ワールドエンダー 終末の物語   作:ニカン

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第4話

 カルドレクを出た時、リヴィルもいた。

 

 最初から当然のように、という顔だった。

 

 「何をしている」

 「同行」

 「聞いてない」

 「今、言った」

 そういう話ではない。

 

 だが、追い返すほどでもなかった。

 

 理由は一つではないのだろう。

 カルドレク以外の土地の情報が欲しいという情報屋としての興味。

 話でしか知らない場所を、自分の目で見たいという個人的な興味。

 それに加えて、ヴォルフが持ち歩く武器や素材がいよいよ常識の外へ外れ始めていることへの興味もあるはずだった。

 

 少なくとも本人は、道中ずっとそういう顔をしていた。

 

 道中は危険だった。

 だからといって、リヴィルが大人しく宿で待つような性格でもない。

 肩の鳥は相変わらず落ち着いていて、時々別の鳥と入れ替わるように姿を消した。

 そのたびに、どこかで何かを拾ってきているのだろうと思う。

 

 「君、移動の時は本当に喋らないね」

 

 「必要がない」

 「つれないな」

 「お前は喋りすぎる」

 「情報屋だからね」

 

 「言い訳になってない」

 

 「便利だからいいだろう?」

 

 便利かどうかで言えば、否定はしづらい。

 腹立たしいことに。

 

 そういう軽口を何度か交わしたあとで、アイゼンガルへ着いた。

 

 着いてすぐ、リヴィルは当然のように別れた。

 

 「少し見てくる」

 「何を」

 「色々」

 雑だった。

 

 だが、完全な嘘でもないのだろう。

 情報屋としては、着いたばかりの土地で先に耳を開きたいはずだ。

 話でしか知らない場所なら、なおさらだ。

 

 「終わったら合流するよ」

 

 「好きにしろ」

 「そうする」

 

 言うだけ言って、リヴィルは鳥ごと人混みに紛れた。

 勝手だが、ああいう時だけ妙に消え方が上手い。

 

 アイゼンガルの空気は、相変わらず鉄と油の匂いがした。

 

 カルドレクの匂いとは違う。

 あちらが湿った石と祈りの残り香なら、こちらは最初から熱と煤で押し切ってくる。

 

 街に入った瞬間、それだけで少し気が楽になる。

 

 分かりやすいからだ。

 燃えるものは燃える。

 削るものは削る。

 壊れるものは壊れる。

 

 宗教より、その方がまだ話が早かった。

 

 ヴォルフは工房街を抜け、見慣れた看板のない扉の前で止まった。

 

 黒鉄の顎。

 

 半ば常連みたいなものだな、と自分でも思う。

 思うだけで、別に嬉しくはない。

 

 扉を開ける。

 中は騒がしかった。

 金属音。

 火の匂い。

 何かを削る高い音。

 誰かの怒鳴り声。

 いつもどおりだった。

 「おい」

 店主の声が飛ぶ。

 

 「こいつお前の知り合いか?」

 

 挨拶より先にそれだった。

 

 ヴォルフは工房の奥を見た。

 

 リヴィルがいた。

 

 作業台の端に腰掛けている。

 左肩には例の暗灰色の鳥。

 しかも肩の一羽だけでは足りないらしく、窓枠にも別の鳥が一羽いる。

 

 「なんでここにいる」

 「情報屋だからね」

 「答えになってない」

 店主が鼻を鳴らした。

 

 「どういう噂だか知らねえが、ヤバい武器を作ってるって聞いたらしい。だが何も買わずに居座ってやがる」

 

 「見学料なら払ってもいいよ」

 

 「いらねえよ。うちは真っ当な武器屋のはずなんだがな……」

 

 その言い方に、作業の手を止めていたエリスが笑った。

 

 「それはさすがに無理があるよ、おじさん」

 

 「うるせえ」

 軽かった。

 

 工房の空気が、というより、

 ここにいる連中がこの手のやり取りに慣れすぎていた。

 

 ヴォルフは扉を閉めた。

 

 リヴィルは悪びれもせずに肩をすくめる。

 

 「だって気になるだろう? カルドレク側じゃ無理だった危険物を、君がわざわざここまで持ってきたんだ」

 

 「勝手に話を進めるな」

 

 「外れてなかったみたいだね」

 

 店主の眉がわずかに動いた。

 

 その一瞬だけで十分だった。

 興味はある。

 だが、それ以上に嫌な予感もしている。

 

 「お前、また面倒なもん拾ってきたな」

 

 「拾ってはいない」

 

 「じゃあ余計に質が悪い」

 

 ヴォルフは答えず、コートの内側に手を入れた。

 

 布に包んだ細長い感触を取り出す。

 

 その動きだけで、工房の空気が少し変わった。

 

 エリスの視線が細くなる。

 店主は舌打ちしかけて止める。

 リヴィルは、さすがに作業台の端から足を下ろした。

 

 机の上に置く。

 

 包み越しでも、場に馴染まない。

 

 「開けるぞ」

 店主がそう言う。

 ヴォルフは頷いた。

 布がめくられる。

 

 白い結晶が姿を見せた。

 

 角のようにも、杭の芯のようにも見える細長い塊。

 静かだ。

 だが、死んでいる感じがしない。

 

 エリスが最初に息を吐いた。

 

 「うわ」

 短い。

 だが感想としては十分だった。

 

 店主はしばらく黙っていた。

 黙ったまま見て、それから道具棚ではなく先に絶縁布の方へ手を伸ばした。

 

 その順番で分かる。

 

 素材として見るより先に、まず危険物として扱っている。

 

 「どこで拾った」

 

 「だから拾ってはいない」

 

 「じゃあどこで引き剥がしてきた」

 

 「額から引き抜いた」

 

 エリスが吹き出しかけて、途中で止まった。

 

 「聞き方は雑なのに、返ってくる答えの方がもっと雑だね」

 

 「褒めてねえぞ」

 

 店主は結晶から目を離さないまま言った。

 

 「カルドレクの連中、これ触ったのか」

 

 「見ただけだ」

 「賢明だな」

 

 その一言には、わずかに本気の賞賛が混じっていた。

 

 リヴィルが作業台から離れる。

 肩の鳥まで、主人に合わせて少し位置をずらした。

 

 「さすがに、これは近いと嫌だね」

 

 「今さらか」

 

 「今さらだよ。見たい気持ちと死にたくない気持ちは両立する」

 

 エリスは結晶を覗き込みながら、しかし手は出さなかった。

 

 「長いね」

 

 「外から見えてたより、ずっと長い」

 

 「芯材みたい」

 

 「芯そのものだろ、こりゃ」

 

 店主が低く言った。

 

 その声音で、ヴォルフはこの話がようやく始まったのだと分かった。

 

 「エリス」

 「分かってる」

 返事が早い。

 軽い声だが、手はもう動いていた。

 

 絶縁布。

 薄い固定具。

 測定針。

 細い削り具。

 

 並ぶ道具の種類で、ヴォルフにも流れは分かる。

 まずは触れていい素材か。

 次に、どの程度まで反応するか。

 その上で、削って形にできる類かを見る。

 

 手順としてはまともだ。

 相手がまともな素材なら。

 

 店主は結晶の周囲へ絶縁布を敷いた。

 それから、直接は掴まず固定具で軽く押さえる。

 

 「少しだけ削る」

 

 「少しって、どのくらい?」

 

 リヴィルが聞く。

 「少しだ」

 「雑だね」

 

 「うるせえ。雑なのは説明だ」

 

 エリスが吹き出した。

 

 「でも、ほんとにほんの表面だけだよ」

 

 彼女はそう言って、細い削り具を持った。

 先端が結晶の表面へ触れる。

 

 工房の空気が少しだけ止まる。

 

 ヴォルフは黙って見ていた。

 リヴィルは一歩下がっている。

 店主は削り具の角度だけを見ていた。

 

 わずかに、白い粉が立った。

 

 次の瞬間、それが弾けた。

 

 散ったのは削り粉ではなかった。

 青白い細い火花。

 微細な雷撃に変わって、空気の中へ散った。

 

 ぱち、と短い音がいくつも遅れて鳴る。

 工房の灯りが一瞬だけ揺れた。

 

 「うわ、そう来る?」

 

 エリスが削り具を引く。

 店主が即座に固定具ごと押さえ直した。

 

 リヴィルはさらに半歩下がった。

 

 「今のは近いと嫌だね!」

 

 「さっきからそう言ってるだろうが」

 

 店主は舌打ちした。

 

 「削り粉が粉のまま出ねえ」

 

 エリスは目を細めた。

 さっきまでの面白がり方とは少し違う。

 好奇心はある。

 だが、それ以上に思考が速くなっている顔だ。

 

 「逃げてるね」

 「何が」

 

 「中の力。削った分だけ、外へ逃げてる」

 

 店主は答えず、別の測定針を取った。

 表面の反応。

 内部の熱。

 蓄積の偏り。

 順番に見る。

 

 数値そのものはヴォルフには分からない。

 だが、二人の顔を見れば十分だった。

 

 嫌な時の顔をしている。

 

 「どうだ」

 

 店主はすぐには答えなかった。

 測定針を置き、もう一度結晶を見る。

 

 「削った場所だけじゃねえ」

 

 低く言う。

 

 「全体が少し落ちてる」

 

 エリスが頷いた。

 

 「うん。出力そのものが、削った分だけ目減りしてる」

 

 「表面だけ削って形を作る、みたいな真似は?」

 

 「だめだな」

 店主が即答した。

 

 「削るってこと自体が、こいつの力を外へ逃がしてる」

 

 「しかも一回だけじゃないね」

 

 エリスが結晶の先端を見ながら言う。

 

 「これ、削るほど蓄積効率まで鈍る。削って整えれば整えるほど、中身が死ぬ」

 

 リヴィルが腕を組んだ。

 

 「事実上の神様の芯材みたいな顔をしてるくせに、妙に繊細だね」

 

 「妙に、じゃねえ。だから嫌なんだよ」

 

 店主は吐き捨てるように言った。

 

 「強い素材は雑に使える方がありがてえんだ。見た目だけ厳つくて、削るたびに機嫌悪くするのが一番面倒くせえ」

 

 ヴォルフは結晶を見た。

 

 静かだった。

 だが、さっきより少しだけ場に馴染んでいない感じが強くなっている。

 削ったせいで落ち着いたのではない。

 むしろ、削られたことで性質をはっきり見せ始めたように見える。

 

 「じゃあ、削らずに使うしかない?」

 

 エリスがそう言った。

 まだ独り言に近い。

 だが、すでに頭の中では次の線へ進んでいる声だった。

 

 店主は鼻を鳴らした。

 「言うのは簡単だ」

 

 「でも、今のまま通す方がまだ筋がいいよ」

 

 エリスは結晶の長さを目で追った。

 

 「形を作るんじゃなくて、今ある芯をそのまま使う」

 

 「例えば?」

 

 「例えば、先端だけ少し整えて杭にする」

 

 店主は黙った。

 否定しない時の沈黙だった。

 

 「剣は無理」

 エリスは指を折る。

 

 「刃を出そうとしたら削る量が多すぎる」

 

 「槍も駄目」

 

 「長物として扱うには、固定も重心も面倒」

 

 「でも杭なら、芯そのものを通す方向でいける」

 

 店主は結晶を睨んだまま言う。

 

 「削る量は最小で済む」

 

 「うん」

 「骨格を外で組める」

 「うん」

 

 「固定具と撃発だけで成立させるなら、まだ現実的」

 

 「そういうこと」

 

 リヴィルが少し首を傾けた。

 

 「怖いね。二人とも、今ので“やめておこう”じゃなくて“どう使うか”に進むんだ」

 

 「仕事だからな」

 店主は即答した。

 「嫌なら見るな」

 

 「見たいから困ってるんだよ」

 

 エリスは机の端にあった紙へ、ざっと線を引き始めた。

 

 芯。

 外骨格。

 支持具。

 撃発位置。

 放電経路。

 速い。

 さっきまで測定していた頭が、そのまま設計へ移っている。

 

 「刺さった後に走らせたい」

 

 「先に雷だけ逃げる形は駄目」

 

 「意味がないから?」

 リヴィルが聞く。

 「もったいないから」

 エリスが答えた。

 

 「せっかくこれだけ出力あるのに、先に逃がしたらただの派手な花火だよ」

 

 店主が頷く。

 

 「まず通す。雷はその後だ」

 

 その一言で、だいたいの方向は固まった。

 

 ヴォルフは机上の線を見る。

 まだ図と呼べるほど整理されていない。

 だが、二人の頭の中ではすでに形になっているのだろう。

 

 「問題は」

 店主が言う。

 

 「これ、たぶん一回走り出したら全部吐くぞ」

 

 エリスの手が止まる。

 「……ありそう」

 「ありそうじゃ困る」

 「でも、ありそう」

 

 測定針の値をもう一度見る。

 結晶の反応。

 さっき逃げた分の減衰。

 

 エリスは少しだけ眉を寄せた。

 

 「小分け運用、できるかな」

 

 「流路を絞ればあるいは」

 

 「排圧で逃がす?」

 

 「いや、逃がした時点で損だ」

 

 二人の会話は早かった。

 半分は独り言で、半分は応答だ。

 

 リヴィルが感心したように息を吐く。

 

 「工房っていうのは、もっとこう、金槌で叩いてる時間が長いものだと思っていたよ」

 

 「今は考えてる時間だ」

 

 店主が紙を引き寄せる。

 

 「叩くのは後だ」

 

 「だが、小分けにするにはかなり考える時間が必要だな」

 

 ヴォルフはそこで口を開いた。

 

 「必要ない」

 

 エリスと店主が同時に顔を上げる。

 

 「何が?」

 「小分け」

 短く言う。

 

 「普段の得物は足りてる」

 

 工房の空気が少し止まる。

 

 ヴォルフは続けた。

 

 「強いのが一つあればいい」

 

 店主はしばらく黙っていた。

 エリスも同じだった。

 

 リヴィルだけが先に笑う。

 

 「夢がないね」

 「知ってる」

 ヴォルフは答えた。

 

 実際、それ以上の説明はなかった。

 

 日常で振り回す武器ではない。

 何にでも使うための武器でもない。

 ここまでで普段使うものはすでに揃っている。

 

 なら、次に要るのは別だ。

 

 強い相手に一度だけ通すためのもの。

 それで十分だった。

 

 店主がようやく口元を歪めた。

 

 「分かりやすくて助かるな、お前は」

 

 エリスも笑った。

 

 「じゃあ決まりだね。汎用は捨てる」

 

 「最初から決戦兵器だ」

 

 リヴィルは机の図を見下ろした。

 

 「真っ当な武器屋のはずなんじゃなかったのかい?」

 

 「うるせえ」

 

 だが、店主はもう否定しなかった。

 

 決まってからは早かった。

 

 店主は骨格と固定具の寸法を取る。

 エリスは励起回路と放電経路の線を引く。

 結晶そのものは、できるだけ削らない。

 削るとしても先端だけ。

 本当に最低限だけだ。

 

 工房の空気が、また別の意味で騒がしくなる。

 

 金槌の音。

 削り出し。

 火花。

 店主の怒鳴り声。

 エリスの軽い返事。

 

 リヴィルは途中から見物席を探すみたいに場所を移し、結局いちばん危なくなさそうな棚の脇に落ち着いた。

 肩の鳥まで、さっきより明らかに静かだ。

 

 「そこ、安全なのか」

 「たぶん」

 「曖昧だな」

 

 「絶対安全な場所があるなら、先にそっちを教えてほしい」

 

 それはもっともだった。

 

 最初の試験は、工房の外ではなく中で行われた。

 出力を抑えて安全に撃つためではない。

 一度走り始めたら全部吐くと分かっている以上、

 最初に見るべきは威力より挙動だった。

 刺さった後に走るか。

 どこへ逃げるか。

 どう暴れるか。

 まずはその性質を見る。

 

 結晶を外骨格へ仮固定する。

 簡易の撃発部をつける。

 放電経路だけ最低限つなぐ。

 

 店主が距離を取る。

 エリスが最終確認をする。

 

 「いくよ」

 「さっさとやれ」

 

 「おじさん、応援が雑」

 

 「応援じゃねえ」

 

 エリスが撃発部を操作した。

 

 短い金属音。

 次いで、遅れて雷が走る。

 

 眩しい、というより細い。

 一直線に抜ける鋭い光だった。

 

 乾いた破裂音がして、工房の端に置かれていた試験材が焦げる。

 遅れて、空気が少しだけ震えた。

 

 リヴィルが本気で一歩引いた。

 

 「いや、今のは近いと嫌とかの話じゃないね」

 

 「今さらだな」

 

 ヴォルフは焦げた試験材を見た。

 

 刺さった後に走る。

 順番は成立している。

 それだけで十分だった。

 

 店主は試験材より先に、結晶本体の方を見ていた。

 

 「……やっぱり走り始めたら止まらねえな」

 

 エリスも頷く。

 

 「うん。これ、やっぱり一回ごとに全部吐く」

 

 「一戦一発寄りだね」

 「それでいい」

 ヴォルフが言う。

 店主は鼻を鳴らした。

 

 「だから分かりやすくて助かるんだよ」

 

 そこから先は、使い方の調整だった。

 

 左腕へ仮固定する。

 角度を見る。

 干渉を見る。

 体のどこに逃がすかを見る。

 

 手首寄りはすぐに却下された。

 

 「駄目」

 エリスが即答する。

 「可動の邪魔」

 「振った時にずれる」

 「あと普通に痛そう」

 

 最後の一言だけ少し雑だった。

 

 店主も頷く。

 

 「前腕の外側、肘寄りだな」

 

 「そこなら骨格を逃がせる」

 

 「支えも取れる」

 

 結晶本体を削れない以上、周囲の支持機構で成立させるしかない。

 その理屈も、見ていれば分かった。

 

 ヴォルフは仮固定された左腕を動かした。

 

 重い。

 だが許容範囲だ。

 邪魔ではあるが、使えないほどではない。

 

 「本当に人に付ける前提なんだね」

 

 棚の脇から、リヴィルが半ば呆れた声で言う。

 

 「人以外に誰が使う」

 

 「もっとこう、据え置きの兵器とか」

 

 「持ち歩けないなら意味がない」

 

 リヴィルは肩をすくめた。

 

 「野蛮な狼らしい答えだ」

 

 「褒めてる?」

 「少しは」

 

 あらかた形が見えたところで、工房の空気が少しだけ緩んだ。

 

 エリスが工具を置き、結晶を見上げる。

 

 「で、名前は?」

 

 「まだ要るのか、それ」

 

 ヴォルフが言うと、店主が即座に返した。

 

 「要るに決まってんだろ、店の武器だぞ!」

 

 「その理屈はよく分からない」

 

 「分かれ」

 

 リヴィルがくすくす笑った。

 

 「神様気取りの残骸を、人間側の裁きに使うんだろう?」

 

 「だいぶ感じが悪いね。いい意味で」

 

 エリスが結晶を指で示す。

 

 「杭だし、雷も走る」

 

 「じゃあ、雷光の楔、とか?」

 

 店主が少しだけ考える顔をした。

 

 「……悪くねえ」

 「工房銘は」

 エリスが聞く。

 

 「ジャッジメント・パイル」

 

 店主は言った。

 

 「裁きの杭だ。分かりやすい」

 

 「そのまんまだね」

 リヴィルは笑った。

 

 「だが、嫌いじゃない」

 

 ヴォルフは左腕の重さを確かめながら、その名を頭の中で転がした。

 

 雷光の楔。

 ジャッジメント・パイル。

 

 軽い名前ではない。

 実際、軽い武器でもない。

 

 工房の空気はまだ騒がしい。

 店主は何かを調整している。

 エリスは次の手順を組んでいる。

 リヴィルは、さっきまで距離を取っていたくせに、もう少しだけ近くへ戻って覗き込んでいる。

 

 その中心にある結晶だけが、最後まで静かだった。

 

 静かなまま、明らかに物騒だった。

 

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