錬金術はそんなに万能じゃないですケド
「ねぇ、私と子供を作ろう……」
「何言っちゃってんの!?」
魔法学園、2年生の教室、その片隅にて。
一人の少女が俺に向けて、突然そんなことを言い放った。
彼女の名前はアルシュ・ヘルゼメイト。
輝くような銀髪と、幼気ながらも儚く凛々しい顔立ち、そして天才と呼ばれるほどの才能で、学園内で一、二の人気を争うような、アイドル生徒だ。
そんな彼女からたった今、凄まじいことを言われてしまった。
ちなみに俺は、そんな彼女の隣の席ってだけ。
彼女とは特に親交もなければ、なんなら近づいたことすらない。
話しかけようとすると、クラス内の親衛隊から凄まじい睨みが飛んでくるからな。
なんならたまに、妨害魔法や攻撃魔法が飛んで来ることもある。
全部、彼女に気づかれないようにやるから、たちが悪い。
まぁ、そんなことは置いといて。
それよりも彼女に言われたことの意味を考えねばならない。
「こ、こど、子供!?」
「うん……子供。男の人となら、作れる、でしょ?」
「い、いやぁ……まぁ……そう、なんだけども……」
あまりにも突然のこと過ぎて、頭の処理が追いついてこない。
しかし『子どもを作りたい』というのだけは、俺の聞き間違いではないようだ。
……特に交友がないとはいえ、他人の願いを無碍に断るのも気が引ける。
いや、別にね、そういう下心があるわけじゃないよ。
確かにそういう行為に興味はあるけど、あるけども。
だからと言って今すぐそういうことしたいとか、やってみたいとか、そんなことは全くなくって。
ほら、隣の席だから、そんな彼女の願いを適当に断るのは気が引けるというか。
まぁ、つまり。
断るのはよくないよね、って話。
うん。
「わ、わかった。協力するぞ」
「……やった。ありがとう」
「そ、それで……い、いつから?」
「いつからって……今から……?」
「い、今ぁ!? ここでか!?」
「……材料持ってくれば、できるし」
「いやいやいや! 流石に場所は──ん? 材料?」
なんだか、話が変わってきたぞ。
材料……材料……まぁ、確かに材料はいるだろう。
いるだろうけども、持ってくるものではない。
材料と言う話なら、ここに揃ってるわけだし。
そんな話はともかくと、俺は取り敢えず聞いてみる。
「あの、材料って?」
「……錬金術なんだから、材料、いる」
「…………錬、金、術?」
どうにも、俺は早とちりしてしまったらしい。
なんだか、すごく、恥ずかしくなってきた。
いやだってさ! 錬金術ってさ! 人間の製造なんて確立されてない新技術だぞ!
……そう考えると、なんか変な話だな。
この世界で錬金術は金属を生み出す技術。
錬金術から金属を生み出し、金属から魔法を、金属から仕組みを作り、そうやって世界は回っている。
故に。
錬金術は万物を生み出す術ではなく、『物』を生み出すのではなく、金属から物を生み出すだけの、手助けの手段でしかない。
彼女が天才と言われていようが、幾ら何でも人を生み出すのは無理ってもんだ。
「ひ、人を生み出すって、どうやってやるんだ?」
「この本に書いてあった」
そう言うと彼女はおもむろに、カバンから一冊の本を取り出す。
タイトルは……『賢者タイムのススメ』。
なんか妙に艶めかしい女と、ローブを着た厳つい男のイラストが書かれた……エロ本だった。
つい数日前、俺のバカ友達に見せられた本だったから、その本のことはよく知っている。
自称賢者の男が弟子の女となんやかんやして、子どもを作るっていうエロ小説だ。
なんとかさんの新作らしい。
「……それ、アルシュさんの本?」
「ううん、お姉ちゃんの……好きに持っていってって、言われたから……持ってきた」
「ああ、お姉さんの本なのね……」
「ここに、人の作り方、書いてある、らしいから……試して、みたい」
らしいって、読んでないんかい。
恐らく、裏表紙に書かれてるあらすじから勘違いしちゃったのだろう。
普通するか? そんな勘違い。
天才少女が、幾ら何でも無知過ぎるだろ。
「……だから、作ろ?」
「…………」
俺は少し目を瞑って深呼吸したあとに、ゆっくりと口を開く。
「わかった。ちょっと……勉強しようか」
「?」
俺は自分の欲望を押し殺し、取り敢えず彼女に真実を告げることを選んだ。
それが最良であると信じて。
……なお、この選択を後悔することになるとは、このときの俺は知る由もなかったのだった。