艦これ ―神浜戦場記録―   作:56215

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崩落ー3

 『敵機接近!こちらの機体を鹵獲して使用している模様!全機第5装備で直ちに出撃!』

 

 放送が鳴り響く。それと共に待機室からパイロット達が飛び出した。彼らは走って愛機へと向かう。

 

 「玲!俺は行くからこの姉ちゃんの言うことを聞けよ!」

 

 奴もそう言い残して機体へと走っていった。ありがたいことだと、俺は感謝した。やっとこの生活から抜け出せる。悪魔どもの住まう腐った日常から。取り敢えず隙を見て抜け出すことにした俺は機体の位置を確認した。

 白鳥は(シラトリという正式名称らしい)、整備デッキの一番端。つまり今の場所からは一番遠い場所にある。だから問題はいつ抜け出すかだった。

 問題は味方側(この基地の人間からしたら敵だが)の動きだった。おそらく戦術セオリーとしては鹵獲機体で陽動しつつ、ステルスで揚陸艇を接近させる。そして陸戦で敵を制圧する。

 だからそろそろ…

 

 『基地内に敵兵が侵入!総員第1種装備で白兵戦に備えよ!』

 

 やはり突入してきたようだ。ちょうどいい。直接合流するとしよう。

 俺は落ち着いて味方を待った。多分味方も俺をすぐに確認してくれるだろう。 

 

 『格納庫付近に敵兵侵入!シャッター閉鎖!急げ!』

 

 耐爆シャッターが閉じる。時間稼ぎにしかならないが、賢明な判断だろう。

 次の瞬間、シャッターが焼け落ちた。味方は戦闘機用のレーザーカッターを陸戦に転用しているから当然だ。すぐに溶け落ちた扉から味方の兵がなだれ込んでくる。俺は身の安全を守るべく声を張り上げた。

 

「待て!俺は識別番号115だ!敵基地に潜入して情報を探っていた。合流、原隊に復帰を望む!」

 

 やった。これで俺は英雄となり、悪魔どもを…。

 銃声が鳴った。

 俺は間一髪で避け、柱に隠れる。

「待て!俺は味方だ!どうして撃つ!おい!」

どうして?どうして?どうして?

 

頭がいっぱいだった。何も分からない。どうして俺は撃たれるんだ?

 

 「神聖な神の名の下に言ってやる。もし本当の我らの神の兵士ならば捕虜になった際に自決している。だから貴様は敵なのだよ!」

?????

 

 俺は…神のために…なんで…オレハ…。

 動きが止まる。銃口の前で。

 致命的な硬直。死神が見えた。その瞬間。

桜木が、あの女が。

こっちに走って。

何か叫んで。

弾に当たって。

俺を。

倒れた。

 俺は叫んだ。ただひたすらに。死を意識した。死を初めて恐れた。

 死にたくない、死にたくない、シニタクナイ!

 機体に走る。今はただ、死にたくなかった。

 後のことはあまり覚えていない。機体にたどり着いて、弾をひたすら撃ったことがおぼろげにあるだけだ。気がついたら、あの男…斬雲が俺を心配そうに見ていたことだけだ。

 

     ―――  ―――  ―――

 

 「これかわいい!」

 

威勢のよい声が響き渡る。相変わらず白露は元気だ。三人は昼食ののち、基地周辺の街を散策。適当な服屋に入っていた。

…と言ってもほぼ時雨のためなのだが。

時雨は薄い青色のワンピースを着させられていた。

というのも、白露達が

 

「時雨、あんた私服あんま持ってないじゃない。だから私達がいっちばんかわいいのを選んであげる!」

 

といったためである。急にファッションショーが始まった。

 

 (僕は、こんなことしてるべきじゃないんだけどな…)

 「ほら時雨、何浮かない顔してんのよ!こいつを着るまで、お姉ちゃんは元の服は返しません!」

 

 明日の訓練の考え事をしていた時雨はありとあらゆる服を着させられ、終わる頃にはすっかり疲れてしまっていた。

しかし、このワンピースに関しては、時雨も

 

(可愛いかも…提督も、これなら…)

 

とか思ってしまうのである。

悲しき乙女の性とも言うべきか、殿方の声を考えると顔は赤く染まる。それを見た白露は、

 

「今、誰のことを考えたのかなー?お姉ちゃん気になっちゃう!」

 

 とか茶化してくる上、夕立や村雨も何の話かと乗っかってきてしまった。

 そんなこんなで気づいたら1800。

 四人は仲良く話しながら基地に戻っていった。

 

     ―――  ―――  ―――

 

 「お前なあ…もう少し部下にも本音を話せよ。嬢ちゃん達だって不安になるぞ。あとソースそんなにかけんな。塩分過多だ。」 

 

 整備班長のアドバイスを斬雲は華麗に無視した。どちらも改善する気はさらさら無い。

 

 「聞いてんのか?おい!嬢ちゃん達だって指揮官が一人でいると心配するし士気にも影響するんだよ!」

 

 どうやら悪酔いしているらしい。この男は酒を飲むと他人に絡みたがる。 

 

 「呑みすぎだ。お前は酒癖直してから言え。」

 

 材料を適当に鉄板に乗せる。もんじゃ焼きは好物ではないが嫌いでも無い。斬雲の人生と似たようなものだ。

 彼は時雨のことを考える。優しい笑みを浮かべた、1人の少女。守れなかった、悲しい顔。

 

 「俺は、ここにいていいのだろうか…」

  悲しき呟きはただ店内の喧騒に消えていく。食べ終わった鉄板の上には酔った整備班長特製の汚いもんじゃが完成していた。

 

    ―――  ―――  ―――

 

「遅くなっちゃったな…」

 

 時雨は駆逐艦寮へと急いでいた。最低限の荷物は白露たちに預け、提督を探しに行っていたのだ。しかし、提督を探しに行った移動は無駄足に終わった。提督は基地の外に食事に行ったらしい。執務室には誰もいない。

と、提督が歩いているのを見つけた。花束を片手に持っている。 

 

(提督?何処に向かっているんだろう…?)

 

 時雨はこっそり後をつけることにした。

提督の歩く速度は速い。それでも時雨はこっそりついていく。潜入は艦娘の必須能力だ。

歩いていくこと数分。提督はある石碑の前に立った。基地の奥に隠れるようにして設置してあるモノリス。

 提督は花をモノリスのそばに置き、目を閉じた。黙祷しているのだ。

 時雨は提督にそっと近寄る。この石碑について知りたかった。提督の影の理由に、もっと寄り添いたかった。

 

 「提督…」

 

 黙祷が終わった頃に話しかける。提督はこちらを見つめ、少し逡巡した後に口を開く。

 

 「…この石碑は艦娘投入以前の深海棲艦との戦闘で死んだ者の鎮魂碑だ。深海棲艦は極秘事項だったため、彼らは家族に自身の死亡の事実すら教えられなかった。墓さえ…。だからこいつが作られた」

 

 時雨は少し迷う。聞いても良かったのかと。不用意に人の心に踏み行ったのではないかと。

 

 「お前にはいつか話すつもりだった。俺が死んでも、こいつらのことは、覚えていてほしかったから」

 

 そう言われてはもう何も言えない。時雨はただ頷くことしかできなかった。

 

 「どうかこいつらを覚えていてほしい。死ぬまで、いや、死んでも」

 時雨は無言で提督を見つめていた。それを見た提督は少し笑った。哀しい、顔だった。

 

 「気にするな。俺は今は死ぬつもりはないよ。今は戦わなければならないから。それよりも、今は一緒に戻るぞ」

 

 少し心に不安を重ねた時雨は提督にただ従う。少しの間だけど、その歩みはそばにいる提督の暖かさを感じさせた。でも、少し、冷たかった。

 時雨は空を見上げる。きれいな夕焼けに、雷雲が迫りつつある。

 戦いの時が、近づいていた。

 

 

 

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