とある暗部の才人工房   作:雨宮ヒトシ

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Phase7「怪談 -オカルト-」

(AM11:24)

 

「じぃぃぃ……」

 

 眩しいLEDライトと、カチャカチャとリズムよく動くアームの音。ぎゅうぎゅうに詰まったぬいぐるみたちを前に、リコはまるで宝箱を覗き込むみたいに、鼻先をガラスにくっつけそうなほど顔を近づけ、まん丸な目を輝かせていた。

 

「どう?なんか欲しいのある?」

 

 佐天が優しく声をかけると、リコはしばらく目を泳がせ、ぱちぱち瞬きをしたあと、不意にぴょんっと指を伸ばした。

 

「これ、このぴんくのカエルさん!かわいい!!」

 

 その声は弾むように嬉しそうで、まるで見つけた瞬間に胸の奥がきゅっとなったみたいに、瞳がぱぁっと輝いていた。

 

「どれどれ?」

 

 佐天がリコの小さな指先を追って辿るようにして、ガラスの中を覗き込む。

 するとそこには、見覚えのある愛嬌たっぷりのカエルのぬいぐるみが、ちょこんと鎮座していた。

 その名も――

 

「お、ゲコ太じゃん!しかもピンクのやつだ!」

 

 佐天が思わず声を上げる。リコの指差す先、ガラスケースの奥に、丸い目と大きく開いた口が特徴的なカエルのマスコットが、ぎゅうぎゅう詰めの景品たちに埋もれるようにして座っていた。しかも、通常の緑色ではなく、ひときわ目立つピンク色だ。

 もちろん佐天たちは知らない。ほんの数分前、同じUFOキャッチャーにあった緑色のゲコ太は、とある茶髪ロングの少女の手によって、持ち去られていたことなど。

 

 隣に立つ弓箭猟虎も、そのぬいぐるみを見つめ、ふっと目を細めた。

 

「あら?これって、確か入鹿ちゃんのお気に入りの…」

 

 そう呟きながら、可愛らしい洋服のポケットにそっと手を差し入れ、昨日妹からもらったばかりの小さなキーホルダーを取り出した。丸っこいフォルムと、間の抜けた表情が愛嬌たっぷりのカエル。それを指先でひと揺らしし、窓越しのぬいぐるみと見比べるように目尻を下げる。

 リコがそれを目にすると、さらに目をキラキラさせて、

 

「わあ、ちっちゃいカエルさんだ!」

 

 興味津々に手を伸ばして、羨ましそうにじっとそれを見つめる。まるで今にも「ほしい」と口にしそうな、素直すぎる眼差しだった。

 弓箭は少し困ったように苦笑し、手の中のキーホルダーをそっと胸元に戻した。

 

「こちらは――妹から譲り受けた、大切なお品ですの。ですから、申し訳ありませんが、これは差し上げられませんわ…」

 

 柔らかくも、はっきりとした口調でそう告げた。

 

「そう、なんだ…」

 

 リコがしゅんと肩を落とし、少し寂しそうに目を伏せる。

 それを見た佐天が、そっとリコの肩に手を置いた。

 

「リコ、他人の持ち物を横取りしちゃダメだよ。でもね、代わりに、あれを取ってあげるから、元気を出そっ!」

 

 そう言って、例のピンク色のぬいぐるみを指さす。

 ガラスケースの中、ピンク色のゲコ太さんが、まるで一部始終を見守っていたかのように、にこにこと微笑んでいた。

 その視線は、落ち込んでいる幼い少女に、そっとこう語りかけているようだった。

 

 元気を出して、と。

 それが届いたのか、リコはぱちりと瞳を輝かせ、気を引き締めるように顔を上げた。

 

「うん!」

 

 それを見届けると、佐天は明るい調子で切り出した。

 

「よーし、やるぞ!」

 

 軽く息を吸い込むと、UFOキャッチャーのレバーに手をかけた。冷たい金属の感触が指に伝わり、思わず背筋を伸ばす。周囲の音が遠くなるような感覚に包まれ、しばし目の前のぬいぐるみだけに集中する。

 狙いを定める。

 

(大丈夫、絶対に取ってみせるから!)

 

 手元のレバーを引く。少し遅れて機械が動き出し、クレーンがゆっくりとターゲットに向かって滑り込んでいく。心臓が胸の中で激しく鼓動し、全身がピリピリと緊張しているのを感じる。

 目はそのままゲコ太に釘付けになり、少しでもずれたら全てが台無しになりそうな、そんなドキドキ感が胸を締めつける。

 

「今だ!」

 

 手を振り絞って、思いっきりボタンを叩き込む。クレーンがぬいぐるみを掴み、ゆっくりと持ち上げる。

 数秒間の静寂。全く動かない時間が、何もかもがスローモーションで進んでいるように感じさせる。

 手のひらにじんわりと汗が滲み、指先がしっとりと湿る。無意識に力が入っていく。

 

「………………」

 

 弓箭とリコもごくりと固唾を飲んで、静かにそれを見守っていた。

 弓箭は、ほんの少し顎を引き、真剣にクレーンの動きを追っている。その目は真剣そのもので、眉間にしわを寄せている。

 リコは、目を大きく見開き、体を少し前に傾けて、手をぎゅっと握りしめているのがわかった。

 

「佐天さんなら、きっとうまく行くと存じます!」

「るいこ、がんばって!」

 

 二人の声が、まるで佐天を後押しするかのように、耳の中で響く。

 クレーンが少しずつピンク色のカエルを持ち上げ、揺れながら上がっていく。その度に、佐天の心臓は大きく跳ねる。もし、これが少しでも外れたら、今までの努力が無駄になってしまう――その思いに胸が締め付けられ、息を呑んで目を凝らして見つめる。

 

 アームがぬいぐるみを掴んだ瞬間、時間が止まったかのように感じる。

 その後、ゆっくりと引き寄せられていくぬいぐるみ。もう少し、もう少し…と祈るような気持ちで見守りながら、クレーンがついにポケットへと落ちる瞬間を見届ける。

 

「やった!取れたよ!」

 

 佐天の胸は高鳴り、つい顔を輝かせて弓箭とリコの方を振り向く。

 リコは目をキラキラさせながら、ぱちぱちと小さな手を叩いた。歓喜の拍手が響き、弓箭も柔らかく微笑んで手を合わせる。

 

「一発で成功させるとは、さすが佐天さんですわ」

「るいこ、すごい!」

 

 佐天は景品口から取り出したばかりの、ふわふわのピンク色のゲコ太をリコに差し出した。

 

「はい、リコ。君のゲコ太さんだよ」

 

 手渡されたリコは、最初は驚いたように目を丸くし、そして恐る恐る両手でそのぬいぐるみを受け取る。

 ふわりとした手触り、リコの小さな指がぎゅっとぬいぐるみを握りしめる。

 

「……やわらかい」

 

 その瞬間、リコの顔にぱっと花が咲いたような笑顔が広がる。

 

「ぴんくのカエルさん、ふわふわだねっ!」

 

 嬉しさが込み上げてきたのか、リコはぬいぐるみを胸にぎゅっと抱きしめると、目をきらきら輝かせて佐天を見上げた。

 

「ありがとう、るいこ!だいすきっ!」

 

 そう言って佐天の腰にぱたんと抱きつくリコ。その無邪気さに、佐天も少し照れくさそうに笑った。

 

「ふふっ、どういたしまして。リコが喜んでくれて、あたしもすっごく嬉しいよ」

 

 柔らかな陽射しのような、その微笑ましい光景に、弓箭も知らず口元を綻ばせていた。

 

(――なんだか、子供ができたような気分ですわね)

 

 そんなことを思いながら見守っていると、やがてリコは胸のゲコ太を見下ろし、優しくその頭を撫でる。

 ふわりと笑みを浮かべ、屈託のない声で言った。

 

「この子も、るいこに取ってもらってうれしそうみたい」

「ふふ、そうだね。ゲコ太さんもリコのところに来れて、きっと喜んでると思うよ」

 

 そう言って、そっとリコの頭に手を置いた。柔らかな髪の感触に、胸の奥がほんのり温かくなるのを感じる。

 ゲームセンターの喧騒が少しだけ遠のいたような、静かで穏やかなひとときだった。

 

「さて、そろそろ行こっか」

 

 佐天が優しく声をかけると、弓箭とリコはお互いに視線を交わし、同時に頷いた。

 

 三人は並んで歩き出す。

 

「次は、何をいたしましょうか?」

 

 弓箭が静かに問いかけると、佐天は「そうだねぇ……」と少し考え込む。

 

 リコは楽しそうに周りをきょろきょろと見回しながら、ゲコ太のぬいぐるみをぎゅっと抱えたままついてくる。

 そんな時、ふと耳に届いたのは、ゲーセンの奥の方から響く賑やかなざわめきと軽快な音楽。

 

 高揚感を漂わせる拍手や歓声が交じり、明るく色とりどりに光る電飾が目を引く。

 天井からはカラフルな装飾が風に揺れて、まるでお祭りのような雰囲気が広がっていた。

 そんな光景に、思わず足を止めて目を奪われる。

 

「あれ、なんだろう……?」

 

 佐天が顔を上げ、興味深げにそちらを見つめる。

 その目線の先には、活気に満ちた一角が広がっていた。

 

「何かのイベントでしょうか?」

 

 弓箭が静かに尋ねると、佐天は少し考え込みながらも頷き、周囲をじっくりと見渡した。

 すると、視界の中に、いろんな景品が並ぶ射的ゲームが目に入る。

 

 おもちゃの銃を手にした参加者たちが、動くターゲットを狙い、歓声を上げながら的を外したり、見事に当てたりしているのが見えた。

 ゲームブースの周囲には、目を引く景品が並べられ、色とりどりのぬいぐるみや、派手なフィギュアが並んでいるのが遠目にもわかる。

 

「わぁ……あそこ、行ってみたい!」

 

 リコが目を輝かせて、ぬいぐるみをぎゅっと抱えたまま指をさした。

 その無邪気な笑顔に、佐天と弓箭も自然とその視線を向けた。

 

「なんだか楽しそうですね。行ってみます?」

 

 佐天が微笑みながら、リコの気持ちに応じるように言った。

 

 弓箭も、少し考えてから微笑んで頷く。

 

「ええ、ぜひ参りましょう」

 

 三人はその賑やかな射的ゲームのブースに向かって足を進める。

 ゲームの音楽と楽しげな声が、さらに近づくにつれて明瞭になり、テンションが高まっていく。

 その道を歩く足取りが、いつの間にか少し軽やかになっていた。

 

 

 

 ――そこから、少し離れた場所だった。

 

「…………」

 

 UFOキャッチャーの陰にひっそりと身を潜め、そんな三人の様子をじっと伺っていたものがいた。

 

 金髪を無造作に後ろで一つに束ね、ラフなパーカー姿の少年。

 その目は、まるで何かを確かめるように、あるいは迷うように、三人の背中が遠ざかるのを静かに見つめていた。

 

 やがて、三人の姿が射的ブースの向こうに隠れると、少年はひと息を吐き、ポケットの中からスマホを取り出した。

 

 軽く画面を見つめ、通話ボタンを押す。

 プルルルル、と数秒の呼び出し音が鳴り、やがて回線がつながと、

 

「――こちら花村。ただいま標的(ターゲット)を尾行中です。一つ、試してみたい作戦がありますが……」

 

 通話の向こうの声を受けながら、花村はちらりと射的ブースの方へ目をやる。

 その目には、ほんのわずかに迷いの色が浮かんでいた。

 

 

(AM11:40)

 

「……にしても、すごい混んでますよね」

 

 足早にイベントのスペースにたどり着いた佐天は、その光景を目の当たりにして思わず声を漏らした。

 

 ざっと見合せば、射的台の前には学生から大人まで、長い列ができており、辺りは人のざわめきと、時折響く「パシン!」という射撃音でごった返している。

 景品棚には色とりどりのぬいぐるみをやフィギュア、電子機器らしき箱まで並び、チカチカと光る電飾がそれらを彩っていた。

 

「これだけ人がいるってことは………景品、かなり豪華だったりしませんか?」

 

 佐天が期待混じりに呟くと、隣の弓箭はどこか楽しげな表情を浮かべた。

 

「これは、腕が鳴りますわね」

 

 その声には、わずかに高揚の色がにじむ。普段は物静かな弓箭も、こういう勝負事には密かに燃える質なのかもしれない。

 

(射撃系ならわたくしの十八番ですし、ここはぜひ、ご友人方の前で華麗に腕前を披露して差し上げますわ!)

 

(弓箭さん、なんかすごく気合入ってるけど……もしかして、めちゃくちゃ景品が欲しいのかな?) 

 

 そんなわずかにすれ違った二人の心の声を知らずに、リコはきょろきょろと周囲の景品を興味深げに眺めていた。

 ずらりと並んだぬいぐるみやアクセサリー、カラフルなお菓子の詰め合わせに目を奪われ、瞳をきらきら輝かせている。

 

 周りからはさまざまな声が耳に届く。

 

『笑顔のパンケーキ、ただいま期間限定スペシャルイベント開催中!得点ランキング1位の方には──ここでしか手に入らない《プレミアム会員カード》をプレゼント!さぁさぁ挑戦者はどなた!?』

『本日限定!大人気ラノベシリーズ「ヘヴィーオ○ジェクト」、まさかの実写映画化を記念して──原作最新刊【限定特装版】、残りあとわずでーす!』

『あーっと!こちらのブース、今なら景品二個ゲットで追加チャレンジのチャンス!』

 

 歓声と呼び込みの声が入り交じり、どこかお祭りのような賑やかさを醸し出していた。

 佐天は列の長さに少し圧倒され気味に眉を寄せた。

 

「うーむむ、この混みっぷりだと、どこから攻めるか悩みますねー」

 

 弓箭は周囲をざっと見渡しながら、

 

「わたくしはどこでも構いませんが。リコさん、ご希望はございます?」

「うーーん…」

 

 リコはきょろきょろと、射的台の横に設置された景品棚を眺めていた。

 色とりどりのぬいぐるみやフィギュア、目を引くストラップが所狭しと並べられており、どれも楽しげで魅力的に見える。その瞳はまるで子供のようにきらきらと輝き、棚の隅々まで興味深そうに視線を巡らせていた。

 

 ──ふと、彼女の視線がある一点でぴたりと止まる。

 佐天と弓箭もそれに気づき、つられるようにその先を追った。

 

 そこには、金色に輝くピカピカのカエルのキーホルダーが、景品棚の最上段に鎮座していた。ひときわ存在感を放つそれは、まるでスポットライトを浴びているかのように輝いている。

 しかも、下げられた小さなプレートには『ウルトラレア』の文字が、誇らしげに刻まれていた。

 その瞬間、派手なBGMとともに、ブースのスタッフらしき女性の明るいアナウンスが会場に響く。

 

『はいはーい!こちら、目玉景品!入手難易度超激ムズの、一個しかないウルトラレア・ゴールデンゲコ太キーホルダー!今なら射的台で挑戦できまーす!』

 

 賑やかな声に弾かれるように、佐天は「あっ」と声を上げた。

 

「あれって、確か昨日、弓箭さんが妹さんからもらったやつですよね…!?」

 

 そのきらびやかな輝きと『ウルトラレア』の称号。

 

(もし御坂さんや帆風さんがこの場にいたら、きっと財布の中身が空っぽになるまで撃ちまくるんだろうな)

 

 そんな光景を脳内で鮮明に思い描いてしまい、佐天は思わず苦笑するのだった。

 

「あれ、ほしいかも!」

 

 リコはぱあっと顔を輝かせ、手元のゲコ太ぬいぐるみをぎゅっと握りしめる手に、わずかに力がこもり、その瞳には眩しいほどのキラメキが宿っていた。

 そん様子を見た弓箭は、ふっと表情を和らげ、ポケットの中の自分のキーホルダーの感触をそっと確かめる。

 

(……さっきお断りしたお詫びに、今度はわたくしが)

 

 と、静かに心の中で決意を固めた。

 

 佐天は腕を組み、数回小さく頷くと、にっこり微笑みながら声を弾ませた。

 

「ま、リコがそういうならやってみようか!みんな、一緒に頑張りましょう!気合入れて、おー!!」

 

 大げさに拳を握った右手を高々と掲げる佐天。その勢いに押されるように、リコと弓箭もどこかぎこちなく、けれどつられるように手を空へとかかげた。

 

「「お、おぉ…?」」

 

 周囲のざわめきの中、小さくても確かな三人の声が、賑やかな会場の空気に溶けていく。

 

 

(PM12:20)

 

「……長いですね」

 

 列に並んで、すでに四十分ほどが経とうとしていた。

 佐天はスマホでちらりと時間を確認しながら、ため息交じりに呟く。周囲には射的の的を撃ち落とす音と、歓声や悔しそうな声が絶えず響いている。

 リコは相変わらずゲコ太のぬいぐるみを抱きしめたまま、そわそわと前方を覗き込み、弓箭は首を少し伸ばし、長蛇の列の先を静かに見つめていた。

 

「…………進み具合から見て、おおよそ三分の二くらいでしょうか。あと二十分もあれば、わたくしたちの番になりそうですわね」

 

 射的というゲームは、その性質上、回転率はさほど良くない。

 一人あたりの挑戦時間が三〜五分と考えても、ざっと二十人以上は並んでいるこの列が、一時間以上かかるのも無理はなかった。

 佐天は列の進みの遅さに肩をすくめ、小さくため息をついた。

 

「まだ二十分か……」

 

 腕を組み、周囲を見渡しながらぼやくように呟く。

 暇を持て余した佐天は、なんとか他の話題を見つけようとキョロキョロと視線を泳がせた。

 

「……弓箭さんって、ゲーセンにはよく行くんですか?」

 

 問いかけられた弓箭は、少し驚いたように目を丸くし、それからふわりと微笑む。

 その微笑には、どこか寂しげな影が差していた。

 

「一人で来たことは、何度かありますわ。基本的に静かな場所を好むのですが、周りのご友人方がとても楽しそうにされているのを見て、わたくしも、そうしたにぎやかな場に少しずつ憧れるようになりました」

 

 その声はどこか控えめで、静かな響きを帯びていた。

 

「けれど――誰かと一緒に来るのは、これが初めてですの」

 

 言いながら、弓箭はポツリと目を伏せ、手元のゲコ太キーホルダーにそっと指を添えた。

 小さく息をつき、照れ隠しのように口元に微笑を浮かべながら続けた。

 

「……わたくし、昔からあまり友人に恵まれず、一人で過ごすことが多かったものですから。こうして、佐天さんやリコさんと並んで、他愛もないお話をしながら過ごせることが――とても、嬉しいのです」

 

 ほんのりと頬を染め、遠慮がちにそう打ち明ける。

 

「そっか!じゃあ今日は、弓箭の『ゲーセン初めて友達と来た記念日』ってことですね!」

「ふふ、初めてだからってなんでもかんでも記念日にされてしまうのですね…佐天さんらしいですわ」

 

 佐天がいつもの気さくな笑顔で弓箭の肩を軽く叩くと、弓箭はどこか呆れたように、けれど素直に柔らかな微笑みを返した。

 そんな二人のやりとりを、リコは静かに聞いていた。

 そして、ぱっと顔を明るく輝かせ、勢いよく声を上げる。

 

「るいこるいこ!私も記念日ほしいかも!」

 

 その無邪気な一言に、佐天は思わずニッと笑って答えた。

 

「いいね!じゃあ今日は――『リコと行くゲーセン大冒険記念日』ってことで!」

 

 大げさに両手を広げて宣言する佐天に、弓箭は苦笑を浮かべ、少し肩をすくめる。

 

「相変わらず、適当すぎるネーミングですわね」

 

 けれど、その表情には柔らかい笑みが滲んでいた。

 

「わーい!」

 

 リコはぬいぐるみをぎゅっと抱え、嬉しそうに佐天たちの方を向いたままぴょこんと後ろに跳ねた。

 その勢いで、肩が列の前に並んでいる人物の背中にぽすんとぶつかってしまう。

 

「ひゃっ」

 

 小さな、けれど妙に耳に残る。可愛らしい声。

 佐天ははっと息をのむ。

 

(あっ、しまった――)

 

 はしゃぎすぎて、他人に迷惑をかけてしまった。

 慌ててぺこりと頭を下げて、前の人物に声をかける。

 

「す、すません!」

「い、いえ、だいじょう…」

 

 その声に合わせて、その人物が振り返る。

 

 明るい茶色の長い髪の少女だった。

 ベージュ色のキャスケット帽、そして薄いピンクのパーカー。

 

 その顔を目にした瞬間、佐天の心臓が跳ね上がった。

 それは――よく知っている、忘れようもない顔だった。

 

「……み、御坂さん?」

「ん?」

 

 少女――ドリーは、不思議そうに首をかしげる。

 その声は、人懐っこさと無邪気さを合わせたような、まるで曇りのない音色だった。

 

 数秒の沈黙。

 佐天は目の前の少女の顔をじっと見つめていた。

 

 間違いなく――友人である、あの超能力者(レベル5)の少女の顔。

 髪の毛が長いのを除けば、瓜二つだった。

 

 その様子を、弓箭は少し訝しげに眉をひそめる。

 

「どうなさいましたの、佐天さん? とても驚いていらっしゃってるようですが」

「るいこ、どうしたの? もしかしてお知り合い?」

 

 リコも首をかしげ、無邪気に問いかける。

 そんな佐天の視線に、やがてドリーがおずおずと口を開いた。

 

「あ、あのう………わたしのカオに、なんかついてる……?」

「あっ! いえいえ!」 

 

 はっと我に返った佐天は、慌てて手を振る。

 

「なんか、自分の知り合いにそっくりだなーって思っちゃって! いやー、人違いだったみたいです、あはは!」

 

(うわ、人の顔をじろじろ見るなんて、失礼もいいとこだよね…)

 

 内心そう反省しつつ、佐天は気まずさを誤魔化すように、ぎこちない笑顔を浮かべた。

 

 そんな微妙な空気を、どこか吹く風とばかりに、リコがふとドリーの方へと視線を走らせた。

 その視線は、まるで無意識に、ゆっくりと彼女の手に抱えられたものへと移っていく。

 

 ドリーもまた、何気なくリコの手元へと目を向ける。

 そして、お互いに抱えているものに気付いた瞬間――

 

 それは、愛らしいゲコ太のぬいぐるみ。

 リコがピンクのゲコ太をぎゅっと抱きしめ、ドリーもまた、緑のぬいぐるみを大切そうに抱えているのを見下ろし、思わず目を見開く。

 一瞬の間を置いて、まるで打ち合わせでもしたかのように、二人の声がぴたりと重なった。

 

「みどりのカエルさん!」

「そのピンクのやつ、ほしかったんだよね! とれなかったけど…」

 

 そして、列が少しずつ進むにつれて、さっそく意気投合した二人の会話も自然と弾んでいく。

 

「ねえ、もしかしてアレ、めあてできたの?」

 

 ドリーはそう言って、景品棚の最上段を指さした。

 金色のゲコ太キーホルダー。まばゆい光を反射して、その存在感は遠くからでも際立っている。

 

 リコはぱっと顔を輝かせ、勢いよく頷く。

 

「うん!キラキラしてて、すっごく欲しいんだ!」

 

 その様子に、ドリーは少し羨ましそうに微笑んだ。

 

「いいなぁ。さんにんでこられて」

 

 ちらりと佐天と弓箭の方へ視線を送りながら、ドリーはぽつりと続ける。

 

「わたしもね、きょうはおともだちとふたりできてるの。ホントは、もうひとりのおともだちにもきてほしかったんだけど……」

 

 リコは首をかしげ、素直に問いかける。

 

「どうして来てくれないの? お友達なのに」

 

 ドリーは少しだけ目を伏せ、胸のゲコ太ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。

 

「なんか、いろいろいそがしいみたい」

 

 わずかな沈黙が流れる。

 ドリーはためらいがちに息を吸い、一度唇を噛んでから、そっと言葉をこぼした。

 

「……むかしもね、すごくなかよしだったおともだちが、とつぜんきてくれなくなって。まいにち、ふあんでいっぱいだった。きっときらわれたんだ、って、かってにきめつけてたの」

 

 リコはじっとドリーを見つめ、その瞳の奥にかすかな寂しさを感じ取る。

 ドリーはほんのかすかに微笑んで、それでもどこか寂しげに、ぽつりと続けた。

 

「でもね、あとになってわかったの。きてくれなかったんじゃない――ほんとうは、きたくてもこられなかったんだって」

 

 ふわりと、優しい記憶を思い出すように、ドリーは目を細める。

 

「ひさしぶりにあえたとき、かのじょはいってくれたんだ。『わたしのことがきらいなわけがない』って」

 

 少しだけ、声に温度がにじむ。

 

「そのとき、おもったの。ヒトって、みんなそれぞれ、だれにもいえないこととか、どうしようもないジジョーとか、かかえてるんだなって。………だからね、かってにきめつけないで、ちゃんとしんじてあげるのも、おともだちってものなんじゃないかなって」

「………」

 

 リコは静かに耳を傾け、じっとその言葉を受け止めていた。

 しばらくの沈黙の後、ドリーは突然、はっとしたように顔を上げ、少し恥ずかしそうに、手で髪をかきあげながら言った。

 

「あっ、ごめんね…つい、しゃべりすぎちゃった。こんなこときゅうにいわれてもなんだよね」

 

 リコは少し考え込み、視線を下に向けてから、静かに顔を上げる。

 

「むずかしいことは、よくわかんないけど…」

 

 優しく微笑みながら、まっすぐにドリーの目を見つめて、静かに告げた。

 

「でも、お友達のこと、大好きなんだよね?」

 

 その問いに、ドリーは屈託のない笑顔を見せて、力強く頷いた。

 

「うん、だーいすき!」

 

 そうしているうちに、列はいつの間にか前に進み、気づけば順番がすぐそこまで来ていた。

 ドリーがふと射的ブースの方に目をやると、係の女性が手招きしている。

 

「あっ、つぎ、わたしのばんだ!」

 

 ぱっと顔を輝かせたドリーは、駆け出しかけて――何かを思い出したように、くるりと振り返る。

 そして、リコの方に満面の笑みを向けた。

 

「おたがい、ケーヒンとれるようにがんばろうね!」

 

 リコもつられるように微笑み、小さく頷く。

 

「うん!」

 

 ドリーはうれしそうに、ひらひらと手を振りながら射的台へと駆けていった。

 その小さな後ろ姿を、佐天と弓箭も静かに目で追う。

 

「いい子だったな」 

 

 佐天がふと漏らすように呟くと、弓箭も静かに相槌を打った。 

 

「ええ。仰る通りです」 

 

 佐天は少し目を細め、ドリーの背中を見送りながら、心の中でつぶやく。

 

(にしても……見た目だけじゃなく、趣味までそっくり。まさか御坂さんの妹さん、ってことは――いや、さすがにそれはないか~)

 

 苦笑まじりに肩をすくめながらも、胸の奥に残る微かな引っかかりを拭えずにいた。

 

 

(PM12:35)

 

『じぃーーーー』

 

 佐天たちが並んでいる列の真上、約三メートルほど離れた天井付近に、コウモリのような翼を生やした小型の液体金属人形が、静かに空気を溜め込んでパタパタと羽音を立て、その一部始終を見守っていた。

 否。厳密に言えば、見守っているのは人形そのものではなく、人形の胸部に取り付けられた小型カメラ越しに、別の場所で待機している警策である。

 

 ちなみに、彼女本人は依然として自販機と簡易的なベンチが並んだ休憩スペースに身を置いていた。

 背中を壁に預け、スマホの画面に映る人形のカメラ映像をじっと確認している。

 

 そんな時、不意に横から声がかかった。

 

「お待たせしましタ。おや、もう監視を始めたんですカ?」

 

 声の主は、金髪オールバックのスーツ姿の中年男性――カイツだった。

 

「まあね」

 

 警策は画面から目を離さずに、軽く応じる。

 カイツはそんな彼女をしばらく眺めていたが、ふと声のトーンを落とし、心配そうに尋ねた。

 

「……ところで、具合でも悪いんですカ?」

「え?」

 

 思わぬ一言に、警策はきょとんと目を瞬かせ、怪訝そうに画面から顔を上げてカイツを睨む。

 

「いや、その……ほんの少し顔、赤いような気がしましテ」

「なっ……!?」

 

 わずかに頬を染めたまま、ぷいっとわざとらしくそっぽを向く。

 

「べ、べつに……なんでもないわよ!」

 

 けれど、耳のあたりまでじんわり赤くなっているのは隠しきれない。

 どうしても意識の隅で、さっき見た映像が蘇ってくる。

 

『でも、お友達のこと、大好きなんだよね?』

『うん、だーいすき!』

 

 心の奥が、ふわりと熱を孕んで、やけにそわそわする。

 あの言葉を思い出すたび、理由もなく胸がざわついて、どうにも静まってくれない。

 

(な、何動揺してんの私!あのコが『すき』って言ってくれたの、別に初めてじゃないし!それに『みーちゃんが』なんてはっきり言ってたわけじゃないし!きっと操祈ちゃん(アイツ)のことも含めてって意味合いに決まってるし!)

 

 必死に心の中でそう言い聞かせ、なんとか平静を取り繕おうとする。 

 

「あ、あのう………本当に、大丈夫ですカ?」

 

 そんな警策の苦労など露知らず、年頃の女の子の心情にまるでご理解がないカイツは、ますます心配そうに眉を寄せる。

 

「あーもう、しつこいなぁ!大丈夫だっつーの!」

「な、何故逆に怒られてるんでス……」

 

 相変わらず女難の相に定評のある『知的傭兵(アドバイザー)』さんが、ちょっと可哀そうに困惑した顔で小さく肩をすくめた。 

 きっと今頃、心の中で「やれやれ、女心は難しいものですネ…」とか思ってるに違いない。

 なので、すっかり女心の解析などを諦めてさっそく本題に入ることにした。

 

「それで、これからどう動くつもりですカ?」

 

 その問いに、警策もようやく顔をカイツの方へ向き直って、少しだけ息をつく。

 

「しばらくは様子見かな。私はあのコに顔を見られてるし、下手に顔を合わせて彼女を刺激でもしたら、何が起きるか正直分かんないわ」

 

 言いながら、脳裏に『あの光景』がよぎる。

 

 昨日の廃工場。

 たった一瞬で、建物まるごとを廃墟へと変えた『破壊の閃光』。

 あれがもし、人の多い遊園地で放たれたとしたら――考えるまでもない。

 

(にしても、まさかあの二人のところに転がりこむなんてね…)

 

 苦笑まじりにそう思い、再びスマホの画面に視線を戻す。

 そこには、順番待ちの列で、楽しそうに話し込む佐天と弓箭、それに謎の少女――確か、リコとか呼ばれてたっけ――の姿が映っていた。

 

 ――果たして、これが本当に偶然なのだろうか。

 

 警策は胸の奥に、微かな違和感を覚えていた。

 そもそも、謎の少女の居場所を突き止めたきっかけは――あの二人の会話を盗み聞きしていたとき、ふと耳にした『都市伝説』の話題だった。

 確かに、この学園都市の都市伝説は、時に恐ろしいほどの的中率を誇る。だが、それだけで説明がつく話ではない。

 

 ふと、昨日ファミレスでのことを思い出す。

 自分がその都市伝説サイトで何気なく検索し、つい考えていたことがあったのだ。

 

 ――パッと調べた感じ都市伝説界隈では今ホットな話題みたいね。能力を変質させる能力…、噂話としてはよくある話に見えるケド、こういうのって本物を脚色したりしてるコトも多いからバカにできないのよね…

 

 そう。『今ホットな話題』。

 

(あの都市伝説って、確か……ごく最近になって急に広まったものだったわね)

 

 警策は再び、あの都市伝説サイトを開き、ざっと検索をかける。

 画面に並ぶ投稿一覧。その中で、関連する投稿の最初のものを見つける。

 

(…………最初の投稿がアップされたのは、10月10日……。ちょうど、あの『デカ目の暗部抗争』の翌日だね)

 

 警策はその投稿をタップし、全文を表示させた。

 そこに綴られていた内容は——

 

 

 

 謎の能力――XXX光。

 通常直進する光の道筋をねじ曲げる能力。一見役に立たなそうではあるが、この光を浴びた相手は、その能力の性質すらもねじ曲げられてしまう……という噂がある。

 私は先日、『それ』を目撃した。

 

 とある放課後、私は「幽霊が出る」と噂されている第七学区の人工林の奥にある、今は使われていない旧校舎へ肝試しに行った。

 古びた廊下とひび割れた窓。天井の蛍光灯は点滅し、わずかな風が吹くたびに扉がきしむ、不気味な場所だった。

 

 私は一人で、薄暗い空き教室の隅々を見て回っていた。

 机や椅子はほこりをかぶり、床には落書きのようなものが残っている。窓の外はすでに夕暮れで、赤黒い光が差し込んでいた。

 

 すると、その時だった。

 背後から、微かに声が聞こえた。

 

『のうりょくを……』

 

 ハッとして振り返ると、そこには誰もいない。

 空気が妙に冷たく、耳鳴りのようなざわめきが耳の奥に響いていた。

 

『のうりょくを、よーこーせー……』

 

 今度は、はっきりと聞こえた。

 そして、教室の奥の暗がりから、白いワンピースを纏った、長い黒髪の少女が姿を現す。

 

 蒼白の肌、虚ろな目。まるで幽鬼のように、その少女はじっと私を見つめていた。

 パニックになった私は、近くに倒れていた椅子をで持ち上げ、彼女に投げつけようとした。

 

 だが、次の瞬間――

 気が付けば、その椅子は私自身に叩きつけられていた。

 

 視界が歪み、何が起こったのか分からないまま、私は足を引きずるように教室から逃げ出した。

 背後から、ひっきりなしにあの声が追いかけてくる。

 

『のうりょくを、よーこーせー……』

 

 私は廊下を必死に駆け、なんとか無事に旧校舎から脱出しました。

 幸い、大きな怪我もなく、私たちは無事に帰ることができた――。

 けれども今も、あのときの少女の虚ろな目が、脳裏から離れない。

 

 

 

「…………」

 

 一通りその投稿を読み終えた警策は、しばらく黙り込んでいた。

 

(――アッレェ?つい最近、似たような話を操祈ちゃんから聞いたばかりなんだケドー?)

 

 確か、アイツは言ってた。

 才人工房(クローンドリー)第三研究室『内部進化(アイデアル)』に所属していた、『幽霊少女』の話。

 自らのAIM拡散力場を身体から切り離し、『AIM思念体』と呼ばれる自分そっくりのアバターを作り出していた――って。

 

 他の投稿にもざっと目を通してみる。

 

『AIM拡散力場を完全に記憶し、太陽系の果てに逃げようが、必ずその座標を突き止めるって能力があるらしい。知り合いから聞いた話だが、もし完成すれば、たった一人で学園都市の能力開発を全て賄えるに匹敵する存在になるとか』

 

『7月中旬のことだったか。河川敷の近くを歩いてたら、ツンツン頭の高校生と、常盤台の制服を着た中学生の決闘を目撃した。女の子は必死に能力で攻撃してたが、男の方は無傷だった。まるで――能力そのものを打ち消してるみたいだった』

 

『これは上の連中の間で昔から囁かれてる噂だけど、空間そのものを自在に操り、他人の能力を喰らう超能力者(レベル5)がいたらしい。ただ、やりすぎて学園都市のお偉いさんと、喋る犬に封印されたんだとか』

 

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」 

 

 警策は、じっと画面を眺めながら、少し呆れたように思わず口をつぐんでいた。

 

(イヤイヤイヤ、都市伝説、寄せ鍋状態なんだケド!?)

 

 わけのわからない能力談義に、時系列も規模もバラバラな噂話。

 それに、その中には――見覚えのある人物や、聞き覚えのある出来事に似た話も、ちらほら混ざっている。

 

(トレンドに飛びついて、バズ狙いで踊らされてるSNS芸人と大差ないじゃん、コイツら……)

 

 とうとう見るに堪えなくなったか、警策はキッパリとブラウザを閉じた。

 ふと、画面の中のゴチャゴチャした情報の山を思い浮かべ、少し肩をすくめた。

 

(……ネット民なんてそんなもんだよね。おいしいネタ見つけりゃ真偽もロクに確かめず拡散。トレンドになった瞬間、バカみたいに便乗して、情報の信憑性が曖昧なまま、関連ワードでひたすら拡散される)

 

 誰もが、自分の知ってる情報こそ価値があると信じて疑わない。

 

 顎に手を当て、警策はしばらく思案に沈む。

 

(デモデモ、時には有益なネタも紛れてることがある。関係者っぽいヤツがうっかり落とした情報とか、偶然拾われた本物とか) 

 

 実際、自分があの少女の居場所を突き止めたのも、雑多な情報の中に紛れていた、その『本物』がきっかけだった。

 

(……なら、裏を返せば、わざとガセネタを混ぜてバズらせることで、本物を炙り出すこともできるってワケか)

 

 バズればバズるほど、ノイズは増える。しかし、それだけ情報が集まる以上、その中に本物が混じる確率も跳ね上がる。

 

(もしかすると――)

 

 警策は思考の奥で、ずっと引っかかっていたものが、徐々に形を成していく。

 やがて、バラバラだったパズルのピースが、音もなく繋がりはじめた。

 

(――あの都市伝説は、何者かがあのコを探し出すために仕掛けた情報操作だったりして?)

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