シャインポスト 風にのって   作:陽HARU

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砂の適性と、迫る自粛

 

 

有馬記念からさらに十日後——栗東トレーニングセンター。

 

ブライトウィンドのダート適性テストが始まっていた。高嶺厩舎の専用ダートコースで、零は軽いブリンカーを着けた馬に跨がり、慎重に手綱を取る。メイダンのダート2000mを想定し、キックバック(砂の跳ね返り)を意識した先行策を試していた。

 

高嶺鉄平調教師がフェンス越しに声を張った。

 

「零、ペースはゆったりだ。砂の感触に慣れさせるのが先。ドバイは気温も湿度も日本とは全然違う。輸送ストレスで気性が荒れたら……疾風の覇者と同じ失敗になる」

 

零はヘルメットの中で頷き、ブライトウィンドを軽く促した。馬は最初、砂の感触に耳を伏せたが、零の体重移動と静かな声掛けで徐々にリズムを掴み始めた。2000mのタイムは国内ダート重賞並みの好時計。キックバックに慣れれば、先行して粘る脚質が活きる可能性が出てきた。

 

神崎隆一馬主がテスト終了後に現れ、満足げに頷いた。

 

「これは行けるぞ。ドバイワールドカップに正式エントリーだ。賞金総額1200万ドル……ブライトウィンドが世界を相手に勝てば、俺たちの夢が一気に広がる。高嶺先生、零くん、頼む」

 

高嶺調教師は慎重に答えた。

 

「輸送は3月末の予定。現地で2週間調整します。馬の体調を最優先に……零、お前も右足の負担を考えろ」

 

零はブライトウィンドの首を撫でながら、心の中で春に語りかけた。

 

(春……お前が危機に遭ってる今、俺は世界を目指す。絶対に結果を出して、お前に笑顔を届けたい)

 

——一方、東京・TiNgS事務所。

 

春の危機はさらに深刻化していた。

 

会議室で幹部が最終通告を出した。

 

「青天国春。調査の結果、競馬場での変装写真が決定的証拠となった。騎手・風間零との交際疑惑も浮上している。これは事務所の信頼を損なう重大事案だ。来週から**活動自粛**とする。TiNgSとしての出演は当面停止。杏夏と理王には負担が増えるが、理解を求めたい」

 

春は眼鏡の奥で涙を堪え、震える声で訴えた。

 

「春……本当にごめんなさい。でも、零くんは命がけで馬に乗って夢を追いかけてるんです。ブライトウィンドくんと一緒にドバイワールドカップを目指してるって……春はただ、応援したかっただけです。ステージも大好きで……みんなと一緒にシャインポストを目指したいんです……」

 

杏夏が立ち上がり、声を強めた。

 

「春を自粛させるなんて! 私たち三人で支え合ってきたのに、春なしのTiNgSなんて成り立ちません。事務所も、春のファン層を失うことになりますよ?」

 

理王が珍しく感情を露わに、冷たい視線を幹部に向けた。

 

「根拠薄弱な疑惑でメンバーを潰すんですか? 春が少し休むなら、私と杏夏でカバーします。でも完全自粛は絶対に反対です」

 

幹部はため息をついた。

 

「二人の気持ちはわかるが、世論が悪化したらグループ全体が沈む。春は1ヶ月間の自宅待機とし、調査を続ける。ドバイの件も、もし写真が流出したら……完全に終わりだ」

 

会議後、寮に戻った春はベッドに倒れ込み、三つ編みを握りしめて泣いた。

 

杏夏がそっと抱きしめた。

 

「春……泣かないで。私たちが全力で守るから。零くんにも連絡して、ドバイの話も共有しよう」

 

理王が珍しく春の頭を撫でた。

 

「バカ。まだ終わってない。お前が諦めない限り、TiNgSも春の恋も守ってみせる」

 

その夜、春は零に電話をかけた。声は弱々しかったが、希望を込めて。

 

「零くん……春、活動自粛になりそう……1ヶ月間、ステージに出られなくなるかも。でも、零くんがドバイを目指してるって聞いたよ。メイダンのダート2000m、砂のキックバックがすごいって……ブライトウィンドくん、零くんなら絶対に風になれる! 春、たとえ自宅でも、心で全力応援するから……」

 

零は電話の向こうで拳を握りしめた。

 

「春……ごめん。俺のせいで……。ドバイ挑戦は本格的に決まった。3月末に出国予定だ。お前が自粛中でも、俺は世界で勝って、お前に最高の報告をしたい。杏夏ちゃんや理王ちゃんにも、春を守ってくれてありがとうって伝えてくれ」

 

春は涙を拭き、いつもの口癖を少しだけ取り戻した。

 

「春ちゃんにお任せあれ……! 零くん、ブライトウィンドくん、世界の砂漠で輝いて。春も、絶対に這い上がるから……二人で、夢を繋げようね」

 

高嶺厩舎では、佐伯厩務員がブライトウィンドの輸送用クレートを準備し始め、神崎馬主がドバイ遠征スタッフを手配していた。

 

春の危機はまだ続く。

しかし、零とブライトウィンドの砂漠への挑戦が、新たな希望の風を吹かせ始めていた。

 

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