シャインポスト 風にのって   作:陽HARU

6 / 30
東京の長い直線と、運命のダービー

 

 

若葉ステークス優勝、皐月賞3着と着実に力を示したブライトウィンドは、いよいよ**日本ダービー(東京優駿・GⅠ・東京競馬場・芝2400m)**に挑戦した。3歳牡馬の頂点を決める夢の舞台。東京芝2400mは直線が525.9mと日本最長で、コースを一周する長丁場。スタートから1コーナーまで約350mの平坦、2コーナーにかけて緩やかな下り、3・4コーナーでわずかな上り、そして最後の直線で再び緩やかな上り坂(高低差約2.7m)が待ち受ける。スローペースからの瞬発力勝負になりやすく、先行馬が有利な傾向もあるが、末脚の質が問われるレースだ。ブライトウィンドは単勝オッズで5番人気前後。零と馬のコンビは「若手騎手×気性難馬」の伏兵として注目を集めていた。

 

零はダービー週、栗東から美浦へ移動し、最終追い切りでブライトウィンドに跨がった。馬は零の手綱に良く応じ、軽い芝の東京コースに適性を見せていた。しかし、零の胸には過去の厩舎トラウマがよぎる——減量過多で馬が暴走し、仲間が落馬した事故。あの時の「馬を信じきれなかった」後悔が、ブライトウィンドの気性を抑えるプレッシャーになっていた。

 

「ブライトウィンド……お前と俺で、春に一番の景色を見せてやる」

 

レース当日、東京競馬場は満員の観客で埋め尽くされた。零の勝負服は白地に青ストライプ、ヘルメットを被った表情は静かだが、瞳に強い決意が宿る。

 

春はTiNgSのツアー真っ只中だったが、メンバー総出の協力で「午前中だけ家族の急用」と調整。杏夏ちゃんが「絶対バレるなよ!」と釘を刺し、理王ちゃんが無言で変装グッズを貸してくれた。春はウィッグで髪を短くまとめ、大きめのサングラス、マスク、競馬ファン風のジャケットでスタンドのやや後方に陣取った。三つ編みの先が少しだけ覗かないよう、念入りに隠している。

 

「零くん……ブライトウィンドくん……春、絶対ここで見守ってるよ! 春ちゃんにお任せあれ!」

 

パドックでは、ブライトウィンドが少し耳を伏せ気味。零は馬の首を優しく撫で、手綱を握りながら静かに語りかけた。

 

「今日はスローになるはずだ。お前は脚を溜めて、長い直線で風になれ。春が待ってるぞ」

 

ゲートイン。18頭立ての大レース。ブライトウィンドは中枠から好スタートを決め、零は好位の4〜5番手あたりをキープ。道中は予想通りスローペース。1周のコースで馬群が密集し、零は内ラチ沿いを上手く選び、馬のスタミナを温存した。2コーナーの下りで少しペースが緩み、零はブライトウィンドの息遣いを確認しながら、じっと我慢。

 

向こう正面から3コーナーにかけて、徐々にペースが上がる。零は馬の肩を軽く叩き、ポジションを保ちながら外へ持ち出す準備をした。4コーナーで先行馬がバテ始め、直線入口——ここからが東京ダービーの真骨頂、525mの長い直線だ。

 

残り400m付近で零が本気で仕掛けた。

 

「今だ、ブライトウィンド! お前の明るい風を、全部出せ!」

 

ブライトウィンドの脚が爆発した。零は体重を前に預け、手綱を巧みに操り、馬の瞬発力を最大限に引き出す。外から一気に伸び、先行集団を飲み込んでいく。残り200mで2番手に並び、緩やかな上り坂で最後の叩き合い!

 

観客の歓声がスタンドを揺らす中、零は声を張り上げた。

 

「行けぇぇ! ブライトウィンド!! 春のために——!!」

 

馬はまるで春の元気な声に応えるように、最後のひと踏ん張り。残り100mで先頭に躍り出ると、2着馬をクビ差以上引き離しての**優勝**!

 

日本ダービー1着——風間零騎乗 ブライトウィンド

 

タイムは優秀な2:24秒台。零はゴール板を過ぎてから、馬の首を強く抱きしめ、ヘルメットの中で小さく泣いた。過去のトラウマが溶けるような、初めてのGⅠ勝利。ブライトウィンドの息が荒く、でも満足げに耳を立てている。

 

スタンドの春は、変装のサングラスの下で涙が止まらなかった。

 

「零くん……ブライトウィンドくん……やったよ……! 春、ほんとに……!」

 

レース後、零は勝利騎手インタビューでマイクを向けられた。

 

「ブライトウィンドは、俺が主戦になってから本当に変わってくれました。気性が荒いところもあるけど、今日の東京の長い直線で、最高の脚を使ってくれました。……実は、支えてくれる大切な人がいて。その人のために、今日勝ちたかった。ありがとう、ブライトウィンド。そして、みんな、ありがとう」

 

控室に戻った零のスマホには、春から大量のメッセージ。

 

『零くん!! ダービー優勝おめでとう!! ブライトウィンドくん、すごかったよ! 春、スタンドでずっと祈ってた……零くんのかっこいい姿、最高だった! 大好き!! 春ちゃんにお任せあれ、次も一緒に夢叶えようね!』

 

その夜、二人は東京近郊の静かな場所で短く再会した。春は変装を少し解き、三つ編みを零の指に絡めながら笑う。

 

「零くん、優勝おめでとう……春、胸がいっぱいで言葉が出ないよ。ブライトウィンドくん、零くんの風に乗って、ほんとに輝いてた!」

 

零は春を抱きしめ、汗と興奮の残る体で優しくキスをした。

 

「春のおかげだ。お前がいるから、俺も馬も全力で走れた。ダービー勝てた……これで少し、春の秘密も守りやすくなるかな」

 

しかし、優勝の余韻も束の間、競馬メディアは「風間零の熱いインタビュー」と「謎の女性ファン」の噂を再び取り上げ始めていた。杏夏ちゃんからは「春、次は本当にヤバいよ……!」という警告が。

 

ブライトウィンドの次なる夢は、秋のクラシックや古馬との戦いへ——。

 

-

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。