ワールドエンダー 終末の物語   作:ニカン

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第10話

翌朝、以前カルに教わった店を回った。

 

裏通りの奥、看板のない扉。亜人たちが密かに共有してきた場所だ。ヴォルフが入ると、店主は顔を上げ、一瞬だけ目を細めた。人狼だと分かっている。分かった上で、何も言わなかった。

 

消耗品を揃えた。包帯、乾燥肉、火打ち石、薬草の圧縮錠。傭兵が長距離を移動するときの基本装備だ。鉈の刃は研ぎ直した。刃こぼれが二カ所。遺跡の中で硬いものを斬った跡だ。

 

金を置いた。店主は受け取り、釣りを返した。それだけだった。

 

断られない。追い返されない。値を吊り上げられない。

それだけのことが、カルドレクでは珍しかった。

 

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宿に戻る途中、気配があった。

 

振り返ると——ヴァーレンがいた。

 

廊下の角に立っている。待ち伏せではない。確認しに来た、という立ち方だった。槍は持っていない。武装していないヴァーレンを見るのは初めてだった。

 

何も言わなかった。

ヴォルフも何も言わなかった。

 

目が合った。一秒ほど。ヴァーレンの目には、初めて会ったときの嫌悪とは違うものがあった。嫌悪が消えたわけではない。その上に、別の何かが乗っている。名前のつかない感情だ。言語化を拒むように、ヴァーレン自身がそれを抑えていた。

 

ヴォルフは歩き続けた。

ヴァーレンは止めなかった。

 

すれ違いざまに、短く。

 

「——気をつけろよ」

 

小さな声だった。それ以上でも以下でもない、ただそれだけの声だった。認めてはいない。しかし死んでほしいわけでもない——その狭間だけが、声に出た。

 

ヴォルフは振り返らなかった。

 

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宿を引き払った。

荷物は少ない。背嚢ひとつ。鉈。それだけだ。来たときと変わらない。

 

石畳を歩いた。朝の市街は人が少ない。すれ違う者がいても、目を逸らされるだけだ。声をかける者はいない。送り出す者もいない。

 

カルドレクは最初から、そういう場所だった。

 

門が見えた。

守衛が顔を見た。出ていく者を止める理由はない。通した。

 

門をくぐった。

 

外の空気が変わった。壁の内側と外側で、風の匂いが違う。人間の生活の匂いが消え、土と草と、遠くの水の匂いだけになる。

 

三歩ほど歩いたところで——鳥が降りてきた。

 

一羽。

 

門の外壁の上から滑るように降下し、ヴォルフの二歩先の地面に着地した。小さい。暗い羽色。鴉か隼の系統に近い。

 

動かない。

 

ヴォルフを見ている。正面からではなく、片目だけをこちらに向ける角度で。

嘴に何かを咥えていた。

 

小さく折り畳まれた紙片。鳥はそれを地面に置いた。丁寧に——という表現がおかしいほど正確に、ヴォルフの足元へ。

 

置いた瞬間、飛び立った。低く、速く。壁を越えて市街の方向へ消えていった。

紙片を拾った。開いた。

 

小さな字。癖のある筆跡。

 

『東に向かうなら、二日目の川沿いに宿場がある。使える。

三日目にアイゼンガル。近づいたら鳥を探して。先に飛ばしてある。

 

——風の噂より』

 

それだけだった。

 

名前はない。署名もない。「風の噂」——初めて会ったとき、リヴィルが自分の情報源をそう呼んだ言葉だ。

 

企業秘密だったはずのものが、今は連絡手段として差し出されている。

 

紙片を畳んだ。懐に入れた。

 

東の空を見た。雲が薄く流れている。風は乾いていた。三日と五日。リヴィルが言った距離だ。渡り鳥が来なくなった都市。別の強力な異形が動いている方角。

 

セヴェルは終わった。

 

しかし同じようなものが、まだいる。同じようなことを、まだしている。

 

復讐は果たした。呪いをかけた相手は死んだ。怒りの行き先は見つからなかった——しかし、次の標的は見えている。セヴェルと同じ存在が、別の場所で、別の誰かの人生を壊している。

 

それを止める義理はない。英雄的な使命感もない。

 

ただ——目の前にいるなら、殺す。手が届くなら、潰す。それだけだ。

 

復讐の延長線上に、次の敵が立っている。

 

歩き始めた。

振り返らなかった。

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