世界樹教団、マフィアになる   作:韓非子

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モナティアム・エーダルシャイン・コンフリクト
第16話「バイオデンジャー・アウトブレイク」


 教主がエーダルシャイン・クァンタムを作った数週間後、教団の……宴会場の財政は、かつてないほど潤っていた。教主の狂気によって作られたそれは、モナティアムを中心に俄かに流行していた。

 

 そして、それは静かに、確実に、モナティアムを蝕んでいた。

 

「それで、タイダー。その情報は確かなのか?」

「確かです、教主様。モナティアムで奇妙な病気が流行って、医療がひっ迫して大変なことになってますよ」

「ふゥん。予想通りの結果だな」

 

 タイダーとの通信で、モナティアムで奇病が流行っていることを確認した教主は、事の成り行きを見守る事にした。そばで通信を聞いているフリックルは、想像を超える程の影響を及ぼす放射性物質に、若干の恐怖を抱いた。

 

「本当に毒なのね、あなたの作ったカクテルに入ってるものは……。しかも、それを多くのエルフが自ら求めるだなんて……」

「すごいだろう?これが刺激と酒に飢える者たちの末路というものだ。自ら破滅を求める哀れな者の姿だよ」

 

 

☆☆☆☆

 

 

「うっ……。いったい、何がどうなってるの……!?」

 

 次々と運ばれてくる患者を捌きながら、ヒルデは呟いた。

 

 ある時期を境に爆発的に増えた、奇妙な症状を持つ患者たち。過去にヴィヴィが起こした水銀事件とは違う、別の出来事が起きているとヒルデは直感した。

 

「ヒルデ、いるか!!?」

「市長……!」

「これはいったいどういう事だ!?何が起きてるんだ!?」

「知りませんよ……!患者さんの対応に手いっぱいで調査する暇がありません……!」

「ぐぅ……!アメリアッ!!今すぐ臨時調査対策委員会を招集しろっ!!この異常事態に備えるんだっ!!」

「は、はいっ!」

「ヒルデ!他に職員はいないのか!?全然手が回ってないじゃないか!」

 

 エレナがヒルデに向かって怒鳴る。そんなエレナに負けじとヒルデが怒鳴り返す。

 

「市長が全然予算を回してくれないからじゃないですか……!病気になっても放っておけば治るからって予算を最低限しか出さないせいで、常に5人10人くらいしか常駐できませんし……!休みの職員にも頭を下げて出てもらってコレですよ!?前回のバイオデンジャーを上回る規模が急に訪れても、コレでは医療が麻痺するだけです……!」

 

 ヒルデの返答に舌打ちして、エレナが現場を見渡す。そして、適当な患者を見つけると、詳細を聞こうと話を聞いた。

 

「おい、お前。お前はどうしてこうなった?」

「あ、あぁ……。うぅ……」

 

 患者はただ呻くだけだった。重度の放射線に曝された身体は深刻な中毒症状を引き起こし、回復する見込みもなく、終わりのない苦しみに喘ぐだけだ。

 

 そうこうしている間にも、続々と患者が運ばれてくる。廊下を埋め尽くすほどの大量の患者に、エレナは目の前が暗くなるような錯覚を覚えた。

 

「な、何がどうなってるんだ……!どうしてこんな事が……!」

 

 壁にもたれかかって頭を抱え込む。エレナは目の前の現実を受け入れる事が出来なかった。これではモナティアムが崩壊すると思ったからだ。

 

「前回のバイオデンジャー1号の時は何が原因でどうやって解決した?」

「……龍族の一人が町中に水銀をばら撒き、その能力を収める事で解決しました。今回もそのようなパターンかは分かりませんが……」

「……調査してみる必要があるな。ヒルデ、ここは任せた。あたしはやる事がある」

「市長っ!!!」

 

 そう言って、エレナは病院を後にした。後に残されたヒルデとその職員は、溢れかえる急性放射線症候群に苦しむ患者の喘ぎ声の中に取り残されてしまった。

 

 震える患者の凍えるような息遣い。嘔吐する患者。下痢が止まらない者。潰れた水疱を抱く者。まるで地獄のようだった。

 

 終わらない救命医療に解決策も見いだせないまま、時間だけが過ぎていく。ヒルデたちは既に限界だった。何も告げず自分たちを見捨て、去って行ったエレナに怒りを覚えた。そうして心身ともに疲弊し、心が音を立てて崩れていく。

 

 そうして、どれくらい時間が経っただろうか。病院の扉が突如開かれた。

 

「ヒルデ様!!!」

「……? 司祭長様……?」

 

 世界樹教団の司祭たちが一斉に病院内に入り、患者たちにあたり始めた。司祭たちは各々患者たちに跪き、慈愛の言葉をかけた。患者が安心できるように抱擁し、その体に接吻する。医療行為とは程遠い行いではあるが、患者はその無私の奉仕に心を安らげ、落ち着きを取り戻すのだった。

 

「これでひとまずはお前も現場を離れられるだろう。どこまで有効かは分からんが、とりあえず有効な解決策を見つけるための調査を始めろ!いいな!?」

「市長……!はい……!」

 

 ヒルデはエレナの言葉に従い、現場を離れて調査の準備を始めた。綿棒と採血用の注射器、分析機と医療用バッグを用意して、一番症状が重篤の患者を探した。

 

「ヒルデ、こいつなんかどうだ?」

 

 エレナの言葉に従い、患者の脈を計る。瞳孔に光を当て、反応がない事を確かめる。

 

「……心停止してます。週末農場という所へ行ってしまったのでしょうか」

「さぁな。さあ、サンプルを取るんだ」

 

 エレナに言われた通り、綿棒で粘膜を採取し、採血を済ませる。

 

「それで?分析機みたいなものでもあるのかい?」

「はい。これを分析機にセットして結果を待ちます」

 

 血液サンプルと綿棒を分析機にかけて、どういう物質が含まれているかを確認する。結果が出るまでに時間がかかるので、その間にも患者の対応を済ませていく。

 

「……ありがとうございます、市長」

「うん?どうした、急に」

「市長が妖精王国の司祭たちを連れてきたおかげで、患者たちがいくらか落ち着いたように見えます。人手も増えましたし、私たちも安心できました」

「それは良かったな。……今、あたしたちに必要なのは合理的な選択ではなく、寄り添える仲間だ。今はただ仲間に頼って、お前は自分にできる最善の選択をしろ。いいな?」

「……はい、エレナ市長」

 

 モナティアムを侵略する教主の魔の手。アルコールと核物質がエルフの理性を絡め捕り、蝕んでいく。ヒルデはエルフたちを救えるのか。

 

 ヒルデとモナティアムの長い戦いが始まる。

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