シャインポスト 風にのって   作:陽HARU

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復帰のステージと、宝塚の坂

 

 

春の活動自粛が解除されてから、わずか十日後——。

 

東京ドームは、**TiNgS復帰ライブ「Shine Again」**で満員の観客で埋め尽くされていた。春の復帰を待ちわびたファンの「春ちゃん!」というコールが、開演前から何度も響き渡る。

 

ステージ袖で、春はいつもの三つ編みと眼鏡姿で深呼吸をしていた。杏夏が後ろから優しく背中を押す。

 

「春、緊張してる? でも大丈夫。私と理王がいるよ。今日は特別に、零くんも客席にいるからね」

 

理王がクールに微笑みながら言った。

 

「バカ。世界一の騎手の彼女が、ステージで萎縮してるなんて許さないぞ。いつもの『春ちゃんにお任せあれ!』でいけ」

 

春は眼鏡を直し、明るく笑った。

 

「うん! 春ちゃんにお任せあれ! 零くんが見てくれてる……みんなの想いも背負って、今日、最高のステージにするよ!」

 

ライトが落ち、イントロが流れる。新曲「Wind of Hope」の最初のサビで、春がセンターに飛び出した。

 

「みんな、ただいまー! 春、帰ってきたよ! ずっと待っててくれてありがとう!」

 

観客の大歓声がドームを揺らした。春の声は少し震えていたが、すぐにいつもの元気なトーンに戻った。三つ編みがスポットライトにキラキラと輝き、眼鏡の奥の目が輝いている。

 

中盤のMCで、春はマイクを握りしめて言った。

 

「春、最近ちょっと大変なことがあって……みんなに心配かけちゃったよね。でも、たくさんの人に支えられて、ここに立てました。特に……大切な人が、世界で頑張ってる姿を見て、春も頑張ろうって思えたの。これからも、TiNgSみんなで、みんなの心に明るい風を届けたい! ありがとう!」

 

客席のVIPエリアに、零がキャップとマスクで変装して座っていた。高嶺調教師と佐伯厩務員も隣にいる。零は春の姿を見て、胸が熱くなった。

 

(春……お前、輝いてる。俺のレースより、ずっと眩しいよ)

 

ライブのラストは、杏夏と理王が春を抱きしめながらのユニゾン。観客が総立ちで「春ちゃん大好き!」と叫ぶ中、春は涙を浮かべて何度もお辞儀をした。

 

バックステージで、杏夏が春の頭を撫でた。

 

「春、最高だったよ。SNSも『春ちゃん復帰おめでとう』で埋め尽くされてる」

 

理王がスマホを見せながら。

 

「零くんからも『最高のステージだった』ってメッセージ来てるぞ。次は宝塚記念で、春も客席から応援できるように頑張ろう」

 

---

 

一方、栗東の高嶺厩舎。

 

ブライトウィンドは有馬・ドバイの疲労を完全に回復し、次なる目標**宝塚記念(GⅠ・阪神・芝2200m)**に向けた調整に入っていた。

 

高嶺調教師が零に言った。

 

「宝塚は阪神内回り2200m。スタート後の急坂と、ゴール前の直線が勝負所だ。ブライトウィンドはドバイで世界を経験した今、古馬相手でも十分通用する。零、お前も右足の調子はどうだ?」

 

零は鞍を調整しながら頷いた。

 

「問題ありません。春の復帰ライブを見て、俺も気合いが入りました。ブライトウィンドと一緒に、春に『また勝ったよ』って報告したいです」

 

神崎馬主も厩舎を訪れ、笑顔で言った。

 

「ドバイ優勝の勢いのまま、宝塚も狙おう。春ちゃんの復帰と重なるいいタイミングだ。ファンが喜ぶぞ」

 

零はスマホで春のライブ映像をもう一度見ながら、ブライトウィンドの首を撫でた。

 

「春……お前がステージで輝いてる姿、俺も客席から見れて嬉しかった。次は俺の番だ。阪神の坂を、ブライトウィンドの風で駆け上がるよ」

 

---

 

ライブ終了後の夜。

 

春と零は、久しぶりに人目が少ない公園で再会した。

 

春はライブ衣装のままコートを羽織り、三つ編みを零の指に絡めながら笑った。

 

「零くん、今日のステージ、どうだった? 春、緊張して声震えちゃったかも……」

 

零は春を抱き寄せ、優しくキスをした。

 

「最高だったよ。春の『春ちゃんにお任せあれ!』が聞けて、俺も元気が出た。ドバイの時、お前が自宅で祈ってくれたように、俺も宝塚で頑張る。春が客席から応援してくれるなら、絶対に勝てる」

 

春は零の胸に顔を埋め、幸せそうに目を細めた。

 

「春も、宝塚記念、絶対に行くよ! 杏夏ちゃんたちも『零くんのレース、みんなで見よう』って言ってくれてる。春の復帰と零くんの宝塚……今年の夏は、最高になりそう!」

 

しかし、零は少し声を落とした。

 

「新しいライバル騎手が宝塚に参戦するらしい。海外から来た若手で、ドバイでも上位だった奴だ。ブライトウィンドの気性をどう抑えるか……まだ油断できない」

 

春は零の手を強く握った。

 

「春ちゃんにお任せあれ! 零くんとブライトウィンドくんは、世界一なんだもん。どんなライバルが来ても、春の明るい風で押し上げるよ!」

 

二人は短い時間だけ、星空の下で寄り添った。

 

宝塚記念まであと三週間。

春のステージ復帰と、零の宝塚挑戦が、互いの夢をさらに強く結びつけていた。

 

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