シャインポスト 風にのって   作:陽HARU

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雨のロンシャンと、最後の直線

 

 

10月7日、フランス・ロンシャン競馬場。

**凱旋門賞(Prix de l'Arc de Triomphe・GⅠ・芝2400m)**当日。

 

朝から雨が降り続き、馬場は重馬場に悪化した。空は灰色に覆われ、スタンドには傘を差した観客と、世界中から集まった関係者が息を潜めていた。総勢18頭。欧州の古馬女王、3歳の新星、強豪牡馬が揃う中、ブライトウィンドは日本馬として単勝5番人気。フォワ賞優勝の勢いが評価されたものの、重馬場適性は未知数だった。

 

パドックでは、零がブライトウィンドの首を優しく撫でていた。高嶺調教師の声が低く響く。

 

「零……重馬場だ。道中は後方2、3番手で折り合いをつけろ。直線は大外から一気に持っていく作戦だ。ブライトウィンドの気性が荒れたら、右ムチに持ち替えて立て直せ」

 

神崎馬主が緊張した顔で頷いた。

 

「フォワ賞を勝った勢いがある。ヴァン・デル・ベルクのシャドウブレイズも来てる。騎手同士の対決……負けるな」

 

ヴァン・デル・ベルク騎手が零に近づき、ヘルメット越しに笑った。

 

「風間、フォワ賞は惜しかったな。今日は凱旋門賞だ。本気でぶつかるぞ。俺の馬は重馬場巧者だ」

 

零は静かに目を細めた。

 

「受けて立つ。ブライトウィンドの風、ロンシャンで味わえ」

 

スタンドの日本応援席。春は杏夏・理王とともに完全変装で陣取っていた。雨に濡れたコートの下で、三つ編みを握りしめている。

 

杏夏:「春、雨すごいね……重馬場だって。零くん、大丈夫かな」

 

理王:「後方待機から大外一気……零くんの得意パターンだ。春、祈ろう」

 

春は眼鏡のレンズに雨粒が落ちる中、声を震わせた。

 

「零くん……ブライトウィンドくん……春、ここにいるよ。春ちゃんにお任せあれ! どんな雨でも、君たちの風を信じてる!」

 

ゲートイン。

 

スタートは横一線。欧州馬の一頭が逃げ、別の馬が2番手を追走。ブライトウィンドは大外18番枠から後方2、3番手でじっと我慢。零は馬の息を整え、重い馬場に脚を取られないよう慎重に手綱を操った。ヴァン・デル・ベルクは中団でシャドウブレイズを上手くコントロールしている。

 

道中は淡々と流れる。大きな位置取りの変動はなく、雨が馬の体を叩く音だけが響く。

 

残り600m——最後の直線入口。

 

零がブライトウィンドを大外に持ち出した。馬なりでぐんぐんポジションを上げ、残り300mで先頭に躍り出る! 一時は大きくリード。観客からどよめきが上がり、日本応援席では春が思わず立ち上がった。

 

「零くん……! 行ってる!!」

 

しかし、直線半ばで異変が起きた。ブライトウィンドが内ラチに向かって大きくヨレ始めた。重馬場で気性が一瞬乱れ、零は必死に右ムチに持ち替えて修正を試みる。ヴァン・デル・ベルクのシャドウブレイズが内から迫り、別のフランス牝馬「ミレミアム」(地元人気薄)が大外から猛然と追い上げてきた。

 

残り200m——ブライトウィンドはまだ先頭をキープ。一時はセーフティーリードに見えた。

 

零は声を振り絞った。

 

「ブライトウィンド! 春が……みんなが見てるぞ!! 最後まで風になれ!!」

 

残り100mでミレミアムが並んできた。ヴァン・デル・ベルクも内から猛追。騎手同士の激しい心理戦——零は馬を立て直そうとするが、ブライトウィンドはさらに内へヨレ、失速気味に。

 

最後の50メートル。

ソレミアが内ラチ際を力強く伸び、ブライトウィンドの鼻先をクビ差で捉えた。

 

**1着 ミレミアム(フランス牝馬)**

**2着 ブライトウィンド(クビ差)**

 

凱旋門賞は、惜しくも2着。優勝は地元フランスの伏兵牝馬だった。

 

零はゴール後、馬の首に顔を埋め、雨に混じって涙を流した。ヴァン・デル・ベルクが近づき、肩を叩いた。

 

「惜しかった……お前とブライトウィンドは強かった。また来年、ぶつかろう」

 

高嶺調教師はスタンドで静かに頭を下げ、神崎馬主は悔しさを噛みしめながらも「よくやった」と零を抱きしめた。

 

日本応援席では、春が杏夏と理王に支えられながら泣き崩れた。

 

「零くん……ブライトウィンドくん……あと少しだったのに……でも、ほんとに強かったよ……」

 

杏夏:「春、2着でも歴史的快挙だよ。零くん、すごかった……」

 

理王:「最後の50m……世界の壁は厚かったな。でも、春零の風は確かにロンシャンに吹いた」

 

Xは世界中で大反響。

 

**#ArcDeTriomphe**

**#BrightWind2nd**

**#春零凱旋門**

 

【ファン】「ブライトウィンド惜しかった……でも2着で世界に日本馬の強さを見せた!」

【海外ファン】「Japanese horse almost won the Arc! Next year for sure!」

 

レース後、零は春にビデオメッセージを送った。雨に濡れた顔で、静かに微笑む。

 

「春……2着だった。最後でヨレてしまって、ごめん。でも、ブライトウィンドは最後まで戦った。お前がフランスまで来て応援してくれたおかげだ。来年は絶対に勝つよ」

 

春は涙を拭き、返信した。

 

「零くん、おめでとう……じゃないけど、春は誇らしいよ。春ちゃんにお任せあれ! 来年も一緒に、世界の頂点を目指そうね。零くんとブライトウィンドくんの風、春は一生、信じてるから」

 

フォワ賞勝利から凱旋門賞2着——

ブライトウィンドと零の挑戦は、欧州の歴史に新たな一ページを刻んだ。

雨のロンシャンで交錯した騎手同士の対決と、最後の50メートルのドラマは、二人の夢をさらに強く結びつけた。

 

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