翌日。
「…昨日ぶりですね、海斗さん。」
「よう…誰だっけ?」
「僕は要高貴です。」
昨日の時点で幹部の一人と待ち合わせをしていた。
「そうか。他の幹部たちは?」
「もう準備をしてますよ。」
窓の奥を見ると、飛行機が散見できる。
そう、ここは空港だ。
俺たちは3つのグループを作って下準備をすることにした。
1つは遠征組。
空港でとある場所に向かうつもりだ。
2つ目は監視組だ。
オイルリグ周辺に動きがないか監視する組だ。
3つ目は留守番組。
都市内で待機する組だ。
そしてここは遠征組。
「やっほー!君が海斗君?」
ん、誰か走ってくる…ん?
「なんかおちゃらけたのが来たな。昨日うるさかったやつか。」
改めて思ったが、いかにもギャルっぽいな…
「改めてらあーしは雛森 奈々。よろしくぅ!」
…絡みづらいな…
「さて。あと一人は…」
すると、黄土色の髪をした青年が歩いてきた。
「来たよー。」
「…なるほど外人か。」
多分この人は昨日の会議参加してなかったな。
「そう。僕はジョン。よろしく。」
「よろしく。」
俺は握手した。
というか日本語喋れるのはありがたい。俺英語使えないし。
「ちょっとちょっと、あーしとも握手しよ!」
「はいはい。」
……絡みづらい…………
これがコミュ障の宿命か。
お、きたきた。
「てかさ、どうしてオーストラリア行きの飛行機に乗るわけ?」
「確かに…しかもシドニーじゃなくてブリスベンに…観光にでも行くんですか?」
「そこら辺はひとまず着いてからだな。」
「ええ!今すぐ教えてよぉ!」
俺はその叫びを無視して歩いていった。
飛行機に乗り込むと、案外人は多かった。
オーストラリアも人気なんだな。あなどってたぜ。
というか…
「飛行機に乗るの初めてなんだよなぁ。」
「えぇー?」
「僕たちも、プライベートジェットしか、乗ったことない。」
プライベートジェットなんてあるのかよ。さすがギャング。
なんて思ってると…
ポーン、ポーン、ポーン、ポーン…と鳴り始めた。
【みなさま、大変お待たせいたしました。
まもなく離陸いたします。シートベルトをもう一度お確かめ下さい。
小さなお子様はお、お膝の上にしっかりお抱き下さい。】
アナウンスが鳴り終わる。
「動き始めたな。」
「えっと、ここからオーストラリアは…11時間程度ですね。」
長えなぁ。でもこんなもんか。
さて、そうなると暇だな。どうしたもんか。
「…海斗さん。」
「どうした高貴さん。」
「僕、昨日の会話を聞いて思ったんです。海斗さんはボスのことを良い人だと言ってましたが。
海斗さんも優しいですね。」
「…え?」
「あ、あーしも思ったそれ。普通ここまでしてくれないよ。
そもそも海斗君いなかったら今頃何も知らないまま呑気に過ごしてたもん。マジ感謝。」
「優しい…か。」
そんなわけが無いのにな。
まあいいか。
「その分金は貰うけどな。」
「がめつい。」
「難しい日本語知ってるんだな。」
「まあ、なんとか。」
離陸から3時間後。
「…暇じゃね?」
「どうします?しりとりでもしますか?」
「じゃああーしから始めていい?」
「どうぞどうぞ。」
「あり!」
あり?
…ありがとう?分かりずらいな。
「じゃあ…りす!」
「すいか。」
「かめ。」
離陸から4時間後。
「サンクトペテルブルク。」
「クリケット。」
「トルネンブラ。」
「ららぽーと。」
「…ねぇ、海斗君と高貴君強すぎない?」
「強い。上手、」
「トド。」
「度数。」
離陸から5時間後。
「えっと…屯田兵。」
「磯辺揚げ。」
「ゲルマ。」
「マラソン…はい負け。」
「いまわざと負けませんでした?」
「さすがにやめよう。」
かれこれ2時間もやったのか…
てか奈々とジョン寝とるやんけ。
「僕も疲れました…寝ましょう。」
「ああ。お休み…」
離陸から10時間後。
「…んん…」
よく寝た…っと。
空が明るいな。
確かブリスベンと日本の時差は1時間。ブリスベンの方が早いから…今のブリスベンはざっと6時くらいか?
あと1時間くらいあるな。まだ寝かしとくか。
「その間に…スマホスマホっと。」
11時間後。
「お。そろそろ着くな。」
「やっと着くのかぁ。あーしもう疲れた…」
「備えましょうか。荷物整理っと。」
無事ブリスベンに到着した。
いやぁ、初めての海外。でも旅行に来たわけじゃないな。さて。
「ここからクイーンズランド州に向かうぞ。」
「そういえば、厚い手袋を何枚も持ってこいって言ってましたが、どうしてですか?」
「また後で説明する。」
「今すぐ教えて欲しい。」
ジョンが真剣な目で訴えた。
「…簡潔にいえば、毒の採取だ。」
「毒?どんなどんな?」
「…もしかして…」
お、高貴さんは察したか。
「…計画の時に言ったろ?
死よりも恐ろしい運命に遭わせてやると。」
現地でレンタカーを借り、森の方へ車を走らせた。
……高貴が。
「僕しか車運転できないとはいえ…
3時間もかかるのは聞いてないですよ!!」
すまん。俺もそこまでかかるとは思わなんだ。
…とはいえ。
ようやく着いた。
「高貴さん、お疲れ。しばらくこの辺りで休んでてくれ。
奈々さん、ジョンさん。行くぞ。」
「おけり!」
「…ちなみにどれくらい歩く?」
「…目的のものが見つかるまでだな。」
10分後。
「よし見つけた。」
これだこれ。
一見害の無さそうなこの植物。
「これなに?」
「いいか?絶対に素手で触るな。心の底から後悔することになるぞ。」
俺は何重にも手袋を重ねる。
念には念をだ。その植物の茎をロープできつく結び、茎を切る。
吊り下げたその茎と葉にびっしりと付いている棘をカッターで切る。
「袋を広げてくれ。」
「わかった。」
ジョンが広げた袋の中にどんどん入っていく。
「これ何?クスリ?」
「これはギンピギンピっていう植物の棘だ。」
「ギンピギンピ?何それ?」
「簡潔に言うととんでもない毒を持つ針を持った植物だ。
だが、これはあくまで最終手段だがな。」
「なるほどぉ。これを散布して敵を一網打尽に…」
「いや、これは神経毒だ。残念ながらこの毒で死ぬことは無い。
代わりに自殺したくなるほどの痛みを味わうことになるんだがな。」
「怖いなぁ(棒読み)」
「だから最終手段なんだ。オーストラリアくらいじゃないとこれは取れないからな。たんまり回収するぞ。
言っとくが、仮にこれを使うことになったとして、これを散布するのはあくまでGracchus相手だけだ。絶対に一般人に向けるなよ。」
「あーしはそこまで非道じゃないよ。」
1時間後。
「ポリ袋4個分まで集めたな。」
「こんくらいでいいの?少なくない?」
「…結局はお前らでケリつけるんだろ?
だったら、お前ら構成員が頑張るんだよ。」
「…そう。僕たちがボスの尻拭いをする。」
昨日の夜。
新さんとの話し合いを一方的に終わらせたあの後、俺はBGQの幹部たちとオンラインで会議をした。
「あんたらはどうしたいんだ?ボスを失いたくないのか?それともボス一人に罪を背負わせるのか?」
「お前…!」
「待て中堂。コイツは、挑発してるわけじゃねぇ。」
「そうだ。俺はあんたらの信念が聞きたい。
お前らにとっての正義はなんだ?」
「…そりゃ当然弱きを助けることだ。
俺たちBGQはいつもボスに助けられてきた。初めの頃、お金がなかった俺たちは、ボスにいつも金を借りたり、犯罪の尻拭いをさせてもらってたさ。
そんなボスに憧れて、俺たちは集まった。俺たちは幹部だが、ボスは地位で人を決めることはない。あくまで俺たちは直属の護衛みたいなものだ。」
「意外とそこら辺は甘いんだな。」
新さんって優しいだけじゃなくて適当なところもあるのか…?
まあでも幹部にするってことは、それだけ信頼してるってことだろう。
優しい人ほどよく空気を読もうとする。人の悪意にも善意にも敏感だ。
あの人が選んだ以上は俺も信頼すべきか。
少なくとも試す必要はないな。直球に言おう。
「…部外者の立場で偉そうに言うが、あんたらにとって、ボスは親みたいなものだ。
そして【子】であるあんたらは、いずれ親離れをする必要がある。」
「まて。お前はボスを守るのを手伝わないのか!?」
「そういうことじゃない。
親離れをするのは、親を見殺しにすることじゃない。そうだろう?
あんたらが、今までボスの命令を律儀に守ったかどうかは知らない。
まあ多分命令とかルールは守ってんだろうよ。じゃないと幹部になれないだろうし…
だが、このままあの人に従えば、あの人は確実に死ぬ。
無理やりにでも責任を取ろうとするだろうからな。でもそれは嫌だろう?
だから、【親離れ】の時だ。」
そのとき、幹部の一人がハッとした顔をする。
「なるほどな。自分たちで行動しろってことか。」
「ああ。
少なくともこの2週間の間は、反抗期になれ。」
反抗期のない子供なんて、この世には存在しないからな。
「次はあーし達がボスを守る番…」
「その通りだ。
だが、これだけは守れよな。絶対に人を殺すな。」
「ああ。それはボスが一番嫌ってることだ。それは遵守する。」
「でも、そのままだと僕たちが殺されるかも…」
「…俺にいい作戦がある。
まあ勝算は低いなぁ。だが、それはあんたらだけの場合。
全組合員総出で集まれば、大抵の事は何とかなるだろ。」
「うちの組合員は最高だからな。」
「あーし達は最強だよ☆」
「…はぁ。」
我ながら恥ずかしいな。
ここまでしてるのはあくまで金稼ぎのつもりだったが…
ギャングも悪い奴らばっかじゃないっぽいな。
…さて。
「2週間後、オイルリグで決着つけるぞ。というわけで…」
そうして今に至る。
こんな毒物まで用意しているのは、Gracchusがどれ程の組織か分からないからだ。
恐らくギャングではあるんだろうが、規模も、人数も、アジトも、検討がつかない。
そういう情報はネットだと出てこないらしい。ダークウェブならあるんかね?
まあでも、女、子供を金稼ぎに使うあたり、警察は動くと思うんだがな…
…いや、待て。
「まさか…」
「…Gracchusどころか、ギャングの記述はないのか。」
昨日、会議の後に行方不明者とか直近のニュースの情報を調べた時、ギャングの記述は一切無かった。
単純に行方不明とだけかかれていて、誘拐とか拉致は書かれてなかった…
あの時新さんが嘘をついた?初めから俺を利用しようとしていたのか?
…それならまだいい。逆にこれが本当だった場合…
警察もマスコミも機能してないことになる。
ここで危惧すべきことは…
金による隠蔽が行われていることだ。
警察もマスコミも所詮は人間。
マスコミは金稼ぎの為にネタを探す。要するにあいつらは金さえ稼げればいい。そもそも毎週大きなネタが出てくるわけじゃあるまいし、そこら辺は理解してるつもりだろう。
だが、警察が仕事を放棄してるとなると…厄介だな。
警察とのコネがあるってことは、Gracchusの奴らが捕まることはない。
てことは、事前に社会的に抹殺するのは厳しいか…
やっぱ当日にやり合うしかないのか?
この案件、想像以上に面倒そうだな。
…うーん。
「一旦ブリスベン空港に戻るか。」
「おけり!じゃあ高貴のところに戻ろう!」
「…また歩くのか…」
頑張れジョン。先は長いぞ。
午後8時になった頃。
空港から近いホテルを予約して、男子3人はスイートルームで寝転がっていた。
「いやぁ、運転し続けたせいで腰が痛いですよ。」
「それは本当に申し訳ない。」
「足が痛い。もう寝ていい?」
「ああ。好きなだけ寝てくれ。俺も正直疲れた。」
1時間後…
「………」
ンゴォォ…ングゥ…
「……………」
ンガァァァ…フゴォォォォ…
「……………………いびきが…」
ジョンのいびきがうるさすぎる!
見かけでは好青年って感じがしたのに、いびきはおっさんじゃねぇか!もしや鼻詰まってるのか!?
「無理無理、寝れないって…」
俺はワイヤレスイヤホンを取り出した。
ASMRでも聴きながら寝よ。
1日くらいイヤホンつけっぱで寝ても大丈夫だろ。
はぁ…落ち着く。
やっぱ声がいい…可愛い…
…………
「…はぁ。」
ある夜、富里新は嘆いていた。
あの時の会話の後、ずっと部屋にこもりきりでいるのだ。
[…やっぱりあんたは優しすぎる…
あんたは死んじゃいけねぇ。というか死なせねぇ。]
あの時の海斗の言葉がよぎる。
彼の言葉は、新の決断を揺るがすものとなっていた。
自分を思っていることを嬉しいと思いながらも、やはり罪の重さがのしかかっている。
何よりも、組合員に迷惑をかけているこの現状が、申し訳ないと感じているのだ。
「…俺は…まだ…」
死にたくない。
だけど、死ぬしか償えないのではないか?
彼には罪の精算の方法がわからなかった…
その時。
ピンポーン。
インターホンが鳴り響く。
「ん?こんな時に誰が…」
今の彼に判断力はなかった。
ドアを開けた。
「富里新さん、ですよね?
…署までご同行頂けますか?」
…ああ。ついにこの時が来たのか。
彼はそう感じた。
「…はい。」
彼は両腕を向けた。
そして、目の前の女性警官に手錠を付けられる。
「ちょっと待った。」
「…!!」
その時、大柄な男が、女性警官の後ろなら話しかけた。
「…」
警官はその問いかけを無視しようとする。
「おい。」
「…お前は…まさか…」
新はその声に聞き覚えがあった。
忘れるはずもない。
その人は、あの時電話越しに喧嘩を売った男だからだ。
「…そいつは俺が預かる。そこをどけチビ。」
「…急に出てきたと思ったら、あなたは誰?」
女性警官は男に背を向けながら、臆することもなく言い返す。
「生意気だな。まあでも、呼ばれたからには名乗るべきか。」
新は気づいた。
奥を見ると、大型車が3台止まっている。
そして、街灯の光が、車の中の光景は鮮明に映す。
車の中に人が大勢いる光景を。
「…嬢ちゃん、離れろ。」
「お前は黙っとれや。
俺の名は穴山信彦…さて質問には答えた。」
男は女性警官に銃口を向けた。
「お前も連行させてもらう。」
おはこんばんは。投稿者です。
ここ最近あるADVにハマってしまったせいでパソコンが欲しくなりました。まずい。
欲を抑えて生きていかなければならないですねはい。