灰の世界に彩が付く   作:クロワール

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誰かに読んでもらうって、すごくドキドキしますね。
それでは、どうぞ


非日常の第一歩

 

 俺の目の前にいる酒寄は、大変焦っている様子だった。

 その手のなかには見たことのない赤ん坊がいて、つぶらなひとみでこちらを見ている。

 謎の赤ん坊、焦り散らす酒寄。この状況から導かれる結論は…!

 

「…誘拐?」

 

「そんなわけ無いでしょ!?ほんとに電柱から出てきたの!ゲーミングに光って、今はゲーミングじゃないんだけど、ゲーミングで…!」

 

 ゲーミングという単語をこんなに聞くのはきっとこれが最初で最後だろう、なんてどうでもいいことを考えてしまう。隣で人が焦ると逆に冷静になるというアレだろうか。

 などとくだらないことを考えていると、酒寄が悲しそうな顔でうつむき、口を開いた。

 

「…わけわかんないよね。ごめん、気にしないで」

 

「いや、気にするけど。困ってんだろ?」

 

 鳩が豆鉄砲喰らったような顔で酒寄が顔を上げた。

 

「…信じて、くれるの?」

 

「まあな。わけわかんない話ではあるけど、現に子どもがそこにいるし。それに酒寄が誘拐するとは思えない。万一今のが作り話なんだとしても、酒寄ならもっといい話が作れるだろ」

 

「とりあえず今何をすべきかだな。警察…は、ややこしいからなし。市役所…?空いてるわけないか。てかこいつ戸籍あるのか?」

 

 あれこれ口に出しながら思いつく対応を挙げていく。酒寄は豆鉄砲喰らった顔のままだった。

 

「俺たちで面倒見るしかない…?けどうち今親いないし…。酒寄、なんかいい案ないのか?」

 

 超女子高生の知恵を借りようと、酒寄に話を振った。すると酒寄が申し訳なさそうに言った。

 

「ごめん、ね」

 

「ごめんはやめてくれよ。一番困ってるの酒寄だろ。そんな言葉よりも、ありがとうがほしいな〜?」

 

 ちょっと茶化すように言うと、やっと酒寄は笑顔を見せた。

 

「うん、ありがとうね」

 

「どういたしまして。深〜く感謝し給え〜?」

 

 またおちゃらけて言った。そうしないと、変なこといいそうだったから。大丈夫?俺、顔赤くなってない?

 

 ちょっとほんわかした雰囲気になった途端、ここまで沈黙を貫いていた存在がついに動いた。

 

「びえぇぇぇぇ!!」

 

 謎の赤ん坊のおおなきこうげき!

 育児などしたことない2人に、こうかはばつぐんだ!

 

「うおお!急に泣き出した!」

 

「うわっ、えーと、えーと、どうしよ…」

 

 こんなときどうすればいいかの経験はなく、かの酒寄もその知識は持っていないようで、あわてていた。

 

「あ〜とりあえず、灰戸、きて!」

 

「へ、いやちょ、引っ張るなって!」

 

 赤ん坊片手にすごい力で引っ張られて、一瞬で部屋に連れ込まれた。

 

…部屋に連れ込まれた!?

 

 よし、落ち着け、俺。こういうときは、アレだ。素数を数えるんだ。2、3、5、7、11…

 

 玄関でフリーズ状態になった俺を気にする余裕もないのだろう。酒寄は赤ん坊をあやすため部屋をぐるぐる回りながら悪戦苦闘していた。

 

「え〜どうしよう、どうすれば…」

ードンッ!!

 

 お隣さんからの壁ドンが炸裂した。

 人生初壁ドンにショックを受けてそうな酒寄、さらに泣き出す赤ん坊。

 しかし、その衝撃で俺は素数の海から帰ってくることができた。

 

「大丈夫、こわくないよ〜。えと、えーと…」

 

257…ハッ!酒寄、アレだ。子守唄!なんか知らないか?」

 

「うえぇ、急に言われても…。子守唄、子守唄…」

 

 どうやら記憶になさそうだ。別の手段がないかスマホで急いで調べていると、酒寄の歌声が聞こえた。これは…ヤチヨの"Remember"か。本来の曲よりゆっくりと語りかけるように歌う酒寄の声はとても優しく、あれだけ大泣きしていた赤ん坊もすぐに眠った。

 

「「よかった〜〜」」

 

 2人して気が抜けたようにへたり込んだ。なんとか乗り切った…。

 

「すんなり眠ってくれたな…。ヤチヨ様々だ」

 

「やっぱりヤチヨはすごいね…」

 

 ひとまずの窮地を乗り切って一息つくと、酒寄からの疑問がとんできた。

 

「そういえば、灰戸はなんでうちのアパートに来てたの?家の場所、違うのに。それに、大分遅い時間じゃん。バイトしてないんでしょ?」

 

「あー、それは…」

 

 正直に話すか、少し悩んだ。ちょっと不可思議現象が起きていたから。

 だが、ゲーミング電柱を見ている酒寄なら大丈夫だと思い、話すことにした。

 

「授業も部活も終わって、1回家に帰ったんだ。で、しばらくゲームしてたんだけど…」

 

「うんうん、それで?」

 

「夜食食べようと思って家漁ったら、何にもなくってな。コンビニ行こうと思って、家出たんだ」

 

「そしたら目の前の電線がバチバチ光っててな?」

 

「…うん?」

 

「なんか、ついてこい!って感じで光ってて、電線を伝っていったから、追いかけてみたんだよ。そしたら、酒寄のアパートについて、イマココ…って感じかな」

 

「電線がバチバチって…そんなファンタジーな」

 

「ゲーミング電柱には負けるよ」

 

「…それもそうね」

 

 一通り話し終えたところで、大きなあくびがでた。いろいろあって忘れていたが、今は深夜だ。そりゃ壁ドンも来るわ。

 

「赤ん坊も寝たし、俺は一旦帰るな。また明日、様子見に来るよ」

 

「へ!?いや、いいよ!こんな変なことに巻き込んじゃったし、拾ったのは私なんだから、私の責任で…」

 

「なら、これに関わったのは俺だし、俺の責任でもあるな」

 

「酒寄いっつもがんばってんだから、助けさせてくれよ。友達だろ?じゃ、お休み」

 

 言うやいなや、酒寄に背を向けて玄関のドアを開ける。

 ちょっと小っ恥ずかしいセリフを言ってしまったが、深夜テンションってことで見逃してもらおう。

 …酒寄の顔が見れない。何だコイツ、みたいな顔されてないよな…?

 

「ありがと、灰戸」

 

 ドアが閉まる前にかすかに聞こえたその声が、帰り道ずっと頭から離れなかった。

 





たくさんの人に読んでもらえてると思うとニヤニヤが止まりません。楽しんでもらえていたら幸いです。
ゆっくりペースですが、良ければまた見に来てください。

それでは、また
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