おっさん』にやけに力が入っていた。

「俺らはゴブリンに囲まれて死にそうだったんだ」

「後衛も俺らに合わせて動けば、分断されなかったんじゃねえのか」

 盾鉱人は青年戦士の全身を見つめる。

「動けるか」

「……何?」

 青年戦士は怪訝な顔をした。

 盾鉱人は左手をさりげなく握り込む。

 少し痛むが、痛みがあるうちはまだ大丈夫だ。

「奴らは毒を使う。擦り傷でも危険だ」

 だから、と言い終わらないうちに、後ろを振り向いた。

「おい!」

 後衛と状況を報告しあっていた武闘家に駆け寄って、身体を検分しはじめる。

「何!?」

 困惑した武闘家が、一歩後退して青年戦士を避ける。

「アイツらは毒を使うんだ。傷、無いよな!?」

 青年戦士は必死な顔で、武闘家に身振り手振りで説明している。

 武闘家は合点がいったような顔になり、無意識に構えていた拳を下げた。

「無いよ、大丈夫」 

 眉を八の字に曲げて苦笑する。

 彼の顔から、力が抜けて行く。

 そして、満足そうに鼻で笑った。 

「まあ、心配はしてなかったけどな。俺が誰よりも働いて引きつけてたし。あれくらい余裕だ」

 自分の呼吸が止まっていたことに、青年戦士は、今気がついた。

 真顔の魔術師と、引き攣った笑顔の女神官が青年戦士の視界に映る。

「その様子だと、あんた達の方にはただのゴブリンしか来なかったのね」

 腕を組んで、魔術師は訊ねた。

 睨まれているように感じるのは彼女の目つきが原因だろうか。

「ああ、数だけは多かったけどな。そっちこそ、雑魚の囮に時間かけすぎだろ」

 声が、洞窟に反響した。

 ぴくり、と魔術師が反応する。

「囮、ね」

 彼女は一歩前に出る。

 女神官がわずかに息を飲む。

「貴方、頭目向いてないわよ」

 指を指し、青年戦士に向けて、真顔のまま静かに言い放つ。

 沈黙の後、こちらに歩いてくる盾鉱人の足音だけが聞こえる。

 心音が、早くなる。

「は?」

 呆けて、顔が赤くなり、声が漏れた。

「なん」

「彼女に聞いてみたら良いじゃない」

 青年戦士の言葉を遮って、武闘家を指した指をなぞり、彼女に目線を向ける。

 武闘家は、気まずそうに目を逸らした。

 耳の奥で、心臓が一際大きく跳ねた音がする。

「私達の遭遇した『囮』はね」

 魔術師は言葉を続けた。

「死んだふりもしてきたし、武器の扱いにも長けてた」

「あれは、普通じゃない」

 彼女の声が、わずかに震える。

「盾鉱人がいなかったら、私達は壊滅してたし、貴方も今頃ここにいないわよ」

 女神官は、顔をふせた。

 横目でそれを見ていた武闘家も、苦い顔をする。

「時間がかかりすぎ?雑魚?」

「最低の、『冗談』ね」

 魔術師は息を整える。

「……私達の怪我、確認してないでしょう」

「やっぱり頭に向いてないわ、貴方」

 青年戦士が、目を見開く。

 視線がゆれる。

「けど数は、こっちの方が多かった」

「数の多さになんの意味があるの」

 魔術師は被せるように言い放った。

「それとも数で誰かと勝負でもしてるのかしら?」

 わざと、おどけたように魔術師が笑う。

 沈黙が、洞窟に満ちる。

 青年戦士は、唇を噛む。

 血の味が口に広がった。

 腹の底で、ぐつぐつと赤黒い物が煮える。

「……ふざけんな‼︎」

 堪えきれずに、拳を、洞窟の壁に叩きつけた。

 彼女達の肩が跳ねた。

 鈍く強い痛みが右手に走るが、全く気にならない。

 天井から砂粒が、さらさらと舞い落ちた。

 魔術師を睨む。

「お前らがトロいのが悪いんだろ!!」

 混じり気無しの怒気を当てられて、彼女は杖を強く握る。

 怯んだが、目線は真っ直ぐに、青年戦士を射抜く。

「お前らがトロいから、はぐれて、怪我して、ピンチになったんだろ⁉︎」

 青年戦士が、感情のままに詰め寄る。

「俺のせいじゃ」

「おい」

 低く、冷たい声に動きを止めた。

 怒りで支配されていた頭の中に、無理やり隙間が空けられていく。

 反射的に、振り向く。

 盾鉱人が、青年戦士の肩に左手をかけていた。

 力は入っていないのに、万力よりも強力に肩を掴んでいる。

「喋りすぎだ、お前ら」

 青年戦士が何か言うよりも前に、低い声色のまま、顎で洞窟を指す。

「まだ冒険中だ」

 肩を、軽く後ろに引いて、誘導する。

 俯いた青年戦士は、「クソッ‼︎」と悪態をつく。

 段々と右手が熱を帯びてきた。

 指先が、わずかに震えている。

(やりすぎたか、俺)

 思考の隙間が、広がる。

(違う。俺は間違ってない)

 怒りで塗りつぶすように、盾鉱人の左手を、右手で払った。

「油断して怪我した役立たずが、偉そうに指図すんな」

 青年戦士が、早歩きで前衛へ戻っていく。

 彼の背中を見送りながら、盾鉱人は、短く息を吐いた。

 左手で、盾を握り込む。

 皮膚を突き破るような痺れが、肘まで這い上がってくる。

 感覚は、まだある。

「……ごめん、止めきれなかった」

 棒立ちしていた武闘家が頭を下げた。

「何故あんたが謝る」

「それは、その」

 口を開いて、また閉じる。

「ごめん」

 言葉は続かなかった。

 口を紡ぎ、頭を軽く下げ、武闘家は青年戦士を追いかけていく。

 揺れる黒髪が、陽炎のようにも見えた。

(背負わせたか……?)

 前を通り過ぎる横顔を見つめて、思考が一瞬冷えた。

 けれど、

「私も、ごめんなさい。カッとなった」

 魔術師の謝罪で、意識を切り替えた。

 聞こえるように、わざと、大きなため息をつく。

 魔術師は、びくっと肩を振るわせる。

「お前は、賢い」

 振り向いて、彼女と視線を合わせた。

「だから色々なことに気が付く」

 負けん気の強い、けれど不安に揺れている瞳と目が合う。

「が、言葉にするのは今じゃない」

「ああいうやつは、死ぬ」

 こぼれ落ちそうなほど見開かれた緑の瞳を、正面から見つめて、目を逸らす。

「実際に死んだやつを知ってる」

 腰の斧柄を、握り込む。

 鉄兜が少し俯いた。

「盾鉱人さん?」

 女神官が盾鉱人の顔を覗き込むように、近付いてきた。

 兜が彼女に向く。

「……行くぞ。二人とも俺から離れるな」

 小さくかぶりを振って、盾鉱人は歩き出した。

 顔を見合わせた二人は、魔術師、女神官の順番で歩き出す。

 その顔に、不安は覗くが、足取りは乱れていない。




短くて申し訳ないです。GW中にもう一話投稿するのが目標です。
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