とある暗部の才人工房   作:雨宮ヒトシ

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Phase30「依頼 -リクエスト-」

 薄暗い部屋の中で、空気は淀み、古い埃と湿った鉄の匂いが鼻腔を刺していた。

 天井からぶら下がった裸電球が微かに揺れ、頼りない光が壁の黒ずんだ染みや剥げ落ちた塗装をぼんやりと浮かび上がらせている。

 一人の男が椅子に縛り付けられていた。荒い縄が手首と足首に食い込み、血の巡りが悪くなっているのがはっきり分かる。指先は痺れ、感覚が鈍っていた。

 

(……ここは、どこだ?)

 

 意識の底から浮かび上がるように目覚めた瞬間、世界は闇に閉ざされていた。

 視界は布で覆われている。布越しにわずかな光の輪郭だけがぼやけて見えるが、何があるのかは分からない。

 代わりに、音だけが異様に鮮明だった。

 どこかで水滴が落ちる規則的な音。遠くで軋む床板の微かなきしみ。自分の呼吸と鼓動だけが、耳の奥でやけに大きく響いている。

 

 背中には椅子の冷たい硬さが伝わり、喉の奥は乾き切ってひりついていた。

 彼は無意識に息を潜め、暗闇の向こうに潜む「何か」の気配を探ろうとした。

 

 やがて、断片的な記憶が浮かび上がる。

 どれほど眠っていたのかは分からない。

 昨日だったのか、それとももっと前か。

 仕事を終え、疲労で重くなった体を引きずるようにしてアパートの前まで辿り着いた。鍵束を取り出し、ドアの鍵穴に差し込もうとした、その瞬間――背後から頭に黒い布を被せられた。

 

 視界が奪われ、心臓が跳ね上がる。

 振りほどこうと腕を振り回したが、背後から複数の手に押さえつけられた。

 次の瞬間、首筋に鋭い衝撃が走る。息が詰まり、視界が白く弾け、膝から力が抜けた。

 そこから先の記憶は、途切れている。

 

 男は残っている力を振り絞り、試しに手足を動かそうとした。しかし、縄はびくともしない。

 体をよじろうとすると椅子が軋み、硬い木の感触が背中に食い込むだけだった。

 何か言葉を発しようとしたが、口はガムテープで塞がれている。

 喉から漏れたのは意味を成さない呻き声だけだった。

 

「……う゛ー……」

 

 そのとき、唯一自由な感覚器官である耳が、誰かの声をとらえた。

 

「――目を覚ましたようです」

 

 低く、腹の底から響くような男の声。

 どこか感情の抜け落ちた無機質な響きで、映画とかに出てくるヤクザに似合いそうな声だ。

 

「ご苦労様です。あとはわたくしがやりますので、貴方たちは下がっていて頂戴」

 

 続いて聞こえたのは、それとは対照的な、澄んだ少女の声だった。

 鈴を転がしたような高く柔らかな声だが、不思議と子供らしい幼さは感じられない。

 

「はい」

 

 低音の男が短く答える。

 直後、床を踏む複数の足音が響き始めた。硬い靴底がコンクリートを叩く乾いた音が、次第に遠ざかっていく。

 やがて、重い扉が軋みながら開閉する音がし、金属製の留め具が噛み合う鈍い音がした。

 部屋は再び、ほとんど完全な静寂に包まれる。

 

 コツ、コツ、と軽やかな足音が、ゆっくりだが確実に近づいてくる。

 いよいよ何をされるのか分からなくなった男は、荒い息を吐きながら思わず身じろぎした。

 次の瞬間、目元にかかっていた布が引き剥がされる感触があった。

 闇に慣れきっていた視界に突然光が差し込み、男は思わず目を細める。まぶしさに耐えきれず、半開きのまま瞬きを繰り返した。

 

 目隠しを外されたのだ。ついでに口を塞いでいたガムテープも。

 しばらく瞬きを繰り返し、光に慣れた目で、ようやく目の前の人物の姿がはっきりと見えた。

 薄い照明に照らし出されたその姿を認めた瞬間、男の意識は否応なく彼女へと収斂していく。視線も、思考も、すべてが一点に縫い止められたかのようだった。半ば自動的に、喉から声が零れ落ちる。

 それも無理からぬことだった。その姿は、男が置かれた危機的状況を一瞬忘れさせるほど、強烈な印象を放っていた。

 

 射干玉のごとく長く流れる黒髪。

 真珠のように白く滑らかな肌。

 淡く色づいた薄紅の唇。

 そしてどこか艶やかな色を漂わせる、茜色の瞳。

 少女のあまりの美しさに気を取られていた男は、遅れて我に返るように周囲を見回した。

 

 廃ビルの一室か、それとも地下の閉鎖空間か。窓はなく、わずかな天井灯の光が湿ったコンクリートの壁をぼんやり照らすだけだった。

 そして目の前の少女は、艶めかしく笑みを浮かべ、口を開いた。

 

「ご無沙汰しております、と申し上げたいところですけれど、こうしてちゃんとお話しするのは、初めてでしたわね――巌根(いわね)さん?」

 

 巌根、と呼ばれた男は思わず息を詰めた。

 

「君は……一体?」

 

 少女はさして気にも留めぬ様子で、指先で軽く顎の下を撫でるようにしながら、

 

「あら、覚えていらっしゃらないのかしら? まあ無理もありませんわね。あの頃はまだ小学生でしたし、百人にも及ぶ生徒全員のお顔を覚えるなど――ただの給食係には、到底無理でしょう?」

「…ッ!?」

 

 その『給食係』という言葉に、巌根の背筋に一筋の冷や汗が伝った。

 

「……君は……まさか――」

 

 少女――時ヶ谷凛音は、妖しげな微笑を深め、あたかもその瞬間を待っていたかのように、口を開く。

 

「やっと思い出しましたの……? 本当に、世の中は、不公平ですわね……この数年間、わたくしは、一刻たりとも、貴方のお顔を忘れることができませんでした――何せ、名前も住所も知らなかった貴方を、探し出すための――唯一の、手がかりでしたから……。『主観干渉(サブジェクト)』の元給食係にして、木原幻生の元配下……巌根泰造さん?」

 

 その言葉を囁くように、しかし揺るがぬ威圧を滲ませて放たれた。

 巌根は視線を逸らそうとするも、光に吸い寄せられるように、全身が硬直する。

頭の中で、あの頃の淡い記憶がフラッシュバックする。

 

 小学校に偽装された研究施設『主観干渉(サブジェクト)』。

 そこで、巌根は給食係として働いていた。ただ子供たちに食事を与えるだけの、特に変哲もない仕事だった。

 だが、ある日から事態は変わった。

 校長――木原幻生からの依頼だ。

 「ある薬物っぽい粉末」を、とある子供の給食にこっそり混ぜるように、と。

 

 当時の巌根は戸惑いながらも、「能力の成長を促す薬物だ」という言葉を信じ、従ってしまった。

 しかし、それが後に――ある悲劇を引き起こしていたことを知らされる。

 そして、その事実を知ったときの衝撃は、今も胸の奥で重くのしかかる。

 あの子供の名前は確か――

 

「……雨束、日花璃の……関係者なのか?」

「そう」

 

 時ヶ谷は即答した。

 

「そこが分かっていただけたのなら、ここに連れてきた理由も、お分かりでしょう?」

「……」

 

 巌根は口を開こうとしたが、言葉は出なかった。

 今この場で何かを言おうとしても、「知らなかった」なんて言い訳は通用しない。

 かつて自分の無知が、一人の少女を暴走させ、数多の命を奪った事実は、変わらないのだから。

 時ヶ谷は、淡々と、しかし鋭く巌根を見据えたまま問いかける。

 

「どうして、あんなことをしましたの?」

「……ああするしか、なかったんだ」

 

 その言葉には、言い訳の余地はない。

 震える声で、必死に絞り出すように続けた。

 

「君の怒りの矛先が俺に向くのは当然だ。ああ、俺は百人もの命を、この手で、知らずに奪ってしまった。無知だから、逆らえなかったから? そんなのは、ただの言い訳だと分かっている。それでも――心の中で罪悪感を少しでも和らげようと、目を背けていた。そうしなければ、この重荷に押しつぶされ、俺は生きていけなかったからだ……!」

 

 男の声は嗚咽に変わった。涙が止めどなく頬を伝い、ポタリと冷たい床に滴り落ちる。

 時ヶ谷は、静かにそれを見据え、何かを理解したように呟く。

 

「なるほど……不本意ながら幻生の犯行に加担し、その弱みを突かれて、以降も彼の元で働かざるを得なかった、というわけですか」

「許してくれとは言わない……。俺は罰を受けて当然だ。だが、一つ、お願いがある」

「……なんでしょう?」

「俺の家族にだけは……手を出さないでくれ」

 

 その言葉は、嗚咽を伴った懇願として、床に落ちる涙と共に空間に響いた。男の全身が必死に震え、心からの訴えを形にしている。

 

「……家族のためなら、自分の身がどうなっても構わない、とおっしゃるのですか?」

「ああ」

 

 即答だった。

 

「ご家族を守りたいのなら、これからの質問には正直に答えていただきますわ」

 

 今までの冷淡な声とは違い、声の響きには真剣さが宿っていた。

 

「……わかった」

 

 巌根は小さく息を吐き、肩を震わせながら答える。

 

「幻生の死後、彼の研究データを盗み出したのは、どうしてですか?」

「家族を守るための保険だ」

「それを取引に出したのは、なぜ?」

 

 巌根は一瞬、眉をひそめ、驚きが顔をよぎる。

 

「……君、一体、どこまで知って――」

「質問にお答えください」

「……脅迫されたからだ。俺の過去を知った連中が、家族にそれをバラすと脅かしてきた」

「その『連中』とは、どこの誰ですの?」

「……わからない。直接会ったのは、サングラスをかけた交渉人(ネゴシエーター)とその手下だけだった」

「ご協力に感謝いたします」

 

 時ヶ谷はそう言うと、右手を軽く横に振った――

 直後、シュウッ!

 鋭い風切り音と共に、今まで巌根の手足を拘束していたロープが、高速で宙を駆け抜けるかのように切れ、空中でパチンッと弾けた。

 断ち切られたロープは床に落ち、冷たく跳ね返る。

 

 巌根は思わず体をよじった。

 解放感と驚きが同時に胸を突き、手足の自由に小さく息を吐く。

 

「――……っ!」

 

 床に散らばるロープの残骸を見下ろし、恐る恐る体を起こす。

 手足の自由に少しずつ慣れながら、慎重に立ち上がり、初めて時ヶ谷と同じ目線に立った。

 時ヶ谷は、その動きをじっと見つめる。

 黒髪の隙間から覗く茜色の瞳が、冷たく、しかし鋭く光る。

 

 巌根は立ったまま、全身の力を内に集める。

 呼吸を整え、筋肉をぎゅっと固め、これから何が起こるのか――胸の奥までまざまざと感じ取った。

 

「貴方に――贖罪の機会を差し上げましょう」

 

 声は穏やかだが、その響きは胸の奥まで刺さる重みを帯びていた。

 

「命を懸け、家族を守る覚悟――それが本物かどうか、確かめさせていただきますわ」

 

 

     ◇

 

 

 第七学区。午前9時。

 裏路地の小さな扉を潜り、階段を降りると、ふわりとしたコーヒーの香りが迎えてくれる。

 喫茶エーデルワイスの店長――ディルバーはカップを磨きながら、いつものように軽く「いらっしゃい」と声をかける。

 そして、来客の顔を確認した。

 

 紫がかった黒髪を二つ結びにした少女が、いつもの軽やかな調子で手を振りながら、

 

「こんちゃーす」

「おお、警策の嬢ちゃんか。ちょうど良いときにき――」

 

 ディルバーの言葉はそこで止まった。

 理由は簡単だ。よく見ると、来客は一人ではなかったのだ。

 警策の背後に、高校生くらいの少女が立っている。

 長い黒髪をツーサイドアップにまとめ、品の良さが漂う、お嬢様然とした佇まい――。

 ディルバーはその顔に見覚えがあった。いや、正確には、昨日会ったばかりだったのだ。

 

「これはこれは、弓箭の嬢ちゃんじゃないか」

 

 弓箭猟虎は丁寧に一礼して、

 

「おはようございます、店長」

「今日はいつもより早いな。そんなに俺のコーヒーが恋しくなったか」

 

 ディルバーは冗談めかして口にし、軽く笑みを浮かべる。

 だが弓箭はにこりともせず、静かに告げた。

 

「今日は……コーヒーを飲みに参ったわけではありません」

「?」

 

 カップを磨いていたディルバーの手が、ピタリと止まる。

 確かに、よく見れば昨日とは違う。

 今日の弓箭猟虎は、枝垂桜学園の制服ではなく、白いブラウスに太めのベルトを巻き、ウエストを引き締めている。膝上丈の黒いスカートから伸びる脚は黒タイツに包まれ、膝下まで覆うレザーのロングブーツで締められていた。

 

 その装いには見覚えがある。

 『スクール』に所属していた頃、弓箭が『暗部』の任務をこなす際に、時折目にした服装――任務用の正装に近いものだった。

 そんなことを頭の片隅で意識しながら、警策は淡々と告げた。

 

「突然だけど、店長……今日の『お仕事』は、コイツも一緒に参加することになるかもよ」

 

 ディルバーは眉をひそめ、真剣な表情の弓箭を見つめた。

 

「……どういうことだ?」

 

「まあ、主に昨夜の件に関係してるんだケド」

 

 警策は軽く息をつき、脳裏に昨夜の記憶が蘇る――

 

 

 

「――アンタの寮、ここで合ってる?」

「はい…」

 

 謎の狙撃により亡くなった交渉人(ネゴシエーター)の後始末を、下っ端どもに頼んだ後のこと。

 まだ意識不明の佐天を警備員(アンチスキル)に任せ、とっくに門限を過ぎていた弓箭を、バイクで寮の前まで届けたのだった。

 

「ジャア、私は行くね」

「あのう…!」

 

 立ち去ろうとエンジンに火を入れたその瞬間、呼び止められる。

 警策は振り返った。

 

「まだ何か?」

「教えていただけませんか……佐天さんの写真に映り込んでいる、あの怪しげな『取引』について、何かご存じですよね?」

「……仮にそうだとしたら?」

「佐天さんに被害が出た以上、黙って見ているわけにはいきません」

 

 弓箭の声は、いつになく真剣さを帯びていた。

 

「お願いします。どうか、わたくしにも事情を教えてください」

「……」

 

 しばしの沈黙のあと、警策は告げる。

 

「……今日はもう遅いし、話すと長くなるからさ。明日の朝9時、喫茶エーデルワイスに来て。そのとき改めて、教えてあげるよ」

 

 ……かくかくしかじかである。

 なんとも言えない表情で話を聞いていたディルバーは、ため息交じりに、

 

「まあ、嬢ちゃんがそう言うなら」

「ありがとうございます」

 

 弓箭は再び一礼する。

 カウンター席に腰を下ろした警策は、同じく隣に腰かけた弓箭の前にスマートフォンを置く。そこには一枚の写真が表示されていた。

 昨日、佐天が弓箭に見せた自撮り写真である。警策は、写真の奥にチラリと写るサングラスの青年を指さして、

 

「この男、覚えてるでしょ?」

「はい、昨日の誘拐犯ですよね」

 

 警策は軽く頷く。

 

「その通り。で、サングラスの向かいに立っているオッサンはどう? 見覚えはないかしら?」

「確かにどこかで…でも、よく思い出せなくて」

「まあ、ほんのちょっと映っただけだし、画質も荒いからね。じゃあ、これはどう?」

 

 警策はスマホを操作し、もう一枚の画像を表示した。

 

「その男たちの映ってる部分を切り出して、解像度を上げたものだ」

 

 弓箭はスマホの画面に顔を近づけ、しばし凝視した。

 記憶の底に沈んでいた断片を、ゆっくりと掬い上げるように。

 

「……あっ、これって……?」

「そう。アンタが雨束日花璃ちゃんの記憶を追体験してたときに見た、あの給食係――巌根泰造の顔だよ」

 

 ばらばらだったピースが、音を立てて噛み合う。

 弓箭猟虎は確かにその顔を知っている。

 だがそれは『弓箭猟虎』の記憶ではない。

 彼女の脳裏に焼き付いていたのは、追体験した『雨束日花璃』の記憶だった。

 

「……なぜ、あの人が……」

 

 弓箭は困惑した表情で問いかけた。

 

「私らも、そこが一番知りたいところなんだよね」

 

 警策は肩をすくめ、視線を逸らす。

 

「SNSに上がったこの写真を見た時ヶ谷は、即座にあれが巌根泰造だって特定した。でも問題は、彼が『何故』あそこにいたのか。状況的には、何らかの『取引』をしていたと考えるのが一番自然でしょ。だから私らは、その取引相手を追ってるってワケ」

「問題は、彼が『何を』取引していたのか、だな」

 

 ディルバーが低く付け加える。

 

「後で洗った情報によると、この巌根って男、木原幻生の配下だったらしい」

 

 木原幻生。

 雨束日花璃の記憶の中で弓箭が見た、目的のためなら犠牲を厭わない狂気の科学者の名だ。

 

「それと、あのジジイがくたばった後、巌根は彼の研究データをこっそり持ち出してるようだ」

 

 警策がスマホを弄びながら続けた。

 

「……その取引って、そこまで重要なんですか? 内容も分かっていないのに」

 

 弓箭は眉をひそめる。

 

「考えてみなさいよ。巌根は『主観干渉(サブジェクト)』――今の『才人工房(クローンドリー)』の前身にいた人間。しかも給食係っていう末端とはいえ、内部事情を知る数少ない生き残りなの」

 

 警策の声音がわずかに冷たくなる。

 

「つまり――一般には存在すら抹消されている、日花璃ちゃんのことを知っている、現存証人ってこと」

 

 弓箭はしばし黙考し、やがてはっと息を呑んだ。

 警策たちが、なぜここまで執拗にこの取引を追っているのか――ようやく腑に落ちる。

 雨束日花璃という少女は、公式記録からほぼ抹消されている。

 その存在を知る者の大半は、あの『惨劇』で死んだ。

 

 だが、巌根泰造は生きている。

 ならば、表に出せない取引の場に、極秘情報を握る男が姿を現していたという事実は――

 

「……日花璃さんの情報が、良からぬ連中に渡った可能性がある、ということですか?」

 

 弓箭の声が、わずかに震えた。

 日花璃の能力――歪曲揺光(フラクチュエイト)

 それは学園都市が定めた能力者の序列、その根幹を揺さぶりかねない異端の力だった。

 もし存在が公になれば、彼女を巡って争奪戦が起きるのは避けられない。

 研究機関、暗部組織、企業、そして能力者自身――誰もがその力を欲しがる。

 そうなれば、彼女は二度と、この街で普通の少女として生きることはできないだろう。

 

「そんな……。日花璃さんが、ようやく自由になれたっていうのに……」

 

 弓箭は奥歯を噛みしめ、拳を強く握り締めた。

 

「今のあの子は力を失ったって言っても、正確には『能力開発前の状態』に戻されただけ、能力そのものが消えたわけじゃない。再開発さえすれば、また引き出せるはずなのよ」

 

 警策はそう言って、視線を落としたまま言葉を継ぐ。

 

「だから、一刻も早く取引の相手を突き止めなきゃならない。下手すれば、あの子の身にまた危険が及ぶ。そうなったら――もうこの街では生きられない。学園都市から出て、……アンタたちとも離れ離れになるコトでしょう」

 

 弓箭は一拍置いてから、静かに口を開いた。

 

「……事情は理解しました。つまり、今はその巌根という男を確保して、取引の情報を吐かせるのが先決、ということですわね?」

「まあ、そういうトコ」

「なら、今からでも探しに行かないと――」

「そこは心配いらん」

 

 不意に、ディルバーが遮った。

 

「もう見つかってる。――正確には、向こうから連絡が来た」

「……え?」

 

 弓箭は思わず目を瞬かせ、言葉を失った。

 ディルバーは構わず続けた。

 

「昨夜、巌根から護衛の依頼が入っている。取引の場面が露見したことで、自分が口封じされるのを恐れているらしい」

「……護衛、ですか」

「そうだ。彼を学園都市の外まで逃がす。その代わりに、取引の内容をすべて話す、という条件だ」

「……まさかとは思いますが、引き受けるおつもりではありませんよね?」

 

 弓箭は半信半疑で問いかける。

 

「もちろん、受けるよ」

 

 警策は即答した。

 

「正気ですか!?」

 

 弓箭は思わず声が荒ぶる。

 

「日花璃さんにあれほどの惨劇を招いた人物の護衛ですよ!それに、条件として提示されている情報が釣り合っていません。取引の『相手』ならともかく、『内容』だけでは不十分です。仮にそれが日花璃さんに関するデータだったとしても、仮説が裏付けられるだけです。黒幕の特定にも、流通経路の遮断にも、直接は繋がりません!」

「まあ、別にそれで構わないよ」

 

 警策は肩をすくめ、天気の話でもするような軽い口調で言った。

 

 

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 弓箭は思わず耳を疑った。言葉が追いつかず、口を開けたまま固まる。

 

「……どういう意味ですか?」

「情報そのものより、情報があると信じさせることのほうが価値があるのよ」

 

 警策はカウンターに頬杖をつきながら、

 

「もし私たちが依頼を断れば、敵にはこう伝わる――『巌根はもう価値のない駒だ』ってね。ジャア逆に、私たちが護衛を引き受ければ……?」

 

 警策は視線をカウンターに落とし、指先で軽く叩く。

 

「連中は考える。『巌根はまだ自分たちの知らないカードを握っているかもしれない』って。そうなれば、奴らは黙っていられない。口封じに来るか、回収に来るか、いずれにせよ動く」

 

 薄く笑みを浮かべる警策を、弓箭はじっと見つめた。

 

「……護衛対象を、囮にするということですか?」

「そう、追手を誘い出す。で、私はこれから護衛対象と合流するけど、アンタはどうする?」

「……わたくしも、ご一緒させてください」

「まあ、ついてくるのは勝手だけど、あんまり足を引っ張るようなら、容赦なく切り捨てるわよ?」

 

 

     ◇

 

 

 とある総合病院の個室の前に、一人の少年が静かに立っていた。

 蒼く染めた髪が無造作に垂れ下がり、やや長めの前髪が目元を覆っているその隙間から覗く瞳の下には濃い隈が浮かび、どこか焦点の定まらない虚ろさを宿していた。年の頃は高校生で、どこかの学校の学ランを着崩し、首元には使い込まれたヘッドフォンを掛けている。

 

 少年はしばらく無言のまま、扉脇のネームプレートへ視線を落とした。

 白い札に、無機質な文字が並んでいる。

 

 蒼石優奈様。

 やがて少年――蒼石優太は、意を決したように深呼吸し、扉をノックした。

 コンコン。

 

「……お邪魔します」

 

 分かっていた。返事があるはずもないことなど。それでも、毎回同じ言葉を口にせずにはいられなかった。

 ゆっくりとドアを開け、室内へ足を踏み入れる。

 静まり返った病室に、一定の間隔で鳴る電子音が響いていた。

 

 ――ピッ……ピッ……。

 蒼石は足音を忍ばせるように歩み寄る。

 病床の上には、一人の少女が横たわっていた。

 

 やや蒼みを帯びた長い黒髪が枕に広がり、透けるように色素の薄い肌が白いシーツに沈んでいる。整った顔立ちは眠るように穏やかだが、口元には呼吸器が装着され、隣の医療機器と管で繋がれていた。

 先ほどの電子音は、その機械が刻む生命のリズムだった。

 しばらく少女の寝顔を凝視した後、蒼石はゆっくりと口を開いた。

 

「……おはよう、優奈。お見舞いに来たよ」

 

 普段は感情を表に出さないその顔に、かすかに穏やかな笑みが浮かぶ。声もまた、どこか柔らかかった。

 もちろん、返事はない。

 それでも彼は構わず、ベッド脇の椅子に腰を下ろす。学生鞄を膝に置き、ファスナーを開け、小さな箱をを取り出した。

 

「今日はさ、お土産を買ってきた」

 

 箱から取り出したのは、薄型のミニMP3プレイヤー。優奈が気に入っていたブランドの最新モデルだ。

 その冷たい本体を、彼は少女の細い手のひらにそっと重ねた。

 

「前のやつ、だいぶ調子悪そうだっただろ。だから買い替え。……ほら、優奈が好きな『トロイメライ』も入ってる」

 

 イヤホンを一本、横たわったままの少女の耳へ丁寧に差し込む。もう一本を自分の耳へ。慣れた手つきで電源を入れ、再生ボタンを押した。

 ――柔らかなピアノの旋律が、耳に伝わる。

 水面に落ちた光が、波紋になって広がるような音色。

 穏やかで、優しくて、どこか懐かしい旋律。

 

 蒼石は目を閉じる。

 かつて隣で笑いながらこの曲を聞いていた少女の姿を、思い出すかのように。

 だが、今は。彼女の指先は、わずかにも動かない。

 彼は、ほんのわずかな希望にすがっていた。

 

 数百回。数千回。数万回――。この曲を聴かせ続ければ、いつか。

 奇跡のように、少女が目を覚ましてくれるのではないかと。

 何度も名前を呼んだ。どうでもいい日常の話を聞かせた。指先に触れ、髪を撫で、季節の移ろいを語り続けた。

 

 それでも、彼女は目を覚まさない。

 そんなことは、分かっている。

 これはただの自己欺瞞なのかもしれない。

 医学的根拠も、保証もない。

 奇跡を期待するには、あまりにも現実は静かすぎる。

 

 それでも。蒼石は、その可能性を手放せなかった。否、手放してしまえば、すべてが終わってしまう気がしたのだ。

 認めるのが、怖かった。彼女がもう戻らないかもしれないという現実を。

 

「――よぉ」

 

 不意に背後からかけられた声が、思考の底に沈みかけていた蒼石の意識を現実へと引き戻した。

 振り返ると、そこには自分と同じ学ランを着た黒髪の少年が立っていた。

 

「海藤さん……」

「兄妹水入らなずのいいところを邪魔したか?」

「いや、ちょっと考え事をしてただけッス」

「そうか」

 

 海藤高成は蒼石の隣まで歩み寄り、ベッドの上の少女へ視線を向けた。

 先に口を開いたのは蒼石だった。

 

「花村くんは?」

「今日も彼女とラブラブだ。ったく、あのリア充め。あんな可愛いガールフレンド捕まえてから、ちょっと調子乗りすぎじゃねえか」

「…………」

 

 呆れ半分の愚痴に、蒼石は特に反応を示さない。ただ静かに妹の顔を見つめている。

 その様子を横目に見ながら、海藤が問いかけた。

 

「それで、妹さんの調子は?」

 

 蒼石はすぐには答えなかった。

 わずかな逡巡のあと、ようやく口を開く。

 

「……今年の終わりが峠かもしれないって、先生が」

「……そうか」

 

 声はいつも通り淡々としていたが、海藤の表情にわずかな陰りが落ちた。

 短い沈黙のあと、彼はぽつりと呟く。

 

「……すまん」

「海藤さんが謝ることないッス。むしろ今まで、こんな僕のそばにいてくれて――ありが……」

 

 言い終える前に、海藤が遮った。

 

「礼なら俺にじゃなく、時ヶ谷に言え」

 

 ぶっきらぼうに言って、顎でベッドをしゃくる。

 

「アイツがお前の妹さんの手術費と治療費を肩代わりしてくれたから、今日まで生きてこれたんだろ」

「……それでも、海藤さんには借りがあるッス」

 

 蒼石の脳裏に、ある記憶が蘇る。

 

 ――今から二年前のことである。

 当時まだ中学生だった蒼石優太は、学園都市の外部組織からある依頼を受けた。

 内容は、能力者のデータが収められている『書庫(バンク)』へのクラッキング。

 

 おそらく学園都市に敵対する組織の仕業だろう。非公開の能力者情報を盗み出し、技術や研究成果を手に入れるつもりだったに違いない。当時『天才ハッカー』と呼ばれていた蒼石に白羽の矢が立ったのも、無理はなかった。

 だが最初、蒼石はその依頼を断るつもりだった。

 

 確かに、自分の腕前なら『書庫』の防護網を突破すること自体は不可能ではない。

 しかし、突破できることと、露見しないことは別だ。

 この学園都市という街が、統括理事長の監視下に置かれていることを、蒼石は薄々察していた。仮にクラッキングに成功したとしても、遅かれ早かれ足がつく。二日もすれば逮捕されるだろう――そう考えていた。

 

 それでも、彼は依頼を受けた。

 理由は一つ。妹だった。

 

 優奈の容体が急激に悪化し、手術が必要だと医者に宣告されたのだ。

 だが、貧乏学生の蒼石にそんな大金を用意できるはずもない。

 だから彼は決めた。捕まっても構わない。

 その前に、手術費だけでも手に入れて――妹の命を繋げることができればいい。

 

 だが、その考えは甘かった。

 二日どころではない。クラッキングからわずか数時間後。蒼石は報酬を受け取る暇すらなく逮捕され、少年院へ送られた。

 

「――あの時、海藤さんは僕を助けるためにあちこち走り回って、『上』と掛け合ってくれたじゃないッスか。門前払いされても、相手にされなくても……僕と優奈のために、あんなに必死に」

 

 海藤はどこか懐かしそうに鼻を鳴らした。

 

「まあな。あの時は一刻も早くお前を少年院から引きずり出して、ぶん殴ってやりたかったからな」

 

 そして拳を軽く握る。

 

「この馬鹿野郎ってな」

「だからって、時ヶ谷家の令嬢を誘拐しようとした海藤さんがそれ言うんスか?」

「しょうがねえだろ!」

 

 海藤は即座に言い返した。

 

「あの家は『暗部』でも一、二を争う影響力持ってる。あの令嬢を人質にすりゃ、さすがに話ぐらい聞くだろうと思ったんだ」

「でも結果、ボコボコにされた挙句、僕たちの事情を全部喋らされる羽目になったんスよね」

「ぐっ……」

「いくら相手が女の子でも、高位能力者ってことぐらい事前に調べるべきだったんじゃないッスか」

「ああ、面目なくて悪かったな!」

 

 悪態をつきながら、海藤は視線を逸らして頭を掻いた。

 

(しっかし、まさか事情を洗いざらい話しただけで面倒を見てくれるなんて……未だに信じられないっスね)

 

 蒼石にとって、それは救いであると同時に、人生で最も不可解な出来事でもあった。

 

 当初は、自分のハッカーとしての能力に目をつけ、恩を売ることで配下に置くつもりなのだろうと考えていた。

 だが、どうやらそれも違うらしい。

 優奈の手術が無事に終わってからしばらくして、面会に来るたび、病室には花束や見舞いの品が置かれていることに気づいた。

 誰かが、優奈のもとを訪れている。だが、蒼石にも病院の受付にも、その人物の名前は残っていない。

 

 その正体を確かめるため、ある日の放課後。

 蒼石はいつもより早く病院に来て、病室の近くで息を潜めていた。

 やがて現れた面会者を見て、彼は目を疑う。

 時ヶ谷凛音だった。

 彼女はベッドの傍に立ち、眠り続ける優奈に静かに語りかけていた。その声は、どこまでも柔らかく。人情に疎い蒼石でさえ、それが心からの言葉だと分かった。

 もし本当に自分を利用するつもりだけなら、ここまでのことをするはずがない。

 

 蒼石には理解できなかった。呆然としたまま病室のドアの前に立ち尽くしていると、面会を終えた時ヶ谷が扉を開けて出てきた。

 鉢合わせた蒼石を見て、彼女は一瞬だけ目を細めた。

 蒼石は、ただ一言だけ口にする。

 

『……どうして?』

 

 短い沈黙のあと、時ヶ谷は小さく息を吐いた。

 そして、どこか自嘲するような微笑を浮かべて、

 

『別に、大した理由ではありませんわ』

 

 そう言ってから、ほんのわずか視線を伏せた。

 

『――同じように、己の誤った判断で大切なものを失った者としての……せめてもの罪滅ぼしですわ』

 

 あの言葉の真意を、蒼石は今でも知る由がない。

 それでも、その言葉に動かされたのか、それ以来、蒼石は時ヶ谷凛音という少女に心から仕えるようになった。ただの恩返し以上の理由で。

 

(でも――こんな傷の舐め合いみたいな関係性も、もうすぐ終わる……のかもしれない)

 

 蒼石は、再び病床に横たわる少女へ視線を落とした。

 今日まで辛うじて生きながらえてきたこの少女も、今年の末にはこの世を去るかもしれない。

 そうなった時、自分と時ヶ谷凛音の関係は、果たして今までと同じでいられるのだろうか。

 優奈という繋がりがなくなったあとでも、妹を失った自分は、それでも時ヶ谷に仕え続けるのか。

 もしそう問われたなら、答えは、きっと明白だ。

 

「……まあ、万が一そうなったとしても、優奈の命を繋ぐ手段が一つだけある」

 

 しばらく黙り込んでいた蒼石を見て、まるで彼の思考を読み取ったかのように海藤が口を開いた。

 だが、その表情は決して明るくない。

 その手段が、希望に満ちたものではないことを物語るかのようだった。

 当然、蒼石にもその意味は分かっていた。

 

「……冷凍睡眠(コールドスリープ)、っスか」

「ああ」

 

 海藤は小さく頷く。

 かつて時ヶ谷の指示で、蒼石、海藤、花村の三人が警備していた廃施設。

 そこで彼らは目撃していた。隠し部屋の奥に設置された冷凍睡眠(コールドスリープ)装置。その内部で眠り続ける、一人の少女を。

 後に時ヶ谷から聞かされた話では――細かい事情はやはりはぐらかされたが――命が尽きかけていたその少女を生き長らえさせるための、やむを得ない措置だったらしい。

 

「あの装置に入れば、少なくとも一時的な延命措置にはなるだろう」

「でも……もし一生、治療法が見つからなかったら……」

 

 蒼石はそこで言葉を切った。

 口にしてしまえば、本当にそうなってしまう気がしたからだ。

 冷たい棺の中で、ただ『生命活動を維持している』だけの少女。

 それは――果たして『生きている』と言えるのだろうか。

 誰とも触れ合えず、言葉も交わせず、思いを伝えることすらできない。

 それは、人間ではなく、ただの空っぽの器ではないのか。

 

「僕は……どうすればいいんだ」

 

 そんなことを呟く蒼石の肩に、海藤がそっと手を置いた。

 その仕草は、どこか不器用ながらも優しい。

 

「まだ時間はある。じっくり考えろ。酷なこと言うようだが……優奈の兄貴は俺じゃなく、お前だからな。どうするか決めるのはお前だ」

「……」

 

 やや重く沈んだ空気を少しでも和らげようと、海藤は自分でも唐突だと分かりながら話題を変えた。

 

「それはそうと――今日ここに来たのは、お前に一つ、面と向かって報告しておきたいことがあってな」

「なんスか?」

 

 その言葉に蒼石は、妹から視線を外し、海藤の方へ顔を向けた。

 海藤は一度深く息を吸い込む。

 

「たぶん見つけた、『アイツ』の手掛かりを」

 

 その一言で、蒼石の隈の浮いた目がわずかに見開かれた。

 海藤の言う『アイツ』が誰なのか、すぐに察したようだった。

 

「……まさか」

「ああ、そのまさかだ」

 

 海藤はそう言うと、制服のポケットに手を入れ、一本の物を取り出した。

 それは、羽根の付いた細い矢だった。

 

「昨夜、『暗部の悪魔』――警策って言ったか――あいつから死体処理を任されてな。どうやら、これで頭を貫かれたらしい」

 

 蒼石は海藤から矢を受け取り、注意深く観察する。

 

「これは……吹き矢ッスかね?」

「ああ。俺も最初はそう思った」

 

 海藤は腕を組み、眉をひそめる。

 

「だが、それだと不可解な点がある。知ってると思うが、普通の吹き矢じゃ人間の頭蓋骨を貫くほどの威力は出ない。しかも、現場にいたスナイパー女の見立てじゃ、これは数十メートル離れた場所から撃たれたらしい」

 

 海藤は軽く肩をすくめた。

 

「だが通常の吹き矢の有効射程なんて、せいぜい十メートル前後だ。そんな距離から正確に狙撃するなんて、普通に考えりゃ不可能だ」

 

 そこで言葉を区切る。

 

「となると、考えられる可能性は一つだけだ」

「……能力」

 

 まるで海藤の言葉を引き取るように、蒼石はその一言を口にする。

 

「なあ海藤さん、このことは……」

 

 蒼石は恐る恐る問いかけた。

 目の前の友人が、なぜ暗部に身を置いているのか。その理由を、蒼石は誰よりもよく知っている。

 

「お前以外には、喫茶エーデルワイスの店長にも電話で話した」

 

 海藤は即答した。

 その目には、はっきりとした決意が宿っている。

 まだ確証はない。すべては推測に過ぎない。それでも彼の中では、すでに一つの結論に辿り着いていた。

 これは間違いなく『アイツ』の仕業だ――自分の勘は、そう言っている。

 忍者少年は意を決したように、青髪の少年の目を見つめて、懇願した。

 

「――蒼石、お前の協力が要る」

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