**有馬記念当日**——中山競馬場は、年末の冷たい風と熱い歓声に包まれていた。
ブライトウィンドは4歳最後のレースとして有馬記念に出走。単勝2番人気。凱旋門2着、ジャパンカップ優勝の戦績を背負い、ファンからは「今年の日本競馬の顔」と呼ばれていた。ヴァン・デル・ベルク騎乗のシャドウブレイズは3番人気で、騎手同士の最後の直接対決となった。
パドックでは、高嶺鉄平調教師が零の肩を強く握った。
「零……これがブライトウィンドの4歳最後のレースだ。今日は、すべてを出し切って走らせてやれ」
神崎隆一馬主が静かに微笑んだ。
「4歳でここまで来てくれた。どんな結果でも、俺は誇らしいよ」
零はブライトウィンドの額に自分の額を軽く当てた。
「ブライトウィンド……お前と一緒に走れて、本当に幸せだった。4歳の締めくくり、最高のレースにしよう」
スタンドの特別席。春は杏夏・理王とともに、完全に変装を解いて座っていた。事務所の許可を得て「特別ゲスト」として公開応援をすることになった。三つ編みと眼鏡の姿が、スポットライトのように輝いている。
杏夏が春の手を握った。
「春、今日は堂々と応援していいよ。私たちも一緒に」
理王が珍しく優しい声で。
「4歳最後の有馬。零くん、絶対にいいレースを見せてくれるはずだ」
春は胸に手を当て、静かに祈った。
「零くん……ブライトウィンドくん……春、ここにいるよ。4歳の全部を、春が受け止めるから」
ゲートイン。16頭立て。
スタート!
ブライトウィンドは好スタートを決め、零は好位4番手をキープ。中山の最初の急坂を力強く上り、道中はヴァン・デル・ベルクのシャドウブレイズを意識しながら我慢した。
向こう正面の下りでペースが上がり、残り600mから本格的な勝負となった。
零がブライトウィンドを外に持ち出した。
「ここからだ——春の風を、中山に!!」
残り400m。二度目の急坂を登りきり、直線へ。
ブライトウィンドの末脚が炸裂した。ヴァン・デル・ベルクも内から猛追し、二頭は並んだままゴールを目指す。騎手同士の最後の激闘——零は右ムチを入れ、ヴァン・デル・ベルクは左ムチで応戦。
残り100mでブライトウィンドがわずかに前に出た。
最後の50メートル——
零の声が風に乗り、ブライトウィンドが最後の力を振り絞る。
**1着 ブライトウィンド(風間零騎乗)**
**2着 シャドウブレイズ(クビ差)**
有馬記念優勝!
4歳シーズンを、有馬記念制覇という最高の形で締めくくった。
零はゴール後、馬の首に顔を埋めて声を上げた。雨のように涙が落ちる。ブライトウィンドは荒い息を吐きながらも、満足げに耳を立てていた。
高嶺調教師は控室で静かに泣き、神崎馬主は「4歳、お疲れ様」と馬の鼻を優しく撫でた。
ヴァン・デル・ベルクは零に近づき、ヘルメットを脱いで握手を求めた。
「今年は……お前に全部持っていかれたな。5歳も楽しみだ」
零:「ありがとう。また世界で会おう」
---
スタンドでは春が杏夏と理王に抱きついて大泣きしていた。
「零くん……ブライトウィンドくん……4歳、最後までかっこよかった……!」
杏夏:「春、優勝おめでとう。4歳のブライトウィンド、ほんとに強かったね」
理王:「これで4歳シーズン完璧だ。5歳も、きっともっとすごいことになる」
---
レース後のセレモニーで、零はマイクを握った。
「ブライトウィンドは、4歳でたくさんの夢を叶えてくれました。凱旋門の悔しさ、ジャパンカップの喜び、そして今日の有馬……すべてを、支えてくれた大切な人たちに捧げます。春……ありがとう。これからも、5歳のブライトウィンドと一緒に、新しい風を吹かせます」
春はスタンドから零を見つめ、涙を拭きながら大きく頷いた。
---
その夜、二人は中山競馬場近くの静かな場所で再会した。
春は零の胸に顔を埋め、震える声で言った。
「零くん…ブライトウィンドくん、ほんとにすごかった。春、全部見てて胸がいっぱいだよ。来年5歳になっても、春は絶対に応援し続けるから」
零は春を抱きしめ、優しくキスをした。
「春……お前がいてくれたから、ここまで来れた。4歳の終わりと、5歳の始まりを、お前と一緒に迎えられることが、何より嬉しい。これからも、俺のレースも、お前のステージも、全部一緒に夢にしよう」
春は笑顔で零を見上げた。
「春ちゃんにお任せあれ! ブライトウィンドくんも、TiNgSの春も、もっともっと輝くよ。零くんと一緒に、世界のどこまでも風になろうね」
---
数日後、ブライトウィンドは栗東の厩舎でゆっくりと休養に入った。
零と春は、手を繋いで未来を見つめた。
明るい風は、決して止まらない。
二人の物語は、ここで一つの終わりを迎える
~完~
-