ゴブリン退治に向かう新人達とドワーフの話 作:お前の隣の後ろの斜め右
追記:少しだけ修正しました。
「ホブ1、ゴブリン19」
鉄のような声色で、ゴブリンスレイヤーが呟く。
スリットから、見えないはずの暗闇を睨んでいる。
「残りはシャーマン、だったか」
ほんの少しだけ、兜が盾鉱人を向く。
慌てて返事を返した。
「ああ、他にもいるかもしれないが」
艶のない鉄の頭蓋が、僅かに上下に揺れる。
「無論だ。奴らは間抜けだが、馬鹿じゃない」
横穴にも注意しろ、と洞窟の奥へと一歩踏み出す。
「ねえ、盾鉱人」
魔術師が隣に並ぶ。
「あいつ信じていいの?」
目線は、前を行くゴブリンスレイヤーに向けられている。
聞こえるか聞こえていないか微妙な距離だが、こちらを気にしている素振りはない。
「等級証はお前も見ただろ」
彼女に釣られて、こちらの声量も小さくなる。
「それにあの手際は、ただの素人ではない」
魔術師が眉をひそめた。
「それは、そうだけど」
列が乱れるぞ、と魔術師を促す。
しぶしぶ戻る魔術師と苦笑いを浮かべる女神官を横目に、先頭のゴブリンスレイヤーを観察した。
「見せろ」
彼と合流した後、まず確認されたのは、盾鉱人達の傷だった。
後衛組を、会話と目視で問題なしと判断。
盾鉱人と目が合った瞬間に、無理やり解毒薬を渡された。
手渡す時に、何やら盾を凝視。
「何だ」
盾鉱人は訝しげに盾を確認した。
いつの間にか、黒ずんだ染みが、薄く残っていた。
ゴブリンスレイヤーが、おもむろ青年戦士に近付く。
「待て、そいつは」
止める間も無く、灰色の腕が伸び、青年戦士の首に巻き付いた。
青年戦士の喉から漏れる、管に何かが詰まったような音。
剣を振おうにも、足で手をロックされて、暴れることしかできない。
徐々に手足から力が抜けて、静かになり、仰向けに倒れた。
「死体はもう殺せない」
吐き捨てながら青年戦士を縛る、ゴブリンスレイヤーからは、温度を感じられなかった。
「俺はゴブリンを殺しに行く」
お前らはどうする、とゴブリンスレイヤーが訊ねて来た。
青年戦士を絞め落とした、その手で、武闘家の遺体を丁寧に隠しながら。
盾鉱人は赤く、光るような視線に、無意識のうちに盾を構えて、仲間の前に立った。
彼の、鉄の頭蓋からは、暗くて強い、意志の力しか感じられない。
「止まれ」
顔を上げる。
ゴブリンスレイヤーが女神官と何やら話していた。
「俺の合図で、《聖光》を打て」
「は、はい」
女神官は、胸の前で、杖を握った。
全周兜は魔術師を向く。
「お前の《火矢》はシャーマンに打つ。備えろ」
彼女が頷いたのを見て、こちらを向いた。
「俺と来い。それとーーー」
スリットの奥の瞳と目が合う。
「……承知した」
斧の柄を握りながら、応える。
彼が、前に向き直った。
「いくぞ」
静かに、足音を立てずに進む。
盾鉱人のまばらな視界に、広場が見えてきた。
ゴブリンスレイヤーが手で制す。
一度、足を止める。
足元に、黒焦げの昆虫が転がっている。
「誘っているな」
昆虫を踏み潰して、ゴブリンスレイヤーが呟く。
左手が、じくり、と痛む。
こちらを見るゴブリンスレイヤーに頷けば、彼は女神官を一瞥した。
『やれ』
短く、手信号で指示が飛ぶ。
「『いと慈悲深き地母神よーーー』」
ゴブリンスレイヤーと同時に、飛び込む。
「《聖光》」《ホーリーライト》
詠唱の瞬間だけ、目を瞑る。
聖なる光に照らされて、ゴブリン達の姿があらわになった。
同時に、嬲られたであろう犠牲者の姿が、一瞬だけ見える。
「ゴブリン、3」
ゴブリンスレイヤーが呟く。
押し殺したような笑い声を、鼓膜が拾う。
「左に固まっている‼︎」
不快感を飲み込んで、盾を左のゴブリン達に投げつけた。
盾が宙を舞う。
(『投げろ。不意をつける』)
脳裏を、鉄の声がよぎった。
「《射出》」《ラディウス》
ゴブリンの集団の中から、慌てた、しゃがれ声が聞こえる。
炎が飛んだ。
盾鉱人の盾を、敵の《火矢》が、正確に、しかし無意味に射抜く。
火矢が盾を呑み込み、爆炎が舞う。
「《矢・点火・射出》‼︎」《サジタ・インフラマラエ・ラディウス》
その音を切り裂くように、魔術師の凛とした声が響いた。
爆炎の合間を縫って、透明な響きをまとった《火矢》が、赤い蛇のような軌跡を描く。
「GAAAA‼︎」
歪んだ杖を持つ、シャーマンに命中する。
「よし‼︎」
魔術師から笑みが溢れる
群れの奥で、黄色い瞳が光った。
「まだだ‼︎」
盾鉱人は叫ぶ。
「《矢》」《サジタ》
まばらに見える暗闇の中、先ほどとは別の、杖を持ったゴブリンがいた。
ニタニタと、粘着質な笑みを浮かべている。
魔術師の目が、見開かれた。
(やられた‼︎)
咄嗟に右手の斧を投げつけようとして、振りかぶる。
だが、動きが止まった。
盾が無い今、斧を手放してしまえば、残りのゴブリンとどう戦えば良いのか。
頭の奥で『見捨てろ』と声が響いた。
「《点火》」《インフラマラエ》
逡巡のうちに、シャーマンの詠唱が進む。
(もう、繰り返さん)
覚悟を決めて、斧を振り上げた、瞬間だった。
「《射ぃ、」
突然、シャーマンの頭に、剣が突き刺さった。
真言が途切れて、杖の先に溜まった魔力の玉が飛散する。
「シャーマン、2」
飛んできた方向で、ゴブリンスレイヤーが、ゴブリン達を棍棒で叩き潰している。
武器が、剣から棍棒に変わっている。
「奴らは、よくやる」
二重罠だ、と呆然とする盾鉱人を一瞥して、喋り掛けた。
「まだいるぞ」
困惑し始めたゴブリン達を睨みつけて、ゴブリンスレイヤーは低く、駆け出す。
棍棒を振るうたび、骨の砕ける音と、奴らの断末魔が響く。
「ゴブリンどもは、皆殺しだ」
そこからは、一方的だった。
伏線貼るの難しい。
追記:読み易くするのも難しい。