艦これ ―神浜戦場記録―   作:56215

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崩落ー7

 熱核エンジンの甲高い音が響く。海上を2機の可変戦闘機が滑るように移動していた。機体はそれぞれ、対照的な白と黒。

 

「クロウ2よりクロウ1へ。現在機体に問題なし。エンジン良好。」

 『こちらクロウ1。これより通信管制を開始。作戦時間までの積極的通信を禁ずる。以上』  

 

 通信を終え、俺はため息をつく。機体のコンディションを再チェック。オールグリーン。クロウ1、斬雲颯隊長の黒鳥も問題はなさそうだ。

 

「まさかもう一度コイツに乗ることになるとはねぇ…。おまけに元々いた組織の基地に攻撃するときた」

 「訓練で使ってたオンボロよりはいいだろうよ。数年前に開発された後、量産計画が頓挫した二振りの剣。カッコイイじゃないの。使われずに倉庫で眠ってたらしい。おかげでコクピットもピカピカだ。新品の香り」

 

 後部座席から長屋が声をかける。俺、斬雲玲の素性を知る戦友の緊張感の無さに呆れつつ、作戦内容を再チェックした。

 

 「護衛艦艦載機により正面から敵に陽動を掛け、開いた防衛ラインの穴を少数戦力で突破する…。ガチガチの前線部隊じゃないか。後方支援が聞いて呆れる」 

「そうは言っても、敵基地は研究設備が大半で正面の防衛部隊に戦力の殆どが集中してるらしいぜ。施設の無傷占領ってのはキツイけど、初陣としてはイイんじゃないの」

 

 やはり楽観的だ。戦場で生き残るつもりはないのだろうか。

 俺はそんなことを考えつつ、エンジンを吹かした。

 

     ―――  ―――  ――― 

 

 作戦開始。陽動部隊による牽制射は定刻通りに始まった。敵航空部隊や海上戦力が敵拠点の与那国島北側に集中する。

 

 『こちらクロウ1。通信管制解除。ケツから離れるなよ坊主ども!』

 

 黒い機体_黒鳥から対地ミサイル投下。放たれた弾頭は、過たず地上の対空火器を吹き飛ばす。次いでレーダーサイトを破壊。敵拠点は一瞬の内にその目と手を破壊された。

 

「おい玲!邀撃機が残ってるぞ!こっちに向かってくる!数3!」

 『こっちは対地弾しか持ってきてない。迎撃してくれ手の空いてる奴には仕事を回さないとな!』

 「簡単に…」

 

 軽く毒づく。こっちは久しぶりの戦場なんだぞ。 

 

 『大丈夫だ。あの程度、お前には楽にやれる!』

 

 

 舌打ちし、増速。蒼い空を白線が横切る。

 

 事前の打ち合わせの通り、黒鳥は地上施設や兵器の破壊、俺達は邀撃機などの対空攻撃を行っている。これは俺達が対可変戦闘機の訓練しか出来ていなかったことが理由であるらしい。

 

 「やっぱ信用しすぎだな」 

 

 友軍も敵も。罠や後ろから撃たれる可能性を考えるならば、戦力の集中は悪手だと思うがな…。

 そんなことを考えながら俺は機体を動かす。白い機体、白鳥はその思いに応え、一瞬の内に敵機を撃破した。即座にインメルマンターン。背面飛行の状態でコブラ機動。敵機体の後ろを取る。対空ミサイル発射。

 

 「玲、機体揺らすな。レーダーシステムが調子悪い」

 

 後部座席からそんな声が聞こえたが、無視することにした。白い剣が、蒼い空に舞う。

 

      ―――  ―――  ―――

 

 『敵司令部クリア。友軍も到着したらしいな。』

 

 気がつけば、戦闘は終わっていた。占領した港に技術者達を乗せた揚陸艇が着く。彼らはすぐさま輸送車に乗り、技術開発施設へと向かった。

 仮設基地の整備班の真上まで飛行し人形に変形。ホバリングで慎重に整備ドックに降りる。

 

 「無事だったかガキども。メシだぞメシ。さっさと食え。」

 

 男_斬雲颯の声と共に、糧食が出される。現場の兵士にはすこぶる人気な、粉末カレーの缶。

 

 「あ…ありがとうございます」

 

ちょうど腹が減っていたところだ。かつては戦場の死臭で食事をすることはザラにあった。ましてや自動化により研究者以外の人員がいなかったらしいこの基地では尚更だ。俺達はがっつくようにして飯を食らった。

 

 「ところでは、この基地では何が開発されていたんでありますか?」

 

 長屋が聞く。さっきまで機体の文句ばかり言ってたというのに、現金な奴である。

 

「今調査中だが、事前情報だと新型反応炉と防御システムらしい。桜木曰く、戦争を一変させる何かとか何とか…。バリアとか言ってたかな?」

 

 バリアねぇ…。可変機体の開発技術はなかったくせに、そういう変なところは特化している。何と言うべきか。俺はカレーをかきこみながら、脳裏をよぎった一抹の不安を消しされずにいた。

 話をしながら食事を続けようとスプーンを手に取る。ま、今回は何事もなく…。

 

 ドォン! 

 

 後ろで爆発音が聞こえた。音からして爆発したのは機体俺のハンガーあたりだ。

 飯を放り投げ、機体に向かう。腹の痛みも忘れ、ただ走った。

 「医療班!急げ!こっちだ!」

 「いったい何があった!敵の攻撃か!?」

 「分かりません!機体が急に!」

 

 俺の白い機体が燃えていた。胸部のジェネレーターが響き飛んだらしく、コクピット以外は無事のようだ。が、美しい純白の装甲は煤で真っ黒に汚れていた。

 …燃えているのはコクピットか。少し降りるのが遅かったら…。顔から血の気が引くのが分かる。俺は敵ではない何かに恐怖を感じながら、機体の消火と救助のために走り続けた。

 

     ―――  ―――  ―――

 

 『黒鳥帰投!整備班は補給と整備、3分で終わらせろ!陽動部隊の弾薬は第2倉庫で補給しろ!』

 

 アナウンスが響く。夜だというのに、この神浜は眠っていなかった。

 第三格納庫。その前方のポート部分に黒鳥が降り立つ。コクピットが開き、中から長い髪の青年が降りてきた。

 

 「中佐殿!飯です!どうぞ!」

 

 補給担当の士官から糧食を受け取り、食べる。作戦が終了していない段階でも、それは彼を少しはリラックスさせたようだった。

 

「整備はあと2分で終わる。きっちり戦えるようにしてやるよ。装備は護衛仕様外して長距離離脱用のにするぞ」

 

 整備班長の声。安心したように斬雲は頷く。しかし、一瞬の内に神妙な顔つきに戻った彼は、整備班長に話しかけた。

「全く関係ない話なんだが…深海棲艦の位置データを正確に広範囲で測定可能な技術はあるのか」

 「あったらお前の機体に乗ってる。…お前さんもある程度近づかないと奴らを捕らえきれないだろう?そういうことだ」

 

 その言葉に、斬雲は額の皺をより深くした。目つきが鋭くなる。まるで遥か先の敵を射抜くかのように。

 

 「作戦開始時に司令部から深海棲艦の位置データが送られてきた。移動予測地点までしっかりしてるやつがな。おまけに実際に行ってみたら、奴らが本当にいやがる。きな臭いと思わないか」

 「司令部の秘匿主義は何時ものことだろ。どうせまだ俺達が知らん技術を独占してるとか何とかだ。そう心配することじゃない」

 「相変わらず楽天的な奴だ」

 

 司令部がどうして敵の位置情報を把握していたか。それの追及の根本は詰まり司令部への疑問と不信であった。司令部の判断には政治的背景もあるにしろ、褒められた行為ではなかった。しかし…

と、そんな話をしている中、

 

 「中佐殿!帰投した伊401及び伊58より報告!地点α+d4にて深海棲艦発見!艦種レ級!」

 

 報告が入る。斬雲は一瞬の内に頭を切り替え、また猟奇的な笑みをほんの僅かな時間、浮かべる。それは何か、恍惚とした恐ろしさを感じさせた。

 

 「装備は白兵戦仕様で。おそらくレ級の狙いは偵察部隊だ。これより援護に向かう」

 

 彼はそう言って黒い愛機へと走って行った。

 

     ―――  ―――  ―――

 

 「速度を稼ぎたいですね…。雪風、時雨、機雷を全て投下。取り敢えず下ろせるものは全て下ろして軽くしましょう」

 

 高雄からの指示に彼女達は素直に従う。対水上艦艇用の機雷を投下。重りを外しできるだけ早く友軍進出範囲に移動する。

 

 「あと2時間ってところですかね…。対潜警戒を厳とせよ。之字運動、開始」

 

 おそらく航空機は飛んでこない。夜間である以上、島から離れた場所には向かわないだろうという算段だ。ならば心配するのは対潜。頼りになるのはソナーのみ。2人は自身の聴覚を研ぎ澄ませた。

 じりじりと緊張した時間が流れる。その引き延ばされた時間が過ぎていく。

 どれくらい経ったのか。雪風が叫んだ。

 

 「!ソナーに感あり!1時方向!5km先に音紋!数6!この大きさは…特殊潜航艇です!」

 

 待ち伏せされていた。おそらくこの配置なら……。

 

 「魚雷、来ます!」

 魚雷の航跡音がソナーに響く。数は6。この位置ならば回避は可能…。

 

 (なんでこんなわかりやすい配置を?)

 

 時雨の背筋が凍る。

 

 「皆、回避して!」  

 

 回避した瞬間、今までの進行方向より再度雷撃。距離は2km。数は……。気づいた時雨は、叫びを抑えられなかった。

 

 「50!?重雷装艦じゃあるまいに!」

 

 それで終わりではない。雷の様な音が闇夜に鳴り響いた。あまりにも大きな水柱が立つ。このレベルの水柱が立つのは、日本の艦隊では…。

 

 (大和型の主砲並み!?これはもはや艦隊…。艦艇を超えてる!)

 

 「こんな奴に勝てるかバカヤロー!」

 

 川内が叫ぶ。

 

 「きゃあっ!」

 

 部隊はギリギリで回避したものの、比較的速度遅い高雄は一発着弾。中破状態に追い込まれた。

 

 (こんな敵に…勝て…)

 

 もう無理だ。そう一瞬考え、頭を振る。提督の言葉を思い出した。そうだ。偵察の任務は情報を伝えること。たとえ誰かがやられても、1人でも、戻らなければ。

 

 (やるしかない!)

 「全艦、左20度に転舵!魚雷射撃軸より離れつつ接近戦!高雄、川内は後方支援と基地への情報伝達!雪風と僕は、奴を直接叩く!」

 

 駆逐艦の機動性を活かした接近戦。挑みたくはなかったが、仕方ない。

 ダメージコントロールで手一杯の高雄の代わりに指示を出す。

 

 (せめて、敵情報が届きますように。提督、ごめん。帰れないかもしれない)

 

 そんな思いを魚雷で吹っ飛ばしながら、時雨は砲を構える。 

 

 「迎撃する!行くよ!」

 

 近接戦闘は艦娘の本領発揮である。

 二人の艦娘は薄い笑みを浮かべながら突撃していった。

 

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