艦これ ―神浜戦場記録―   作:56215

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次回投稿予定:6月7日19:30


崩落ー15

 海はいつも蒼くて、暗い。全てを飲み込んでしまうようで、怖い。

 俺達を乗せた艦隊は静かに隊列を組んで航行中。かつての南鳥島海域を越え、太平洋の左端、グアム付近の海域と進んでいるらしい。

 

 「…クソッ…」

 

 跳ねた水飛沫が顔を濡らす。塩辛い水を舐め、顔をしかめた。

 今俺は空母の側舷エレベーターにいる。背後には静かな格納庫。俺の愛機も静かに眠っている。振り返り、機体を見つめた。

 

「……お前と俺が今回の要だ。やるしかない」

 

 言葉とは裏腹に不安が募る。いくらシミュレーションを重ねたとは言え、白鳥のシールド強度は未知数だ。やれるのか。…分からない。

 不安と苛立ちを壁にぶつける。ただ金属の冷たさと痛みが来ただけだった。

 

 「あんだけ大見え切っといて、いざとなったらビビんのか?玲?」

 

 からかう様な声が、格納庫の黒鳥のコクピットから聞こえた。コクピットから出た人影が、こちらに近づいてくる。 

 

 「別に…そういうわけじゃないですよ」

 斬雲颯。俺の保護者にしてクロウ隊のエースかつ隊長。そして今の声の主だ。颯は俺の頭をくしゃくしゃと撫で、笑った。

 

 「大丈夫だ。俺がいる。桜木も、長屋もな。お前が言ったんだろう?皆で生きて帰るってな」

 

 颯は外の海を眺め、呟いた。

 

 「…海ってのは鏡だ」

 「え?」

 

 唐突な言葉に驚き、颯の方を見た。どこか優しくも、哀しい顔。初めて見た、男の姿だった。

 

 「自分の気持ちも、空の様子も、みんな映し出す鏡。どんな物よりも深く俺達を捉えて、姿を変える」

 

 俺は視線を下げる。波を見つめた。どこか、静まった気がした。

 

 「世界ってのは変えるもの。自分の望みや希望を映し出して、暗い海に光を灯す。それができるのは、自分自身だけだ…」

 

 そこまでいうと、颯は照れたのか、どこか寂しく笑った。

 

 「…俺の戦友の受け売りさ。今はもういないが…俺の中で生きてる。奴のためにも、俺は生きて帰るさ」

 

 颯はいつもつけていた簪を外す。それをしばらく手の上に置き、懐かしそうに眺めた。

 

「作戦前にこいつを渡しておきたくてな。…預けるだけだぞ。帰ってくる願掛け…いや、呪いだ」

 

 簪をこちらに手渡しする。急に渡され、狼狽しながらも、俺はそれを握りしめた。

 

 「死亡フラグってものが有りましてね。受け取りたかないんですがねぇ…」

 

 つい斜に構えた言い方で答える。正面から物を言えない自分に苛立ちつつ、簪を握りしめた。

 

 「必ず戻ってください。死んだら墓荒らしてもう一回ぶっ殺しますよ。ついでに桜木さんもまとめて」

 

 もう勢いだ。言ってしまうか。

 

「……不本意ながら、俺の兄貴分はアンタしかいないんだ。弟を路頭に迷わせる様な真似はせんといてくれ。…頼むから」

 

 颯は驚いた様に目を見開いた。たたらを踏んだ俺をよそに豪快に笑う。その後意地悪な顔をして嬉しそうに言う。

 

「お前も素直になったな。お兄ちゃんは嬉しいぞ」

 

俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。どこか恥ずかしくて、俺は奴の足を蹴った。

 

 

      ―――  ―――  ―――

 

 『全作戦参加要員に告げます!』

 

 無線を通し桜木の声が響く。白鳥のコクピット内に凛とした声はよく通った。

 

 『今作戦では司令部通信とは別にこの回線を常にオープンにしておくこと!集結のタイミング指示や撃破要請の受付はこちらで行います!』

 

 エレベーターに白鳥を乗せる。いつもより繊細な操作に、思わず手が震える。

 

 「さっすが、いぶき型空母。大戦前からの空母にしちゃ、スムーズな動きをしていらっしゃる。前前世代のいずも型軽空母の強化型とは言え、結構このフネデカいのに」

 

 長屋の能天気はいつものことだ。俺は無視し、甲板上に白鳥を膝立ちさせる。空母からの増加ジェネレーターを接続。レールガンを起動。

 

 『敵深海棲艦は白鳥の攻撃でしか有効打を与えられません。誘引部隊は牽制と回避に努め、白鳥からの支援狙撃を待つこと!』

 

 傍らのエレベーターを見る。漆黒の機体がちょうど昇ってきた所だった。

 

 『司令部からの命令より現場の判断を優先すること!以上!』

 

 黒鳥がカタパルトに機体を固定する。今回のあの機体の任務は艦隊防衛と遊撃。颯なら、容易くやってのけるだろう。

 

 『黒鳥、発進準備よし。いつでもいいぞ!』

 

 颯の笑うような声が聞こえる。今までで一番頼もしく、格好の良い男の声だった。

 

 『全隊、準備よし!時間合わせよし!……では、作戦開始!』

 

『黒鳥、発進する!』

 

 桜木の声と共に機体が空に打ち出される。1話の鴉の翼が、蒼穹に光る。

 

     ―――  ―――  ――― 

 

 「敵水雷戦隊、確認!数は7!軽巡 級を中心とした単縦陣!」

 前路警戒隊第1班の小隊長、軽巡洋艦五十鈴が告げる。従うのは夕雲型駆逐艦の高波、巻波、長波だ。

 

「側面から食い破る!総員、続け!」

 

 数は少ないが練度は高い艦娘達である。7隻の撃破など、赤子の手をひねる様なものだ。

 単縦陣の側面から突撃、主砲を用いて旗艦らしき軽巡 級を撃破。隊列が乱れた隙に、酸素魚雷の固め打ち。一隻、また一隻と敵が沈んでいく。

 

『こちら第2班、火蜂隊。敵前衛撃破。損傷無し』

 

 川内型軽巡で構成される神浜遊撃隊の火蜂から光通信。五十鈴は発光信号で返しつつ、長門を旗艦とする第一挺身隊に通信を送る。

 

「こちら第1班。掃討完了。これより本隊に合流、索敵と支援に移る」

 

 と、周辺の索敵を行っていた長波から発光信号。

 

 『ワレ敵戦艦棲姫ヲ捕捉セリ。本隊ヘノ誘引ヲ開始ス。…敵位置、東南東、距離6000!』

 

 「来たわね…。全隊、直ちに集結!本隊に合流する。急げ!」

 

 第1班は直ちに転舵。長門を旗艦とする深海棲艦掃討を行う第一挺身隊本隊へと舵を切る。

 

 「見えた!」

 

 前方に友軍艦隊。6隻の艦による輪形陣を形成しながら航行している。輪を構成するのは、駆逐艦の綾波、村雨、敷波。軽巡洋艦の矢矧と重巡洋艦の愛宕だ。そして、その中心にいるのは、長門型戦艦、1番艦の長門。前衛隊の報告を聞いた長門は不敵な笑みを浮かべ、命令を出した。

 

 「総員、ニニ号電探、起動!統制雷撃戦、用意!」

 

 艦隊の前方に駆逐艦と巡洋艦が集まる。鏃の様な陣形となり、全員が魚雷を構えた。ニニ号電探、正式名称を二号電波探信儀二型とするそれは、艦娘用に開発された初の専用電探であった。これまでの海軍は艦娘のもともとの索敵能力に加え、深海棲艦に対し効果の薄い通常兵器用レーダーを用いていた。しかし、神浜の整備班長を中心とする開発プロジェクトの成功により、今回ようやく全艦娘に装備できる量産体制が整ったのである。

  

 「探照灯は使うなよ!総員、魚雷発射!撃てぇ!!」

 

 長門の命令のもと、敵進路上に向け、魚雷が発射される。計33本の長槍が放たれ、静かに敵に向かう。

 

 「砲雷撃戦、用意!殴り合いが始まるぞ!」

 

おそらく戦艦棲姫はこの程度の魚雷では撃破できないだろう。長門は考え、砲を構える。大和型を除けば、日本海軍随一の火力。自慢の41cm45口径連装砲が動いた。

 

 「戦艦棲姫魚雷8本命中!敵艦隊の半数を撃沈!……これは…!戦艦棲姫、急速接近!距離2000!」

 

 「全武装使用自由!各自で雷撃を行え!味方に当てるな!」

 

 綾波の報告に笑みを深めた。戦艦の本懐。艦隊決戦における敵艦との殴り合い。かつての戦争で果たせなかった、彼女の役割。

 

 「主砲、撃ち方始め!」

 

 誇りの弾丸は、敵の砲塔を打ち砕いた。

 

     ―――  ―――  ―――

 

 「第一挺身隊、戦闘開始とのことデース!第二挺身隊、前進開始!行きまショウ!」

 

 第一挺身隊は飛行場姫砲撃を行う第二挺身隊の露払いと囮に過ぎない。報告を受けた旗艦の金剛は、艦隊を全速力で前進させた。

 

 (今回の作戦はスピード勝負…。長門たちが時間を稼いでいる間に敵防衛ラインを突破しないト…)

 

 艦隊を構成するのは比較的速力に秀でた艦である。金剛型戦艦四隻を主力として、前衛に駆逐艦島風。護衛に陽炎型駆逐艦の親潮、黒潮、早潮を置いている。

 電探など周辺の索敵装備を一切起動せず、隊は進む。敵艦に発見されるのを極力さけるための賭けは、なんとか勝つことができたようだった。

 

     ―――  ―――  ―――

 

  「大和、大和?こちら時雨!応答を!」

 時雨は必死に砲撃を回避していた。大和からの通信が途切れ、支援砲撃もそれから撃たれていない。何かあった事は確実だ。

 

(白露…夕立…。お願い…)

 

と、高雄から通信が

入った。

 

『敵艦確認!レ級elite!…時雨!そちらに向かっています!』

 

「まさか!」

 

 (それほどに大和型が脅威なのか?それにしては最初に艦隊ではなくレ級単艦を突撃させてきた…どうして?)

 

 時雨の所属する艦隊は非常に小さい。本来なるわざわざ深海棲艦がレ級を2隻も投入する必要はないはずなのだ。しかし、現に今ここにはレ級が2隻いる。時雨は顔を歪め、回避を続けた。と、こちらに探照灯の光が向く。瞬間、雷の様な音。咄嗟に移動した時雨の横に、砲撃が突きささった。

 

 (挟撃される!今は離脱しないと!)

 

 「雪!」

 

 「了解です!」

 

 時雨達は今レ級に挟まれる位置にいる。ともかく移動して敵艦を一つの方向にまとめなければ、十字砲火の中で沈むのがオチだ。2人の駆逐艦は必死に機関を回す。が、だんだん正確になるレ級の砲撃と雷撃を躱すのは困難になりつつあった。

 

 「クソッ!」

 

 至近弾。思わず波に足を取られた。波飛沫が高く上がる。砲撃音。

 

 (マズイ…当たる!)

 

 レ級の姿が遠くに見えた。探照灯の光に照らされ、ニヤけた顔が薄気味悪く目立つ。死。その一文字が時雨の脳裏にちらつく。彼女は着弾を覚悟し、構えた。着弾音。闇夜に黒煙が立ち昇る。

 

「時雨っ!」

 

 雪風の叫びが遠く聞こえた。

 

     ―――  ―――  ―――

 「あれ…?」

 

 痛みも衝撃も感じない。時雨は固く瞑っていた目を恐る恐る開ける。漆黒の翼。金属でできた機械の身体が、彼女の盾となっていた。

 

 「黒鳥…。提督!」

 

 黒鳥は瞬時に加速。光の様な速さでレ級eliteに接近。腕部のブレードを振るう。相手も黒鳥の二の腕を押さえ、取っ組み合いになっていた。黒鳥が脚部スラスターを噴射。空中に飛び上がり、主砲に蹴りを入れ、一度離脱。

 右腕部を構える。ワイヤーアンカーを射出。引っかかったアンカーを急速に巻き取り、再び接近。

 ギャキィ!ゴッ!

 砲撃で右腕を吹き飛ばされる。が、ただやられた訳では無い。すれ違いの一瞬で左腕ブレードを振るう。レ級の尻尾と砲台を破壊した。

 

 「黒鳥より発光信号です。こちらでeliteを引きつける。貴艦は中破したレ級を作戦通り撃破せよとのこと!」

 

 呆然としていた時雨は雪風の声で我に返った。一瞬、迷う。あの黒鳥でさえレ級eliteの前では損傷を強いられてるのだ。単騎では逆に撃破されかねない。おまけに…。

 

「でも…提督の様子が変なんだ…。どこか…怖い…。いつもと違うみたいだ…」

 

 本物のバケモノのように。そう言おうとした瞬間、雪風が時雨の頬を叩いた。

 

 「しっかりしてください!敵の数を減らさないと、不利になるのは私達だけじゃありません!提督も、ひいては艦隊のみんなまで!ここでやらないと!」

 

 凄い剣幕で怒鳴られ、一瞬驚いたのも束の間、時雨は頭を振るい、頷く。損傷したレ級に向け、舵を取った。

 

 「みんな、聞いていた通り!大和たちの確認は後!今は作戦通りコイツをやる!誘引開始!雪、行くよ!」

 

「はい!行きましょう!時雨!」

 

 12.7cm砲を掴み、敵艦に突撃。横目で黒鳥を見る。紅い眼光をより強く光らせた機体には、提督の温もりを感じなかった。

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