ドバイワールドカップ優勝から一週間後——。
成田空港は、ブライトウィンド凱旋を祝う報道陣とファンの熱気で溢れていた。ブライトウィンドは専用の輸送機から降り、栗東へ向かう馬運車に乗り込む。零はキャップを深く被り、右足を少し引きずりながらも笑顔で手を振っていた。
高嶺鉄平調教師が零の肩を叩いた。
「世界一、おめでとう。あいつの分まで……よくやったぞ」
神崎隆一馬主は満面の笑みで記者に囲まれていた。
「ブライトウィンドはこれからも高嶺厩舎で! 零くんは生涯主戦です。次は国内で有馬記念連覇を目指します!」
零はインタビューで、静かに言った。
「日本に帰ってこられて嬉しいです。支えてくれたすべての人に感謝しています。特に……大切な人へ。ありがとう」
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その夜、東京の静かな公園のベンチ。
春は完全変装(マスク+帽子+眼鏡)で零を待っていた。活動自粛中なので、夜遅くの短い時間しか会えない。
零が現れると、春は思わず駆け寄って抱きついた。三つ編みが零の胸に当たる。
「零くん……おかえりなさい! 世界一、おめでとう……春、ずっと泣いてたよ……」
零は春を強く抱きしめ、砂漠の匂いの残るジャケットで包み込んだ。
「ただいま、春。ブライトウィンドも無事帰ってきた。お前が自宅で祈ってくれてたから、砂の直線で踏ん張れたんだ」
二人はベンチに座り、短い時間を大切に過ごした。零が春の三つ編みを優しく指で梳きながら言った。
「ドバイの夜、馬房でずっとお前のこと考えてた。自粛中なのに、俺の世界一のために頑張ってくれて……ごめん。でも、勝ったからには、お前の危機も絶対に解決する」
春は零の手に自分の手を重ね、眼鏡の奥で微笑んだ。
「春ちゃんにお任せあれ!……って、ようやく言えるよ。事務所はまだ自粛継続だって。でも、零くんの世界一を見て、春、勇気が出た。杏夏ちゃんも理王ちゃんも、毎日『春を守る』って言ってくれてる」
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TiNgS寮では、杏夏と理王が深夜まで話し合っていた。
杏夏がテーブルに拳を置いた。
「もう我慢の限界。春の自粛が長引けば、TiNgSのイメージも落ちる。事務所に直接交渉するしかない。『春の交際は事実だけど、仕事に影響ない』って堂々と認めるか……最悪、春をグループから外さない条件で交渉する」
理王がクールに、しかし強い目で頷いた。
「俺も賛成。春のファン層はTiNgSの半分以上だ。事務所が春を切ったら、こちらから『メンバー3人で独立』も視野に入れる。春零カップルとして公式に認める道もある……ファンは意外と応援してくれるかも」
杏夏がスマホのスクリーンショットを並べた。
「Xの反応も悪くないよ。『春ちゃんおめでとう』『零騎手と春ちゃん尊い』って声がどんどん増えてる。ドバイ優勝が追い風になってる今が、勝負の時だと思う」
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翌朝、春は零にメッセージを送った。
**春**:零くん、杏夏ちゃんと理王ちゃんが本気で動いてくれるって。春も、怖いけど戦うよ。世界一になった零くんの風に、春も負けないように頑張る!
零は栗東の厩舎でブライトウィンドを撫でながら返信した。
**零**:春、俺も高嶺先生と神崎さんに相談する。お前を守るために、騎手としてできることを全部やる。
またすぐに会おう。春のステージに、俺も客席から応援に行く日が来るように。
高嶺調教師が零の横で静かに微笑んだ。
「零……お前も春ちゃんも、いい風だな。ブライトウィンドと一緒に、守ってやれ」
事務所の圧力はまだ強い。
しかし、ドバイ優勝という大きな風が、春と零の関係に新しい希望を運んでいた。
杏夏と理王の「最終手段」が動き始め、新たな局面を迎えようとしていた。