ゴブリン退治に向かう新人達とドワーフの話   作:お前の隣の後ろの斜め右

4 / 8
まだ手直ししたいところだらけですが、とりあえず投稿します。


第四話 必然

               0

 遠くで、水の跳ねる音がした。

 洞窟は、奥へ進むにつれて、湿気と獣の臭いが強くなる。

 砂利や、かろうじてあった苔の色彩も無くなり、ただ灰色の岩肌が続くのみだ。

「二人とも、もう少し速度を上げれるか」

 盾鉱人は彼女達の後ろから、小さく声をかけた。

 歩調が速まる。

「あいつ、本当に、ダメね」

 息を上げながら、魔術師が先頭を睨む。

 青年戦士の持った松明が、彼と武闘家を照らしているのが見えた。

 武闘家は後ろを気にして歩調を変えるが、青年戦士はすぐ自分のペースに戻る。

 後衛は遅れて、先ほどと状況が似ていく。 

「いざとなれば、俺が抱えて走る。無理するな」

 振り向いた二人と、目があった。

「何だ?」

「いえ」

 肩をすくめた魔術師が、シニカルに笑った。

「身体を触られたくないって」

「そういうわけでは、」

 盾鉱人は顎に手を当てる。

「確かに配慮が足りていなかった。すまない」

 魔術師の羽織るケープを指差す。

「なら、いざという時は、そのケープを貸してくれ」

「……何で?」

 魔術師が訊ねる。

「ケープで包んで、抱えて走る」

 二人が同時に吹き出した。

 盾鉱人が不満そうな顔をする。

「直接触れていないだろう」

 疑問と確認の混ざった声色に、魔術師の声が少し弾む。

「ちがうちがう。緊急時なんだから別にどう抱えても良いわよ」

「さっきのは、冗談」

 貴方って天然?と魔術師は付け足す。

「私は『盾鉱人さんにまた頼っちゃうな』って思ったんです」

 少し口角が緩んだ顔で、女神官もはにかむ。

「……そうか」

 盾鉱人は、むっつりと黙った。

 その様子を見て、彼女らは押し殺すように笑い合う。

 (縮こまるより、数倍マシだ)

 やることがなくて、前を見る。

 青年戦士の背中が見えた。足は止まっていない。

 (問題は——-)

 水の跳ねる音が、また聞こえた。

      

              1

「通常種、まだ来るぞ‼︎」

 盾鉱人は盾を構えながら、声を張り上げた。

 視界の端で、青年戦士がゴブリンを袈裟斬りにした。

 青年戦士は高揚した表情で、次の獲物へと向かう。

 今の彼の剣筋は鋭い。鋭過ぎるくらいに。

「GAAAAA‼︎」

 巨躯を揺らして、ホブゴブリンが棍棒を振り下ろしてくる。

 盾の角度を調整し、衝撃を横に受け流す構えを取った。

 盾と棍棒が擦れて、火花が散る。

 轟音と共に、石片が撒き散らされた。

 巻き込まれたゴブリンの断末魔を聞き流して、左手を確認する。

(師匠なら、そのまま返せてたんだろうが)

 毒に侵されて、今の衝撃を逃しきれずに悲鳴を上げ始めている。

 小さく舌打ちをして、ホブを視界に捉えたまま目線を巡らせた。

 視界の端で青年戦士が、また1体斬り伏せていた。

 彼の口元に浮かぶ、愉悦の笑みが、深くなる。

(熱に、当てられている)

 奇襲に気付いたのは彼だ。

 動きも的確だった。

 だからこそ、まずい。

「G I、G」

 青年戦士の死角から、鎌を持ったゴブリンが飛びかかる。

 声もあげず、静かに忍び寄ったので、彼は気付いていない。

 ゴブリンが、醜悪な笑みを顔に浮かべる。

 そして、後ろから迫った神速の蹴りに、意識ごと命を刈り取られた。

 武闘家が残心を取る。

 目も血走る想い人を、心配そうに一瞥して、低い姿勢で走りだす。

 女神官に迫るゴブリンを、勢いの乗せた掌底で吹き飛ばす。

「この‼︎」

 吹き飛ばされて伸びているゴブリンに、魔術師が、盾鉱人の手投げ斧を振り下ろす。

「GBRッ」

 鋭く研がれた斧は、非力な魔術師が振るっても、トドメ刺すのに充分な威力を発揮した。

「ありがと」

 引き攣った頬を無理やり上げて、笑みを武闘家に向ける。

 武闘家は無言で微笑んで、頷いた。

「怪我はないですか?」

「大丈夫」

 女神官の問いに短く答えて、駆け出す。 

 青年戦士の死角に入り込んだゴブリンを、また1体仕留めた。

 盾鉱人はホブゴブリンを睨みつける。

 ホブゴブリンが唸る。

 青年戦士は、相変わらずゴブリンを斬り続けており、武闘家の援護には全く気が付いていない。

 後衛組は動かない。術の機をうかがっている。

 崩れるなら、どちらか、だ。

 ホブゴブリンが近くのゴブリンを投げつけてきた。

 無造作で、仲間のことなど考えてもいない力加減だが、だからこそ、当たれば隙ができる。

 盾を構えて腰を落とす。半歩だけ踏み込んだ。

 ゴブリンが飛んでくる。

 激突の瞬間、盾で大きく、弾いた。

 腕へ衝撃が来る前に、自ら後方に、跳ぶ。

 軌道を変えた肉の弾丸が、盾鉱人のすぐ脇を通り抜けて、壁に激突する。

 悲鳴を上げることもなく、洞窟のシミになった。

(毒だから、は言い訳か)

 受けるのではなく、逸らしに変えた。

 けれど、指先からの感覚が一瞬途切れた。

 じんわりと、痺れが戻ってくる。

 布から、血が滲む。

「俺なら、やれる‼︎」

 顔を上げる。

 意識が左手に持ってかれていた。

 目の前を青年戦士が通り過ぎる。

「やめろ‼︎」

 叫びながら追いかける。

 後ろを首だけで確認した。

 ゴブリン達はほとんど残っていなかった。

 目線を戻す。

 距離は離れている。左手は、使えない。

 ニタニタと嗤う、ホブゴブリンの顔が目に入った。

 咄嗟に、盾裏から手投げ斧を投げつける。

 空気を切り裂き、青年戦士も追い抜いて、巨躯に迫る。

 当たる直前で左手で斧を防がれた。

 痛みに顔をしかめるが、すぐに醜悪な笑みを取り戻す。

 盾鉱人は奥歯を噛み締める。

 ホブゴブリンが棍棒を振りかぶる。

 右手だけとは思えない、重い、『致命の一撃』が放たれる確信。

 突然、青年戦士が足を止めた。

 長剣の切先を、地に向けて逆手に構える。

 視線は、棍棒に固定された。

 じっと動かず、何かを待っている。

 盾鉱人は、目を細めた。

 腰は落としているが、柄を半端に握り、切先が呼吸に合わせてブレている。

 何より、足捌きが滅茶苦茶だ。

(あれは、駄目だ)

 速度を上げるために、姿勢を低くして、

(いや、待て)

 すぐに身体を起こした。

『やっぱり頭には向いてないわ、貴方』

 さきほどの言い争いで、魔術師が言い放った言葉が脳裏を掠めた。

 言い方自体はかなりキツイが、青年戦士に対する、彼以外の一党全員の共通認識でもある。

 盾鉱人は小さく、ため息を吐く。

 言葉では伝わらなかった。

 なら、身体で覚えてもらうしかない。

 あの型なら、一撃は耐える。

 (勉強料だと思え)

 青年戦士の背中に向けて、心の中だけで吐き捨てる。

 『先祖帰り』の持つ棍棒が、わずかに軋んだ。

 盾鉱人は、盾の帯をほんの少しだけ、ゆるめる。

 指先に、暖かさが戻る。

 確かめるように、左手を開いて、閉じる。

 小さく頷いて、視線を戻した。

 ——-からころ、と賽の目が転がる音が、聞こえた。

 誰かの、何かが、確定する。

「!!、待て!!」

 自分の横を、残像を残して、影が追い抜く。

 視線が追うよりも早く、心臓が跳ねた。

 盾鉱人は、地面を蹴る。

 影はさらに、加速した。

 

              2

 ホブゴブリンが棍棒を、振り下ろして来る。

(来る‼︎)

 何度も読み直した、ボロボロの絵巻物を思い出して、青年戦士の心臓が高鳴る。

「う、おぉぉぉ‼︎」

 恐怖を、声で誤魔化す。

 からころ、と耳なれない音が、聞こえた気がした。

 棍棒が迫る。

 意識が、そこに集束する。

 剣にぶつかる瞬間、影が、飛び出してきた。

 青年戦士に、横からぶつかる。

 やけに軽い。

 衝撃で、横に転ばされる。

 剣の先が何か、柔らかいものに触れた。

 布の感触。

 黄色が視線を掠めた。

 影が、一瞬もたついた。

 棍棒の軌道が、わずかにズレる。

 青年戦士の頭の上で湿った音がする。

 何かが、壁に飛ばされて、地面に落ちた。

 青年戦士は、地面に身体を投げ出している。

 手からは剣が離れていた。

 身体を起こして、後ろを振り返る。

 押された痛みより、邪魔の入ったことに対する苛立ちで、眉間にシワが増える。

 後衛組を見る。

 盾鉱人は必死な形相で走り寄り、魔術師と女神官は青褪めた顔でこちらを眺めていた。

(邪魔しやがって)

 苛立ちを飲み込んで、剣を拾う。

(やっぱりあいつ、一党にいらねえ)

 転んだ拍子に切った口内の、血を地面に吐き捨てる。

「……集中しねえと」

 どういう訳か、ホブゴブリンは一撃を加えたあと、動かずに待ってくれている。

「そういうことかよ」

 さっき押してきたのは、おそらくゴブリンだ。

 証拠に同士討ちで動きが止まっている。

(なら、チャンスだ)

「やっと運が回ってきた」

 もう一度、切先を地面に向けて、先ほどの構えを取る。 

 しかし、ホブゴブリンは棍棒を下げていた。

 薄ら笑いで、こちらを伺っている。

 汚い指で横を指し、三日月のように笑い、黄色い歯が覗いている。

 黄色い目だけが、やけに光っていた。

 何も考えずに、指の方向を向いた。

 あの光景を、青年戦士は、絶対に忘れられない。

 道着姿、黄色いスカーフ。

 そして、黒髪。

「……え?」

 動けなくなった。

 目の前の情報を処理しようとして、呆然と立ち尽くす。

 スカーフは血で染まり、四肢は肉の袋のように投げ出されている。

 腕に赤い線が見えた。

 咄嗟に剣を見る。

 切先に、うっすらと、血がついていた。

 もう一度、「彼女」を見る。

 こちらに背を向けて、ぴくりとも動かない。

 漏れ出た液体が、赤黒い血溜まりを作り始めていた。

 髪飾りが、からころと転がった。

「あぁあぁぁあ‼︎」

 慟哭が、響く。

「GYAYAYAYAYAYA‼︎」

 のぶとい、耳障りな、ホブゴブリンの笑い声と被さる。 

「クソ‼︎撤退するぞ‼︎」

 盾鉱人は、盾を構えた。




ネタはあるのに、上手く書けない…。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。