「なんでまだ俺の機体は使えないんですか!?」
空っぽの格納庫に俺の声が響いた。南鳥島基地の一角。試作機体を整備する第四格納庫。
「仕方ないだろ。上層部からのお達しなんだから。この前の作戦で鹵獲した適性コアシステムの検証をするのに都合が良いのがアレしかないんだとよ」
目の前の男_斬雲颯が頭を搔きながらぼやく。俺はその様子に苛立ちをより強めた。
「何が検証ですか!単なる実験台でしょうがよ!得体の知れない物拾ったから、扱いが面倒な奴に与えてみたって感じじゃないですか!死んだらラッキー、死ななかったら量産って具合だ!」
「それ以上言ったら後ろからぶっ殺されても文句は言えなくなるぞ。というか、今神浜基地に機体は送っちまったんだからどうしようもないんだ」
「そうだぞ玲。今、可変機体の大規模改修設備は神浜基地にしか無いんだぜ。仕方ないでしょうよ」
「じゃあ次の制圧作戦はどうしろと!棺桶で行くのは嫌ですよ!」
「安心しろとは言えんがアレに乗る必要は無い。…今回は地上部隊だとよ。銃持ってドンパチしろと来た。」
顔の辺りが急に冷えた。呼吸が荒くなるのを感じる。拳を強く握りしめた。
いや、大丈夫だ。きっと今回も無人機相手になるはずだし。そうだよな。
「…すまんな。現場の兵士では上には逆らえなかった。敵は無人機らしいが…今のうちに覚悟は決めておけ」
そう言って颯は格納庫を出ていった。その背中は何処か泣いてるようで、虚しかった。
「嫌だねえ。陸の戦いってのは。やっぱり飛行機乗りは空でないと」
相変わらず能天気な相棒が少し声を低くしてぼやいた。奴もどこか緊張している様子ではある。
だが、今はその能天気さが有難い。
「ま、この作戦が終わったら俺の機体も来るらしいからな。何とか生き延びて終わらせようや。な、玲!」
そうだ。まずは生き残ること。罪に苛まれる事は、生者のみに与えられた特権だ。
――― ――― ―――
「クソクソクソクソクソクソファッ◯!」
俺は叫んでいた。制圧作戦を行っていた敵基地前に設営された塹壕の中。敵が防衛するために作った施設が自分の身を守る羽目になったとはどこか皮肉な話ではあった。
「何が楽な作戦だ!ガチガチに防御固めてんじゃねえか!前線の兵士をなんだと思っていやがる!」
叫びながらも目の前に突っ込んできた敵ドローンを撃墜。塹壕に伏せた直後、爆薬ごと件のドローンは吹き飛んだ。
「うわっ!危ねえだろ馬鹿!殺す気かよ!?
…まぁでも次の波状攻撃で敵さんは陥落するなこりゃ」
さっきまでゲロを吐いていた癖に能天気はまだ喋っている。案外こいつは兵士としての素質があるかも知れない。
「敵さんは時間稼いでいるな。これまで隠してた砲も全て出してる。おそらく裏から実験結果ごとトンズラでもするんでしょうよ。」
爆発音。傍らの兵士が倒れる。俺と年齢は変わらないであろう、女兵士。
くそ、また死んだ。また。いつまでこの戦いは続くのだろう。いや、今は生き残ることを考えろ。
『こちらHQ。敵砲台特定。満潮に合わせて第二波増援と航空機隊による爆撃を行う。前線諸君は後少し耐えてくれ!』
満潮。後どれくらいだ。もう時間の感覚が無い。くそ。また死んだ。
「クソが!」
叫びながら発砲。取り敢えず撃っているなら俺は死んでいない。俺は。じゃあ味方は?仲間は?
どれくらい経ったのだろうか。航空機による爆撃が開始された。味方の誰かが対空砲を破壊したらしい。
作戦終了後のデブリーフィングによると、生き残ったのは作戦投入要員の30%のみだったらしい。
残りの70%は、遺族にさえ死んだことを伝えられなかった。
――― ――― ―――
「行くよ!」
時雨は叫びながら突入した。敵の魚雷軸線上より離れつつ、敵自体への接近を図る。
現在敵艦は自らの探照灯を起動。自らその位置を示している。
12.7cm砲を掃射しながら突入、取り敢えず敵の注意を引く。
雷のような音。血の気が引いた瞬間に回避。至近弾。
(今は僕が奴を惹きつけておかないと。その間に雪、頼むよ)
幸いにも敵は夜戦に慣れていないようである。探照灯の光のラインから離れた時雨を完全には追いきれていない。
(まずはあの目を潰す!)
砲を続けて発射。探照灯を狙ったその砲弾は、回避しようとしたレ級の装甲に跳ね返り、消えた。
(装甲も硬い!なら!)
至近距離で勝負をつける。いくら装甲が硬くとも頭部への魚雷の直撃ならば被害は避けられないはずだ。
海上で一度ターンしてから再突入。一撃離脱は攻撃のタイミングはシビアなものの、敵の弾を避ける事は比較的容易であった。
『こちら雪風、敵潜航艇全撃破、あれの準備もよろし!』
通信が入る。何とか間に合ったようだ。
「了解!時雨より高雄へ、こちらは足止めと誘引を行う!そちらは至急戦線より離脱されたし!」
取り敢えず高雄を離脱させる。作戦通りならばこの先のピケットラインは長門の艦砲射撃により破壊されているはずだ。
「雪風、行きます!」
再度探照灯を狙った射撃。今回は見事に目標を撃ち抜き、辺りは闇に包まれた。雪風がその瞬間に増速。突入を開始した。
「夜戦の時間だね!行こう!」
川内も続く。
この戦闘の目的は勝つことではない。全員で生き残ること。そのためにやることは一つ。
「「敵艦を撤退に追い込む!」」」
3組の影が、夜の海に溶け込む。
――― ――― ―――
「パターン照合。敵レ級及び駆逐艦時雨の位置特定完了」
斬雲は増速した。一撃離脱と長距離強襲を前提とした大型ブースター装備の黒鳥。その叫び声はいつにも増して甲高い。
艦娘は彼女ら自身の艤装中枢にコアを内蔵している。そのコアは艦娘により特定のパターンの信号を発信。そのパターンや信号の強さを照合することで艦娘同士での位置特定や捜索を可能としていた。ちなみに深海棲艦もあるパターンの信号を発信しているため、この能力を活用して敵艦の特定も可能である。
「…このレ級は外れだな。奴じゃない」
呟いた後、彼は機体のコンディションを再チェックさせた。コアシステム問題なし。エンジンは快調。武装もエネルギーは十分だ。
「持ちこたえていてくれ」
甲高い音がより一層強くなった。
――― ――― ―――
「川内!雪!」
「「了解!」」
圧搾空気の甲高い響き。軽巡と駆逐艦による統制雷撃。計16本の魚雷がレ級に迫る。
「時雨!探照灯!」
川内が探照灯を消灯。刹那、時雨が小型探照灯を点ける。探照灯敵位置を捕捉しつつ、光源を変え、敵を撹乱する。たたらを踏んだレ級の側面に、爆発音が響いた。
「敵艦に魚雷着弾!数2!」
「まだまだぁ!」
怯んだ隙に川内が発砲。レ級の魚雷発射管を3門ほど潰す。よろけた瞬間に雪風が艦砲を狙撃。小さな艦が強大な艦に食らいつく。初の共同戦闘とは思えない動きだ。
(このままこちらの進路と反対方向に押し込む!)
が、敵が動いた。唐突に砲を水面に向ける。まるで_。
「雪!川内!回避!」
声を聞いた瞬間、3人とも回避行動を取る。瞬間、轟音。水柱が全員を覆う。そして、水柱の中から魚雷が飛び出した。
(僕と同じ戦法を!)
この戦法を体験した事がある雪風と時雨は増速。直後に水柱から抜けてきた魚雷を回避。しかし、川内は回避しきれずに着弾、中破した。艤装から煙が上がり、橙色の制服の隙間から、皮膚が覗く。
「川内!下がって!あとは僕たちでやる!」
この位置なら駆逐艦2人でやりきれる。そう判断した時雨は川内に退避させ、自身は敵艦に向かって突入した。
「雪、援護!」
手に持つ魚雷以外を全て発射。魚雷と共に敵の懐に飛び込む。次弾を装填出来ないまま振り回してきた敵の砲身を回避。その動きのまま、奴の頭部に魚雷をぶち込んだ。
爆発音。0距離から放たれた砲弾で機関が1つ消し飛ぶ。砲身が頭に向いた。が、時雨は止まらない。そのまま敵を押し続ける。砲身があわや爆炎を放つ瞬間、レ級の側面で爆発が起きた。奴は驚きを隠せないように笑みを崩し、体を丸めた。
「かかったあ!」
時雨と雪風は瞬時に飛びかかる。
彼女達はレ級を爆雷の敷設地点まで誘導していたのだ。ワイヤーで連結された6個の爆薬が、レ級の艦首に引っ掛かり、側面に吸着、起爆した。
今回の作戦にあたり、時雨達は追撃する敵に備え、浮遊爆雷を装備していた。足を軽くするために放出した装備が役立つとは思いもしなかったが、時雨の陽動の間に雪風が位置や間隔を調整してくれたおかげで、何とか使えるようになった。
しかし、これだけ敵の装甲は貫徹出来ない。戦艦を超える装甲は、砕けない。
「まだまだぁ!」
爆風でよろけた隙に12.7cm砲を至近距離で発射。再びよろけ、無防備になった頭部に接近した雪風による魚雷の打撃が直撃する。
レ級が白目を剥く。が、瞬間奴は歪んだ笑みを浮かべた。
「雪、回避!」
雪風を押し、敵から遠ざける。奴が水面に向かって再度砲を発射した。
「時雨っ!」
レ級が射撃を行った瞬間、その装甲に一筋の光が突きささった。制式運用されず、一部の可変機体にしか搭載されていない、レーザーライフル。
レ級が主砲を再び海面に向けたのが見えた。
瞬間、衝撃が体全体を襲う。時雨の意識は一瞬の内に闇の中に消えていった。
――― ――― ―――
「―――雨。 ―きろ!起きろ!」
時雨は目を開けた。満天の星空。視界には雪風と、提督の機体の頭部が映っていた。
「あれ、僕は…なんで提督が見えてるんだろう。雪?僕、どうなって…」
「幻覚じゃないぞ時雨。さっさと起きろ」
確かに提督の声がする。時雨は一度閉じた目を静かに開けた。全身が痛んでいた。
「その様子ならもう大丈夫だ。損傷が酷い。艤装は解除して、黒鳥に乗せた方が良さそうだな。雪風、頼んだ。俺はこの後川内の様子を見に行くから」
「りょーかいです!でもしれぇ、救援に来るならもっと早くしてください!敵も逃げちゃいましたし、時雨もこんなに傷ついちゃいましたよ!」
「それ言われてもな…」
体の重さが消え、大きさが元に戻る。提督にだろうか、抱きかかえられ、座席に固定される感触。そこはどこか、暖かくて、安心できた。
(眠い…)
時雨は朦朧としていた目を閉じる。ただひたすらに、疲れていた。
暖かい夢の中で、時雨はひたすらに眠り続けた。
今回はあまり満足行かない出来…
そのうちブラッシュアップしようかな…