ゴブリン退治に向かう新人達とドワーフの話   作:お前の隣の後ろの斜め右

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短めです。


第七話 覚悟

 

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 盾鉱人は煤こげた盾を拾う。

 煤が目立つ。右手で軽く払って、帯を握る。

 息を、短く吐いた。

「盾鉱人‼︎」

 泥で汚れたケープをはためかせて、魔術師が駆け寄って来た。

 緊張と高揚の汗が乾き、じっとりとした湿度が彼女の肌に張り付いている。

『見捨てろ』

 かぶりを振る。

 自分のものとは思えない、突き放すような冷たい声だ。

「怪我はない?」

 こちらを覗き込む魔術師の、負けん気の強い視線を受け止めた。

 数秒受け止めたが、すぐに盾へ視線を逸らした。

 盾の、煤とは違う黒い染みが、6本足をかたどっている。

 先ほどの、ゴブリンスレイヤーとの会話を思い出す。

(『シャーマンは、マーキングを付ける』)

 盾を、ながめる。

 染みが、段々と収縮して、煙となって消え始めている。

(『投げろ。不意をつける』)

 魔術師が、黒い煙を手ではらった。

「大丈夫だ」

「お前も無事か」

 兜だけ、無理やり魔術師に向けて訊ねた。

「ええ、大丈夫」

 彼女は微笑んで、しかしすぐに表情を引き締めた。

 ゴブリンスレイヤーの背中を見つめる。

「行こう」

 盾鉱人は、一歩踏み出した。

「ええ」

 すぐ後ろに、魔術師が続く。

(俺に、あれは、できない)

 盾は、本来何かを、誰かを守るものだ。

 それを、作戦とはいえ捨てるなんて、考えもしなかった。

 左手を、握り締める。

(それにこの盾は、俺の、)

 布から血が滲んできた。

 痛みに、わざと眉を寄せた。

 

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「17」

 ゴブリンの頭を棍棒でかち割りながら、ゴブリンスレイヤーは呟く。

 盾鉱人のカウントとはまた違う、作業として特化された響き。

 彼の後ろで、少しだけ女神官が眉をひそめた。

 鉄の頭蓋が、頭から剣を生やしたシャーマンを覗き込む。

 横長の瞳に全周兜が映り込んだ。

「GOOOAA‼︎」

 突然、頭から剣を生やしたまま、シャーマンが起き上がった。

「やはりな」

 ゴブリンスレイヤーは冷徹な声色のまま、棍棒を振るう。

 ゴッ、っと歪な音を立てて、ゴブリンの顔が鼻まで沈んだ。

「18。上位種は無駄にしぶとい」

 左手で剣を引き抜いて、右手の棍棒の血をはらう。

「これで全部、ですか?」

 ゴブリンスレイヤーに近づいた女神官が、杖を握りしめながら、訊ねる。

 後ろを振り返る。

 盾鉱人たちと目が合った。少し、眉から険が取れる。

 深呼吸をしながら、前を向いた。

 ゴブリンスレイヤーが、足元を見ていた。

 彼の視線に釣られる。

「‼︎」

 そこには、裸の、若い女性が転がっていた。

 自分と同じ年齢くらいで首から認識証がぶら下がる、白磁の証。

 汚物と体液に塗れて、暗い無表情のまま。

 身体中に、凄惨な跡が残っていた。

「死んでいる」

 ゴブリンスレイヤーが立ち上がる。

 手には認識証を握っていた。

「いと慈悲深き地母神よ……」

 女神官は震える声で、跪いて祈りを捧げる。

 ゴブリンスレイヤーは、じっと彼女を見つめていた。

 ふいに視線を外して、歩み始める。

「……奥に進む」

 ぶっきらぼうに、彼女の背中へ声を掛けた。

 歩きながら、剣を鞘に押し込む。

「修羅」

 女神官に追いついた盾鉱人が、つぶやく。

「修羅?」

 魔術師の問いに、盾鉱人の鉄兜が縦に揺れる。

「遠方の神話に出てくる、戦神」

「転じて、いつでも心が戦場にいる者を指す場合もある」

 女神官が、顔を上げた。

「それ、は」

 鉄兜は、ゴブリンスレヤーの背中を見詰める。

「ああいう手合いの末路は、二つに一つだ」

 盾鉱人は、息を吐く。

「戦場で死ぬか、誰かに連れ戻してもらうか」

 女神官が息を呑む。

 鉄の頭蓋の、赤い飾り毛が揺れた。

「先ほどは、助かった。礼を言わせてくれ」

「ああ」

 ゴブリンスレイヤーに追いついた盾鉱人の感謝を、彼は見向きもせずに受け取る。

 少しだけ、全周兜が盾鉱人に傾いた。

 足が、遺体から少し離れた広場で止まる。

「お前が頭目だろう」

 見ておけ、とゴブリンスレイヤーが半身を避けた。

 女神官と魔術師も、盾鉱人の後ろから、覗き込む。

「何ですか、これ」

 女神官が溢す。

 一見すると、ただの椅子。

 けれど、骨を組み合わせて出来ており、トーテムとは違い、獣の物だけではない。

「人の、骨」

 魔術師が、口を手で覆った。

 ゴブリンスレイヤーが、椅子を蹴り壊す。

「定番だ。見てみろ」

 蹴り壊した先に、何かを隠すように板が張られていた。

 ばきり、と板を剥ぎ取り始める。

「……手伝おう」

 盾鉱人が、斧で板を壊す。

「ああ」

 短く、彼が頷く。

 五枚ほど、板を強引に外していく。

 最後の一枚がばきりと剥がれる。

 空洞が広がっており、奥を松明で照らした。

 女神官は、目を見開く。

 暗闇に、ゴブリンの子供が浮かぶ。

「g……」

 つぶらな瞳でこちらを見ている。

「奴らはすぐ増える」

 誰かが口を開く前に、ゴブリンスレイヤーは一歩前へ出た。

「もう少し遅ければ、50匹ばかりに増えて襲ってきただろう」

 女神官と魔術師の顔が青ざめる。

 盾鉱人は強く、斧柄を握り込む。

「子供も、殺すんですか……?」

「当たり前だ」

 ゴブリンは、縋るような目線で女神官を見つめた。

 目線に、ゴブリンスレイヤーが割り込む。

「奴らは恨みを一生忘れん。それに巣穴の生き残りは学習し、知恵を付ける」

 盾鉱人が、斧を鞘から抜いた。

「それが、ホブやシャーマンになる」

 全周兜が、鉄兜を横目で捉えた。

「そうだ。生かしておく理由など一つもない」

 ゴブリンスレイヤーが棍棒を振り上げる。

「善良な、ゴブリンがいたとしても?」

 盾鉱人が、暗闇に踏み出す。

「善良なゴブリン」

 鉄の頭蓋の中で、言葉が転がる。 

「いるかもしれん」

 断末魔と骨の砕ける音。

「だが」

 肉と骨の裂ける音。

「人前に出てこないゴブリンだけが、良いゴブリンだ」

 気づけば、女神官は嗚咽していた。

 固く、両手で祈りながら。

「これで、22」

 自分を抱きしめる、震える魔術師のぬくもりを感じながら。

 しばらく、洞窟には二人の嗚咽だけが響いた。

 横を、血濡れのゴブリンスレイヤーが通り過ぎる。

 足音が、彼女達の横で止まる。

「神官どの、魔術師どの」

 顔を、上げた。

「帰ろう」

 丸く、切り取られたような、柔らかい言葉。

 鉄兜で隠された琥珀色の瞳が、確かにこちらを捉えていた。

 止まりかけていた嗚咽が、また少し漏れ出してしまう。

「は、ぃ」

 声にならない声で、二人は、深く頷いた。

「運が良い」

 彼らを見ながら、ゴブリンスレイヤーは呟く。

 初の冒険で、上位種が3体いる巣穴に潜り、犠牲は出しながらも、踏破した。

 ーーー上々だ。

(自分の時はどうだっただろうか)

「本当に、運が良い」

 言葉は洞窟に、沈んで消えた。

 松明の光が、柔らかに、彼を照らし出していた。




シャーマンのマーキング呪術はオリジナルです。
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