【うずまき家の場合】
だいたい、4人のうち3人が賛成してしまえば多数決で既に負けてしまっている。初めから不利に決まっている。出来レースだ。
サスケは、うずまき家の湯船に浸かり少し不貞腐れていた。目の前には満面の笑みのボルトがいる。それほど広くもない浴槽に二人が入ると言わずもがな、狭い。
「ニシシ」
この笑い方は遺伝なのか、ナルトの幼い頃を彷彿とさせる。
なにかにつけサスケをライバル視し、キライだと連呼していたナルト。そんな彼でもたまにそういう笑顔を見せる時があった。けれども、今目の前に居る彼の息子はそっくりな顔をしていながら、好意を全力で表している。
「本当に、おまえはナルトと違うな」
「……。あーわかった!また根性ねーって言うんだろ!」
「いや、違う。おまえはナルトと違って素直で可愛いと思ってな」
「……へ?」
可愛いという言葉がボルトの頭の中で反芻した。途端に顔が茹で蛸のように赤くなる。
「お、男が男に向かって可愛いとか言うなってばさぁ!」
ボルトはそう言いながらサスケにバチャバチャと湯をかけた。
「……誉めたつもりなんだが」
そんな声はボルトの耳に届かない。
人に率直に好意を伝えることは、意外と難しい。照れ臭いものだ。かつてのナルトはサスケのことをキライと言っておきながら、いつも興味津々だった。そしてサスケはナルトなんか眼中にないと言いながら、いつもナルトのことを見ていた。
「もう少しお互い素直に、ボルト、お前のように好意を好意として表せていたなら、もっと違う未来も描けたかもしれないな」
サスケはフッと微笑した。
「じゃあさ、親父はどうだったんだよ」
「ん?……ああ、お前の親父からはよくスかしたやつと言われていた」
「あはは!ぜってーウソじゃん、それ!」
「……どうだか」
サスケの口角がわずかに上がった。
サスケは用意されたグレーのスウェットのパンツと、白いTシャツに着替えた。
それを見てボルトは手を口にあてて笑いを堪えている。
「なんか笑えるってばさ……!」
「……そんなに変か?」
サスケは着用したナルトの服を見下ろした。
「ちょっと似合わない!師匠には、バスローブとか浴衣とか甚兵衛とか、そういうの着てほしいってばさ」
「そうか……」
似合わないと言われ少し凹んだ。
脱衣所を出ると、夕飯のいい匂いが鼻を掠めた。
「これはー……ハンバーグだな!かあちゃーん、腹へったあー!!」
「ちょ……」
ボルトはサスケの腕を掴みぐいぐい引っ張っていく。
夕飯はボルトの言う通りハンバーグだった。
「2人とも、慌てなくていいのに」
ヒナタはくすりと笑っていつもの席についた。隣にはヒマワリが座る。向かい側にボルトとサスケが座り、食卓を囲んだ。
サスケにとっては違和感しかない空間だった。
「……いただきます」
サスケは落ち着かない空間の中、箸をとった。すると、向かい側に座るヒマワリと時々視線が合うようになった。サスケはヒマワリとはこれまでに会ったことがない。
「どうした?」
目線が合い、サスケがヒマワリに声をかける。ヒマワリは頬を赤らめ、もじもじし始めた。
「ヒマワリは少し人見知りなところがあって。ほら、ヒマワリ、自己紹介は?」
「……う、うずまきヒマワリです。5才です」
「俺はうちはサスケ。年はご両親と同じだ」
「ヒマワリ!俺の師匠なんだぜ!かっけーだろ!」
「ししょー?かっけー?」
ヒマワリはボルトの言葉に首をかしげながらサスケを見た。
「……よろしく、な」
「うん!」
ボルトはナルトに似ていると感じていたが、目の前に座るヒマワリという少女はボルト以上にナルトに似ている。綻んだ顔がそっくりだった。
「ナルトの血が濃いな」
「そうね。ボルトもヒマワリもどちらかといえばわたしより主人に似てるってよく言われます。けれど、ヒマワリには白眼が出たの」
「青い目に……?」
「わたしもそう思ったわ。けれど関係ないみたい。今まで一族内での婚姻がほとんどだったから、ヒマワリのような白眼は例がないの」
「そうか……」
「ヒマワリ、白眼になるとすっげー強ぇの!あの親父、ヒマワリの攻撃食らって丸一日動かなかったんだぜ」
「本当か?」
「ごめんなさい……」
「いいのよヒマワリ、あのことは」
「……」
この家族に何があったのか聞きたかったが、ヒマワリが泣き出したら困るためサスケはその言葉を飲み込んだ。
「師匠!一緒に寝ようってばさ~」
「ひっつくな」
ボルトがサスケに弟子入りしていたとは聞いていたが、サスケとのやりとりを見るのは初めてだ。今回わかったのは、ボルトがサスケにベタ惚れだということ。まさに惚れ込んでいる。ヒナタはくすりと笑った。
「ボルト、サスケくんに迷惑よ。サスケくんは主人ベッドを使って。もちろんわたしの寝室は別にあるから、遠慮しないで」
「すまない」
「えー!」
「サスケくん、案内するわ。ボルトは部屋に行きなさい」
「……わかった」
ヒナタが命令することは滅多にないだけに、それに逆らうことはできなかった。
「ここです。ベッドは好きに使ってください」
「すまない」
サスケは寝室に入る足を止めた。
「……サスケくんって、本当にうずまきの血筋からモテるんだね。ボルトもすっかりあなたの虜で、まるでうちの夫を見てるみたい」
静かな圧を感じた。
「ああ。悪いな」
サスケはナルトのベッドに腰掛け、小さく息をついた。
「……だから嫌だったんだ。あのヒナタが気づいてないわけがない」