ダイエットラーメンの開発期限一週間。
初日の夜、店舗の上にある居住区、そこの俺の部屋にレントたちには集まってもらった。
話し合い……というよりは、ラーメンを作るのに必要な材料を発表した。
結果、レントは恐怖で顔を引きつらせて。
アホのルミナスはキラキラと目を輝かせていた。
ダイエットラーメン製作に必要な材料集めは翌日から開始した。
勿論、臨時で店を休む事は常連たちには伝えてある。
そして、店の前にも張り紙を出しておいた。
レントは麺の作製に必要な材料を買い出しに行かせて――俺たちといえば。
「師匠!! この上で間違いないんですね!?」
「あぁ、この山の頂上に――
標高5000メールを優に超える山。
その切り立った崖を腕力だけで登っていく。
片や鎧を着こんだ女騎士に、片や三十歳を超えたおっさんだ。
持っているものといえば、伸縮自在のロープに剣が一本。
それも市場で安売りしていたなまくらだ。
凍えるような寒さ。
その頂上は此処よりも遥かに熱気に満ちているだろう。
それもその筈であり、あの煉獄鳥が住処にしているからだ。
煉獄長といえば、全長は五十メールを優に超え。
全身に鋼鉄をも溶かすほどの炎を纏った鳥型の魔物。
ギルドで発行されている魔物図鑑では、その危険度は“星7”だ。
一番上が星10であり、一番下は星無し。
星無しは魔物でも人間にとっては脅威ではない個体を指し。
星1から人間に危害を加える恐れがある個体になる。
星3までが、冒険者の中でも、熟練の存在が相手にする個体で。
恐らく、ギルドの中でもトップクラスの冒険者でも星5が精一杯だろう。
良くて6であり、7は恐らくはトップ冒険者たちが徒党を組んで挑む強敵。
そんな強い魔物相手に俺たちはたった2人。
素人からすれば、明らかに無謀だと思うだろう。
が、俺もルミナスも星6や7なんてのは当たり前に戦ってきた。
一人でも十分な相手で、油断はしていないがなまくらでも戦える。
そのまま勢いを衰えさせる事無く。
俺とルミナスはノンストップで崖を登っていく。
登って、登って、登って――遂に、山頂へとたどり着く。
「流石に……あちぃな」
「はい! 熱々です!」
途中から気温が明らかに変化していた。
山頂へと近づくほどに熱くなっていき。
山頂につけば、中心の魔物の骨で作った巣を中心に熱気が噴き出していた。
火山のすぐ近く、いや鉄鍋の中で炒められる材料みてぇな感じだ。
俺はたらりと汗を流しながらも、剣の柄に手を置き一歩を踏み出して――瞬間、凄まじい殺気が駆け抜けていく。
「――――ッ!!!!!!」
「師匠、来ます!」
「……そこにいろ。俺がやる」
「師匠? ですが」
「――お前は荷物持ちだよ」
俺はそれだけ言って――駆ける。
瞬間、骨の住処から炎の柱が噴き上がる。
そうして、その炎が鳥の形を成し――襲い来る。
紅蓮の炎が無数に放たれて。
それが瞬きの合間に眼前を埋め尽くし――駆け抜ける。
一歩の踏み込みで、間合いはゼロ。
煉獄鳥は鳴き声をあげながら、俺の足元から炎を――空を飛ぶ。
奴の攻撃を回避。
そのまま空を蹴りつけて空を飛ぶ。
奴の炎の攻撃は無限に放出されて。
それが執拗に俺を狙う。
空を飛び――回避。
回避、回避、回避回避回避回避回避――周りが炎に包まれる。
俺はその全てを視界に納めて、剣の柄を握り――抜剣。
一太刀にて全ての炎をかき消す。
ただの斬撃による風圧。
が、刃の形を成した切断の効果を持った風の刃。
見れば煉獄鳥の体も切れていて――再生。
そのまま奴は翼を広げて――炎の竜巻を発生させる。
蜃気楼が見えるほどに空気中と地上の水分が蒸発し。
魔力を薄く纏っている俺の皮膚は乾燥していく。
凄まじい熱気、鋼鉄をも溶かす炎の渦。
俺はそれを見て――突っ込む。
連続して空を蹴り、速度を上げる。
加速しながら、俺は剣を鞘へと納める。
そうして、静かに吐息を吐き――
「――
「――――ッ!!!」
技の名を呟き――両断。
炎の竜巻を炎を纏わせた斬撃によって切断。
そのままその隙間を通過し、静かに剣を鞘へと納める。
煉獄鳥は再生を試みただろう。
が、炎はパラパラと四散し消えて行く。
魔物にとっての心臓――核を砕いた。
如何に、無限に再生が出来る存在でも。
核を精確に砕かれれば再生は出来ない。
奴は最後の抵抗にと炎を噴き出し――地上から青白い魔力の太い線が走る。
「師匠!」
「……けっ」
馬鹿みたいな魔力を使った単純な魔力の放出。
それによって煉獄鳥の最後の抵抗もかき消されて。
俺はゆっくりと山頂に着地する。
遅れて煉獄鳥の死体が山頂にて激突した。
俺は服についた火の粉を手で払う。
そうして、静かに息を吐き――
「うし、じゃアレを担いで――“
「はい!!」
ルミナスはびしりと敬礼。
煉獄鳥を見れば、炭のように真っ黒な皮膚が露になっていた。
毛は無くつるつるで、見かけは鳥の丸焦げであるが。
ほとんどの奴は煉獄鳥の本体があんな姿なんて知らない。
およそ、食欲をそそらねぇ見た目だが……こいつは絶対に必要だ。
肩にたすき掛けしていたロープを展開。
そのまま、死体へと近づいて――
◇
煉獄鳥の討伐、そして地獄谷に行っての大掛かりな仕込み。
それを終えて、街へと帰還し。
レントと合流して、これからの段取りを伝えて――夜の八時。
「……で、これって使えるんすか?」
「あぁ勿論。食感はちっと変わるが、それもまた面白れぇんだよ」
「見かけはあまり変わりませんねぇ?」
俺はレントとルミナスの視線を受けながら。
厨房にて、黄色い塊をコネコネと練っていた。
レントが買って来てくれた材料を合わせて麺の生地をこねている。
「でも、何で麺まで新しく作るんですか? 別に対して変わらないじゃ……」
「確かに、油であれば分かりますが、別に麺には油なんて使いませんしね。うーん」
二人は俺の麺づくりに疑問を抱いている。
俺は知らなければ分からないだろうとくすりと笑う。
「まぁ、これはおやっさん……俺の師匠の受け売り何だがな。料理ってものには、糖質とか脂質、たんぱく質ってもんがあんだよ。簡単に言えば、糖質は甘いって感じるもんで、脂質は油とかだったか? たんぱく質は、肉とかのあれだよ……で、だ。今まで作ってたラーメンの麺ってのはな小麦粉で作ってただろう? アレってな。実は結構、太りやすいんだよ」
「……えっと、それって……脂質ってのが多いって事ですか? いや、でも、別に油っぽくは」
「だよな! 俺もおやっさんにそう言ったんだよ。そしたらさ、脂質も太る事に関わってるが、実際には糖質ってのも問題らしい……その糖質が、小麦を使った麺には割と多いんだよ」
「……あぁ、確かに。パンなども良く噛んで食べれば甘いですよね!」
「あぁ、そうか……じゃ、麺の材料、そのおから? の粉に変えれば」
「そ! おからは豆腐を作る過程で出来るカス……って言ったらあれだけどよ。兎に角、元が豆腐だからな。豆腐ってそんなに甘くねぇだろ? それに、昔から豆腐は痩せるのにいいらしい。一回だけ、おからの粉を捨てようとしてるのを見て、それを豆腐屋から譲ってもらってな? それで麺を作ってみたんだがな。これがまぁ中々の出来でよぉ……ほら」
「「おぉ」」
綺麗に丸めたおからの粉で作った生地を見せる。
見かけは今までの麺と同じだ。
ちょっとつるっとして、柔らかめになっちまうが。
あのスープさえあれば、それも心配はいらねぇ。
「後は、麺を伸ばして綺麗に切って行って……それと、煉獄鳥の肉をたれに漬け込んでおけばいい……まぁ染み込むまでには三日は掛かっちまうがなぁ」
「そ、そんなにっすか?」
「あぁ、まぁ魔物ってのはな色々と面倒でよ。上手い事使えれば、美味いのは美味いんだが、色々と手間暇が掛かっちまう……なるべく、素早く提供できるものがベストだったが……まぁお客さんの願いを叶える為ならいたしかたねぇよ」
もしも、これから注文が増えるのであれば。
定期的に煉獄鳥を仕入れる必要がある。
が、調達自体は別に難しくはねぇ。
煉獄鳥はそれなりに数はいる。
人里にも滅多に現れないからこそ、結構、繁殖しているらしいからな。
恐らく、今のストックが尽きた頃には、あの山頂にまた別の煉獄鳥が住み着いているだろう。
アレほどに奴らにとってベストな環境は無い。
凍えるような寒さであり、空気は薄く、雨の影響も受けない。
……まぁ好立地だからこそ、中々の存在しか済まねぇがな。
あの骨の山は他の煉獄鳥のものだろう。
縄張り争いは頻繁に起きていた。
が、別に俺たちにはどうでも良い事で……よし。
「おぉ、良い感じっすね」
「うぅ、美味しそうです!」
「……まだ食うなよ?」
俺は涎を垂らす馬鹿を警戒する。
綺麗に果物ナイフで斬られた生地。
完璧な長さであり、ほどよく弾力もある。
一応、この後、試しゆでしてからこいつらに試食してもらう。
スープ無しで申し訳ないがな。
「ふぅ、これなら何とかなりそうだな」
布で汗を拭う。
俺は頭の中で、お客さんが喜んでくれる顔を想像し――頬を綻ばせた。