【実験】絶望的状況の奴隷にすべてを与えてみたら【完結】   作:畑渚

7 / 15
第7話 オオトカゲのテールスープ

 ここ数日の間、ロゼは俺に何を求めたと思う?

 

 答えはそう……些細なことだ。

 

 清潔な服、食べるのに困らないご飯、快適な温度の室内。

 どれもこれも、俺を悩ませるような問題ではない。

 

 退屈じゃないのかと聞いても暇は素晴らしいと返ってくる。

 

 このままじゃダメだ。

 俺のほうが退屈で死んでしまいそうだ。

 

「なぁ、本当に何かないのか?」

 

「そうですね。ご主人様がそうおっしゃるなら……」

 

 ロゼはしばらく考え込んだ後に、ある1つの提案をしてきた。

 

「オオトカゲのテールスープを飲んでみたいです」

 

「オオトカゲ?」

 

「はい、以前いたところのご主人様が、愉快そうに笑いながら話していました」

 

「なるほどな……」

 

 オオトカゲ……聞いたことないな。とりあえず大きなトカゲならなんでもいいのか?

 

 そう悩んでいると、クスクスとロゼは笑った。

 

「失礼しました。やはりご主人様でも無理ですよね」

 

「はぁ?俺がいつ不可能って言った」

 

 俺は外套をたなびかせながら大きな声で宣言する。

 

「いいだろう、お前にオオトカゲのテールスープを振る舞ってやる。覚悟しておけ!」

 

 とにかくトカゲ類の中で大きなやつだ。俺は情報を仕入れるためにギルドへと向かった。

 

 

<=>

 

 

「……ぷふふ」

 

 ご主人を見送った私は、思わず吹き出して笑ってしまった。ご主人のあの悩ましげな表情は、私にとって最高の料理に等しい。

 あの様子じゃしばらく帰っては来ないだろう。

 

 オオトカゲのテールスープ

 

 それは、不可能・存在しないものを意味する慣用句だ。

 

 オオトカゲという名称の生物はこの世界に存在しない。似ている生き物はいるけれど、『オオトカゲ』そのものは存在しないのだ。

 

 敢えてオオトカゲを、トカゲ類の中で最も大きな種と定義するのであれば、その正体は……

 

 

<=>

 

 

「なるほど、ドラゴンか」

 

 ギルドの資料室であらかた情報を探し終えた俺は、そう結論付けた。

 

 まず、オオトカゲなどという生物はこの世界に存在しないようだ。生物図鑑を探しても、それっぽいものは多数あれどそのものは存在しなかった。

 

 そして、オオトカゲなるものが、『トカゲ類の中でも大きいもの』を示すとしたら、それはドラゴンを示すことになる。

 

「おもしれえじゃねえか、ロゼのやろう。俺にドラゴンの肉を取ってこいと」

 

 ドラゴンは、この世の中でも格上の存在として認知されている。冒険者の中には、ドラゴンスレイヤーといったドラゴン退治専門の職もあるくらいだ。

 

「さて、ついでに依頼も受けとくか」

 

 俺は掲示板へ行き、貼られている依頼を眺めた。

 ドラゴン生息地での薬草採取、これだな。

 

「カインさん、お疲れさまです」

 

「ああ、これ依頼、頼むよ」

 

「危険地域での薬草採取ですね。……もしかしてドラゴンの討伐を考えていますか?」

 

「お見通しか」

 

「カインさんならそうすると考えただけです。ちょっと待ってください」

 

 書類をバサバサとめくってはなにかをメモに書き留めている。

 

「こちら、今買取強化中のドラゴンの素材リストです。良かったら使ってください」

 

「あんがとな。って多いな」

 

「はい。最近また一組ドラゴンスレイヤーチームが解散しまして……」

 

「最近多いな。大丈夫か?」

 

「ギルドとしても大変困っています。どうですかカインさん。ドラゴンスレイヤーになりませんか?」

 

「いやだね」

 

「ですよね……。まあいいです。ご無事を祈っております。行ってらっしゃいませ〜!」

 

 見送られながら、俺はリストを覗く。空の王者であるドラゴンの素材だ。とてつもない数の部位が、これまたとてつもない値段で取引される。

 

「これなら運送屋にも寄ってくか」

 

 この街の運送屋は、宅配便以外の仕事がある。

 それは、危険地域からの輸送だ。

 大型モンスターは1体でとんでもない数の素材が取れる。しかしそんなモンスターがいるのは街から遠く離れた僻地だ。

 僻地から街まで素材を運ぶのは、冒険者には文字通り荷が重い。

 

 そこで運送屋の出番だ。依頼地点から街まで素材を運び、運送料として冒険者の儲けの何割か貰う。

 

「おーい、いるかい?」

 

「にゃ?カインじゃにゃいか!今店長は出かけてるにゃ」

 

「クロじゃねえか、配達に出てないとは珍しい」

 

「今日はここで店番にゃ」

 

「じゃあそんなとこ申し訳ないんだが、依頼だ」

 

「にゃ〜?まあいいにゃ、何を狩るにゃ?」

 

 俺はギルドで貰った依頼書をカウンターに叩きつけた。

 

「薬草採取……って、ど、ドラゴンにゃ!?」

 

 クロは依頼書に押されたドラゴンのスタンプを見て飛び上がった。

 

「思った以上に大物にゃ、しかしどうして唐突にドラゴンなんて狩るにゃ?」

 

「なに、最近奴隷を買ってな。そいつに言われたんだ。『オオトカゲのテールスープが飲みたい』って」

 

「にゃははは!『オオトカゲのテールスープ』をドラゴンで作るにゃ!ケッサクだにゃ!」

 

「で、依頼は受けてくれるのか?」

 

「うちの従業員をかき集めてでも受託するにゃ」

 

「じゃあ頼んだ。尻尾だけは先に持って帰っとくから、あとは好きにしてくれ。報酬も俺の分はいらない」

 

「相変わらず太っ腹にゃ。了解したにゃ」

 

「そんじゃ、よろしく」

 

 そう言ってのれんをくぐって店を出る。太陽は……まだ真上まで来てないな。

 

「今日の昼メシはテールスープだ」

 

 そう呟きながら街の門まで歩く。

 魔法で空も飛べるのだが、一度時計塔に突っ込んでからは、街の中では飛ばないようにしている。

 

「お、カインの旦那。冒険かい?」

 

 街の門をくぐろうとした時、門兵に話しかけられる。

 

「ちょっと薬草を摘みにな」

 

「とかいってほんとはドラゴン倒しにいったりな」

 

「なぜわかった」

 

「え?ほんとかい?ははは!そいつは驚いた。いや全然冗談のつもりだったよ」

 

「なんだ、思考でも読まれたのかと思ったぞ」

 

「そんな魔法使えたら門兵なんかやってないさ」

 

「まあそれもそうだな」

 

 もしそんな魔法があれば、今頃詐欺師は撲滅されてる。

 

「それじゃあ行ってらっしゃい」

 

「ああ、昼には帰ってくる」

 

 街の外に出た俺は、空へと飛び上がる。

 空は自由でいい。目的地まで一直線だからな。

 

 俺は目的地方向に狙いを定めて、魔法で身体を加速させた。

 




新たな登場人物たちの性別は男でしょうか、それとも女でしょうか



答えはいまのところありません
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。