シャインポスト 風にのって   作:陽HARU

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運命の馬 ブライトウインドウ

 

 

 

零の次の大事なレースは、**新潟競馬場**の3歳未勝利戦だった。

 

風間零はまだ重賞常連ではない若手騎手。メインの騎乗馬は決まっていたが、急遽別の馬の主戦を任されることになった。理由は、予定していた騎手が怪我で騎乗不可になったからだ。

 

その馬の名前は——**ブライトウィンド**。

 

馬主が「明るい風のように、未来を切り開く馬になってほしい」と命名した3歳牡馬。父は偉大な種牡馬で欧州の血を引くものの、気性が荒く、これまでの気性で暴走して3歳未勝利までデビューがずれ込み。調教師も「扱いが難しい」と頭を抱えていた。

 

零は初めてブライトウィンドに跨がった瞬間、ゾクッとした。

 

「……お前、なんか春に似てるな」

 

馬の瞳が、春の眼鏡の奥のキラキラした目と重なった気がした。明るくて、ちょっと危なっかしくて、でも全力で走りたがっている。そんな風に感じた。

 

調教で手綱を取ると、ブライトウィンドは最初こそ暴れたが、零の静かな声と体重移動に徐々に耳を傾け始めた。騎手として減量を続け、毎日馬と向き合う零の「気配」が、なぜかこの馬の心を落ち着かせたのだ。

 

「零くん、今日の馬はどう?」

 

夜の電話で春が心配そうに聞いた。春はまだ零の騎乗馬の名前すら知らない。秘密の関係だから、詳しく話せない。

 

「うん……運命的な馬に出会った気がする。名前はブライトウィンド。明るい風って意味だろ? お前みたいだ」

 

春は電話の向こうで頰を赤らめた。

 

「えへへ……春ちゃん、風みたいに軽やかだもんね! 零くんが乗るなら、絶対いい子になるよ! 春、陰ながら応援してる!」

 

レース当日。

 

春は変装して新潟競馬場へ。眼鏡を外し、マスクと帽子で顔を隠し、三つ編みを一つにまとめてポニーテール風に。TiNgSのメンバーには「ちょっと用事」とだけ伝えてある。杏夏ちゃんにはまた後で怒られるかもしれないけど……今は零のレースが大事だ。

 

パドックでブライトウィンドを見た零は、ヘルメットを被りながら小さく息を吐いた。

 

「頼むぞ。お前と俺で、春に勝ちを見せてやる」

 

ゲートイン。

 

ブライトウィンドはいつも通りスタートで少しもたついたが、零の巧みな手綱さばきでなんとか立て直す。道中は中団待機。零の指示通り、ペースを乱さずじっと我慢。

 

直線に入ると——風が吹いた。

 

ブライトウィンドの脚が、突然爆発した。零は馬の首を優しく叩きながら、声を掛ける。

 

「行け! ブライトウィンド! お前の明るい風を見せろ!」

 

馬はまるで春の「春ちゃんにお任せあれ!」という元気な声に応えるように、ぐんぐん加速。最後方から一気に追い上げ、ゴール前で2着馬をクビ差で差し切った!

 

1着——ブライトウィンド(風間零騎乗)

 

新潟競馬場のスタンドがどよめいた。単勝オッズはかなり高かった未勝利戦での大逆転勝利。零はゴール板を過ぎてから、馬の首を優しく撫でた。

 

「……よくやった。お前は俺の相棒だ」

 

レース後、零は控室でスマホを確認した。春からメッセージが来ていた。

 

『零くん! すごい! ブライトウィンドくん、めっちゃかっこよかったよ! 春、泣きそうになった……! お疲れ様! 大好き!』

 

零は小さく笑った。春の声が聞こえる気がした。

 

しかし、ここからが本番だった。

 

ブライトウィンドの馬主と調教師が、零を呼び止めた。

 

「風間くん、あの馬……君にぴったりだ。気性を抑えられる騎手はなかなかいない。次のレースも、君を主戦騎手にしたい。どうだ?」

 

零は一瞬、息を飲んだ。

 

主戦騎手——つまり、ブライトウィンドの専属騎手として、ほぼ全てのレースで乗ることになる。まだ若手の零にとって、これは大きなチャンスであり、同時に重圧でもあった。

 

「俺で……いいんですか?」

 

「君とあの馬のコンビが、今日のレースで運命を感じたよ。ブライトウィンドは、君という騎手に出会って初めて本気を出したみたいだ」

 

零は頷いた。心の中で、春の笑顔が浮かんだ。

 

「わかりました。ブライトウィンドと一緒に、もっと上を目指します」

 

その夜、二人はいつもの公園で会った。

 

春は興奮冷めやらぬ様子で、零に飛びついた(人目がないところで)。

 

「零くん! 主戦騎手なんてすごいじゃん! ブライトウィンドくん、春の運命の馬みたいだね! 明るい風……春の名前にも『春』が入ってるし、なんか繋がってる気がする!」

 

零は春の三つ編みを優しく指で梳きながら、苦笑した。

 

「運命か……かもな。お前がいるから、俺も頑張れる。でも、これからもっと忙しくなる。レースの日程がライブと被るかもしれないし、秘密も守りづらくなるかも……」

 

春は眼鏡を直して、いつもの明るい笑顔を見せた。

 

「春ちゃんにお任せあれ! 零くんとブライトウィンドくんの夢、春が全力で応援するよ! TiNgSのステージも頑張るし、両方大事にしたい!」

 

零は春を抱きしめた。騎手の体はまだレースの熱を帯びていて、春の小さな体に優しく包み込む。

 

「ありがとう、春。ブライトウィンドと一緒に、君に勝ち星を届けるよ」

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