それでもよろしければ一読して貰えると嬉しいです
それは、おとぎ話のような記憶。
そして、ぼくの始まり。
きっかけが何だったのかは覚えていない。
ただ確かだったのは、よく分からない化け物に連れ去られてすごく危険な目に遭ったってこと。
“使い魔”“魔女”
後からそういった名前を知った──あまりにもイカした、
そいつらに洗脳され、ぼく以外は完全に、ぼく自身もほとんど無抵抗に棲家まで連れ込まれ、一緒に巻き込まれた人々と共にか弱いぼくは哀れにも命を散らす……
はずだった。
そこから起こった出来事をぼくは絶対に忘れない。神にも悪魔にも魔法少女にも誓える。
魔女達の棲家、魔女の結界を突き破り、颯爽と躍り出る影。
爆発音。爆ぜる使い魔。狼狽える魔女。
状況がひっくり返ったのは誰の目にも明らかで……しかも、それをやってのけたのはたった一人の少女だった。
金髪金眼、服装もそれに合わせた黄色や白を基調としたもの。くるくるのツインテール、リボンの意匠、宝石の髪飾り、ふりふりのドレス……あらゆる要素が彼女を際立たせた。
その手に握られたものは銃(マスケット銃というらしい)、現代日本にあるまじき物騒な兵器であるそれは、不思議と可愛らしいその格好と調和していた。
「やっ!」
発砲。もう片方の手に握られたそれからもう一発。
流れるような動作で踏み込み、弾が切れたその銃で使い魔を殴りつける。球体に近い形状のそれは、ごろごろ転がってボウリングみたいに後方に控えるそいつの仲間達をぶっ飛ばした。
少女が腕を振るう。銃は投げ捨てられ、代わりに黄色いリボンが飛び出した。飛んでいく使い魔に巻き付く。
「はぁぁ!」
体をひねり、回る。回転運動に巻き込まれたおもし付きのリボンは遠心力に身を任せ突き進み数多の使い魔を薙ぎ倒す。
ばん、ばん。空いたもう片方の手で撃ち放つ。渦に巻き込まれずに済んだ幸運な者達も容赦なく爆ぜる。
二回転半の末、リボンと手が離れた。ぐしゃぐしゃの使い魔はその親玉……魔女のもとへ。
『▫️▫️▫️▫️!!』
到底解読できないおぞましき声を上げながら、飛来したそれを払う。哀れ使い魔はそのまま散った。
そしてその動作は、明確な隙。
ババン! 二発の弾丸がほぼ同時に放たれる。払う動作により生まれた一瞬の隙は人智を超えた高速戦闘においてあまりにも大きなものだった。
『▫️▫️!?』
体の一部が弾け飛び、大きくのけぞる。粗方散らされた手下と、負傷し咄嗟には動けないそいつ。相対するは──それを見て不敵に笑ってみせた、勇ましくも可憐な少女。しかもその手には新たな銃が握られており、彼女の周囲にはぐるりと円を囲むようにぴかぴか新品の銃がたくさん突き刺さっている。
勝負はもはや既に決していた!
発砲。ダメージ。発砲。のけぞる。発砲。体の一部が弾け飛ぶ。発砲。胴体に穴が空いた。残った使い魔捨て身の突進。殴打。爆散。
使い魔に気を取られた隙を突こうと魔女による決死の逃亡。その足元から伸びるリボン。リボン。リボン。
幾重もの拘束で雁字搦めになったそれはもはやばたつくだけだった。自分よりも何倍も小さな生き物に手下も我が身もぐちゃぐちゃにされ、反撃の機会すら与えられない哀れな弱者。ぼくのような人間を惑わし襲う恐ろしき一面はすっかり失われていた。
「これで、終わりよ……!」
彼女の前方でたくさんのリボンが渦巻き始めた。マスケット銃を造る時のように、集まったそれらはひとつの形を成していく。
普通の銃よりもうんと時間をかけて、命を穿たんとする兵器が生み出された。
魔女よりは小さいが、ぼくや彼女よりはずっと大きなそれは、銃と大砲の合いの子のような見た目をしていた。その破壊力は、発射を待たずとも恐ろしいものだと本能的に理解できる。
「ティロ……ッ」
何かが焼けつくような音。使い魔達の身体が焦げたにおい。砲台を中心に生まれた初期微動のごときかすかな揺れ。
この空間における様々な感覚を、この瞬間ぼくはゆっくりと味わっていた。全てがスローに感じられる。
それはきっと、この瞬間を目に焼き付ける為に。
「フィナーレッ!!」
少女の勇ましい掛け声と共に、巨大な爆発音が響いた。ごう、と放たれたのは砲身に見合う巨大な火球。轟音と共に解き放たれた必殺の一撃。
人間のポテンシャルでは、その軌跡を追うことすら難しいだろう。しかし、全てを見届けんとする今のぼくは、その一撃の全てを視て、聞いて、感じた。
強力な一撃の代償に無惨に砕け散る砲身を。開け放たれ進む弾道を。着弾し、大爆発と共に豪炎に飲まれる魔女を。
そして……勝利を見届けた彼女の、誇り高き笑みを。
「あ、あぁ…………」
一部始終を見届けたぼくの喉から声が漏れた。感動と一言で言い表すのはあまりにも軽い。言葉にならない、そしてできないものだった。ただ確かなのは、胸の鼓動。
「魔法、少女……!」
始まりは日曜日の朝。そこから連綿と、液晶越しに応援していた存在が、確かに目の前にある。実在している!
魔女の終わりを見届けた彼女はどこからか飛び出してきた白いマスコットのようなよく分からない生き物と会話を始めていた。
あれだ。魔法少女にお馴染みの、謎生物。魔法少女だけじゃなく、
フィクションがノンフィクション! その衝撃はぼくの人生を左右するのに十二分に事足りた。当時は生誕からおよそ13年。その中でも一番のイベントだったとぼくは断言できる。彼女と一匹がぼくの人生を変えてくれた。
「ああ、あぁ……あ?」
興奮、感動。その極地においてぼくは一周回って冷静さを得つつあった。心はこんなにも打ち震えているのに、頭は精密に周囲の情報を読み取っている。奇妙な感覚だった。
気付いたのは、ぼくと、ぼくの周りのこと。ぼくを含め、化け物達に連れて込まれた一般人達はずっとこの場所に留まっていた。一連の戦闘が行われたこの空間に。
無い。弾痕が。傷跡が。戦闘の痕跡が。
まさか、だ。あれだけの大立ち回りをしておいて、一切ぼくたちにリスクを与えなかったのか? あれだけの数の使い魔を捌ききり、魔女相手に大技を使った上で。そういった衝撃が続いてぼくを襲った。
彼女は全てを見通していたのだ。この結界という盤面を。彼女が成した勝利はただの勝利じゃない。全ての駒を守り通した
「うあ……ぁ」
泣いちゃった。その強さと美しさと知性を兼ね備えた存在に圧倒された。劇的な後光に目が眩んだのだ。
笑わない、泣かない、よく分からない子。そんな風に評されたことすらあるぼくが、滂沱の涙を流しただただ震えた。生きてて良かった、そう思った。この光景こそが、自分の生を肯定しているように思えた。
ぐちゃぐちゃの視界には、こちらに近づいてくる少女が写った。慌てた表情から、多分ぼくが怯えて泣いていると勘違いしていることをすぐに察せられた。
「だ、大丈夫……!? 怖がらないで、もう大丈夫だから……!」
「へえ……口づけを受けた上でこれか。洗脳が効きづらい体質なのか、意思がそれを跳ね除けるほど強いのか……」
その両手は私の肩に触れ、膝を付く私に視線を合わせてしゃがみ込んでくれた。肩に暖かさを感じる。
肩に乗っかったマスコットも何か喋っていた。しかし私は彼女の口から出る言葉を一言一句聞き逃さないようにそちらに集中していた。
「ぐすっ、ありがとう……ございます。魔法、少女、さん……」
「ちょっ、土下座!?」
情緒を無理やり抑えてでも感謝を述べる。助けられたことは当然、一連の全てを見せてくれたこと、ぼくの世界を変えたこと、そういった一連についてのものであった。選択肢はもはや平伏しかなかった。
「そ、そんなに畏まらなくていいのよ。ただ、どうか日常に帰ることを考えて? 今日のことは忘れて、嫌な思い出とも早くバイバイしないと、ね……?」
「い、嫌……です」
優しい人だ。年下の私を(たぶん3つは離れてるように見える)怖がらせないように精一杯気を使ってくれている。
……でも。
ここが分水嶺だ。直感が、そう確信を与えていた。ぼくの人生を変える一手は、夢の世界への片道切符は、今ここで掴み取るしかない。何故だか分かった。
涙を拭って、それでも歪む視界は彼女と、謎のマスコットを捉えている。
「連れて行って、そっちへ……」
「……へぇ、さらに驚きだね。マミ、ボクが見えているよ、彼女は」
「……キュゥべえ、本当なの?」
「ああ、間違いないよ。彼女もこちら側の存在……魔法少女の素質がある者だ」
ぼくは彼女らのことを何も知らない。名前だって、今の会話の流れで初めて知ったぐらいだ。でも、ぼくを引き上げる存在だと当時のぼくはすんなり理解できていた。
「わたしも、なれるの?」
「うん。君には素質が、十分な才能がある。君が望むのであれば可能だよ」
「ちょ、ちょっとこんな小さな子を……!」
ああ、そうそう。この時の一人称はまだ“わたし”だったんだよね。埋もれるから変えたんだった。
「魔法少女になった者は、魔女……さっきの怪物と闘う宿命を受ける代わりに、願いをひとつ叶えることができる。君にはあるのかな? 大きな運命を背負ってまで望むものが」
「うん、あるよ。今できた」
腕で顔をごしごし拭って、改めて涙を拭いた。自分の肩に手を置いて心配してくれている優しい魔法少女──マミさんの手をそっと放して、立ち上がった。彼女の目にはさっきから困惑が浮かんでいて、今までの勇ましい雰囲気とのギャップが少し可笑しかった。
でも、そこも含めて良いと思う。戦士としてのかっこよさと少女としてのかわいさを兼ね備えたのが魔法少女だから。マミさんは、ぼくの中の魔法少女の理想像に近しかった。
ぼくもあれになりたい。混ざりたい。そう焦がれた。
「それならいいんだ。聞かせて欲しい、君の……ええと」
「
「うん、ありがとう。それじゃあ改めて……」
「その魂を代償に、君は何を望む?」
「わたしが望む夢の続きを見せてほしい。アニメや漫画みたいな……魔法少女たちの劇的な夢の続きを」
「──契約は成立だ。君の願いは、エントロピーを凌駕した──さあ、解き放ってごらん。君の新たな姿を」
光がぼくを包んだ。祝福するように。
静かにそれを受け入れる。それは恩寵だから。
光の中で起こる変化を感じ取る。校則通りの退屈な制服が、少しずつ形を変えた。服装はドレスのような感じで、所々にフリルの拵え。半袖だったのが、手首まで隠す長さに変わった。ゆったりとして、袖口に向かってラッパのような形で広がっている。色は白。まっさらで純粋。そこに少しライトグリーンのアクセント。スカートの丈はちょうど膝くらい。
下を覗いて確認すると、ブーツも白くなっていた。ニーソックスは黒く、モノクロの対比になっている。
ただのドレスで終わりかと思ったらそこからさらにもう1枚。丈の短い上着──ボレロを縮めてメルヘンにしたようなもの──が形成された。こっちは黒い……裏地は白かったけど。ポケットやホルスターみたいなのが付いていた。
さらにダメ押しで頭に重みを感じた。帽子だ。触って確認するとベレー帽のような形だった。
髪も全然様子が違う。黒髪でもさもさなくせっ毛が見る影もなく、純白の頭髪が光に照らされ銀色に輝いていた。ストレートよりの髪質になって(それでもちょっと癖はあるけど)、少し伸びて肩にかかるぐらいになった。
視界の端にちらちらと、銀に混じって別の色彩が写る。……インナーカラーだ。服の補色よりも少し濃いめのリーフグリーンが主張している。
魔法少女といえば、ピンク系がメインのイメージだけど……これも中々良い。白がメインだけど、所々に黒を差し込みアクセントに黄緑。華美だけど、清楚。綺麗系の魔法少女としては中々ポイント高いと思う。
元々地味なのに変身すればこうなるっていうのも、魔法少女の1つの回答だろう。自分で言うのもなんだけど、かなり“アリ”だと自負している。
変身の終わり際、手と頭に重みを感じた。手の方に目を向けると、やけにメルヘンなペンがそこに。一瞬ステッキかと思ったけどその割に装飾が無いし、先端の尖りが何よりの証拠だった。頭の方は……左目のあたりだけ重みが。
「これが、魔法少女のわたし……!」
呆然とする目の前の同業さんを置いてけぼりに、ぼくは感動に打ちひしがれていた。憧れ夢見るだけでなく、今ぼくはここにいるという喜びに。
これがぼくのオリジン。魔法少女という夢と苦難の世界の始まり。
この時のぼくはまだ知る由もないことだけど、ぼくの存在とぼくの魔法はやがて周囲を巻き込み大きな影響を与えることになる。
ぼくのペンが描くのはただの絵じゃない。そしてそこが魔法の核心だった。
ぼくが戯れに書いた絵が独りでに動き始めた時、その瞬間が転換点。
ぼくのペンは克明に描いて見せたんだ。
後日談
マミ(14)「小学生かと思ったら1個下だった……」
夢々(13)「高校生くらいのお姉さんかと思ったら1個上だった……」