艦これ ―神浜戦場記録―   作:56215

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今回は少しボリュームがなかったので2話投稿します。


始動―5

走る。走る。銃弾の嵐の中をひたすらに。あそこが格納庫か。ああ、やっと助かる。これまでの死が。新しい国の礎となった仲間を越え、遂に報われるときが来たんだ。あと100m、75,50…。

 俺は格納庫に入る。銃撃音の止まらない基地の真ん中。あとは機体を奪って敵を殲滅するだけ。もう少しで…。

 一息ついた俺は機体のコクピットへ続くタラップを走る。たかが15の少年兵にも機体の操縦方法を訓練させるなど正気の沙汰ではないと思うかもしれないが、これは当たり前のことだ。俺は、俺達は選ばれたんだから。俺達が神の国を作るから、選ばれて操縦できるようになったんだ。だからこれは当たり前のことで、これから俺がする行動も正当なことなんだ。だから、だから…。

 コクピットに飛び込み、スイッチを入れる。幸運なことに、いや敵には不幸だろうが、機体の整備は万全。いつでも暴れまわることができる。

 機体の名前は…なんて読むんだろう…シロトリ?まあいいや。

 

「115、行くよ!」

 

 少年は、高らかに叫び機体を立たせる。エンジンの高い音と共に機体は、曇り空に飛び立った。灰色の天井には似合わない、純白の色。1本の鍛えられた剣の様な優美なシルエット。まるでおとぎ話の救世主になったように思いながら、少年は機体を降り立たせる。

 

 「いた!そこだ!」

 

 遮蔽物に隠れていた敵兵を壁ごと撃ち抜く。地面に転がった躰を、踏み潰す。

 その天使の色は朱に染まった。悪魔の様に…。

 俺は、笑顔だった。神になったが如く…。

 

    ―――  ―――  ――― 

 

 「時雨、行くよ!」

 

  声高らかに飛び出した時雨だが、そのあとの動きは地味だった。ただ艦の状態を確かめ、演習場に向かう。演習場についたらすぐにでも演習が始まるのだから、最終機体チェックは今しなければならなかった。

 快調な缶の鼓動。しばし時雨は静かな海のクルーズを楽しんだ。

 一羽の鴎が、水面をゆっくり飛んだ。

    ―――  ―――  ―――

 

 演習場。様々なシチュエーションを想定した訓練を行う忌み嫌われがちな場所だ。この神浜基地は地形的な問題から大規模なリアス海岸の一角を演習場として使っていた。本物の駆逐艦などより比較的小さい15m″程度″の艦娘だからこその土地利用だ。ちなみに、今回の時雨の演習であるアグレッサーとのタイマン戦は通常の演習計画には入っていない。これは、神浜特有の″儀式″の様なもので、新任の艦娘の中で選りすぐりの精鋭を基地のアグレッサーに当て、鼻っ柱を叩きのめすことを目的としたものであった。

 

「戦闘開始だ…行くしかないよね…」

 

時雨は呟き、増速する。合図など実戦には存在しないとの名目でこの演習には開始の空砲なんかないのだ。警戒心のないボンクラはここで堕ちる。

 今回のルールは簡単。どちらかが機関停止または武装が全喪失するまで戦う。その際はペイント弾を使用し、当たった部位により判定が入る。

相手の艦種が分からない以上、取り敢えずはセオリー通りの之字運動を行う。電探を探るも、相手の様子は全く分から…

 ヒュ、ドーン!

目の前に着弾した。弾種は徹甲弾。波の大きさから相手は…

 

 「駆逐艦か!なら!」

 

 すぐさま発射地点に向かいながら、増速。

之字運動をアレンジしたジグザグの動きをして相手を撹乱する。

 

(相手は僕の位置を捉えてる…けど正確じゃないっぽい。あれは多分カンだな…。運が良いんだろうね)

 

 当てずっぽうで撃った弾とは思いたくなかったが、あの距離では光学的には捉えられない。まさか自分と同じくらい幸運な艦がいるとは思わなかった、と言いたいところだ。 

 

(幸運の駆逐艦…やっぱり!)

 「雪風ぇぇぇぇぇ!」

 

 相手をとらえた。叫びながら発砲し、突撃。至近弾。続いて次弾発射。

 

 「ぐっ!」

 

 痛みが奔る。頭部のあたり。どうやら電探に当たったようだ。だが、この距離ならこっちの弾も…。

 

 「不沈艦の名は、伊達じゃないのです!」

(当たったのは水中聴音機か!なら!)

 

 すぐさま魚雷を放つ。戦闘中でなくとも、水中聴音機がなければ波に隠れて放った魚雷を避けることは至難の技だ。

しかし、

 

「甘いですね!そこぉ!」

 

雪風の放った主砲三連射。魚雷は弾に吸い寄せられるように進み、爆発した。

 

 「こっちの番です!」

 

 続けて放たれる魚雷。それを見て、時雨は回避行動を取ろうとして―。 

 

(何で、教えた?)

 

 急速反転。抵抗を感じながら無理やりターンする。すると、今までいた場所に刺さる12.7cm砲弾。あのまま回避行動をしたら、やられていた。

 

 (誘ったのか…。一筋縄じゃいかない相手だね。)

本来は自分が負けるための演習だが、時雨はやられるつもりはなかった。回避行動を取りながら、タイミングを窺う。

 

(あの技を使うなら…)

 

 

    ―――  ―――  ―――

 

 雪風は訝しんだ。唐突に時雨が回避ばかりし始めたのだ。まるで何かのタイミングを窺うように。いや、これはまるで、

 

(何かを待っているみたいです…。でも、一体何を…?)

 

 取り敢えず相手を火力拘束する。戦いのセオリーに沿っていながらも、その動きには隙がなかった。だが、少し雪風が思考を割いた、その瞬間。

ドォン!

急に時雨が弾を撃った。回避行動を反射的に取った雪風だったが、弾は来なかった。

そう、時雨は目の前の海面を撃っていたのだ。まるで自分の姿を隠すように。

 

 (まさか…!まずい!)

 

 慌てて移動した瞬間、真横を魚雷がすり抜ける。その動きに安堵した瞬間、魚雷発射管と主砲に時雨の弾が突き刺さった。

 

    ―――  ―――  ―――

 

 「着弾確認…!やった!」

 

 時雨は歓喜した。自分の弾が雪風を赤く染めるのを見る。先ほどの雪風の技の応用だった。まず魚雷を不意打ちし、敵が回避した瞬間を狙い、主砲を当てる。時雨がいつも使う技だったが、当てたのはギリギリだった。その証拠に、彼女の主砲も青く染まっている。雪風が回避しながら撃った弾が発射直後の時雨の主砲に直撃、その衝撃で魚雷が1本残っていた発射管が歪み、魚雷が撃てなくなっていた。

 

 (雪風もそれは同じ…なら!)

 

 迷わず時雨は増速。雪風に正面から突撃。魚雷を発射管から取り出し、ナイフのように逆手持ちする。それを見た雪風も、こたえるように魚雷を手にした。

 艦娘の通常艦に対するアドバンテージは、深海棲艦に攻撃が通用するのみではない。人形がなし得る腕と足の動きにより、高い格闘戦能力も艦娘を決戦兵器ならしめる要因だった。

 飛び道具は互いにもうない。回避行動は抜き。一瞬すれ違う瞬間に、当てる。

 戦闘機のドッグファイトにおいて、正面から互いに攻撃する場合、重要なのは度胸だ。先に怯えて腹をさらせば的になる。逆に蛮勇を振るえば狙撃される。微妙なコース取りによって一方的に斜めから攻撃するか、バイタルパートへの直撃を避けながら撃つところに戦技の妙があるのだ。そしてそれは艦娘も変わらない。

 互いに速力、コース取りは同じ。2人はほぼ同時に魚雷を振った。

 

   ―――  ―――  ―――  

 

ピピー!

 

 演習場にサイレンが響き渡る。2人は互いに海面に倒れていた。結果は相打ち。同時に2人がバイタルパートに魚雷を当てたため、勝負がつかなかった。

 

 「僕がやられるとはね…。雪風、すごいね、君は。」

 「時雨こそ、あの攻撃、驚きました!今度もう一回やって見せてください!」

 

 2人は互いに真っ青な空を見あげ、高らかに互いの手を叩く。澄み切った空と海が2人を静かに抱きしめていた。

 空に海猫の鳴き声が高く響いた。

   

 

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