**宝塚記念当日**——阪神競馬場は、梅雨の合間の晴天に恵まれ、例年以上の熱気に包まれていた。
**宝塚記念(GⅠ・阪神・芝2200m)**。内回りコースで、スタート直後に急坂(高低差約2.5m)を上り、向こう正面の下り坂を経て、再びゴール前の急坂を越えるタフなレース。直線は356.5mと短く、ポジション取りと騎手の判断力が勝敗を分ける伝統の一戦だ。
ブライトウィンドは単勝3番人気。ドバイワールドカップ優勝の勢いが評価され、ファン投票でも上位。零は勝負服の白地に青ストライプ、ヘルメットを被った表情は引き締まっていた。
パドックでは、高嶺鉄平調教師が零に最終指示を出した。
「零、スタート後の急坂で無理に前を争うな。好位で我慢して、2周目の坂で勝負だ。ブライトウィンドの気性は安定しているが……新ライバルに注意しろ」
新ライバル——**エリック・ヴァン・デル・ベルク**(27歳・ベルギー出身)。ドバイでも上位に入った若手国際騎手で、今回ブライトウィンドの対抗馬「シャドウブレイズ」に騎乗。身長が高く、馬を自在に操るスタイルで知られていた。
神崎隆一馬主が零の肩を叩いた。
「世界一のコンビが負けるわけがない。春ちゃんも来てるらしいぞ。最高のレースを見せてくれ」
零は小さく頷き、ブライトウィンドの首を撫でた。
「春……見ててくれ。俺とお前とブライトウィンドで、もう一度風になる」
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スタンドの特別席。完全変装した春・杏夏・理王の三人が固く手を繋いでいた。
杏夏が春の耳元で囁いた。
「春、零くんのかっこいい姿、しっかり目に焼き付けてね。私たちも全力応援するから」
理王がクールにオッズ画面を見せながら。
「3番人気か。妙味あるな。新ライバルが強敵だけど、ブライトウィンドは世界一だ」
春は眼鏡を直し、胸に手を当てた。
「零くん……ブライトウィンドくん……春ちゃんにお任せあれ! 春の明るい風、絶対に届けるよ!」
ゲートイン。18頭立て。
スタート!
ブライトウィンドは好発進。零は好位5番手をキープし、スタート直後の急坂を上手くこなした。ヴァン・デル・ベルク騎乗のシャドウブレイズは果敢に逃げを打ち、先行争いをリードする。
道中は平均ペース。向こう正面の下りで零は馬を少し溜め、2周目の急坂に備える。残り600mでペースが上がった。
零が馬の肩を叩いた。
「ここからだ、ブライトウィンド! 春が……みんなが見てるぞ!!」
ゴール前の急坂——ここが宝塚の真骨頂。
ブライトウィンドが力強く坂を登り始めた瞬間、アクシデントが発生した。内側を回っていた中団馬が躓き、外に膨れたシャドウブレイズと接触。零の馬はわずかにバランスを崩し、ヴァン・デル・ベルク騎手が鋭く内を突いて並びかけてきた。
「くっ……!」
零は体勢を立て直し、手綱を巧みに操った。過去のトラウマが一瞬よぎるが、春の笑顔を思い浮かべて振り払う。
残り300mの直線。
ブライトウィンドの末脚が爆発した。外から一気に伸び、シャドウブレイズと激しい叩き合い! 二頭は並んだままゴール板に突き進む。
「行けぇぇぇ!! ブライトウィンド!!!」
零の叫びがスタンドまで届いた瞬間——
**1着 ブライトウィンド(風間零騎乗)**
2着 シャドウブレイズ(クビ差)
宝塚記念優勝! ドバイに続くGⅠ連勝。阪神の空に「明るい風」が吹き抜けた。
零はゴール後、馬の首に顔を埋めて声を詰まらせた。高嶺調教師は控室で拳を握り、神崎馬主は大歓声の中ガッツポーズ。ヴァン・デル・ベルク騎手は零に敬意を表してヘルメットを脱いだ。
スタンドでは春が杏夏と理王に抱きついて大泣きしていた。
「零くん……やった……やったよ……!」
杏夏:「春、優勝おめでとう! 零くん、最高だった!」
理王:「二度目の坂で逆転……完璧なレースだな」
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レース後、零は勝利インタビューで言った。
「ブライトウィンドは、春……大切な人の応援があって勝てました。宝塚の急坂はキツかったですが、みんなの想いが背中を押してくれました。本当にありがとうございます」
その夜、零と春は再び短い再会を果たした。
春は零の胸に飛び込み、涙声で言った。
「零くん、おめでとう……春、スタンドで心臓が止まるかと思ったよ。アクシデントの時、怖かった……でも、零くんが信じて走る姿、ほんとに輝いてた!」
零は春の三つ編みを優しく抱きしめた。
「春のおかげだ。お前が復帰ライブで輝いてくれたから、俺も頑張れた。これからも、互いの夢を応援し合おう」
杏夏から届いたメッセージ。
**杏夏**:優勝おめでとう! 春零の話題がまたトレンド1位だよ。事務所も「好印象」って言ってる。少しずつ、公認に近づいてるかも♪
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しかし、ヴァン・デル・ベルク騎手がレース後に零に近づき、小声で言った。
「君の騎乗は素晴らしかった。でも、次は俺が勝つ。ブライトウィンドの主戦……興味があるよ」
新たなライバルの影が、二人の未来に静かに忍び寄っていた。