世界樹教団、マフィアになる   作:韓非子

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第1話「深夜の宴会場」

「では、師匠様!今日もお疲れ様でしたー!」

「うん、お疲れ様。気を付けて帰ってね」

「はーい!では、また明日!師匠様!」

 

 店じまいを終えたピコラが元気に挨拶をして、宴会場を後にする。

 

 妖精王国の某所に建てられた、世界樹教団の教主が運営する宴会場。教団の使徒たちが料理に舌鼓を打ち、教主や他の使徒たちと交流する場所。今日もそこで、営業時間を終えた宴会場が静かに店じまいをする。

 

 ぽつぽつと周辺の明かりが一つ、また一つと消えていく。町の営みと共に、宴会場も静かに営業を終えるのが、ここ、宴会場の日常の一つであった。

 

 しかし、この日は違った。

 

 いつの頃からか、営業を終えたはずの宴会場に一人の客が訪れるようになったのだ。

 

「こんばんは、あなた」

 

 浅黒い肌の魔女が、営業を終えたはずの宴会場の戸を開く。ベリティエンの二番手、ベリータの参謀を務めるフリックルだ。

 

「やあ、フリックル、いらっしゃい。いつものやつで良いかな」

「ええ。今日はどんなモノがあるのかしら?」

「今日はいつも以上に使徒たちが多かったからね。材料もあまり残ってないし、ありあわせのモノでも良ければ何か作るよ」

「ええ。お願いするわ」

 

 教主がバックルームに入り、秘蔵の樽から、グラスに独特の香りのする水を注ぐ。

 

 氷を一つ、ライムの搾り汁を適量に入れる。エーリアス、特に、魔女にはあまり縁のないものだが、教主がすぐに用意できる、即席のドリンクだ。

 

 再びカウンターに戻り、氷の入ったドリンクをフリックルの前に差し出す。フリックルはそれに静かに視線を落とすと、ゆっくりと手に持ち、香りを味わった。

 

「はい。今からアテを作るから少し待っててね」

 

 油の入った冷めた鍋に、再び火が入れられる。料理の用意ができるまでの傍らに、即席のアテを用意するために、再びバックルームに入って行く。

 

「ナッツくらいなら魔女でも食べてくれそうだけど……」

 

 袋から三日月状のナッツを取り出して、軽く鍋で煎る。少しの油を噴きかけて、塩をまぶせば、即席の酒肴のできあがりだ。

 

「とりあえずこれでもどうぞ」

 

 フリックルの前に煎り豆が出される。フリックルはそれを一つ摘まむと、一つ口の中に運んだ。

 

 柔らかな頬が揺れ、静かな宴会場にボリボリと豆を砕く音が響く。

 

 ため息が一つ、フリックルからこぼれる。グラスを一口煽り、ことりとカウンターに置かれる。

 

「悪くないわね」

「そりゃよかった」

 

 フリックルがぽつりと言葉を漏らした。

 

「スノーキーもこれを味わっていたのかしら?」

「さあね。けど、酒のアテに豆を摘まむのは定番の一つだよ」

「そう……」

 

 それだけを言って、フリックルは静かに目を閉じた。普段のピリピリとした様子の彼女からは想像できない、落ち着いた面持ちをしている。

 

 ほどよく熱せられた鍋に、棒状に切られたポテトの山が入れられる。ジュワジュワと勢いよく発せられる音は、無条件で人々に食の喜びを呼び起こしてくれる。

 

 人々を魅了する魅惑の音。食材が料理に変わっていく瞬間の音。その音に抗える者は地球であっても、エーリアスであってもいないはずであろう。普段は冷徹な態度を崩さないフリックルであっても、それは例外ではない。

 

 そして、できあがったアツアツのフライドポテトがフリックルの前に差し出された。

 フリックルは、目をランランに輝かせて、湯気の立ち昇るフライドポテトの山に釘付けになっている。その様子はどこか、ハニーガーリックサーモンを前にしたベニーのようであった。

 

 塩と青のりをフライドポテトにかけていく。青のりがポテトに彩りを与え、油とポテトの芳醇な香りをより豊かなものにしてくれる。

 

「あむ……」

 

 フリックルがポテトを一つ摘まんで口に運ぶ。

 

「はふはふ……」

「出来立てだからまだ熱いよ。気を付けて食べてね」

 

 焦っていたのか、急いでポテトを口にしたフリックルの彼女らしからぬ所作に、教主が笑みをこぼした。

 

 まだ湯気の立ち込めるフライドポテトに教主が視線を落とす。教主も我慢できなかったのか、ポテトを一つ摘まんで口にした。

 

 ポテトを摘まんだ教主は、我ながら良く出来たものだと一人満足そうに頷いた。

 

 そんな教主をよそに、フリックルは夢中でフライドポテトを食べている。どうやら、よほど気に入ったようだった。出来立てというのもあるだろうが、教主の作ったフライドポテトは、フリックルのお気に入りになったという事かもしれない。

 

 ふと、教主がフリックルの空になったグラスに気が付いた。

 

「ああ、ごめん。グラス、全然気が付かなかったよ。また同じもので良いかな?」

「うーん……。別のモノを飲んでみたいわね。ライムも良いんだけど……。何かおすすめはあるかしら?」

 

 それならと、はちみつとショウガ粉末を用意した教主は、それらを混ぜ合わせて即席のカクテルを作った。

 

 慣れた手つきでカクテルを作る教主の様子を、フリックルは興味津々に見ている。普段の彼女からは想像できない、穏やかな表情だ。

 

「しかし、まさかあなたがこんな趣味を持っていたなんてね。密造酒だなんて……。どこでそんな知識を学んだのかしら?」

「それは秘密さ。材料はどこでも簡単に手に入るし、鍋が一つと蒸留機器さえ自作してしまえば、どこでも簡単に作れる。作ってよし、飲んでよし、妖精王国の数少ない娯楽の一つだよ。それに……」

「それに?」

 

 教主が意味深に言葉を区切る。フリックルはそんな教主を言葉を、興味深く耳を傾けている。

 

「酒は金になる」

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