絶え間なく続く銃声。機体が備える30mmマシンガンの音だ。その重低音を感じながら俺は、次の敵兵を始末していた。そろそろ殲滅し終わるだろう。
ピー!
警告音が鳴る。機体に向けてミサイルランチャーを向ける兵士が一人。その弾頭をかわし、兵士を踏み潰す。
ああ、いい気持ちだ。お前達にはどうしようもないだろう。今度は俺達の番だ。蹂躙してやる。一人残らず。死ね、死ね!
「そこだろ!見えてるよ!」
後方からミサイル群が接近したか。最後の足掻きかな。
「コイツを喰らえ!」
機体のレーザーライフルを照射。ミサイルは丸ごと空を染め上げるだけに終わった。
「こちら識別番号115。機体を奪ったよ。ほかの奴らは全員死ねたよ。これからそちらに帰投し…」
ビー!ビー!ビー!
重い警告音がなる。レーダーが機影をとらえたようだ。高度は…200mか?強奪時に書き換えられているIffは、機影を敵影として認識していた。
「どうせ有象無象でしょ!撃ち落としてやる!」
ライフルを向け、撃つ。
しかし、その機体はバレルロール。正確無比な狙撃を見事に避け、こちらへの接近を続けていた。
通信が入る。…あの機体からか?
『聞いてるかテロリストども。この基地はまもなく本機が制圧する。現実が見えないガキはケツ拭いてママの胸に戻るか投降するんだな。』
中年の男の声だった。声からして場馴れしているだろうが、今は関係ない。馬鹿にされた。殺す。僕の力を見くびって。僕、いや俺には神がついているんだから。負けるわけないんだから。
「死ね!」
スラスターを吹かす。奴の高度まで一気に上昇し、ミサイルをコンテナから全弾発射。しかし、確かに当たるはずの最新式アクティブミサイルは機体にいとも容易く避けられたようだった。
(あいつは…何だ?この機体は最新の奴のはずなのに…)
『話が聞こえないかねぇ…攻撃に入る。』
あの機体が増速したようだ。距離から見るにもう視認できるはず…。
「あれか!」
蒼い空を見上げる。真っ青な中に一つ、黒の染み。
美しい機体だった。俺の乗る機体とそっくりな、だが漆黒の色を持つ一振りの剣。肩に三本の足を持つカラスのマーク。
と、機体が動いた。こちらに銃口が向く。俺のそれとは正反対の、信頼性を重視した旧式150mmライフル。発砲音。
「お前なんかに!」
機体を急上昇させる。砲弾を紙一重でかわし、機体を突撃させる。ライフルを連射しながら近づき、敵の前で急速回転。回し蹴りを空中で食らわせて―。
「掴まれた!?」
空中で振り回した足が逆に掴まれる。
間髪入れず敵の体当たり。機体は大幅に振られ、海上に落下していく。
「お前、お前、お前ぇぇぇ!」
太陽を背にした黒い人型を睨みつける。お前なんかに、どうして俺が!
空中変形。白い戦闘機が、海面を滑るようにホバリング。が、止まりはしない。俺は機体を反転し突撃をかける。が、敵もそれに追従してきた。おまけに明らかにこちらを捉える軌道にいる。
「それなら!」
足だけ変形を解除。噴射。いわゆるコブラ機動に近い動きを取り、敵を捉える。
『いい動きだ。腕がよく分かるぜ。けどなぁ!』
消えた。文字通り。次の瞬間アラートが鳴る。後ろを取られた。ミサイル接近。
「まだだ!まだ終わらない!」
再度変形し人型に。ライフルとマシンガンを用いて全てのミサイルを消し飛ばす。こうなったら!
「行けぇぇ!」
空中で背部ブースターをパージ。敵にぶつけた直後、体当たりの勢いのまま急降下。基地のコンクリートの地面に押し倒した。機体の揺れを必死に我慢しながら、叫んだ。
「負けてたまるか!」
『この声、子どもか!まさかテロリストども!』
通信の向こう側から驚きの声。黒い機体にも隙が出来た。まだだ。この隙を逃さない。腕部ウェポンポッドからナイフを取り出し、機体のコクピットに突きさ…
「避けた!?」
奴は肩部スラスターをこちらに向けフルブラスト。その反動で俺の機体を移動させ、華麗にナイフを避けた。
『すまないが、やらせてもらう!』
敵がナイフを抜く。ミサイル全弾発射。が、ミサイルは急に空中で爆発した。視界が爆炎で覆われる。俺は一瞬目を閉じた。
…マズイ!
「まさか!」
次の瞬間、爆炎から飛び出す黒い機体。反応できなかった俺に向かって、ナイフが振り上げられ…。
『殺しはしない!』
視界が暗転した。
――― ――― ―――
「すいません、すいません…」
時雨ははひたすら謝っていた。相手が相手とはいえ、演習で艤装を破壊したのだ。魚雷発射管の交換は済んだものの、班長から怒鳴られるのは避けられなかった。
「この司令官にしてこの艦娘ありだ!聞いてんのか!今度ぶっ壊したら懲罰房にぶち込んでやる!」
仕方ないことではあるから、時雨は甘んじてその説教を受け入れた。
「全く!おら、治ったぞ!」
艤装の調整が済む。さすが古参の整備兵といったところだ。
「あの野郎もお前のこと大切に思ってんだから、そういうことも考えろ!戦場で艤装が壊れたら死ぬんだぞ!」
「大切に?どういうこと?」
時雨は尋ねる。自分と提督は会って数日。そこまで大切に思ってるのは不自然な気がした。
と、整備班長はばつの悪い顔をする。少し、左右に目を泳がせた後、振り絞るように言った。
「あー…あれだよ。あの野郎は基地の奴全員を大切に思ってるんだよ。」
(そんな言い方じゃなかったけど…いったいどういうこと?)
時雨は班長に向ける目を少し細めた。格納庫の空調の音が響く。この気まずい雰囲気の中で取り敢えず時雨は提督についていくことを決めた。今提督は自分達のことを大切に思ってくれている。これで十分だ。そう思うことにした。
「……じゃあ、僕は秘書艦業務に戻ります。ありがとうございました。雪風も、今日はありがとうね」
時雨がそう別れを雪風に伝え、踵を返した瞬間、格納庫のサイレンが鳴った。高く響く、苦手な音。
「このサイレンは、スクランブルです!雪風、向かいます!」
すぐさま踵を返し、カタパルトに向かう雪風。班長も艤装調整に走った。時雨もそれを見、提督を補佐すべく司令室に急いだ。
地面の塵が、空に舞い上がる。