シャインポスト 風にのって   作:陽HARU

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写された影と、選べない夢

 

 

毎日杯からさらに三週間後——。

 

ブライトウィンドは**皐月賞トライアル・若葉ステークス(阪神・芝2000m)**に駒を進めた。クラシックへの最終関門。零とブライトウィンドのコンビはすでに「注目の一組」として競馬メディアで取り上げられ始めていた。

 

零は毎朝、栗東の厩舎でブライトウィンドと向き合っていた。馬は零の手綱にだけ素直に応えるようになり、調教タイムもどんどん良くなっていた。

 

「春……お前のおかげだな」

 

零は馬の額を撫でながら、春の笑顔を思い浮かべた。

 

一方、春はTiNgSの全国ツアー初日リハーサル真っ最中だった。会場は東京ドーム。杏夏ちゃんの厳しいチェックが入り、理王ちゃんは相変わらずクールにダンスを決め、春はいつもの「春ちゃんにお任せあれ!」で明るく振る舞っていた。

 

でも、心はもう阪神競馬場に飛んでいた。

 

レース当日——4月某日。

 

春は前夜に新幹線で大阪へ移動。朝イチで変装を完了させた。今回は三つ編みを隠すためにウィッグを被り、黒縁眼鏡ではなくカラコン+キャップ+マスクの完全ガード。TiNgSのスタッフには「家族の用事で午前中だけ抜ける」と嘘をついていた。

 

若葉ステークスのパドック。

 

零がブライトウィンドを引いて歩く姿は、堂々としていた。勝負服の白と青のストライプが、春の好きな「明るい風」のイメージにぴったりだった。

 

「零くん……春、ここにいるよ」

 

スタンドの最上段から、春はそっと声に出した。

 

スタート。

 

今回はブライトウィンドも落ち着いて好スタートを切った。零は好位をキープし、道中は馬の力を温存。直線で外に持ち出すと、ブライトウィンドの末脚が炸裂した。

 

「行け! ブライトウィンド!!」

 

零の声がマイク越しに響く。

 

馬はまるで春の応援を背中に感じたように、力強く前へ。最後は2馬身半差をつけての**圧勝**!

 

若葉ステークス優勝——風間零騎乗 ブライトウィンド

 

スタンドが沸き、零はゴール後に馬の首を強く抱きしめた。ヘルメット越しの笑顔が、春の目に鮮明に映った。

 

春は涙を拭きながらスマホで写真を撮った。でも、その瞬間——。

 

シャッター音が聞こえた気がした。近くにいた競馬記者の一人が、春の変装姿を偶然フレームに入れていた。

 

レース後、零と春はいつものように近くの喫茶店で落ち合った。

 

「零くん、おめでとう! ブライトウィンドくん、ほんとに強くなったね! 春、胸がいっぱい……!」

 

春は零の手に自分の手を重ねて笑った。零は春の指を優しく握り返す。

 

「春が来てくれたからだ。お前は俺とブライトウィンドの……幸運の女神だよ」

 

二人は短いキスを交わした。騎手の唇はまだレースの興奮で熱かった。

 

しかし、その夜——。

 

ネットニュースに小さな記事が上がった。

 

『若葉S勝利の伏兵コンビ スタンドに謎の女性ファン? 騎手・風間零の熱視線?』

 

写真には、キャップとマスクをした春の横顔が小さく写っていた。三つ編みの先が少しだけウィッグから覗いている。幸い、顔はぼやけていたが、TiNgSのメンバーなら気づくかもしれないレベルだった。

 

翌朝、TiNgSの寮。

 

杏夏ちゃんが朝食の席でスマホを突きつけてきた。

 

「春。これ……あんたじゃないよね?」

 

春の心臓が止まりそうになった。理王ちゃんも無言で画面を覗き込んでいる。

 

「え、えへへ……春ちゃん、ただの競馬ファンだよ?」

 

「嘘つかないで。春、最近変だもん。練習中にぼーっとしたり、急に大阪行ったり……」

 

杏夏の目が真剣だった。春は唇を噛んだ。

 

「杏夏ちゃん……実は、春……彼氏がいるの。競馬の騎手で……ブライトウィンドっていう馬に乗ってる零くんなの」

 

部屋が静まり返った。

 

理王ちゃんが珍しく目を丸くした。

 

「は? アイドルが騎手彼氏? しかもブライトウィンドって……今話題の馬じゃん」

 

杏夏はため息をついた。

 

「春……本気? 事務所にバレたら大変だよ? それにツアー初日、午前中いなかったのもそのレース?」

 

春は目を伏せて頷いた。

 

「ごめんなさい。でも零くんとブライトウィンドくんは、春にとって大事な夢なの。TiNgSのステージも、零くんのゴールラインも……両方諦めたくない!」

 

杏夏はしばらく黙ってから、春の頭を優しく撫でた。

 

「……バカ。心配かけるなら、ちゃんと相談しなさいよ。でも、春が本気なら……少しだけ、秘密守ってあげる。でも、次に怪しまれたら絶対に報告してね」

 

春の目から涙が溢れた。

 

「杏夏ちゃん……ありがとう! 春、もっと頑張るね!」

 

その頃、零はスマホでニュースを見て青ざめていた。

 

「春……やばいな」

 

電話が鳴る。春からだった。

 

「零くん……杏夏ちゃんにバレちゃった。でも、味方になってくれたよ! 春ちゃんにお任せあれ! 次も絶対に応援に行くから!」

 

零は苦笑しながらも、胸が熱くなった。

 

「春……ありがとう。でも、無理はするな。俺とブライトウィンドは、お前が輝いてる姿を見てるだけで十分だ」

 

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