艦これ ―神浜戦場記録―   作:56215

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意外に長かった…


始動―7

 暗闇に包まれた場所。俺はそこで恐怖に震えていた。この機体が機能停止してからどれくらい経ったのか。あの後、作戦は崩壊。他の仲間達がどうなったかは分からないが、おそらく…。いや、怖いのは神の教えに背くことか。自分でも分からない。

 

「クソッ!自爆も出来やしない!」

 

 コンソールを触っても反応はない。おそらく動力系が完全に停止している。一応持っていた拳銃も今となっては弾は使い切ってもうない。文鎮だ。

 

「こうなったらコクピットに入ってきた奴を白兵で襲うしかないか…。やってやる!よくも俺を!」

 

復讐の怒りで目の前が真っ赤に染まる。俺は息を潜めながらハッチが開くのを待った。

 

 何分待ったことだろう。遂にコクピットのハッチが開いた。この機体に限らず、敵は機体コクピットにご丁寧にも脱出ポッドの機能をつけている。そのためハッチの開閉時間は少し長い。その瞬間に構えて、襲いかかる。

 

 「やっぱりガキか。あいつら洗脳でもしてやがんのかねぇ」

 

 倒れた。いや、倒されたといったほうが良いだろう。飛びかかった瞬間に足をすくわれて俺は無様に顔からハッチにぶつかる。痛みも忘れ、体を起こそうとしたのもつかの間、口に何かがつけられた。手足が極められたか、動かせない。と、次の瞬間には手足を固定され、手には手錠が、口には自害防止の猿

轡がつけられていた。

 

「元気が良いな、坊主。久しぶりに見たぞ、そんな根性持ちは。」

 

 髭を薄く生やした中年の男の顔が映る。長い髪を似合わない簪で止めている。戦場に無駄をそぎ落とされた様な、細い顔。

 

(死ね!いや、殺せ!俺を殺せ!)

 

 必死に叫ぶが口からは無様な音しかでなかった。

 

「何を言ってるんだか…。ま、取り敢えず頭冷やしてこい。」

 

 一瞬のうちに首に腕が回った。強い力を感じる。

 

「また会えるといいな」

 

意識が、闇に沈んだ。

      ―――  ―――  ―――

 

 時雨は司令室に走っていた。深海棲艦接近に対する緊急発進。本来は彼女自身出撃を望むところなのだが、編成が発表されてない今部隊に組み込まれても連携が取りにくい。また、一応は秘書艦という肩書がある以上、提督の補佐も行う必要があった。

 

(今日は走ってばっかだな…。急がないと)

 時雨は走るスピードを速める。司令室は長い廊下の先にあった。

 

 「駆逐艦時雨、入ります!」

 

 息を整え、司令室に入った。すぐに提督の方に向き直り、

 

 「は?」

 

 硬直した。荒れていた息が一瞬止まる。

 

 「何をやっている。早く出る用意をしろ。簡易艤装ね展開、急げ」

 

 提督は、可変戦闘機のパイロットスーツを着ていた。日常的には着ない、高速戦闘の為な服。それを着ているということはつまり…。

 

 「提督が何をやってるの!今前線に出る必要はないでしょうが!」

 

 分かっていても、思わず怒鳴る。アニメやらマンガやらでは味方組織のトップが機体に乗って最前線に出るのはお約束だが、日常で実際にやるやつは阿呆か自殺志願者のどっちか。しかも心中しようとしたがるタイプの。一応機体に乗り戦闘を行うと知っていても、たたき込まれた常識には逆らえない。

 しかし提督はそんな声も意に介さず、

 

 「ほらさっさと来い。別に前線で戦うつもりはない。…殆どな」

 

 と、こちらに目さえ向けず、格納庫直通のダクトに身を投げた。

 時雨は困惑する。前線に出ないのなら何をするというのか。動きを止めていたところ、司令室にいた大淀と目が合った。

 

「時雨さん、大丈夫ですよ。提督はいつもこんな感じですから。」

「それはそれで心配なんだけど…。分かった。じゃあ行くしかないか…。」

 

 黒く、ぽっかりと空いた穴。その前で、時雨は迷う。自分が何をしようとしているのかさえ分からない。不安だ。自分も、提督も。

 

 (ええい…もうこうなったら、行くしかないよね!)

 

 覚悟を決める。時雨は提督の入っていったダクトに身を投げた。

 

      ―――  ―――  ―――

 

 第三格納庫。神浜で唯一可変戦闘機が整備されている場所。そこでは整備員がチェックを終え、慌ただしく退避していた。そこに現れる人影。

斬雲はダクトを抜け、自らの愛機へと走った。

 「おい、機体潰し!コイツのコンディションは最高の状態にしてやったんだからあまりぶん回すなよ!まあ、仕方ない状況もあるかもしれんが…」

 

 毎度おなじみ黒鳥専用の整備班長の怒鳴り声。斬雲はそれに手を軽く振って応えると機体のコクピットに飛び乗る。司令部機能を追加し、直列型に複座を増やした、前の席。機体を立ち上げ、調子を確かめる。エンジンは快調。それを確認すると、斬雲は静かに目を閉じて、時雨を待った。

 

     ―――  ―――  ―――

 

 「提督!一体僕をどうするつもりなの!」

同じく格納区に来た時雨は斬雲に言われ、機体の後部座席に座っていた。オペレーター用か、通信設備の充実した場所。

 

 

 「前線と神浜基地では距離が遠すぎる上、前線の通信は敵のジャミングで確実に届くとは限らない。だからこの機体が電子管制機と司令部の役割を持って前線で指揮を行うわけだ。あまり戦闘には参加しないってのは、そういうことだ」

 

 淡々と話す斬雲。その間にも機体はカタパルトに乗り、発進準備を済ませつつあった。

 

 「取り敢えず高高度に出て敵さんの動きを見る。着いたら敵の位置を探るのがお前の仕事だ。俺は索敵を十分にできないからな」

 

 そう言いながら斬雲は機体をカタパルトに固定する。体に染み付いた、熟練の動き。

 

 『提督、出撃したのは第八防衛隊…白百合隊です。そちらが指揮を始める頃には戦闘が始まっているかもしれません』

 

 大淀からの通信が入る。彼女は司令室で機体や前線の情報を統制、管理している。そのことに関しては、彼女は驚異的才能を見せていると聞いた。 

 

 「了解した。機体固定完了。黒鳥、出る…。時雨、舌を噛むなよ。」

 

 機体は電磁カタパルトに押され、加速する。煙と火花。格納庫には臭いだけを残し、押し出された黒鳥は真っ青な空へと羽ばたいた。

 

 

     ―――  ―――  ―――

 

 「電子管制機は別に艦娘や他の機体にやらせるべきじゃない?提督か前線に出る必要は…」

 

 急上昇する機体の中で、時雨は簡易艤装を展開。電探の機能だけを起動し、周辺を探る。その最中、時雨はぼやいた。説明さえ無いことも、不満に拍車をかけた。

 

 「よく言われることだ。裏にはそれが出来ない深い事情がある。そもそも通常兵器では深海棲艦を破壊出来ないことは知ってるな?」

 

 やはり提督はこちらを見ようとしない。どこか、空のどこかを見ているようだ。

 時雨は頷き、提督の見ている、キャノピーの外を見た。状況とは裏腹に、空はどこまでも晴れやかだった。腹立たしいほどに。

 

 「敵を捉えることも単体じゃ出来ないんだっけ?理由には機密扱いとか言って教えてもらえなかったけど…。じゃあ艦娘にやらせればいいのに…」

 

 時雨はまたぼやく。提督は何も答えず、機体の針路を変えた。

 時雨は知らないことだが、司令部が艦娘という秘密兵器を支援に回すことを嫌がったのか、はたまた斬雲を嫌い、殉職させようとしているのか、神浜での艦娘による電子管制禁止の命令を出していたのである。そのため神浜基地では密かに黒鳥を簡易司令部として指揮を行っているわけだ。

 高高度に上昇した機体はコンテナに搭載されたレドームを展開。広域に渡る索敵を開始した。

 

 「第二波の敵艦6隻、南西方向、ポイント45より接近。続けて、その後方より敵艦3隻接近」

 

 時雨は言われた通り、艤装の電探を機体に接続。

 (艦娘と接続した所で、通常兵器が深海棲艦を索敵出来る訳じゃないはずなのにな…。何で出来てるんだろう…)

 

 疑問を抱きながら敵の位置を探る。それを元に提督が艦隊を指揮、艦娘達の位置を臨機応変に変化させながら攻撃に対応する。

 

 

 「大淀、沿岸に照明弾を保有している陸上部隊はないか。」

『第7高射砲連隊があります。連絡したところいつでも攻撃可能とのこと』

「艦隊各位。乙2型兵装が来るぞ。視力検査が好きな奴はいるか。」

 

 敢えて前線には正式名称は言わない。こういう絡め手は敵に傍受されても良いように伝えるものだ。この場合、乙2型は照明弾弾頭を示す。このコードネームは随時変化するため敵にも悟られないだろう。

深海棲艦達の目の前で照明弾が炸裂。動きを止めた敵を川内、神通、那珂が率いる火蜂隊が沈めていく。攻撃によりダメージは与えられなくとも、このような物理的ではない攻撃なら、戦争で鍛えられた、人類の兵器が負ける道理は無い。

 

 『敵艦、正面より再び接近。この量なら火蜂に対応可能です』

「…側面から回り込む部隊がいるな。時雨、周辺に友軍はいるか。」

 「いないよ。みんな正面の敵に拘束されてる。」

 「神浜には?」

 「いるけど、接敵する前に敵艦の長距離砲の射程に神浜が入る。友軍機は難しいかな」

 

 電探の表示を必死に精査しながら、時雨は報告。斬雲はしばし考えると、機体を旋回させる。レドームを収納。武装のロックを解除した。

 

 「こちら黒鳥。正面の敵の波状攻撃は今ので最後だ。残敵が基地に接近中であるため、こちらで迎撃する」 

 『了解しました。提督、ご武運を』

 

 大淀の声が終わらない内に、機体は加速。フルスロットルで敵艦隊へと走る。時雨はそのGに耐えながらも、敵の動きを必死にとらえていた。

 

「敵艦隊視認。輪形陣か。こちらから攻撃する。踏ん張ってろ!」

 

 レーザーライフルの甲高い音。黒鳥にふさわしい鳴き声を上げながら、機体は敵に襲いかかっていく。最初の発砲で艦隊前方のピケット艦を撃破。弾薬庫に引火したか、その爆発に隠れて急速変形。敵イ級にワイヤーアンカーを射出。巻き取りながら一瞬で接近。ブレードの一閃で破壊する。空中で変形して離脱した後、同様に攻撃を仕掛ける。敵艦の砲撃を回避する動きで再度変形。

艦隊旗艦と思われるル級の頭を蹴りで吹っ飛ばす。ハーフループからのインメルマンターンで離脱。 

 

「残り2つ!」

 

 変形した状態でブレードを起動。紙一重で敵リ級の砲撃を避け、その勢いのまま突貫。1本の黒い矢となり2隻をまとめて撃破した。

 

 「敵殲滅。周囲に敵ほ見受けられない。…時雨!敵部隊は!」

 「……いないかな。火蜂も掃討が完了した模様」

 「了解した。これより帰投する。」

 

 

 機体は基地へのアプローチに入り、コクピット内にもようやく弛緩した雰囲気が漂った。

 時雨は緊張していた息を吐き、目の前の黒い髪の男を見つめる。汗に濡れた首筋と髪が妖艶に光る。

 

 (提督は本当に強いんだね…。戦っているときは少し怖いけど…)

 

と、少し息を吐いた時雨の耳に何か聞こえた。

 

 アキラ…マモ…シ…ボ…

 「えっ?」

 

 あの時の声。呼び出されて機体を初めて見た時の…。

 提督の方を見たが、時雨の声を聞いていなかったのか無反応だ。時雨はもう一度聞こうと声を待ったが、もうその声は聞こえなかった。

 

(一体今のは…あの時と同じ…。どういうこと…)

 

 時雨は考える。が、答えが得られるはずもない。機体はただ時雨と提督を乗せ、蒼い空を羽ばたくだけだった。

 

 

 

 

 

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