ワールドエンダー 終末の物語   作:ニカン

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第5話

金属は、まだ熱い。

 

炉が息をするように赤い火花を散らす。

 

刃は輪切りにされ、指二本分の長さに揃えられていく。

 

薄い。

だが、刃だ。

 

ワイヤーの上に置いてみる。

 

重さが偏る。

「等間隔に配置する」

エリスが言った。

「音が鳴ったら負け」

 

刃片は、重なればそれだけで音を出す。

 

鳴らさない配置。

鳴らさない固定。

 

針金。と革。そして布。

 

留めて、締める。

確かめる。

 

その途中で指が切れる。

 

血がでた。作業中にはよくあることだ。

 

エリスは舌打ちもせず、布で巻いた。

 

手を止めない。

まずは鞘。

 

そこに巻取り部を入れる。

 

回転。張り。

調整をかけていく。

「強すぎると鳴る」

 

「でも、弱いと暴れる」

 

次に柄。

 

射出機構とレバー。引き金を組み合わせていく。

 

誤射防止のロックもつける。動かしてみた。

 

カチリ。音が大きい。

エリスが眉を寄せる。

 

「削る必要があるわね」

 

金属を削る音。

静かになる。

 

ヴォルフは黙って見ている。

 

工具台の上で、武器が形になる。

 

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完成した。

 

となれば試運転をしなければならない。

 

低い梁と柱のあるワイヤーフックの練習場。

 

エリスが言う。

「まず、フック」

 

柄を握ってスイッチに指をかけ、引いた。

 

ワイヤーが射出される。

 

刺さった。

「巻いて」

 

鞘にワイヤーが収納されていく。

 

身体が浮いた。

刃片が揺れる。

 

——刃の擦れる音がした。

 

エリスが止めた。

「テンションが強い」

 

巻取りを調整しもう一回。

 

油と布を、噛ませていく。

 

もう一度。

刺さった。浮いた。

 

だが今度はほぼ無音だ。

 

「よし」

だが、まだ次がある。

巻取りで一本に戻す。

 

刃片が一つ、噛んで止まった。

 

「……っ」

止まった。

エリスが即座に外す。

「角度ね」

 

「……刃の縁が立ちすぎてる」

 

研ぐ。面を作って滑らかに形成し直す。

 

もう一度、巻き取る。

 

刃片が吸い寄せられ、列になる。

 

一本。

ショートソードの形。

ヴォルフが言った。

「戻った」

エリスが息を吐く。

「戻ったわね」

 

「……これで、使える」

 

エリスが安心したように、言った。

 

「完成したなら、名前を付けなきゃね」

 

「『アイゼン・ラピッド』っていうのはどう? 」

 

ヴォルフは元の形に戻った剣──アイゼン・ラピッドを鞘に戻して、言った。

 

「悪くない」

 

「だが、振り回すには少し短い」

 

エリスが笑う。

「贅沢言うな!」

 

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出発前。

 

サイトレスが装備を整える。

 

照明弾。発光筒。

 

カイトが一本ずつ確認する。

 

エリスは、自分の剣だった金属を見ない。

 

手だけが少し震えている。

 

ヴォルフは見ていない。

 

カイトが言った。

「行くぞ。時間だ」

 

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外にでる。暗い。

 

霧が、さっきより重い。

肌に張りつく湿りが増している。ただの夜気じゃない。

頬に、冷たいものがひとつ当たった。

 

雨――と呼ぶには、まだ早い。

だが、上で何かが軋み、街のどこかで水の走る音がした。

 

空中に閃光が走った。

 

カイトが最初の照明弾を撃つ。

 

空が白く割れる。視線が赤く、輝き始める。

 

次。

 

最初の照明弾を追うように、各員が光の弾丸を打ち上げる。

 

光が増える。

見られた。

 

眼が、ギョロギョロとあちこちを向く。

 

続いて、金属音。

 

量産型の異形が射出される音が遠くで響いた。

 

異形の気配が降り注いでくる。

 

散る。

カイトが小さく。

 

「……そろそろ、頃合いか」

 

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ヴォルフはアイゼン・ラピッドを使って死角を渡り歩いていた。

 

見つかる寸前ギリギリまで、近づいて。待つ。

 

息を殺して待ち構える。そのタイミングが来るその瞬間まで。

 

ノコギリ鉈と、アイゼン・ラピッドの、柄を握りしめて。

 

待つ。

照明弾が、上がった。

動く。

 

アイゼン・ラピッドの柄を引き金ごと握り、引いた。

 

ワイヤーが走る。

 

梁に刺さる音——しない。布を噛ませた先端が、音を殺した。

 

巻取りが駆動する。

身体が浮いた。

 

刃片が揺れない。揺れない。

 

外壁を蹴って軌道を変える。次の梁へ。さらに上へ。

 

光が増えるたびに、影が増える。

 

眼が走った。赤い光が複数の方向を向く。だが、向いているのは下だ。

 

囮が、仕事をしている。

 

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上層の外壁は、予想より腐っていた。

 

足を置くたびに、石がわずかに沈む。

 

重心を分散させて渡る。

 

音を出すな。

出すな。

 

左手でアイゼン・ラピッドを構え直す。次の射点を見る。柱。届く。引く。

 

飛んだ。

 

着地の瞬間、石の欠片が一つ落ちた。

 

下で、なにかが反応した。

 

止まる。

 

息を止めて、壁に張りつく。

 

眼が、ゆっくりと動く。

 

——通過した。

 

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下で、叫び声がした。

カイトじゃない。

女の声だ。

 

シスターズの誰かが、追いつかれた。

 

視線を落とす。

 

路地の角で、サイトレスの一人が躓いて膝をついている。異形が一体、距離を詰めていた。

 

柄を向ける。

引く。

 

ワイヤーが斜めに射出される。

 

走った先は——異形の肩口。

 

巻取りを逆に送る。張力をかける。

 

異形が引き寄せられる形で横に流れた。

 

ほんの一瞬。それで十分だった。

 

サイトレスが立ち上がり、路地の暗がりへ消える。

 

異形は壁に叩きつけられて止まった。

 

フックを引き抜く。

 

刃片が、鞘の中でかすかに鳴った。

 

許容範囲だ。

 

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眼が、増えた。

ひとつ。またひとつ。

 

壁の染みのように、暗がりに赤い光が滲む。

 

照明弾の効果が薄れてきた。

 

囮が引きつけた視線が、少しずつこちらへ戻ってくる。

 

梁の上で動きを止める。

 

静止した。

 

それでも赤い光のひとつが、こちらへ向いた。

 

止まっていても、捕捉される。

 

密度が、もう限界だ。

 

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押すしかない。

 

眼が、こちらを向いた。

 

柄を引いた。

ワイヤーが走る。

梁を蹴る。

 

空中で、左手がノコギリ鉈の柄を掴んだ。

 

抜いた。

 

落下しながら鉈を振り下ろす。

 

最初の一体、頭から割る。

 

着地の衝撃を脚で殺して、そのまま押し込む。

 

二体目が横から来た。

 

アイゼン・ラピッドで受けて、そのまま斬り上げる。

 

腕が飛んだ。

三体目。

距離がある。

ワイヤーを射出する。

刺さった。

巻き取る。

 

引き寄せながら鉈を振った。

 

正面から頭蓋が砕ける。

 

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上層の奥で、何かが蠢いた。

 

ギョロリ、と。

 

梁と配管の隙間、その暗がりの奥で、大きな目がひとつ、蠢いた。

 

量産型の眼とは違う。

 

ひとつなのに、視線の密度だけが異様だった。

 

反応が広がっていく。

階上で足音が増える。

 

引き返す道は、もうない。

 

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