朝起きたら女子全員サキュバスのエロゲーみたいな世界に転生してた 作:雑穀ライス
数十年ぶりの学生生活は、授業は少し退屈だったが概ね楽しかった。特に自分より身長の高い女の子に囲まれて過ごすのは前の世界では見る事が無かった光景なので、なんだか新鮮な気持ちである。正面から女の子を見ると身長差のせいで視線がおっぱいにぶち当たって少し目のやり場に困るのだが、そこはまあ仕方ないか。
クラスに男子は3人しかいなかったが、女子は女子、男子は男子でグループを組んで行動するのは前の世界と変わらなかった。下手に女子と仲良くなると15歳になる前にお持ち帰りされてしまいそうだから警戒しているのかもしれない。俺は別に気にしないけど、やっぱりこの世界の男子にとって身体目当てで寄ってくる女子と付き合うのは抵抗があるのだろうか。機会があったら誰かに聞いてみよう。
そんな感じで時間が流れていって、午後の授業も終わって放課後になった。
この後は部活の時間なのだが、男子にとって部活は性接待の場にしかならないので「性奉仕義務法」の対象になった中学3年生ぐらいしか入部していない。というか、学校と教育省の方針で中3になった時点で強制的にどこかの部活に入部させられるようだ。この世界の男子に一番必要な教養は性知識だという事実が辛い。
放課後は1時間に一本、送迎バスが運行されている。男子生徒の誘拐対策の送迎なので自宅の玄関まで横付けしてくれるので楽ちんだ。
時計を見ると、今日は5限で授業が終わったこともあってまだ2時過ぎだった。男子が外で遊ぶのは危険な世界だし、帰って寝るには早すぎる。昨日に下の姉にこの世界のゲームを見せてもらったけど、なんか前にいた世界と比べてゲームキャラの男女比率が逆転してるせいか乙女ゲーっぽいゲームばかりで微妙に合わないんだよなぁ。
よし、学校の探索を続けるか。
というわけで調査を続行、部活の見学と洒落込もう。
まずは運動部……は別にいいか。男子の役割が完全に決まっている以上もはや中身は貞操逆転世界のヤリサーでしかない。まあ、お世話になるとしても「性奉仕義務法」の対象になる2年後で十分か。しかしいつでもヤレるとなると別に後でもいっかという気分になってくるのはどういう法則なんだろうね、これ。
となれば、狙いは文化系の部活だな。
というわけで、文化系クラブの部室を探すついでに校内を散策する。
途中ですれ違った女子生徒に声を掛けられたので文化系の部室棟はどこかと尋ねたら快く教えてくれた。最後に名前と年齢を聞かれたので教えてしまったけど、もしかして俺が15歳だと答えていたら今頃どっかの空き教室に連れ込まれてお楽しみされてしまったのだろうか?なんだか安心したような、でも少し残念なような超複雑な気分である。
ほどなくして、目的の部室棟に到着。近くのほうから一つずつ何の部活かを確認していく。
1つ目、軽音楽部。バンドには興味がないのでパス。
2つ目、華道部・茶道部。2つの部活で1つの部室ということは部員が足りてなくて合併したんだろうなぁ。
引き戸になっている扉が少し開いていたので部室の中をちらりと覗いてみると、ゲーミング発光をするチ〇ポの形をした花瓶に生け花をしている女子生徒の姿が見えたのでそっと扉を閉めた。
気を取り直して次の部室のネームプレートを確認すると、3つ目の部室は「文芸部」と書かれたプレートが刺さっていた。
ああ、なんだか懐かしいなぁ文芸部。かくいう俺も学生時代は文芸部に所属していたことがある。ノルマが緩くてサボっても文句言われなかったし、いつの間にか部室がカードゲーム同好会のデュエルスペースになってて執筆そっちのけで遊びまくってたからすごく居心地のいい部活だった。
昔の記憶に郷愁を覚えた俺は、文芸部の扉を開いて中の様子を見る。
部屋の中に居たのは2人の女の子。
しかもその内の一人は見覚えのある顔だった。
「へ……?えええええぇぇ!?」
今日の朝、教室で俺の席まで案内してくれた女の子が俺の顔を見て絶叫した。
「……えっ、マジで入部希望?ウチ、見ての通り陰キャのたまり場やで?」
文芸部の部室に居た関西弁を話すオレンジ色の髪の毛をしたメガネ女子がまるで二足歩行で爆走する馬を見たような驚愕の表情で言う。どうやらこの子が文芸部の部長らしい。
「運動部のノリよりこういう雰囲気のほうが性に合ってるので……創作意欲が低い部員はお断りというなら他を当たりますが」
「いやいやそんなこと言ってないし!入部歓迎大歓迎!成果物ゼロでもウチが認める!!というかウチが2人分書く!!!」
正直に「遊ぶのが目的で入部したいです」と言ったら食い気味に部長が入部を承認してくれた。
その余裕の無さになんとなく俺の同類の匂いがして親近感が湧いてくる。非モテ系サキュバス概念……うん、悪くない。前の世界の俺たちと違って種族補正でビジュアルは完璧なのになんか勿体ないな。
晴れて同じ部活の部員になったので、自己紹介をする。
オレンジ髪の部長の名前は井ノ口蜜柑。
教室で案内してくれた赤色の髪の同級生の名前は高宮林檎。
果物コンビで覚えやすい名前だった。髪の毛の色も名前にリンクしてるのでわかりやすい。
「また会ったね」
「あうう……」
林檎ちゃんに声を掛けると彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
うーん、俺としてはもっと彼女と仲良くなりたいんだけどなかなかガードが硬い。いやもしかしてこの反応のほうが普通だったりするのか?知らず知らずのうちの上の姉のやり方がこの世界の常識だと勘違いしていたのかもしれない。
「……『性奉仕義務法』みたいな法律があるからもっと女子からガツガツ言い寄られるのかと思っていましたが、案外平和ですね」
「あんなん運動部の陽キャどもが合法的に男子を食い散らかすだけの法律やないか。男1人に女が10人いる世界で男に週5でセックス奉仕させても女は5人余る計算やろ?ウチらみたいなまともに男の子と会話できん陰キャには無用の長物にしかならんわ」
恨みと僻みの入った声色で蜜柑先輩がボヤく。どうやら世界が変わっても恋愛弱者の悩みは変わらないようだ。
「……俺はとっかえひっかえ男を食い散らかす女子よりも、俺だけを好きになってくれる女子のほうが好きですね」
蜜柑先輩と会話を続けているうちに、なんとなく俺がこの世界で目指す方向性が固まってくる。
彼女たちは、前の世界の俺たちだ。
オタク、チー牛呼ばわりされて他者に見下されて、他人に期待することを諦めた敗北者。
どうせ数年後に男娼として性を消費されるなら、俺は彼女たちを選びたい。
つまり「オタクに優しいギャル」の貞操逆転世界バージョンを目指すってことだな!
「これからよろしく。林檎ちゃん、蜜柑先輩」
俺に新しい目標を与えてくれた彼女たちに対して感謝の気持ちを籠めて握手をする。
ほらほらー、俺は君たちの味方だぞー。だからもっと仲良くしてねー。
「ぱえっ!?」
「いきなり名前呼び!!?」
あれ?距離感の詰め方間違えたかな?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――鈴口翔太は文芸部で2時間ほど遊んだ後、送迎バスに乗って下校していった。
「はあ……」
彼の後ろ姿を見送った後、部室に戻った蜜柑は大きなため息をつく。
「なんやあの男……存在がスケベすぎるやろ……林檎、アンタいつアイツと知り合ったんよ……」
「話しかけられたのは、今日の朝が最初です……」
蜜柑と林檎は、2人して「恋する乙女」というには不景気過ぎる表情で翔太について語り合っていた。
……この世界において、女と男の関係とは捕食者と非捕食者の関係だ。
男は女に犯されるために生かされている。社会はそれを「保護」と言い換えているが、本質は「支配」である。
男から「搾取」することを「権利」だと考える女にとってこの世界は楽園だが、その考え方に馴染めない女性はこの世界に居場所はなかった。
奪うよりも愛されたい。
男から与えてもらいたい。捧げて欲しい。
何より拒絶されて、傷つきたくない。
そんな内向きの性的趣向を持つサキュバスは、いつしかこの世界に順応しているサキュバスから恋愛弱者のレッテルを貼られることになった。
しかし鈴口翔太は違う。
子供の頃から「知らないサキュバスに近づいたら誘拐される」と親から口をすっぱくして言われ続けることで、知らず知らずのうちに男に備わるはずのサキュバスへの警戒心が一切存在しない。
この世界の常識に染まっていない、穢れなき存在なのである。
彼は非モテ系サキュバスに差した、希望の光そのものだ。
……男性に対して免疫が全くない非モテ系サキュバスである蜜柑と林檎の二人は、鈴口翔太の握手一つであっさり陥落した。
「ああああ~!なんでアイツ1年やねん!!3年やったら『性奉仕義務法』を理由にその場で襲ってたのに!!」
惚れた相手が「性奉仕義務法」の対象年齢外だったことに絶望した蜜柑はがしがしと頭を掻きむしって悶えるのであった。
次話、20:05投稿予定です