世界樹教団、マフィアになる   作:韓非子

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第13話「べニーと秘密のワイン」

 宴会場をピコラに任せて、教主は獣人の森にハーブを探しにやってきていた。どこにどんな植物が生えているか。酒に合うか、もしくは料理に合うか。雑多にいろんな薬草を摘み、研究することも兼ねての出張だ。

 

「ディアナに頼ってみるのもありだな。ディアナもただ無為に過ごしている訳でもないだろうし、薬草の知識もそれなりにあるだろう」

 

 プチプチと適当に摘まんではカゴに入れていく教主。酒造の知識はあっても、教主にはハーブの知識がない。とりあえず採取して、鑑定してもらうつもりなのだ。山籠りと野営に自信がある獣人の登場が待たれる。

 

 そうして、しばらく山菜取りをしていると、一人の獣人の姿が目に留まった。

 

「ん?あれは……ベニーか?」

 

 反アニマル缶戦線の腕力担当、ベニーが一人で森の中を歩いている。いつもティグやルポと一緒にモナティアムの町を荒しているベニーが一人で行動しているとあって、興味を惹かれた教主はベニーを訊ねてみることにした。

 

「やあ、ベニー。珍しいね、こんなところで。一人かい?」

「あ、教主様!私はちょっと……へへへ。教主様こそ、ここでいったいどうしたんですか?」

 

 教主の背負うかごを見てベニーが興味深そうに見て回る。やがて、何かを察したのか、一人納得したように手を叩いて頷いた。

 

「あっ!もしかして、宴会場で使う材料探しですか?あたしも料理するから、この辺りで採れる野菜なんかは色々知ってますよ!あとは、ユミミも基本的に森の中でサバイバルしてますし、色々とその辺の知識があるかもしれません!」

「ふ~~ん?なるほど。後で尋ねてみるかな?」

 

 そう言って、教主はカゴの中を軽く漁った。

 

「そういえば、ベニーこそ何してたんだい?」

「あー……。まぁ、教主様なら別にいいかな……?」

 

(あたし秘蔵のごちそう……。教主様は気に入るかな……?)

 

「? ベニー?」

 

 ブルミから授かった読心術でベニーが何か隠していると読み取った教主は、ベニーが何をしようとしているか聞いてみることにした。

 

「何か探しに行くところだったのかい?」

「まぁ、ついて来てください!あたしのとっておきの秘密を教えてあげます!」

 

 とっておきの秘密を教えるとベニーが言う。ベニーに導かれるままについていくと、一本の枯れ木がぽつんと立っている広場に出た。

 

「ここです!あの枯れ木があたしのお気に入りなんです!」

「これは……」

 

 嗅いだことのある芳醇な香りが辺りに立ち込めている。教主は、これが酒の匂いだと一瞬で理解した。

 

 果実酒……。それも強烈なぶどう酒の匂いだ。

 

 教主は口の中に渇きを覚えた。教主は、ここエーリアスに来て、まだ一度も飲んだ事のないワインを味わいたいという思考に支配された。

 

 ベニーはそんな教主をよそに、ワインの匂い香る枯れ木に近付き、よじよじと登り始めた。

 

「うわー、また虫がいっぱい浮かんでる……。やだなぁ」

 

 枝に吊るしてあるザルを使ってバシャバシャと掬い、水面に浮かんでいるという虫を取り除く。そして、一通り作業を終えたベニーは、お手製の水筒でワインを掬い、一口飲んだ。

 

「ん~~~……。やっぱりおいしいなぁ……。あ、はい!教主様もどうぞ!」

 

 そう言って、ベニーは半分残った水筒のワインを教主に差し出した。

 

「おお、これは……」

 

 竹でできた水筒からのぞく、赤黒い色をした濃厚なワインが、そこにあった。それは紛れもなくワインだった。教主は、自然が作り出した天然のそれを見て、激しく心臓が高鳴るのを感じた。

 

 ベニーに差し出されるままにワインを口に含む。その瞬間、赤ワイン特有の渋みとコクが教主の舌を覆った。

 

「こ、これは……紛れもなくワインだ……!ベニー、いったいどうやってこれを見つけたんだ!?」

「きょ、教主様……?」

 

 鬼気迫る表情で教主がベニーに詰め寄る。普段は見せないその迫真な態度に、ベニーはたじろぐばかりである。

 

「はっ……!す、すまない……。つい興奮してしまったみたいだ……」

「い、いや、いいんですよ!教主様もこれ、気に入りましたか?」

「ああ、まあね。しかし、君がこんなに渋くて複雑な味の飲み物を気に入るとは驚きだね。獣人であれば、もっとシンプルな味の飲み物を気に入ると思ってたんだが」

「あはは!それは偏見ですよ、教主様!あたしもその気になればレモンやワサビだって食べるんですよ?ティグ隊長みたいな味覚音痴でもありませんしね!」

 

 そう言って、ベニーは水筒いっぱいにワインを掬い、教主の近くであぐらをかいて座った。

 

「それに~、これを飲んでると、どんどんふわふわした気持ちになって~、気持ちよくなってくるんですよ~」

 

 そう言うベニーは、もう出来上がってるのか、頭をゆらゆらと揺らしながら、ゆったりとしゃべっている。

 

 教主は、このままではベニーが酔い潰れてしまうのではと少しばかり焦り始めた。ベニーがこのまま眠ってしまう前に、どうやってワインを発見したのかベニーに訊ねた。

 

「なあ、ベニー。君はいったい、どうやってこの飲み物を見つけたんだ?教えてくれないか?」

「ん~?どうやって見つけたんだっけ……。あ~、そうそう。最初、変な匂いがすると思って、匂いを辿って行ってたら、あの木を見つけたんです。誰かが落としたのか、どこからか飛んできたのか分からないですけど、あの枯れ木の中にぶどうが入ってて……。それで、ちょっと舐めてみたら案外ハマっちゃって……。それ以来、森でぶどうを見つけては、ああやって足していってるんです」

 

 やはり、あの枯れ木はたまたまできた天然のワイナリーらしい。ベニーもすごいものを見つけたものだと、教主は感心した。

 

「ああ、そうそう。ここ以外にもリンゴやイチゴの所もあるんですよ!良かったら案内しましょうか?」

「な、なに……?ここ以外にもあるのか……?」

 

 そう言ってゆったりとベニーが立ち上がると、鼻歌を歌いながらどこかへと歩き出した。そうしてしばらく歩いていると、今度は大きな穴が開いた一本の木が姿を現した。

 

 ほのかに香るリンゴの爽やかな酸味の香りが教主の鼻をくすぐる。教主は、あの木のくぼみの中に、リンゴのフルーツワインが醸造されていると直感した。

 

「ろんこんどとろんばいはいどー のんはんはーるあいはるばーい~」

 

 ベニーが奇妙な鼻歌を歌いながら木のくぼみの中を掻き回している。その様子は、さながら酒母造りをする蔵人のようにも見えた。

 

「う~~ん……。良い匂いだなぁ……」

 

 窪みに溜まったフルーツワインを掻き回してベニーが匂いを楽しんでいる。その様子をじっと見守る教主は、それがひどく羨ましく思えた。自分も大量にたまった天然のワインをじゃぶじゃぶ掻き回してその匂いを一身に浴びたい、どのような匂いか近くで嗅ぎたい。一刻も早くその場所を代わってほしいと強く思った。

 

 やがて、ベニーは満足したのか、水筒にアップルワインを掬い、口に含んだ。

 

 静かに舌の上で転がし、舌の上、舌下で味わい、喉の奥へと流し込む。教主はその動作すべてを見ていた。

 

 ああ、私も早く飲みたい。匂いを味わいたい。なぜそこを独り占めするんだ……。早く私にも飲ませてくれ……。

 

「ベ、ベニー……」

 

 教主が無意識にベニーの名前を呼んだ。

 

「ん?ああ!ごめんなさい教主様!一人で勝手に味わっちゃって……!」

 

 ベニーが急いでもう一杯掬って教主に差し出す。

 

 ウィスキーにも似た琥珀色の液体が教主に差し出される。その魅惑的な色と匂いを醸し出す一杯は、教主を魅了するのに十分だった。

 

 水筒に口をつけ、ワインを口に含む。

 

 匂いが鼻腔を突き抜け、身体中を満たしていく。

 

 濃厚な甘みと酸味で満たされ、アルコールのキレが身体中染み渡っていく。

 

 ああ、これだ。これこそが私が求めていたものだと、教主は満たされた気持ちになった。

 

「きょ、教主様……?」

「ベニー。今日は本当にありがとう。私は、ようやく自分が探し求めていたものを見つける事ができたよ」

「ど、どういたしまして……?」

 

 教主は水筒に残ったワインをじっくり味わうように飲み干すと、ベニーに返して、元来た道を戻っていった。

 

 教主にとって、ベニーとの出会いは天啓のようにも思えた。今日の出来事を胸に刻み、教主は絶対に至高の一滴を作り出すと、硬く心に誓った。




ベニーの歌っている鼻歌はHanggaiのDrinking Songという曲の歌詞をひらがなに転写したものです。
モンゴルの言葉でワインの喜びについて歌った曲です。
気になった方は一度聞いてみてください。
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