艦これ ―神浜戦場記録―   作:56215

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次回投稿予定:4月26日 19:30分


崩落ー9

 

 『…今回の戦闘により、テロリスト集団である新日興の拠点は一掃されたということです。なお、この作戦での死者は出なかったとのことです。陸軍司令部は…』

 

 暗い部屋にモニターが一つ。待機するパイロットのために用意された娯楽の一つだ。待機室に備え付けられるものとしては豪華なものではあったが、文句を言う者はいなかった。

 

 「…軍はやりやがったんだ。何が『戦死者がいない』だ。サバを読みすぎなんだよ」

 長屋が言う。奴いわく、今は日本は大戦からの復興真っ只中であるため、『大規模な戦闘が起きた』というイメージを持たせたくないとのことだ。どうせ皆分かっているだろうに。

 

「…死んだ奴は浮かばれんな。クソッ…」

 

 つい呟いた。結局、どの組織も結局似たようなものだ。自身の目的を隠し、人を使ってそれを実現する。どうせその目的もろくなものじゃないのだが。

 と、その時、格納庫で警報音が鳴った。機体の最終チェックが終わったことを伝える音。俺達は薄暗い部屋を勢い良く飛び出した。 走って機体の待つハンガーへと向かう。途中で配給を行う兵士からドリンクをもらった。

 ハンガーの奥に機体が見えた。俺の機体、白鳥。取り敢えず機体が無事であることに安堵しつつ、機体のコクピットハッチ付近にいる技術士官の元へと向かう。

 

 「先の作戦、お疲れさまです。お届けした白鳥、判子をお願いしますよ」

 「送料はそっちで払ってくれ」

 

 軽口を叩きつつ、技術士官から仕様書を受け取る。今どきめったに無い、手書きのものだった。

 

 「今回の改装では鹵獲した新型コアシステムと反応炉の装備を行っています。機体が元々拡張性がありますからね。結構簡単にできました」

 

 リフトに乗り、コクピット内装を確かめる。脱出装置と一体化する形で黒色のユニットが備え付けられていた。表面には白い字で、『kt-01ack』と書かれている。

 

 「ちょうどそれがコアシステムです。こいつを取り付けたおかげで出力が数倍に跳ね上がった。まあ、リミッターはついてますけど」

 

 コアシステム…颯が何か言っていたな。既存の兵器を変えるとか何とか。 

 

 「でも、要は出力の高い融合炉を積んだだけじゃないの。そこまで大がかりなものじゃないね」 

 

 長屋の言葉に技術士官はにやりと笑った。開発畑の連中は新しい技術を自慢する際に、こんな笑みを浮かべる。新しい玩具の自慢をしたくなるのは、やはり性なのだろうか。

 

 「ところがどっこい!このコアシステムから発せられる特殊共鳴波は音波に近い形で発せられるんですが、そいつが一種の防壁としての役割をもつ可能性があります。要はバリアが出るってことです。このバリアは同様の特殊共鳴波を用いて弱体化できますが、それを発せられるのがこのコアシステムだけである以上、こいつは通常兵器に対してほぼ無敵と言えます。そもそも技術的に白鳥シリーズにしか積めませんしね」

 

 黒鳥は白鳥と外見は同じではあるものの、その中身は全く異なる。黒鳥は既存の技術を用いた上での最高性能を求めた機体であるのに対し、白鳥は敵性勢力の技術や鹵獲した機体のパーツを用いた技術検証機の側面が強い。白鳥は内部システムが完全にブラックボックス化しているものもあるため、小笠原基地に存在する技術データがなければ再建造は不可能とさえ言われている。

 

 「システム自体は量産されそうだけど」

 「簡易版は開発されているとか何とか。噂ですけどね。そんなことよりも、この機体を扱うときには気をつけてくださいね。実は白鳥にコアシステムを積んでいるのも搭載にギリギリ成功したからなんです。このコアはクセが強くてですね、黒鳥とかには積んでも全く反応しなかったんですよ。白鳥が辛うじてって感じ。だから白鳥にも負荷がデカいし無茶すると焼き切れてコアが吹っ飛びます。だから、絶対に無茶な稼働はさせないでください」

 

 そんなことを言われても戦闘中は仕方がないだろう。そんなことを思ったが、般若が笑ったらこうなるだろう、という笑みを浮かべられた以上、頷くしかなかった。

 

    ―――   ―――   ―――

  

 熱核エンジンの轟音。空から滑走路へと、灰色の巨鳥がゆっくり降り立つ。要人輸送に使われる高速輸送機LI75。海上の艦娘からの護衛機が上空を旋回する。零式の五二型だろうか。そんなことを思いながら時雨は提督について行った。

 輸送機の扉が開き、ラダーが降りる。敷かれたカーペットの上に、1人の女性士官が立った。

 桜木橘中将。大戦直後より軍の司令部にいたエリートである。深海棲艦との戦いで深海棲艦を唯一破壊した部隊に所属していたこともあり、現場の兵士には質実剛健な指揮官として人気が高かった。軍内部には彼女を支持する派閥、『桜花隊』があるという。今は横須賀鎮守府の指揮官として手腕を振るっているらしい。

 

「遠路はるばるご足労いただき、有難う御座います。時間がないので、早速作戦室へ」 

 

 そう言って、提督は中将を司令室に案内していった。提督の半歩後を時雨が追う。

 

(中将……何か提督と距離が近いな…。僕より…)

 

 ちょっとした嫉妬を隠しつつ、時雨は提督について行った。

  

     ―――  ―――  ―――

 

「偵察隊の報告により、この島は大戦時の小笠原基地を利用し、深海棲艦によって形成された新島であることが確認された」 

 

 デジタルマップに光点が示される。かつての美しい島は、今や深海棲艦により海と共に赤く染まっていた。赤い光を目に反射させながら、提督は話を続けた。

 

 「…奴らは島を囲うように三本の防衛ラインを設置。島に近づくほど敵戦力は増えると思え。奴らは基本的に小規模水雷戦隊で足止めしている隙に戦艦など増援を誘導する。仕留める際は短時間で終わらせろ。時雨!」

 

 提督に呼ばれる。時雨は事前にまとめていた敵艦の情報を報告した。自分で言った言葉に、空気が冷たくなるのを感じる。

 

 「偵察機による報告では、島本土の敵総数は115。駆逐級60、軽巡級30、重巡級15、姫級を含んだ空母級5、 戦艦級5。ただし、前線には駆逐艦15,軽重巡洋艦10、戦艦3。それに加えて遊撃部隊と考えられる戦艦レ級1。総計144隻の大艦隊です。ただし、実際に動けるのはこの四分の一程度と考えられます」

「どうしてそう言えますか?」

 

 落ち着いた、優しい声。部屋で提督の右隣に立っていた桜木中将から質問される。張り詰めた糸のような危うさを感じながらも、時雨は落ち着いて答えた。パネルを操作し、島の一部を拡大する。赤い光が、更に膨れ上がった。

 

「こちらをご覧ください。これは偵察機が最後に送ってきた航空写真です。島の西側に敵艦が集中している場所があります。ここにいる敵艦をよく見てください。実際の深海棲艦より小型の物ばかりです」

 

 航空写真を拡大する。縮尺から分かる敵の大きさはおよそ7mほど。深海棲艦にしては、あまりに小さい。

 

 「深海棲艦は同型ならばどの個体も同じ大きさなため、おそらくこれらの艦はカモフラージュのための艤装、または建造途中の可能性が考えられます。どっちにしろ、動いて戦闘に参加する可能性は低いです」 

  

 暗い部屋に安堵のため息が満ちる。彼女、桜木中将を除いて。それを知ってか知らずか、温度が戻ったような部屋の真ん中で、提督が続けた。

 

 「ついでに司令部からの情報では、衛星から観測したところ、島西側に大規模な共鳴波と熱源が探知されたとのことだ。おそらくだが、この場所は深海棲艦の建造施設だろう。今回の作戦任務は島の占領と飛行場姫の排除と飛行場確保、そして造船施設の確保である」

 

 神浜基地を示すマーカーが光る。複数の青い矢印がそこから伸び、島に向かって進んでいた。何処か迷っているように、その動きは弱々しく見えた。

 

 

 「今回の作戦の主役は空母と戦艦だ。戦艦長門と金剛、後発の空母の瑞鶴、祥鳳。この基地にいるこれらの戦力に加え、横須賀からも大和が動員される。まずは駆逐・巡洋艦・戦艦部隊により防衛ラインに穴を開ける」

 

 敵を示す赤い矢印が、青い矢印と衝突。2つはそこで動きを止めた。と、その脇を別の青い矢印が抜けていく。抜け出す矢印は島にぶつかる直前で停止。島の飛行場部分に撃破を示す十字が光った。

 

 「その隙に主力艦隊を、島に向け前進。島に東側到着次第、主力は飛行場への攻撃を開始。島の飛行場確保を行う」

 

 作戦は比較的単純ではある。強引に突破するにしても、戦力的には問題はないだろう。一つをの点除けば。

 

 「質問だが、提督よ。レ級はどうする?」

 

 長門が質問した。部屋が再び静寂に包まれた中、提督は頷いて答える。

 

「戦艦大和を中心とした部隊を先行させる。統制艦砲射撃により、敵レ級を撃沈する。主力が第一防衛ラインを突破したタイミングで主力とは反対方向の海域でわざと発見され、食いついたところを駆逐艦で足止め、レ級を誘引する」

 

 新しく1本の線が伸びた。レ級を撃破する部隊を示すマーカーだ。戦場を走った青い光は、レ級を示す赤い光と衝突した。

 

「当該海域へは黒鳥が輸送、現地まで空挺する。規模的には十分だろう。間違いなく食いつく…」

 

 司令室が静まり返る。提督は中将と頷き合い、作戦開始の日時を伝えた後、集まった兵士を解散させた。

 

 

 時雨は息を吐き、肩の力を抜く。さすがに損傷の直後の長時間ブリーフィングは心身ともに無理があった。

 

 (提督は…何処かな?)

 

 今は何処か提督と話したい気分だった。この心のそこに渦巻くナニカ。緊張でもあり、恐怖でもあり、そのどちらでも無い気持ち。

 提督と話せば、それが消える気がした。

提督を探す時雨。と、提督が桜木中将と部屋から出ていくのが見えた。

 

(どうしたんだろう…?)

  

 あちらには提督室がある。書類の受理や報告があるという可能性は否めなかったが、2人の背中には、そんな色はなかった。

 

 (何かあるんだろうか…。あの2人、何処か変な関係がありそうなんだけど…)

 

 時雨は二人を追いかけ、こっそり話を聞いてみることにした。

 彼女は知らなかった。彼女が、彼が引きずり込まれそうにある未来を。死者の手招きと、生者の押し倒しを。

 

 

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